風祭文庫・異性変身の館






「継し者たち」
(ブリットの聖杯・前編)



原作・カギヤッコ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-135





漆黒の空間。

その中心に渦巻く巨大な悪意。

気丈な女戦士が大粒の涙を流して引き止めようとする。

その一方でポーカーフェイスがウリだった魔道士が

ほころびつつある感情を必死でこらえている。

そんな中、わたしは杖に化身した聖杯に手をかけながら隣にいる剣士を見つめる。

彼もまた決意を込めた表情で聖剣の柄を握り締める。

魔道士が剣士の肩をポンと叩く。

女戦士もわたしの頭を優しくなでる。

ふと剣士がわたしの顔を見る。

仲間、戦友を越え“かけがえのない存在”となったその瞳は

二度と戻る事の出来ないかも知れないと言う不安、

そして、わたしに対する強い信頼が込められている。

コクリ

その瞳にわたしは頷くと

スッ

聖杯杖を握り直し、

また剣士も聖剣を抜いて、あの渦巻きに向き合う。

聖剣と聖杯を手にしてもなお消し去る事の出来ない悪意。

少なくとも今のわたし達にそれはできない。

そう“今”のわたし達には…

でも希望は”次”に託す事もできる。

わたしと剣士はうなずき合うと

仲間達の声を背に意を決したように渦に飛び込んでいった。

閃光、衝撃、そして…。



おれは目を覚ました。

窓からこもれる日差しを浴びながらガバッと体を起こし、

大きくため息をつく。

「…またあの夢か…何なんだよ…」

胸にそっと手をやる。

それなりについている筋肉ごしに激しい鼓動が感じられる。

ここしばらく見ている夢…

その内容はいつも同じ、

暗黒の空間に渦巻く渦の中に立つ四人の男女、

そのうち一組の男女が渦に飛び込んでいく。

語り継がれている“邪神戦争”の一節。

お袋―本当のお袋じゃないけど―は「そう言う事もあるさ」と言っていたけど、

あの聖剣を手にした剣士は何となくおれに似ている気がしてならない。

腹が減ったのを感じて下に下りる。

いつもどおりお袋が朝食の支度をしていた。

「意外と早かったじゃないの、ブリット。

 準備はできたかい?」

お袋はいつもと変わらない豪快な笑顔を見せる。

おれもつられて笑顔を見せる。

「お、おはようお袋。

 準備なら…忘れてた」

お袋はやや呆れながら頭を抱えると、

「準備が済むまで飯抜き!」

と怒鳴る。

「まったく、ただテス山の祠にある占い師の所に行くと言うだけで

 どうしてここまで準備しないと行けないのかよ…
 
 テス山なら日帰りで十分戻れる距離じゃないか」

大急ぎで支度を済ませ、朝飯をかきこみながらぼやく。

「あたしが世話になっている占い師に仕事を頼まれちゃってね、

 あたしの代わりに手伝ってくれっていっているのよ」

「仕事って?」

お袋の言葉におれは首をかしげる。

「占い師の所に行けばわかるんじゃないの?

