風祭文庫・異性変身の館






「クラゲ」



原作・nao(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-303





カッ!

真上から照らし出す灼熱の太陽。

ザバーン!

赤い波が打ち寄せては引いていく砂浜。

「海だ!」

「海だな…」

「海だ海だ!!」

「あぁそうだな…」

「海だ海だ海だ!!!」

「やかましいわっ!」

波が足下を洗う砂浜で大学生の日高聡は

その横で声を上げる友人の真田幸一の頭を盛大に小突いて見せる。

「いってぇーっ」

いきなり殴ることはないだろう。

頭を押さえながら幸一は抗議すると、

「お前が登山電車なんかに乗らなければもっと早くここに着いていたんだ」

と聡は怒鳴り返した。

「ちょっと間違えただけだろうが、

 細かいヤツだな…」

その抗議に幸一は口を尖らせつつ言い返すと、

「すっかり遅くなってしまって、

 もぅ昼ではないかっ」

聡はなおも文句を言う。

「昼に着けただけでも良かったんじゃないの?

 あのまま爺さんの言う通りに川を下ったら夜になるところだったよ」

登山電車を降りた山中で出会った老人の言うまま、

川下りをしようとした聡を腕ずくで引き留めたことを言う。

「………」

互いに非難を言い合った後の気まずさを感じつつ二人は海を見ていると、

「誰もいないな…」

と聡は小さく呟いてみせる。

「無理もない、

 こんな真っ赤な海に遊びに来るヤツなんていやしないよ」

それを聞いた幸一は南極で発生した大災害によって赤く染まった海を見つめながら言う。

「昔…海が青かった頃はこの砂浜は若い娘で賑わっていたそうだけどな…」

「昔のことを言っても始まるまい」

「それはそうだけど」

二人並んでそんな話をしていると、

ちゅどぉぉぉん!!!!

轟音と共に光の十字架が幾本も立ち上がった。

「ん?

 あれは…」

それ気づいた幸一が腰を上げると、

水柱の向こうで鋭い4本足を持つ奇妙な生き物らしきものが水上を歩行するのが見て取れる。

「ほぉ、緊急避難勧告が流れたのでもしやと思っていたけど、

 あれが噂に聞いていた使徒ってヤツか。

 はじめて見るな」

感心しながら続いて聡も腰を上げる。

「聡っ、

 スグにシェルターに避難しよう」

聡の手を握って幸一は声を上げると、

「まぁ待て、

 しばらくすると面白いのが見られるかもしれないぞ」

と聡は笑って見せ、ビデオカメラを取り出してみせる。

「はぁ?」

全く余裕の表情を見せる聡を幸一は訝しがりながら見ていると、

ズズーンッ

砂浜に上陸した使徒の周囲が急に騒がしくなった。

「あれは…?」

目を懲らしてみると4人の少女らしき者達が使徒に対して攻撃を仕掛けている様子が見て取れる。

「おぉ、やっぱりプリキュアが出撃してきたか、

 ずいぶんと早いな…この近所に秘密基地でもあるのかな。

 よっしゃぁ!

 これを持ってきた甲斐があったぁ、

 お宝映像ゲットだぜ」

ビデオカメラを構えつつ聡は戦いの模様を録画し始める。

「さっ聡ぃ…

 お前、なんでそんなこと詳しいんだ」

「気にしない気にしない」

まったく動じるところを見せない聡の姿に幸一は不安を覚えるが、

一方戦いの方は顔を打ち砕かれた使徒は一度は崩壊しかけたものの、

スグに新しい顔を顔を持ち上げると再生し少女達に襲いかかる。

しかし、赤と黄色の少女2人が使徒の上空に飛び上がるや、

”パインフルート!”

の声を共に張り巡らされたシールドをを打ち破っていくと、

”ハピネスハリケーン!”

”シュワシュワァァァ…”

必殺技を仕掛けられた使徒は見事殲滅されてしまったのであった。

”海のバカヤロウ!”

その直後、ふと幸一の耳にそんな声が聞こえた聞こえたような気がしたが、

「さぁ終わった終わった」

戦いを撮影し終えた聡は手にしていたビデオカメラをしまうと、

生き生きしていた顔から急速に生気が失われていき、

「はぁ…」

ため息と共に座り込んでしまった。

「どうした?

 急に落ち込んだフリをして?」

それを見た幸一は聡を励まそうとすると、

「俺って女に縁がないのかな」

ポツリと漏らしてみせる。

「あっ!

