風祭文庫・異性変身の館






「継し者たち」
(セイファの聖剣・前編)



原作・カギヤッコ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-129





漆黒の空間。

その中心に渦巻く巨大な悪意。

気丈な女戦士が大粒の涙を流して引き止めようとする。

その一方でポーカーフェイスがウリだった魔道士が

ほころびつつある感情を必死でこらえている。

そんな中、おれは鞘に納められた聖剣の柄に手をかけ隣にいる少女を見つめる。

彼女もまた決意を込めた表情で杖を握り締める。

その先端には変形した聖杯が輝いている。

女戦士が少女の頭を優しくなでる。

魔道士もおれの肩をポンと叩く。

ふと少女がおれの顔を見る。

仲間、戦友を越え“かけがえのない存在”となったその瞳は

二度と戻る事の出来ないかも知れないと言う不安、

そして、おれに対する強い信頼が込められている。

コクリ

その瞳におれは頷くと

スラリ…

聖剣を抜き、

また彼女も聖杯杖を握り直すとあの渦巻きに向き合う。

聖剣と聖杯を手にしてもなお消し去る事の出来ない悪意。

少なくとも今のおれ達にそれはできない。

そう“今”のおれ達には…

でも希望は”次”に託す事もできる。

おれと少女はうなずき合うと

仲間達の声を背に意を決したように渦に飛び込んでいった。

閃光、衝撃、そして…。



わたしは目を覚ました。

窓からこもれる日差しを浴びながら静かに体を起こし、

大きくため息をつく。

「ふうっ…またあの夢…何なのかしら…」

胸にそっと手をやる。

大きからず小さからずのふくらみ越しに激しい鼓動が感じられる。

ここしばらく見ている夢…その内容はいつも同じ、

暗黒の空間に渦巻く渦の中に立つ四人の男女、

そのうち一組の男女が渦に飛び込んでいく。

語り継がれている“邪神戦争”の一節。

父さん―本当の父さんじゃないけど―は「偶然じゃないですか?」と言っていたけど、

あの聖杯杖を手にした少女は何となくわたしに似ている気がしてならない。

身支度を整えて下に下りる。

いつもならわたしが朝の支度をしているけど、

今朝は父さんが朝食の支度をしていた。

「おはよう、セイファ。

 もう準備は出来たのですね?」

父さんはいつもと変わらない静かな笑顔を見せる。

わたしもつられて笑顔を見せる。

「お、おはよう父さん。

 うん、準備なら昨夜のうちに済ませたわ。
 
 でも…」

「不安なのですか?」

わたしの中に密かにある不安を感じ取ったのか

父さんが優しく声をかける。

「ううん、ただテス山の祠にある占い師の所に行くと言うだけで

 どうしてここまで準備しないと行けないのかな、
 
 と思って…テス山なら日帰りで十分戻れる距離だし」

「ま、まあ、

 今回は占い師に仕事を頼まれまして、

 わたしの代わりに手伝ってほしいとの事なのですよ」

「仕事って?」

父さんの言葉にわたしは首をかしげる。

「それは…占い師の所に行けば教えてもらえるはずです。

 でも、どんな事があっても自信を持ちなさい。
 
 あなたはわたしの最高の教え子であり、
 
 そして…わたしの“娘”なのですから…」

そう言って父さんはわたしの肩にそっと手を置く。

「父さん…」

不意に涙がにじんでしまう。

「さ、朝食が冷めないうちに食べましょう。

 久しぶりに料理を作ったもので
 
 うまく出来ているかどうかわかりませんが…」

「はい」



食事を済ませたわたしは愛用のローブと杖を身につけると、

父さんに伴われ町の外れまで来る。

ふと横を見ると、

簡素な鎧をまとった少年が

体格のいい女性に伴われてやってくるのが見える。

幼なじみのブレットだ。

わたしが父さんから魔法の手ほどきを受けたようにブレットもまた、

かつて歴戦の戦士だったと言うおばさんに剣の手ほどきを受けており、

その実力は町の腕比べでも一、二を争うほどである。

ブレッドはわたしの顔を見ると、

「よっ!」と声をかけてくると、

わたしも頬笑みを返す。