 でも、何があったって負けるんじゃないよ。
 
 あんたはあたしの最高の一番弟子で、
 
 そして…あたしの“息子”なんだからね!」

そう言ってお袋はおれの背中をドンと叩く。

「グホッ、やりすぎだよお袋…」

不意に涙がにじんでしまう。

「さ、朝食が冷めないうちに食べな。

 メシが食えるのは元気な証拠だよ」

「はいはい」



食事を済ませたおれは愛用の軽装鎧と剣を身につけると、

お袋に伴われ町の外れまで来る。

目の前に、ローブをまとった少女が

細めの男性と一緒にに立っているのが見える。

幼なじみのセイファだ。

おれがお袋から剣の手ほどきを受けたようにセイファもまた、

かつて歴戦の魔道士だったと言うおじさんに剣の手ほどきを受けており、

その実力はおじさんがやっている魔法学校でも一、二を争うほどである。

セイファに向かって「よっ!」と声をかけると、

セイファも頬笑みを返す。

そして、おれ達は並んで歩き出した。

もしこの時、後を振り向いていたら

お袋とおじさんが肩を寄せ合いながら

複雑な顔をしている姿を目に出来ただろう。

そして、

「できればあの二人には背負わせたくなかったのですが…」

「仕方ないよ。

 あの子らがそうだと言うのなら…
 
 今はあの子達を信じるだけだね」

と言う会話をしていた事も…。

「なあセイファ、

 お前もあの夢まだ見ているのか?」

おれがそう尋ねた時、セイファは驚いた顔をしていた。

そう、セイファもまたあの夢を見ていたのである。

なんでもおれとセイファは同じ日に

それぞれお袋とおじさんに拾われて育てられたと言うけど、

それだけでこんな偶然が起きるものなのだろうか。

「う、うん、わたしも…

 でも、何なのかな、あの夢…」

「さあな。

 お袋はそんなに気になるなら
 
 あの占い師に占ってもらえって言っていたけど…」

おれはやれやれと言う感じで頭の後ろで手を組む。

セイファもそれを見てどこかホッとした顔をしている。

テス山にたどり着いたのは歩き出してから二時間くらい経っての事だった。

この山にいつの頃からか占い師のお婆さんが暮らすようになり、

町の人達も時折りここに足を運んでは作物の実りや天気、

理想の相手などを占ってもらっていた。

おれも少し気になる事があったが、

占いなんて柄じゃないと思っていた所に今回の話である。

興味がてら足を運んだわけである。

「ねえ、ブレット」

「なんだ?」

今度はセイファがいきなりおれに尋ねてきた。

「ブレットって何か占って欲しい事ってあるの?

 あの夢の事以外に…」

それに対しておれは、

「ま、まあ、

 おれが天下一の剣士になれるか否かって事くらいかな?
 
 そういうお前はどうなんだよ?」

と答える。

一方、セイファはと言うと、

「う、うん、この先お父さんやおばさん達と仲良く暮らせるかなって事かな」

となぜか顔を赤らめて答えた。

「セイファ、顔が赤いぞ?

 もしかしてお前、本当は誰か好きな奴でもいるのか?」

その顔色を指摘すると、セイファの顔がさらに赤くなり。

次の瞬間、おれはセイファにムリヤリ背中を押され、

「ほら、祠はもうすぐよ!」

と言われて早足で歩いていった。



祠の中は薄暗く、シンと静まり返っていた。

その中央に体の割りに大きなローブをまとった人影が座っている。

「あのう、ワイズの代理で来た者ですけど…」

そうセイファが声をかけると、

人影―占い師は静かに顔を上げる。

「ほお、お主達が“継ぎし者”達か…?」

「継ぎし者?

 何だよそれ?」

おれは不可解そうに尋ねる。

セイファも首をかしげている。

「わからぬのも無理はあるまい。

 まずはこれを見てもらおうかの…」

占い師はそう言うと、おれ達の前に水晶玉を掲げる。

次の瞬間、水晶玉が光を放ちおれ達を包みこんだ。

光が消えた瞬間、おれ達の目の前に戦場としか言えない光景が浮かぶ。

「こ、これは…」

人々と異形の者達との戦い。

人々は必死で戦ったが異形の者達の力の前にジワジワと追い詰められてゆく。

さらにおれの目の前には

異形の者達によって無残に殺される人達の姿が映し出される。

その陰惨さにセイファが思わずうずくまってしまう。

「大丈夫かセイファ?」

自分もおののきを隠せないながらセイファの背中にかばうようにそっと手を置く。

“これはかつて起きた“邪神戦争”。

 天地の理に背いた邪神が軍を率いて地上を滅ぼそうとした戦じゃ。“

頭の中に占い師の言葉が響く。

“邪神の軍勢の前に人々は押されていったが、

 そんな時二人の勇者が現れた。”

占い師がそう言うと、場面は二人の男女の姿を映し出す。

その姿を見てわたし達は息を飲む。

当然だろう。

それはおれ達の夢の中に出てくる、

と言うより夢の中のおれ達そのものなのだ。

“邪神を滅ぼすと言う聖剣と聖杯に選ばれた二人の勇者は

 仲間達と共に邪神に戦いを挑んだ。
 
 そして邪神を追い詰め打ち倒すに至ったのだが…。”

