風祭文庫・異性変身の館






「美菜の男装喫茶」



原作・猫目ジロー(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-335





「もう、

 だから飲み過ぎだって言ったじゃない!

 千鳥足になるまで飲んで、

 ニューハーフさんに絡むなんて!」

「アンタに何が判るのよ!

 私の…俺の…気持ちが…」

「美菜…」

深夜の歓楽街に鳴り響く女性の声。

この日も美菜は『恋人』の理名と共に遅くまで飲んでいた。

一見するとただの酔っぱらい女の美菜だが、

彼女がここまで酒に溺れるのには訳があった。

何故なら美菜は二年前まで正真正銘の男性であり、

甘いマスクと資産家の一人息子という恵まれた条件を背景に、

何の後ろめたさも無く付き合う女性を次々と乗り換えていく、

まさしく人生を謳歌する青年だったのだから。

そう、あの悪夢の日までは――



危機的状況に置かれた時。

人間はどういう選択をするかで、

その後の明暗が別れたりするものだ。

だが、万年浮気青年“葉太”はこの時の選択肢を間違えてしまった。

それはもう致命的なまでに間違えたのだ。



彼は付き合っていた彼女に浮気がバレた時にこう口にしたそうだ。

「浮気は男の甲斐性だ!

 そうやって経験積んでエロく…じゃなかった”巧く”なるんだ!

 3股、4股ぐらいはまだまだ序の口!

 俺は横綱を目指すっ!

 と言うわけで、

 そ・こ・の、おねぇさぁぁぁん!」

「ぬわんですってぇ!」

その様な態度は彼女を激怒させるには十分であり、

代償が高くつくのは自明であった。

それにしても、

葉太の言い訳のにはただ呆れるばかりである。

だが、それも無理からぬことだろう。

葉太は昔付き合ってた彼女が妊娠した時でさえ、

彼は金で解決した外道なのだから、

そう彼にとって男とはまず”金”であり、

そして”ルックス”である。

そんな彼にセンチメンタルな乙女心を判れという方が、

土台無理な話というものだろう。

無論、彼はこの時も金で彼女との仲を清算するつもりだった。

だが、そうは問屋が卸さぬ。

時代劇が好きな人間なら、彼にこう言い放っただろう。

恐らく時代劇の好きではない彼女の気持ちも、

我々と然したる隔たりはないことだろう――



「お待ちなさいっ」

「えぇガールハントの邪魔をするなっ!」

「アンタって、汚くて本当に男らしくないわね!

 もう、いっそ男辞めたら?」

「はぁ?

 何言ってるんだお前、

 俺は男の中の男だ!」

「あっそ、もういいわ。

 話すのも馬鹿馬鹿しいし、

 これで終わらせてあげる」

「ハハッ、

 何だその印鑑でこずくのか?