そして、わたし達は並んで歩き出した。

もしこの時、後を振り向いていたら

父さんとおばさんが肩を寄せ合いながら

複雑な顔をしている姿を目に出来ただろう。

そして、

「できればあの二人には背負わせたくなかったのですが…」

「仕方ないよ。

 あの子らがそうだと言うのなら…
 
 今はあの子達を信じるだけだね」

と言う会話をしていた事も…。

「なあセイファ、

 お前もあの夢まだ見ているのか?」

不意にそう言われわたしは驚いた。

そう、ブレットもまたあの夢を見ていたのである。

なんでもわたしとブレットは同じ日に

それぞれ父さんとおばさんに拾われて育てられたと言うけど、

それだけでこんな偶然が起きるものなのだろうか。

「う、うん、わたしも…

 でも、何なのかな、あの夢…」

「さあな。

 お袋はそんなに気になるなら
 
 あの占い師に占ってもらえって言っていたけど…」

ブレットはやれやれと言う感じで頭の後ろで手を組む。

わたしもそれを見てどこかホッとするものを感じる。

テス山にたどり着いたのは歩き出してから二時間くらい経っての事だった。

この山にいつの頃からか占い師のお婆さんが暮らすようになり、

町の人達も時折りここに足を運んでは作物の実りや天気、

理想の相手などを占ってもらっていた。

わたしも一度占ってもらおうとしたが、

なかなか機会がなかった所で今回の父さんからの依頼である。

はやる気持ちを胸に山を登って行く。

「ねえ、ブレット」

「なんだ?」

わたしはふと気になった言葉を彼にぶつけてみた。

「ブレットって何か占って欲しい事ってあるの?

 あの夢の事以外に…」

それに対してブレットは、

「ま、まあ、

 おれが天下一の剣士になれるか否かって事くらいかな?

 そういうお前はどうなんだよ?」

となぜか顔を真っ赤にして答える。

一方、わたしはと言うと、

「う、うん、この先お父さんやおばさん達と仲良く暮らせるかなって事かな」

と答えた。

「セイファ、顔が赤いぞ?

 もしかしてお前、本当は誰か好きな奴でもいるのか?」

そう言われて思わずギクッとなってしまう。

そんなに顔を赤くしていたのだろうか。

わたしは思わずブレットの背中を押し、

「ほら、祠はもうすぐよ!」

と言って早足で歩いていった。



祠の中は薄暗く、シンと静まり返っていた。

その中央に体の割りに大きなローブをまとった人影が座っている。

「あのう、ワイズの代理で来た者ですけど…」

人影に向かってそう声をかけると、

人影―占い師は静かに顔を上げる。

「ほお、お主達が“継ぎし者”達か…?」

「継ぎし者?

 何だよそれ?」

ブレットが不可解そうに尋ねる。

わたしも何がなんだかわからない。

「わからぬのも無理はあるまい。

 まずはこれを見てもらおうかの…」

占い師はそう言うと、わたし達の前に水晶玉を掲げる。

次の瞬間、水晶玉が光を放ちわたし達を包みこんだ。

光が消えた瞬間、わたし達の目の前に戦場としか言えない光景が浮かぶ。

「こ、これは…」

人々と異形の者達との戦い。

人々は必死で戦ったが異形の者達の力の前にジワジワと追い詰められてゆく。

さらにわたしの目の前には

異形の者達によって無残に殺される人達の姿が映し出される。

その陰惨さに思わずうずくまってしまう。

「大丈夫かセイファ?」

自分もおののきを隠せないながらもブレットが背中に手を置いた。

“これはかつて起きた“邪神戦争”。
 
 天地の理に背いた邪神が軍を率いて地上を滅ぼそうとした戦じゃ。“

頭の中に占い師の言葉が響く。

“邪神の軍勢の前に人々は押されていったが、

 そんな時二人の勇者が現れた。”

占い師がそう言うと、場面は二人の男女の姿を映し出す。

その姿を見てわたし達は息を飲む。

当然だろう。

それはわたし達の夢の中に出てくる、

と言うより夢の中のわたし達そのものなのだ。

“邪神を滅ぼすと言う聖剣と聖杯に選ばれた二人の勇者は

 仲間達と共に邪神に戦いを挑んだ。
 
 そして邪神を追い詰め打ち倒すに至ったのだが…。”