 大丈夫だって、

 女の子はマリちゃんだけじゃないって」

彼の行動に心当たりがある幸一はそう言って彼を励ますと、

「判っているって…でも…」

未練が断ち切れないのか聡はさらに落ち込んでしまったのであった。

聡は顔も容姿も悪くはないのだが、

告白しても断られる事がほとんどで、

せっかく交際に発展しても相手に裏切られるなどの苦い経験ばかりしていた。

そして、ひょんな事で出会った少女・マリに熱を上げたのだが、

これもまた呆気なく破綻してしまったのであった。

「まっ、とにかく暗い過去を忘れて、

 新しい出会いに希望を託した方が良いぜ」

「そうだな…」

幸一に励まされた聡は顔を上げると、

バッ!

着ていたシャツをはぎ取ると、

「でやぁぁぁぁ!」

岩場に向かって走り始めた。

「あっおいっ、

 本気で海に入るのかっ、

 止めとけって!」

それを見た幸一は聡を止めようして追いかけるが、

ドボーン!

二人をそろって海に飛び込んでしまったのであった。

「冷たいな」

「痛ッ」

「どうした?」

「クラゲに刺されたみたいだ」

「クラゲが居るのか?

 とにかくこんな海に長く浸かってないで早く上がろう」

「そっそうだな」

二人は急いで赤い海から上がるが、

「あ、頭がクラクラする」

「大丈夫か、聡?」

海から上がった途端、

聡は立ちくらみをするらしく大きくよろめいてみせる。

「バカヤロウ!」

それを見た幸一は聡を叱りつけ急いで病院まで連れて行くが、

翌日、病室で聡が目を覚ますと、

フニッ

胸に柔らかい感触を感じたのであった。

「こ、これは」

慌ててパジャマを脱ぐと、

プルンッ

胸の膨らみが露わになる。

と同時に

「んなぁぁぁ!」

聡は思わず悲鳴を上げてしまったのであった。

「聡、大丈夫か?」

悲鳴を聞いて幸一が病室に入っていくと、

その途端、

「幸一ぃ!」

「さ、聡なのか?」

幸一は聡に抱き付かれて戸惑ってしまう。



「えーと簡単にご説明しますと、

 聡君の精巣や前立腺が消失し、

 代わりに卵巣が形成されています。

 聡君はもはや女性になったと考えて良いと思われます」

「そんな」

「泣くなよ、聡」

「あの海に入られたそうですが、

 無茶なことをしますな。

 あの海にはTSクラゲと言う奇妙なクラゲの生息が報告されているので、

 どうやらそのクラゲに刺された事が原因と考えられます」

「TSクラゲだって?

 ふざけないで下さいよ」

話を聞かされた聡は医師に抗議するが、

「この辺りではクラゲに刺された男が女性化するというのが続発しておりまして」

「まさか、みんなクラゲに刺されて女になったって事ですか?」

聡の問いに医師は、

「可能性が無いとは言い切れません」

と告げたのであった。



翌日、退院した聡は自分が住んでいる寮に戻ると、

スグに幸一がやって来るなり、

「まぁ元気出せよ」

と励ますが、

「何で女にならなくちゃいけないのさ」

「それにしても、胸が大きいな」

「こ、幸一?」

幸一の態度がいつも違う事に気づいて逃げようとしたものの、

「折角女の子になったんだしさ、

 聡、このままでいてくれ」

と抱きつきながら懇願してきた。

「は、離せ」

抱きつく幸一を聡は引き離そうとするが、

なぜかそんな幸一を許してしまうと、

「いっ痛くしないでね…」

の言葉と共に二人は一つになったのであった。



それから数ヵ月後、

クラゲの毒に有効な解毒剤が完成されたのだが、

「せっかく解毒剤ができたのに使わないのか?」

「お前のせいだぞ」

「そう怒るなよ」

「だったら、父親としての責任を果たせよ」

実は聡江と改名した聡のお腹には幸一の子供が宿っており、

聡江の様に妊娠や出産を経験すると、

解毒剤の効果が無いのである。

「早く生まれておいで」

「名前は決めてるのか」

「えぇ、

 男の子だったら、シンジ。

 女の子だったら、ラブってしようと思っているの」

聡江は新しい命が宿るお腹を擦りながら母親になる喜びを感じていたのであった。



おわり