風祭文庫・異性変身の館






「男装執事月乃」



原作・猫目ジロー(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-339





ここはとある郊外の住宅街。

場所柄上、多くの資産家が屋敷を構え、

その一つの屋敷に一人の令嬢が住んでいた。

彼女を知る者はその性格についてこう語るだろう。

品行方正で非の打ち所がない。と、

無論そんなものは見せ掛けの姿であって、

本来の彼女は悪魔の様な女性なのだが、

しかし…

「さぁ、服を脱ぎなさい月乃。

 貴方の綺麗な裸体を私の前に晒しなさい」

「お嬢様…

 全部脱がないと…

 だ駄目ですか」

「なに恥ずかしがってるの、

 あたしたち“女同士”でしょ?

 まさか貴方のご両親の借金を肩替わりした恩を

 忘れた訳ではないでしょうに」


この屋敷に住まう令嬢・黒門星娜は

目の前の執事とおぼしき格好をした女性に高圧的に命令をする。

だが目の前の女性は同性に裸体を見られることを

何故か頑なに拒絶するのだろうか――



その答えは至ってシンプルだった。

そう、男装執事の白河月乃は二年前まで正真正銘の男性だったのだ。

しかし、なぜ彼は女性化したのか、

無論、それは月乃の望んだことではない。

全ては星娜の策略であったのだ。

「やっぱり綺麗な体ね、

 本当に華奢だし、

 服を脱いだらどっから見ても女性ね」

「くっ…」

「あら怒ってしまわれたの?

 胸の“男性失格印”が光ってるじゃない」

星娜が“男性失格印”と呼ぶ胸の刺青は

確かに朱色に淡く輝いていた。

しかしこれは只の刺青ではないのだ。

そうまさに月乃にしてみれば、

呪いの刻印以外の何物でもない恐ろしい印なのだから――



月乃にとっての悪夢の日は二年前に唐突に訪れた。

当時の月乃は白河月一郎という名家の跡取り息子で、

正に将来を嘱望されるエリートだった。

彼の周りに居た人間は誰もが月一郎の順風満帆な未来を信じて疑わなかった…



しかしそんな彼の輝かしい未来を破滅に導いた者が居た。

そう星娜だ。

若くして家督を継いだ彼女は瞬く間に才覚を発揮して

月一郎の両親の子会社を買収し始めた。

無論、彼の両親も断固抵抗を試みたのだが、

彼女の悪魔の様な策略には為す術がなく。

追い込まれた両親は息子に借金を全て押し付けて

海外に逃亡してしまったのだ。



しかし、それすらも星娜の計算の内だった。

そう彼女は予め月一郎の両親の性格をプロファイリングし、

彼の両親が月一郎に全てを押し付け、

逃亡することまで予測して行動していのだ。

まさに悪女としか言い様がない悪魔の策略だった。



無論、彼女がそこまで月一郎を憎むには理由がある。

しかしそれは我々の常識からすれば凡そ理解不能な逆恨みだろう。

具体的に言えば月一郎は彼女に何もしていない。

ただ両親が決めた許嫁。

それ以上でもそれ以下でもなかった。

いやはや月一郎も大概運の悪い男である。



黒門星娜は幼少時代から

激しい野心を持つ上昇思考の強い人間だった。

また蛇の様な執念と執着心の強い一面も覗かせる星娜は

両親や親族からも一目置かれる存在だった。



しかし、先程語ったように、

彼女は建前と本音を使い分けるのが上手く、

星娜の本質に気付いていなかった月一郎は

彼女を激怒させる一言を口にしてしまったのだ。



『ボクの妻になったら

 キミは何もしなくていいよ。

 全てボクや使用人に任せて

 星娜は自分の趣味に時間を使っていいんだよ』



その言葉に星娜は烈火の如く激怒し、

月一郎を心の底から憎んだ。

無論彼は星娜に余計な苦労をさせたくなく、

彼女を想って良かれと思って口にしたのだが

しかし、プライドの高い星娜に

彼の心遣いを分かれというのが土台無理な話だろう。

だって星娜の目的は黒門家を世界一の財閥にすることなのだから――



星娜は彼に見下された。と思い込み、

月一郎を自分のペットに落としてめて

自身の才覚を彼に見せつける計画を立案した。

そして、彼の両親の会社を傘下にしたのはその第一段階に過ぎなかった。



「男を辞めろ…

 何言ってるんだ星娜!?」

「ペットの分際で私を呼び捨てにするきなの?