「至ったのだがって何だよ、

 まさか返り討ちにあったとか言うんじゃないだろうな?」

ブレットが声を荒げる。

わたしはそれを押さえる。

「それはないわよ。

 もしそうだったら今頃世界は邪神に滅ぼされているわよ」

“その通り。

 実はその時点ではいかに勇者と聖剣、聖杯が集おうとも
 
 邪神を完全に葬る事はできず、
 
 一時的に封じる事しかできなかったのじゃ。
 
 ゆえに勇者達は自らの命と引き換えに邪神を封じたのじゃ。”

わたし達の目に勇者達が邪神を飲み込んだ渦に飛び込む姿が移る。

何度も夢で見た光景。

「…と、父さん?」

「ホントだ、お袋もいる!」

勇者を見送らざるを得なかった剣士と魔道士。

その姿は今より若いとは言え父さんとブレットのお母さんそのものだった。

“お主らの親は勇者と共に戦い、勇者の背中を見送った。

 そして戦いの後、
 
 復興の中であえて別れていた二人は二人の赤子を拾い
 
 それぞれ自分の子として育てていた…。”

「ま、まさか…」

わたしは息を飲む。

“そう、お主達はその勇者達の魂を受け継ぐ者。

 そして使命を受け継ぐ者なのじゃ。”

占い師がそう言った時、

わたし達の視界は元の祠の中に戻る。

「使命?

 使命ってどう言う事だよ」

ブレッドが問いただそうとする。

「お主らはかつての勇者達が持てなかったものを宿してこの世に生を受けた。

 そう、聖剣と聖杯を受け継ぎ邪神を完全に滅する為の力を。
 
 そして邪神の封印はもうすぐ解けようとしている」

ブレットは複雑そうな顔で考え込む。わたしも同じだ。

邪神戦争については記録などで読んだ事があるし、

父さん達が勇者と共に邪神と戦ったと言う事もわかるが、

いきなりわたし達が勇者の生まれ変わりで

その勇者に代わって邪神と戦えなんて事を言われても驚く以外にない。

でも、魔法学校を開いていた父さんはとりわけわたしを厳しく鍛えていた。

資質があるからと言う事もあったのだろうけど、

もしかするとこの時の為だったのかも知れない。

わたしは悩むのをやめた。

ふと横を見るとブレットも顔を上げている。

そして二人は同時に、

「わかりました」

と答えた。

「よいのか?

 宿命を受け継ぐと言う事はただ事ではない。
 
 元の生活に戻るどころか、
 
 仮に邪神を撃ったとしてもお主らの生きて帰れる保証はない。
 
 それでもよいのか?」

占い師の問いにわたし達は改めてうなずいた。

「…よかろう。

 ついてくるがいい」

占い師はそう言うと祠の奥にわたし達を案内した。

「わぁ…」

狭い道を抜けたその先には空からの光に包まれた広い空間が広がっていた。

そして、その中心に向かい合うように

深々と突き刺さった剣と祭壇の上に置かれた器がある。

「…偽らぬ姿をもって触れよ。

 さすれば聖剣と聖杯は眠りから目覚め汝らに力を貸すであろう」

そう言って占い師は道の中に消える。

「ブレット、本当にいいの?」

ふと不安げにブレットに声をかける。

ブレットも不安そうだが、

「あ、ああ、

 おれ達がそうだって言うのならやるしかないだろ?
 