 イイゼ来るならこいよ!」

葉太は何時だって迂闊な男だった。

だが、彼は少なくても天運の持ち主で、

今までの彼の悪行はその運と金に守られてきたのだ。

しかし、物事には何時だって終わりが来るものだ。

少なくても彼の強い悪運はこの日終わった。

そう、彼女に“男性失格印”を押されて…



紅色に輝く刻印を胸元に押された葉太は

あまりの痛みにもがき苦しむ、

そんな彼を冷ややかな視線で見つめながら、

「ふふっ、

 アンタの自慢の槍も、

 そんなに縮んでイイキミね、

 アハハッ!」

と彼女は笑ってみせる。

しかし、この時の葉太は股間を襲う激痛で

彼女の言葉など耳に入るはずなど無く、

そのまま気を失ってしまったのだ。



目が覚めた葉太の世界は百八十度変わっていた。

刻印の魔力で周りの記憶は書き変わり。

まず、彼女を戸惑わせたのは周囲の態度である。

元々葉太の家は旧家で、

今時珍しいくらいの男尊女卑である。

葉太の我が儘が今まで許されていたのは、

彼が男性であり家督を継がせる長男だからであり、

女子となった彼女には価値など無いも等しいのである。

いやはや、人生はまさに紙一重である。

そんなこんなで、

今まで甘かった両親は人が変わった様に厳しくなり、

葉太は1日100回以上も『女らしくしろ!』と言われる羽目になってしまった。

また、彼女の戸籍も刻印の魔力により改編されてしまい、

葉太は美菜という生まれた時から

正真正銘の女性ということになってしまったのである。



女性らしさを強制される暮らしの中、

美菜の言葉使いは自ずと女らしくなってしまい。

また服装も、女性らしい物以外は禁止する念の入れようだった。

更に彼女の父親は、

美菜の許可も得ずに婚約者を勝手に決めてしまうと、

まさしく彼女は鳥籠の中の鳥になってしまったのである。



「はぁ…やってられないわよ」

美菜は屋敷のトイレでそう呟いた。

彼女が女性化してから既に一年近くの月日が流れており、

この頃は無意識の内に女言葉で喋る程に、

美菜の中には女らしさが染み付いてしまった。


「ふぅ…懐かしいなタチション」

彼女はトイレで儚げにそう呟く。

男の槍を失った美菜に

以前のように立って用を足すのは土台無理な話だった。

今でこそ座ってすることを受け入れている彼女だが、

ここまで来るには紆余曲折の道のりがあったそうだ。

だが致し方あるまい、

何故なら、美菜にとっての槍は自慢の一物だったのだから。

だからこそ、

女性化した当初の美菜はタチションに固執し続けた。

頭では今の自分にタチションは無理だと分かっていても、

チャレンジ精神を捨てることなど出来なかったのだ。

しかし、いくらやってもタチションは上手くいかず、

彼女の尿は期待を裏切り股から熱く垂れ落ちるのみだった。



そのような日々の中、

彼女を更に苦しめたのが生理だった。

痛みと共に股から経血が染み出ることに気が動転してしまうと、

恥やプライドを捨て、

自分に刻印を押した『理名』に泣きついてしまったのである。

「アンタって、プライドないの?

 生理なんて、女性は誰でもなるのよ!」

「でも、私…俺、どうしたらいいか…その」

「ハッキリ喋りなさいよ!

 “元”男でしょ!」

「お願い、理名助けて、

 俺、怖くて、痛くて…」

恐らく男性時代の美菜がこんな情けない頼みかたをしたら、

理名は相手にしなかっただろう。

しかし147cmの身長になり、

自分より頭一つ分小柄になった美菜が、

自分の服を掴んで泣きながら頼んでいるのを見て、

理名は加護欲をくすぐられてしまうのである。

いやはや彼女もある意味お人好しである。

理名から教えてもらった生理用品の使い方や体のケアによって

美菜は何とか生理を乗り越えることが出来たのだった。

しかし、その一見で理名に貸しを作ったのが、

美菜の運のつきだった…



「嫌だ、

 痛いよ理名…」

「何言ってるの、

 こんなに濡れてるじゃない、

 私に意地悪されると、

 感じちゃうんでしょ本当は?」

「違う、違う…私は…俺は男だ」

「あっそ、じゃあ止めるわね」

「えっ、そんな…」

あの一件から3ヶ月、

美菜は元々レズっ気のある理名の手込めに堕ちてしまっていた。

当初は抵抗していた彼女も体格差からか

無理矢理押さえつけられてしまい、

その抵抗も今や風前の灯火だった。



「はぁはぁ…

 あっ、あぁ…」

理名の指先で蜜壷を抉じ開けられ、

シーツを掴みながら身悶える美菜、

初めは槍を失ったそこをかつての彼女の手で弄られるのは、

美菜にとってプライドを崩される行為だったが、

改編前の記憶を保持しているのは理名しかおらず、

美菜はすっかり彼女に依存してしまっていた。



「あっ、

 はうっ…

 はぁはぁ…」

一方、美菜の心や体の隙間を理名は見逃さなかった。

そう、彼女は美菜が一番弱っている隙に付け入り、

繊細な愛撫を乳房や蜜壷に加えて手込めにしたのだ。

また、彼女は美菜が男としての自信を失いかけているのも見抜いていた。

そして、彼女が再び自信を取り戻せるように、ある提案した。



「男装喫茶?」

「そっ、

 私が経営している店の一つよ、

 美菜だって男装したいでしょ」

「でも、私…俺、

 こんな小柄になっちゃったから、

 男装しても似合わないよ…」

「心配しなくても平気よ、

 美菜は顔立ち整ってるし、

 身長はシークレットブーツで底上げ出来るから、

 ねっ?