 己の立場をわきまえなさい!」

「なっ何言ってるんだ。

 星娜ボク達幼なじみで許嫁だろう…」

「アハッ

 思い上がりも甚だしいわね。

 やっぱり貴方には躾が必要みたいね。

 この“男性失格印”でね」


 
そう言うと星娜は彼の胸元に

焼きごての様な禍々しい道具を押し付け刻印を刻み込む。



「熱っ…

 なっ何だコレは、

 痛っ…

 あがっあぁぁぁー」

始めは何かの冗談だと思い、

朱色の刻印を眺めていた月一郎だが、

やがて刻印の光や痛みが体を覆うと、

彼にも漸くことの重大さが認識出来たが、

時既に遅く彼の性別は剥奪され始めていた。



骨の軋む様な音を響かせて月一郎の体は縮み続ける。

既に手は裾に隠れ始め、

またマリンスポーツで鍛え上げた彼の筋肉は

風船が萎む様に縮んでいくと、

体格の変化が終わる頃には

月一郎の身長は30cm以上縮んでしまい、

ついに157cmの華奢な体格になってしまうと、

着ていたスーツはサイズが合わずにぶかぶかになっていた。

そして、骨格の急な変化の痛みのために

月一郎は気絶してしまったがそれでも変化は容赦なく進み続ける。



「アハッ

 いい気味ね。

 そんなに華奢になって

 自慢の筋肉も台無しじゃない。

 でもまだ終わってないのよ…

 クスッ」

星娜のその言葉通り、

月一郎の変化は進み続けた。

服の上からでは判りづらいが

筋肉の薄くなった胸板は脂肪で急速に膨らみ始め、

彼の髪や肌質も変わり始めると、

髪は細くなり肌からは髭そり後が消えていく。

そして、それらの変化が一段落した頃、

朱色の刻印は一際強く輝き彼の股間に光が集中し始めたのである。



「アハハッ

 最後の変化が始まったようね、

 フフッ

 自慢の槍を失ったら貴方はもう私を抱くことは出来ないのよ。

 でも心配しないで、

 これからは私が貴方のご主人様になってあげるから、

 アハハッ」

月一郎の股間から上がる朱色の煙を

冷淡な視線で見つめながら

星娜は心底愉しそうに笑っていた。

そう彼女には良心の呵責などないのだから。



月一郎にとっての新たな生活は

まさにプライドをズタズタにされる惨めな日々だった。

まず彼女を驚かせたのは刻印の魔力による世界の改編だろう。

その力により彼女は生まれた時から女性ということになっており、

また周囲の記憶や戸籍も書き変わってしまい、

戸籍には月一郎ではなく月乃と言う名が記されていた。



更に彼女を苦しめたのが身体的な変化だ。

月乃は身長が大幅に縮んでしまったため、

今まで見下ろしていた星娜を見上げなければならなくなってしまうと、

星娜はその度に月乃をからかうのだ。

また、星娜は月乃にメイド服や女性の服を着ることを許さず、

華奢な彼女の為に特注の執事服を仕立て支給した。

無論、月乃とて女物の服は着たくなかったが、

男装もまた彼女の心を抉るのには充分な効果を発揮していたのである。



何故なら幾ら男装しようが、

月乃は華奢な体格のせいで女性にしか見えないし、

男の格好をしていてもタチションの出来なくなった月乃は

女子トイレに入って座って用ををたさなければならなくなったからだ。

彼女はその度に自分の今の性別を自覚し、

脚の付け根から熱い液体が染み出る度に

やりきれない想いになり時には涙が溢れ

一人トイレで泣き続けたこともあった。



それでも彼女は現実に抗い続け、

少しでも男性に見えるようにするためナベシャツで胸を隠し、

男性時代と同じボクサーパンツを履いたが、

その度に性別の違いを自覚すると、

膨らみの失われたパンツを見る度涙が零れ落ちた。

女性化の副作用なのか感情の起伏が激しく

自身の感情を以前のようにコントロール出来ないのだ。



『お嬢様コレは…!?』

『月乃が好きだったグラビア雑誌よ、

 だって貴方昔みたいに簡単に女性とH出来ないでしょ?