 世界を救う剣士なんてめったにできない事だからな」

と返事をする。

「わたしも、世界を救うとまではいかなくても父さんやおばさん、

 そして、みんなを守る為なら…」

と言いながらうなづき、わたし達は周りを見渡す。

当然身を隠せるような場所はない。

意を決したわたし達は顔を赤くしながら互いに背を向けると2・3歩離れる。

そして杖を壁にかけるとわたしはローブを外すと、

そのまま服を脱ぎ出す。

恥ずかしさも手伝ってかその勢いは一瞬だった。

ドクン、ドクン、ドクン…。

偽らぬ姿―全裸になったわたしは激しい鼓動を感じながら

静かに祭壇の方に顔を向ける。

その隣ではブレットも偽らぬ姿になっているはずだが、

あえてそちらは向かない。

ブレットの方に顔を向けたい気持ちを押さえてわたしは祭壇へと歩く。

そして祭壇の前に立った所で静かに向かい合った。

聖杯の置かれた祭壇と地面に突き立てられた聖剣を挟んで

わたし達は偽らぬ姿を向け合い、互いに相手を見た。

一緒に水浴びをしたりお風呂に入ったりしていた小さい頃以来に見るブレットの裸。

筋骨隆々とまではいかないが年頃の青年としてのたくましい体つきをしている。

ふと剣に隠れている股間に目を置いてしまうが、

次の瞬間、わたし自身の股間に手を置いてしまう。

「い、行くよ、セイファ」

「う、うん…」

顔を赤らめながらブレットは剣の柄に手をかける。

わたしも聖杯の取っ手に手をかける。

「一、二の三!」

二人で呼吸を合わせて引き上げようとする。

しかし、どんなに力を入れようと聖杯はピクリとも動かない。

よく見るとブレットも必死で聖剣を引き抜こうとしているが

聖剣もまたピクリとも動かない。

「まさか…そんな…」

わたしは額然となる。

もしかしてわたし達はあの占い師にだまされたのか?

ピキーン…。

そんな時、わたしの頭の中にあるイメージが湧いた。

もしかしてわたしが受け継ぐのは…。

それに答えるかのようにブレットの声が響く。

「セイファ、聖杯はおれが持ち上げるから聖剣を頼む」

わたしはすかさずうなずくと場所を入れ替える。

もちろん互いにすれ違う事のないように。

さっきとは違い、聖剣と聖杯の向こうにブレットが立つようにわたしは立つ。

そして、大きく息をすると静かに聖剣の柄に手をかける。

ズンッ!

「きゃっ!」

次の瞬間、聖剣からものすごい衝撃が体を覆う。

そして聖剣の柄をつかんだまま体が動かなくなる。

「はあ、はああ…」

張り詰め、上気した肌を震わせながらわたしは静かに聖剣を抜く。

ポンッ。

なんと、聖剣は手にした柄を残して抜け落ちてしまったのだ。

しかし、驚く間もなく柄をつかんだ手は

そのまま剣先―剣はないのだが―をわたし自身に向けた。

「え?

 そ、そんな…ブレット、助けて!」

わたしは叫んだが、

ブレットもまた同じ様に持ち上げた聖杯を

わたしの方に向けて掲げている事しかできなかった。

そうしている間にもわたしの腕は静かに下りてゆく。

そして、

ズブッ!

「イアッ!」

股間に激しい衝撃と痛みを感じる。

わたしの股間には深々と聖剣の柄が突き立てられていたのだ。

ズブッ、

ズブッ、

ズブッ…。

「いやっ、あっ、あんっ…」

まだ性と言うものを認識しきっていないわたしの股間に

柄は深々と入り込んでゆく。

その痛みと快感、

そしてブレットの前でこんな姿を見せていると言う感触が

わたしをさらに駆り立てる。

そして柄はわたしの中からほんの少しはみ出した形で収まった。

同時にやっと手が自由になる。

聖剣の柄を股間から突き出していると言う異様な姿を

ブレットに向けられず思わず背を向ける。

しかし、ブレットもまたわたしに背を向けていた。

ピクッ。

「あんっ?」

わたしの中で衝撃が走る。

何かを締め上げる感触。

わたしの中で柄が大きくなっているのか、

それともわたしの中が柄を握り締めているのか。

「ああっ、うああっ、あああっ…」

内側から締め上げる感覚に思わずのけぞる。

そしてわたしの両手は柄をつかんでしまう。

グッ、グッ…。

「うっ、あんっ」

既にわたしの中と癒着したのか柄は動かず、

ただ引っ張る痛みと気持ち良さだけが伝わってくる。

そして一気に引っ張ろうとした瞬間、

柄からわたしの中にものすごいエネルギーが流れ込んでくる。

「えっ、何?