「至ったのだがって何だよ、

 まさか返り討ちにあったとか言うんじゃないだろうな?」

思わずおれは叫ぶ。

セイファがおれを押さえようと体をつかむ。

「それはないわよ。

 もしそうだったら今頃世界は邪神に滅ぼされているわよ」

“その通り。

 実はその時点ではいかに勇者と聖剣、聖杯が集おうとも
 
 邪神を完全に葬る事はできず、
 
 一時的に封じる事しかできなかったのじゃ。
 
 ゆえに勇者達は自らの命と引き換えに邪神を封じたのじゃ。”

おれ達の目に勇者達が邪神を飲み込んだ渦に飛び込む姿が移る。

何度も夢で見た光景。

「…と、父さん?」

「ホントだ、お袋もいる!」

勇者を見送らざるを得なかった剣士と魔道士。

その姿は今より若いとは言えお袋とセイファのオヤジさんそのものだった。

“お主らの親は勇者と共に戦い、勇者の背中を見送った。

 そして戦いの後、
 
 復興の中であえて別れていた二人は二人の赤子を拾い
 
 それぞれ自分の子として育てていた…。”

「ま、まさか…」

セイファが息を飲む。

“そう、お主達はその勇者達の魂を受け継ぐ者。

 そして使命を受け継ぐ者なのじゃ。”

占い師がそう言った時、

おれ達の視界は元の祠の中に戻る。

「使命?

 使命ってどう言う事だよ」

おれはさらに問いかける。

「お主らはかつての勇者達が持てなかったものを宿してこの世に生を受けた。

 そう、聖剣と聖杯を受け継ぎ邪神を完全に滅する為の力を。
 
 そして邪神の封印はもうすぐ解けようとしている」

おれは複雑そうな顔で考え込む。

セイファも考え込んでいる。

邪神戦争については吟遊詩人なんかが歌っているのを聞いた事があるし、

お袋達が勇者と共に邪神と戦ったと言う事もわかるが、

いきなりおれ達が勇者の生まれ変わりで

その勇者に代わって邪神と戦えなんて事を言われたら

さすがにおれだって驚いてしまう。

でも、ああ見えても女だてらに自警団長なんてやっているお袋は

とりわけわたしを厳しく鍛えていた。

それに、おれ自身自分の腕を試したい。

と言う願望も潜んでいるかも知れない。

おれは悩むのをやめた。

ふと横を見るとセイファも顔を上げている。

そして二人は同時に、

「わかりました」

と答えた。

「よいのか?

 宿命を受け継ぐと言う事はただ事ではない。
 
 元の生活に戻るどころか、
 
 仮に邪神を撃ったとしてもお主らの生きて帰れる保証はない。
 
 それでもよいのか?」

占い師の問いにおれ達は改めてうなずいた。

「…よかろう。

 ついてくるがいい」

占い師はそう言うと祠の奥にわたし達を案内した。

「へぇ…」

狭い道を抜けたその先には空からの光に包まれた広い空間が広がっていた。

そしてその中心に向かい合うように

深々と突き刺さった剣と祭壇の上に置かれた器がある。

「…偽らぬ姿をもって触れよ。

 さすれば聖剣と聖杯は眠りから目覚め汝らに力を貸すであろう」

そう言って占い師は道の中に消える。

「ブレット、本当にいいの?」

ふと不安げにセイファが声をかける。

おれも不安はあったが、

「あ、ああ、おれ達がそうだって言うのならやるしかないだろ?

