風祭文庫・異性変身の館






「目が覚めると」



原作・nao(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-298





ディスカウントストア・業屋。

突然姿を見せては以前から存在していたかのごとく当たり前に営業を行い、

翌日には跡形も無く消えてしまう幻のストアである。



「あれ?

 こんな所にディスカウントなんてあったっけ?」

そんなある日、

業屋の店頭を偶然通りかかった幸運な高校生・篠田正和が興味津々に店内を覗いてみると、

『いらっしゃいませぇ』

彼の眼前にいきなり蝦色のチャンチャンコを羽織った老人が手もみをしながら姿を現したのである。

「うぐっ

 なっ…

 なんですかっ、

 あなたは!?」

まさに沸いて出たかのようにドアップで迫る老人に向かって正和は怒鳴り声を上げると、

『ごーちゃん、ダメじゃない。

 お客を驚かせては』

と嗜めながら、白いドレスのような衣装を身に纏う女性が追って姿を見せる。

「うわっ、

 美人」

金髪で碧眼、まさに外国のモデルを思わせる女性を見つめながら正和は思わず頬を赤らめてしまうと、

『で、何を所望なのだ。少年』

正和の背後より威圧的な男性の声が響く。

「!!っ」

その声に正和は慌てて振り返ると、

ムンッ!

なんと彼の後ろに顎が長くガッチリとした体格の男が仁王立ちのようにして立ち、

その目を正和へと向けていたのであった。

「…いっいえ」

殺気を帯びた男の視線を一身に浴びた正和の心臓は縮み上がり、

冷や汗を噴出しながらその場を去ろうとすると、

ムンズ

いきなり腕が掴まれ、

『それで良いのか、少年。

 貴様がこの店に姿を見せたのはその心に悩みと言うものがあるからだ。

 ここにはその悩みを解決する物が必ずある。

 それを見ずしてどうすると言うのだ』

と男は相変わらずの口調で話しかける。

「なっ悩みですか?」

男の口から出た言葉を聞いて正和はショックを受けると、

『ふーん、

 気になっている女の子の気持ちが知りたい…のねぇ』

と今度は白い衣装をまとう女性が値札の貼ってある手鏡を正和に向けて話しかけてきた。

「なっなんで

 判るんですかっ!」

続けざまに自分の心をズバリ言い当てられたことに正和は驚きの声を上げると、

『うふっ、知りたい?

 全てはこの鏡が語ってくれるわ。

 君が何を考えているのか、

 何を悩んでいるのか、

 なんでも知っている星にアクセスして鏡が教えてくれるの。

 ちなみにこの鏡は店の中で売っているわ。

 なんでもシンデレラの継母もこの鏡を買っていったそうよ』

と女性は言う。

「それって…思いっきりウソ臭いんですけど」

ジト目で女性を見ながら正和は言い返すと、

『白蛇堂さまぁ。

 商品を勝手に持ち出されては困りますぅ』

と老人は注意する。

『勝手にだなんて…

 あたしは商品の実演販売をして見せただけよ』

『まったくぅ

 さて、 

 女性の気持ちを判るようになりたいのですか、

 判りました。

 そんなお客様にぴったりの商品がございます』

正和に向かって老人はそう言った後、

店の奥へと向かっていくと、

「え?

 あっ…ちょっと」

躊躇いつつも正和は店の中へと入っていく。



「ちょっと待ってください」

商品棚によって構成された迷宮の通路を正和は声を上げて追っていくが、

しかし、老人の足は速く瞬く間に見失ってしまった。

「ちょっとぉ!

 何処に行ったんですかぁ」

見たことも無い商品の山の中で正和は悲鳴に近い声をあげると、

『こちらでございます』

と老人の声が響いてくる。

「あっちか」

その声を頼りに再び歩き出すと、

程なくして見失った老人を再び発見したのであった。

「もぅ、置いて行かないでください」

文句を言いながら正和が老人の傍に行くと、

『はいっ、

 こちらでございます』

と言いながら老人は店に据え付けられているある物体を指し示す。

「なんですか、

 これは?」

デーン

と聳え立つ巨大なマシーンを仰ぎ見ながら正和は声を上げると、

『ふふふっ、

 怖がることはありません。

 簡単に言いますと相手の気持ちになれる変換装置…とでも申しましょうか。

 実はとある組織からの注文を受けまして発注を掛けたのですが、

 その注文が突然キャンセルになりましてぇ。

 しかし、その時にはもぅ機械は完成してしまっていたのです。

 で、仕方なくこの店で引き取った次第でありましてぇ、

 如何でしょうか?