 これ…あああああああ…」

わたしは全身を駆け抜けるエネルギーにただのけぞるしかない。

そして、エネルギーが高まると同時に

体がどんどん大きくなるような感覚がつきぬけてゆく。

ググッ、

ググッ。

「あっ、あんっ」

広げた両手足が少しずつ長く、

太くなってゆく。

ムクッ、

ムクッ。

ピクッ、

ピクッ。

「うっ、

 あんっ」

体中の筋肉が張り出し、

胸の膨らみが筋肉の中に消えてゆく。

ピクッ、

ムクッ。

「あんっ、

 ああっ」

首から何かがせり出し、

同時に声も少し低くなる。

ピクピク…

ムクムク…。

「ああっ、

 うあああっ」

股間に刺さった柄の回りの皮膚が柄を包み込む。

そして包み込みきった途端、

今までに感じた事のない衝撃と共に聖剣の記憶が流れ込んできた。

「あっ…これが…聖剣の記憶…

 あおっ…そしてわたしの…
 
 うおっ…使命…」

わたしの脳裏に勇者の記憶が流れ込む。

その中には父さん達もいる。

「うあああ…わたし…

 うあおおお…消える…
 
 うおおおお…一つに…」

そして最後の衝撃が“わたし”を押し流す。

「うああああああああーっ!」

ドスン。

咆哮と共に“ぼく”は大きくのけぞり、背中から倒れた。

「うっ、うう…」

けだるさの残る中ゆっくりと起き上がり体を見渡す。

さっき見たブレットに比べるとやや華奢だが相応にたくましい体つき。

そっと手を当てた胸には柔らかい膨らみの代わりにそこそこに厚い胸板がある。

股間に違和感を感じそっと触るとそこには聖剣の柄…

と言うよりブレットや父さんにあったものと同じものがあった。

その時、ぼくは改めて男になった事を感じた。

ふとブレットの事が気になり同じ様に倒れているブレットに駆け寄る。

「ブレット…」

その姿はぼくの知るブレットとは大きく変わっていた。

少したくましめだがそれでも細身の手足に体つき。

大きめの膨らみに股間にはひっそりとかつての僕と同じ証が備わっている。

そう、ぼくが聖剣の力で男になったように

ブレットも聖杯の力で女になったのだ。

「ブレット、ブレット…」

ブレットを優しく起こす。

目を覚ましたブレットは自分が女になった事、

そしてぼくが男になった事に驚いていたが、

一通り間を置くうちに納得したらしく、

「これがあたしの宿命なのかもね」

と笑った。

「ほう、ようやく聖剣と聖杯を継承したようじゃの」

そこに占い師が現れる。

ブレットは恥ずかしそうに体を隠す。

「聖剣と聖杯の力を真に引き出すには

 異なる性の者の肉体に封じて力を蓄えなければならぬ。
 
 その代償として今のお主らの様に性を変えねばならぬのだがな…
 
 かつての邪神戦争の折は
 
 その時点まで時が待ってくれなかったのじゃ…」

占い師はそう言った。



「セイファ、邪神ってどこに眠っているのかな?」

ブレットがよりそいながら尋ねる。

「さあね。

 あの占い師もそこまではわからないと言っていたし」

僕はそう言いながらそっと彼女の肩に手をおく。

占い師と別れた後、

僕はブレットの服に身を包み祠を離れた。

その隣にはかつて僕が着ていた服を着たブレットがいる。

「とりあえずは西に進もう。

 占い師が予見した唯一の手掛かりだし」

「そうね。

 でも…」

「なんだい?」

「邪神を倒したとして、

 あたし達ずっとこのままなのかな?
 
 お袋やおじさん達にどう言えばいいのやら…」

「ま、その時はその時さ。

 ブレットにはぼくがいる。
 
 ぼくにはブレットがいる。
 
 今はそれでいいじゃない」

「そうね」

ブレットが笑みを浮かべる。

ぼくも笑みを返す。

ぼく達の旅は始まったばかりだ。



つづく



この作品はカギヤッコさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。