 世界を救う剣士なんてめったにできない事だからな」

と返事をする。

「わたしも、世界を救うとまではいかなくても父さんやおばさん、

 そして、みんなを守る為なら…」

と言いながらうなずき。

そしておれ達は周りを見渡す。

当然身を隠せるような場所はない。

意を決したおれ達は顔を赤くしながら互いに背を向けると2、3歩離れる。

そして剣を壁にかけるとおれは鎧を外し、そのまま服を脱ぎ捨てる。

ドクン、ドクン、ドクン…。

偽らぬ姿―全裸になったおれは

激しい鼓動を感じながら静かに祭壇の方に顔を向ける。

その隣ではセイファも偽らぬ姿になっているはずだが、

あえてそちらは向かない。

セイファの方に顔を向けたい気持ちを押さえておれは聖剣へと歩く。

そして祭壇の前に立った所で静かに向かい合った。

地面に突き立てられた聖剣と聖杯の置かれた祭壇を挟んで

おれ達は偽らぬ姿を向け合い、互いに相手を見た。

一緒に水浴びをしたり風呂に入ったりしていた小さい頃以来に見るセイファの裸。

細身でしなやかな体にそこそこ出ている体形につい見とれてしまう。

ふと聖杯に隠れている股間に目を置いてしまうが、

次の瞬間、おれ自身の股間に手を置いてしまう。

「い、行くよ、セイファ」

「う、うん…」

顔を赤らめながらおれは剣の柄に手をかける。

セイファも聖杯の取っ手に手をかける。

「一、二の三!」

二人で呼吸を合わせて引き上げようとする。

しかし、どんなに力を入れようと聖剣はピクリとも動かない。

よく見るとセイファも必死で聖杯を持ち上げようとしているが

聖杯もまたピクリとも動かない。

「まさか…そんな…」

おれは額然となる。

もしかしておれ達はあの占い師にだまされたのか?

ピキーン…。

そんな時、おれの頭の中にあるイメージが湧いた。

まさかおれが受け継ぐのは…。

すかさずセイファに呼びかける。

「セイファ、聖杯はおれが持ち上げるから聖剣を頼む」

セイファはすかさずうなずくと場所を入れ替えた。

もちろん互いにすれ違う事のないように。

さっきとは違い、

聖杯と聖剣の向こうにセイファが立つようにおれは立つ。

そして、大きく息をすると静かに聖杯に手をかける。

ズンッ!

「うわっ!」

次の瞬間、聖杯からものすごい衝撃が体を覆う。

そして聖杯をつかんだまま体が動かなくなる。

「な、なんだ…」

張り詰め、上気した肌を震わせながらおれは静かに聖杯を持ち上げる。

ガタッ。

聖杯は静かに持ち上がる。

しかし、驚く間もなく柄をつかんだ手はそのまま口をサイファに向けた。

おれの目には底が見える。

その中心には妙な穴があった。

「え?

 そ、そんな…ブレット、助けて!」

そう叫ぶセイファの手には刃こそないものの剣の柄がさながら

自殺でもしそうな形でセイファをねらっている。

そうしている間にもおれの腕は静かに下りてゆく。

そして、

ズブッ!