 私の言うことは何でも聞くんでしょ?」

かつては女性にモテモテで威張り散らしていた美菜だが、

小柄な女性になってからは、

誰も彼女を男性と認めてくれず、

美菜は酒に溺れそうになる鬱憤とした日々を送っていた。

そんな彼女を見ていた理名はさすがに罪悪感を感じたらしく、

ベッドの上で彼女を男性扱いしてあげたり、

自分の体を抱かせてあげたりしたが、

やはり自慢の槍を失った美菜はいつまでも自信を取り戻せず、

理名の用意した作り物の槍で彼女を抱いた後、

思わず泣き崩れてしまう有り様だった。



そんな美菜を見ている理名は新たな自分を発見してしまった。

それは、自信がドSであるという。

まさしく彼女にとっては革新的な発見だった。

理名は自分を頼る美菜に萌えてしまったらしい…

いやはや何とも歪んだ愛の形も合ったものだ…

新たな自分に目覚めた理名は容赦なく美菜に飴と鞭を与えた。

彼女を男扱いした後、

女扱いして意地悪するのだ。

そんな歪んだ愛され方をした美菜はますます理名に依存していき、

最近では理名の言うことを何でも聞くようになってしまったのである。

そして、理名が新たに思いついたのが、

男装喫茶での羞恥プレイだ。

男装喫茶でおもいっきり男扱いしてあげ、

その後美菜を可愛がるのだ。

やはり理名は根っからのドSなのだろう…

理名の男装喫茶でバイトすることになった美菜。

当初は戸惑いを隠せなかった美菜だが、

店の客は彼女を男性扱いしてくれたお陰で少し自信も回復したらしい。



「ふふっ、

 今日も可愛いかったわよ美菜」

「カッコいいって言ってくれよ理名!」

店のトイレの一室で今日も二人は情事に溺れていた。

確かに、理名の言う通り美菜は男装がよく似合うが、

華奢な体格になってしまった彼女には

男性用のスーツは大きすぎて着れず、

また、スーツを着ていてもラインのせいで女だと、

一発でバレてしまうのだが、

美菜は店で男に見られてると勘違いしつつ自信を深めていく、

これはやはり根が単純と言うべきであろう。



「やっ、ちょっと下まで脱がさないでよ…」

「どうして?

 ズボン脱がされると、

 自分が男じゃないって実感するから?」

「俺は男だ!!」

「その甲高い声の何処が男なの?

 大体、今の貴方はタチションも出来ないし、

 私を抱くことも道具無しじゃ出来ないじゃない?」

「理名の意地悪…」

「でも、意地悪されると感じちゃうんでしょ?

 貴方ドMだから、

 アハッ」

確かに理名の言う通り、

美菜の男装用のボクサーパンツは既に洪水状態だったし、

また彼女のDカップの胸を締め付けているナベシャツは、

張りつめる乳首のせいで圧迫状態だった。

女性としての興奮状態になる度に美菜の男心は締め付けられたが、

同時に理名に抱かれたいという想いも否定は出来なかった。



「ふふっ、

 駄目じゃない…

 可愛い胸をこんなに締め付けて苛めたりしちゃ」

ギュッ

「あっ、やだ止めてよ理名!

 そこは…」

「何で?

 女性だって実感するから?」

理名は美菜の女性の象徴である乳首を苛めるのが好きなのだ。

何男性時代は感じなかったそこを弄ると、

美菜は昔を思い出し泣き出しそうになるからだ。

そんな彼女のそんな顔を見れば見るほど理名は満たされるのだ。



「ほら、

 ボクサーパンツの中にも私を貫いた槍なんて無いじゃない、

 やっぱり貴方は女よ」

「うっ、ぐすっ…」

「アハッ、

 泣かないでよ、

 いつからそんな泣き虫になったの?

 美菜ちゃん?」

理名にそう指摘されても美菜の涙は止まらなかった。

止めたくてもこの体になってからは、

感情の起伏が激し過ぎて中々泣き止めないのだ。

あるいは、

生理前の情緒不安定さも

また原因の一つかもしれない。



「あっ、

 はうっ…

 あぁぁぁぁー」

理名は腰に装着した槍で勢いよく美菜を突いた。

その度に美菜の男心にヒビが入ったが、

その表情がさらに理名を興奮させるのだ。

そんな美菜の苦悩と快楽を象徴するように、

ナベシャツから解放された胸元の刻印は

紅色の切ない輝きを放ち続けていた…



おわり



この作品は猫目ジローさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。