風祭文庫・異性変身の館






「欲望の館」



原作・おもちばこ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-325





ここは主の欲望のためにだけ作られた館。

壁も

庭も、

部屋も、

装飾品も、

もちろんすべての使用人・メイドも

どれもすべて彼女の強欲の餌食となったのである。



あぁクルマの音が聞こえる。

また今日もあの儀式があるのか、

その音に惹かれるように正門を見れば

黒塗りの車が1台姿を見せると静かに玄関前に停車した。



かわいそうに…

 黒塗りの車の後部ドアが開き、一人の若者が下ろされた。

 その若者はSPとも呼ばれる者達に両手を後でつかまれ、

 必死にそれを振りほどこうと抵抗を試みるが、

 それは無駄なことだった。

 恨まないでくれ。

 SPである彼もまた彼女の強欲の被害者なのだよ。

 誰も彼女には逆らえない。



かわいそうに…

 彼は中庭まで来てしまったよ。

 主の居る所までもう少しだ。

 中庭で掃除をしていた四、五人のメイドが手を止め彼に視線を向ける。

 それだけではない、四方の窓から誰かしらが彼に対して憂いの目で見ている。

 みんな彼女の被害者なんだ。

 でも誰も彼女には逆らえない。



かわいそうに…

 デートとか大事な予定があったんだろう。

 彼の一糸乱れず身に付けていたとびきりの衣服は

 連れの男によって脱がされてしまうと、

 一糸まとわずにされてしまった。

 彼の身に付けていたぴかぴかの服は

 きっと自転車の反毛にされてしまうのだろう。

 いよいよあれが始まるのか。



かわいそうに…

 彼は不自然に部屋の中央に置かれたベッドに裸で仰向けに寝かせられてしまった。

 両足を手錠でしばられ、

 それを確かめたSPは主を内線で呼ぶ。

 いよいよあれが始まるのか。

 多くのメイドが受けてきた諸行を。



かわいそうに…

 主が部屋にやってきてしまった。

 しかもYシャツ一枚でボタンを一つもかけていない。

 胸なんか辛うじてポッチが見えないぐらいだ。

 けど下はしっかりとパンツを履いている。

 いや、それも怪しいかもしれない。

 全ては彼のあれを。



かわいそうに…

 本当は好きな人にあげたかったであろう物を。

 こんな偽りの若さを持ったババァ、いや主に献上する事になってしまう事は。

 だけど彼女のテクニックにおいては

 絵にもかけないとはまさにこのことか。

 主はこの後の儀式で若さと美しさを保っているのだ。

 細くて長い物を引っこ抜くのだ。

 ビリビリ、

 プン



かわいそうに…

 彼は大事な大事なムスコを根元から二つの袋とともに引っこ抜かれてしまった。

 彼女はそのムスコをくにくにと弄っているうちに、

 柄の部分に黒い宝石が二つ左右対称に付いた短剣になった。

 有機物から一気に武器に変わってしまったのだ。

 主はいつもの笑みを浮かべて刃元から刃先にかけて舌で舐めて見せる。

 するとぶるぶると彼が震え、

 くすぐったそうにしている。

 ムスコが武器に変化しても感覚はつながっているようだ。



かわいそうに…

 十数年と付き合っていたムスコのあった場所がつるつるてんになってしまっては。

 彼も驚きを隠せないであろう。

 しかも両手両足がしばられている。

 ひどい脱力感に襲われたようである。



かわいそうに…

 君には君の幸せがあるのに。

 それをこの女が奪ってしまうのか。

 ああ、恐ろしい。

 自分が自分でなくなってしまう。

 帰る道もなくなってしまう。

 ここに骨を埋めるのだろうか。

 骨は丁寧に扱ってくれるだろうか。

 すくなくとも彼女と一番仲がよかった人はそうされた。



かわいそうに…

 それを見ていた主はかつて彼のムスコがあった所に、

 つくったばかりの短剣を根元まで縦に突き刺してしまったではないか。

 しかも血は一滴も出ていない。

 このババ……いや、主は特殊な訓練を受けているので。

 良い子は絶対に真似しないように。



かわいそうに…、

 筋骨隆々だった彼の肉体は穴を開けた谷間から空気が抜けてどんどんしぼんでいく。

 自慢の肉体だったろうに。

 顔も例外ではなく。

 男らしく角ばった顔はどんどんあごが削れていき。

 同時に皮膚が縮んだせいか、

 ハリが出来、完璧に女の子の顔になってしまった。

 手足は萎んで細くなり、

 女の子らしいくびれも出来、

 逆に胸にはけっこう空気が送られたようで二つのふくらみがかたどられた。



かわいそうに…

 これから私がメイドの先輩としてこの子の…

 この娘の面倒を見るんだ。

 ああ、私もこうやって主に隷従させられたのか。

 いいや、私のことはいい。

 私は吹けば飛ぶような一般人。

 でもこの子は違う。

 国際問題に発展する一国の王子。

 でもこんな変わり果てた姿。

 性別まで変えられて。

 女版の王子って事で済ませられる。

 けど、それって王女って言わないかって?

 ううん、ここではどうでも良いこと。



かわいそうに…

 ここまできたらもう手遅れだ。

 一生を彼女のもとで暮らすんだ。

 でも、まだ私は諦めていないけれどね。

 いつかババァを倒して男に戻るって。

 そういつの日か。



おわり



この作品はおもちばこさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。