「うっ!」

股間に激しい衝撃と痛みを感じる。

おれのイチモツが深々と聖杯の底にある穴に入り込んだ。

ズブッ、

ズブッ、

ズブッ…。

「うっ、ううっ…」

まだ性と言うものを認識しきっていないおれのイチモツは

穴の中に深々と入り込んでゆく。

その痛みと快感、

そしてセイファの前でこんな姿を見せていると言う感触がおれをさらに駆り立てる。

そして聖杯はおれのイチモツを収めきった所で収まった。

同時にやっと手が自由になる。

聖杯が股間から突き出していると言う異様な姿をセイファに向けられず思わず背を向ける。

しかし、セイファもまたおれに背を向けていた。

ピクッ。

「うっ?」

おれの股間から衝撃が走る。

膨れ上がる感触。

おれの中でイチモツが大きくなっているのか、

それとも聖杯の穴がイチモツを握り締めているのか。

「ああっ、うああっ、あああっ…」

激しく締め上げる感覚に思わずのけぞる。

そしておれの両手は柄をつかんでしまう。

グッ、グッ…。

「うっ、うあっ」

既におれの中と癒着したのか聖杯は動かず、

ただ引っ張る痛みと気持ち良さだけが伝わってくる。

そして一気に引っ張ろうとした瞬間、

聖杯からおれの中にものすごいエネルギーが流れ込んでくる。

「えっ、

 何だ…

 うあああああああ…」

おれは全身を駆け抜けるエネルギーにただのけぞるしかない。

そして、エネルギーが高まると同時に

体がどんどん押し込まれて行くような感覚がつきぬけてゆく。

ググッ、

ググッ。

「うっ、うあっ」

広げた両手足が少しずつ短く、

細くなってゆく。

ムクッ、

ムクッ。

プルン。

「うっ、

 あっ」

体中の筋肉が縮んでゆき、

胸板から大きなふくらみが出てくる。

ピクッ、

ピクッ。

「ああっ、

 あんっ」

首の中で何かが縮み、

同時に声も少し高くなる。

ピクピク…

ズブズブ…。

「ああんっ、

あああんっ」

聖杯が股間の中にムリヤリ入り込んでくる。

「う、うう、

 ああんっ!」

聖杯が股間の中に入り込み、

違和感が消えた瞬間、

今までに感じた事のない衝撃と共に聖剣の記憶が流れ込んできた。

「うおっ…これが…聖杯の記憶…

 おあっ…そしておれの…
 
 あんっ…使命…」

おれの脳裏に勇者の記憶が流れ込む。

その中にはお袋達もいる。

「うおおおお…おれが…

 おおあああ…消える…
 
 あああああ…一つに…」

そして最後の衝撃が“おれ”を押し流す。

「ああああああああーんっ!」

ドスン。

絶叫と共に“あたし”は大きくのけぞり、

背中から倒れ意識を失った。

「ブレット、ブレット…」

セイファの声であたしは目を覚ました。

しかし、その声はどこか低い。

「うっ、うう…」

けだるさの残る中そっと目を開けると、

そこにはセイファによく似た少年の姿があった。

「あ、あなた、

 もしかして…セイファ?」

思わず尋ねる。

少年は静かにうなずく。

そして思わず自分の体を見渡す。

さっき見たセイファに比べると少し肉付きのいい体つき。

そっと手を当てた胸には少し大きめのふくらみがある。

股間に違和感を感じそっと触るとそこには聖杯…

と言うよりセイファやお袋にあったものと同じものがあった。

その時、あたしは改めて女になった事を感じた。

そう、セイファが聖剣の力で男になったように

あたしも聖杯の力で女になったのだ。

セイファはあたしが女になった事に

自分が男になった事以上に戸惑っていたが、

あたしはそんな彼を安心させる意味でも、

「これがあたしの宿命なのかもね」

と笑った。

「ほう、ようやく聖剣と聖杯を継承したようじゃの」

そこに占い師が現れる。

あたしは恥ずかしそうに体を隠す。

「聖剣と聖杯の力を真に引き出すには

 異なる性の者の肉体に封じて力を蓄えなければならぬ。
 
 その代償として今のお主らの様に性を変えねばならぬのだがな…
 
 かつての邪神戦争の折は
 
 その時点まで時が待ってくれなかったのじゃ…」

占い師はそう言った。



「セイファ、邪神ってどこに眠っているのかな?」

あたしはよりそいながら尋ねる。

「さあね。

 あの占い師もそこまではわからないと言っていたし」

そう言いながらセイファはそっとあたしの肩に手をおく。

占い師と別れた後、

あたしはセイファの服に身を包み祠を離れた。

その隣にはかつてあたしが着ていた服を着たセイファがいる。

「とりあえずは西に進もう。

 占い師が予見した唯一の手掛かりだし」

「そうね。

 でも…」

「なんだい?」

「邪神を倒したとして、

 あたし達ずっとこのままなのかな?
 
 お袋やおじさん達にどう言えばいいのやら…」

「ま、その時はその時さ。

 ブレットにはぼくがいる。
 
 ぼくにはブレットがいる。
 
 今はそれでいいじゃない」

「そうね」

あたしは笑みを浮かべる。

セイファも笑みを返す。

あたし達の旅は始まったばかりだ。



つづく



この作品はカギヤッコさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。