 フフッ

 生理前で性欲も強くなってるみたいだし、

 体に毒だから余り溜め込まない方がいいわよ』



星娜のその言葉に月乃の顔は瞬く間に朱色に染まった。

確かに月乃は以前のように女性にちやほやされなくなったし、

寧ろその可愛らしい目元や唇から女性から嫉妬されることもあった。

そのストレスから自慰行為に走ることもあったが、

それすらも星娜の手の内だったなんて…

月乃は悪魔の様な彼女の執念に背筋が寒くなった。



「なに、物思いに耽ってるの

 月乃早く全て脱ぎなさい!!」

「しっ下着もですか…?

 お嬢様…?」

「当たり前でしょ、

 早く貴方の女体を晒しなさい!

 私の命令が聞けないなら

 今すぐ屋敷から叩き出すわよ!」

「ひっ…ぬっ脱ぎます。

 全部脱ぎますから、

 それだけは勘弁して下さい…」

期待した自分が馬鹿だったと思いながら、

月乃はDカップの胸を締め付けているナベシャツやボクサーパンツを脱ぐ。

だがそんな自分が惨めで堪らなかった。

あれから二年経ち、

彼女は漸く星娜に許して貰えたと思い込んでいたのだから、

そう星娜のご褒美を上げると言う言葉を信じていたのだ。



「アハッ

 やっぱり可愛いわね、

 月乃ちゃんは。

 私より華奢だし羨ましいわ」

星娜は月乃の体を褒めたが、

男性の心を持つ月乃には皮肉にしか聞こえず、

あまりの悔しさに彼女は唇を噛みしめていた。

だがそれでも月乃は

星娜に何も言い返すことは出来ない立場なのだ。

なにしろ星娜が肩替わりしている借金は

一生かけても返せる額ではないのだから。



そんな健気な月乃を星娜は弄び調教し続けた。

その結果、彼女はこの二年ですっかり牙を抜かれ従順になってしまい。

命令されれば星娜の足も舐めるようになったのだ。

彼女は既に星娜のペットと呼ばれる存在にまで

落ちぶれてしまっていたのである。



「アハッ、

 可愛いわよ月乃。

 すっかり足を舐めるのにも慣れたみたいね」

「はい…お嬢様…

 ですからどうか機嫌を直して下さい…」

「フフッ

 心配しなくて私に忠誠を誓う貴方を捨てたりしないわよ。

 月乃も知ってるでしょ?

 私が幼い頃からペットには優しいってさ、

 アハッ」

「ありがとうございますお嬢様…」

「フフッ

 可愛い…

 さぁこっちに来なさい約束通りご褒美を上げるわ」

主人に頭を垂れる月乃にかつての様な凛とした面影は既になかった。

だが致しかたあるまい、

星娜は自分に逆らうものには容赦なく罰を与えるし、

従順な者は可愛がってくれるのだから。



「えっ…

 お嬢様…

 そっそれは…」

「素敵なパンツでしょ、

 女同士でHする時はこれを使うのよ」

「Hって…ひぃっ…」

「何怯えてるのよ、

 貴方にも昔はこのパンツと同じ物が付いてたでしょ?

 さぁお尻を向けなさい…

 月乃の処女を私が奪ってあげるから…」

月乃の処女を奪う。

これが星娜の立てた計画の仕上げなのだ。

そう月乃を男装させていたのも、

この時の為でどんなにナベシャツやボクサーパンツを履いても

今の月乃は女性なんだと身を持って思い知らせる。

まさに悪魔の策だった。



「はぁはぁ…

 あぁあがっ…

 あん、はっ…」

処女喪失の痛みにシーツを掴み見悶える月乃。

その表情は痛みと屈辱感に彩られていたが

星娜にとってはそれさえも快楽のスパイスになるのだろう。



「アハハ、

 私のことを女と見下した貴方が

 私に処女を捧げるもう最高ね」

「はぁはぁ…

 うっはうっおっお嬢様…」

「痛いの月乃?

 それが私への忠誠の証になるのよ、

 しっかり味わいなさい!」

「はっはい…お嬢様…」

月乃はベッドの上から窓を見上げると、

この屈辱の時間が一刻も早く終わることを願い続けていた。

そんな彼女のセンチメンタルな想いを代弁するかのように

胸の刻印は儚げに朱色の光を放ち続けていた。



おわり



この作品は猫目ジローさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。