 お試しになりませんか?

 今なら出血大サービス。

 格安にてご提供差し上げますよぉ』

と老人は顔を近づけてきた。

「かっ格安っていくらですか?」

『それはもぅ、お客様の言い値で…』

「ひっ百円と言ったら百円になるのか」

『はぁい、

 百円でご提供差し上げます』

「よっしゃぁ!」

正和と老人の値段交渉が呆気なくまとまると、

『では、その寝台に寝てください。

 すぐに終わりますから』

と老人は豚の素焼き蚊取り線香を思わせるマシーンの口より出ている寝台を指し示す。

「こうでいいのか?」

『はい、結構でございます。

 では早速…ポチとな』

正和が寝台に横になったのを見届けた老人は、

如何にも…と言うデザインのスイッチを押してみせると、

ぶるるるるるぃぃぃん!!!

マシーンは全身を身震いさせながら起動し、

カッ!

ポッカリと口を上げている内部に明かりが灯る。

そして、

がこんっ!

ぐぃぃん!

正和を乗せた寝台がゆっくりと移動し始め、

マシーンの口からお尻へと動いていったのであった。



「ん?

 何も変わらないけど」

寝たままの状態でマシーンの中を通り抜けた正和は何も違和感を感じないことを告げると、

『いいぇ、お客様は変わっております』

と老人は言い切る。

「まぁ、百円だから良いか」

元々の値段の安さもあってか、

正和は気にとめずに料金を払うと店を後にした。



「うーん、

 胸が痒い…」

その数日後。

胸の違和感を感じた正和が目を覚ますと、

ジワッ!

ちょうど胸の乳首の辺りが熱を持ったように痛痒くなっていた。

「あれ?

 虫にでも刺されたか?」

不審に思いながら正和は着ていたパジャマを脱ぐと、

プクッ!

なんと胸が少し膨らんでいたのであった。

「あれ?

 何がどうなっているんだ」

明らかに膨らんでいる胸に正和は驚くが、

と同時に数日前から自分の体で発生している異変を思い出した。

そう、正和の体は数日前から目が覚める度に体の異変に悩まされており、

それによってペニスが委縮したり体つきが華奢になっていったのである。

「篠田君、114ページを読んで下さい」

「は、はい」

数学の授業で教師に指名された正和は慌てて教科書を捲りながら立ち上がると、

突然、正和の体がふらつき上げかけた腰を落としてしまった。

「篠田君、どうしましたか?」

「あ、あの、

 き、気分が悪くなって」

「誰か篠田君を保健室に連れて行ってもらえないかしら」

「私が行きます」

教師の呼びかけに保健委員の江本優奈が席を立ち上がると、

正和が優奈とともに保健室に向かって行く。



「私も保健室で休もうかな」

保健室に向かう途中、

ふと優奈がそう漏らす。

「急に何を言い出すのさ?」

「だって目が覚める度に自分が自分でなくなる気がして…」

「じゃあ、優奈も俺と同じ経験をしているのか?」

「たぶんそうだと思う」

そんな話をしながら二人が保健室に到着すると、

「なんじゃぁ?

 二人そろって気分でも悪いのか?」

校長室に出入りするネコが入れたお茶を啜りながら保健医は尋ねる。

「お、俺達、気分が悪くて」

「そ、そうなんです」

「なるほど、

 どれ診せてみい」

話を聞いた保健医は診察をすると、

「まぁ、良くある体調不良ってヤツじゃな。

 自宅に戻ってゆっくりと休養を取るのがよろしかろう」

診察結果を告げる。

こうして二人は体調不良という事で早退をする事になり早々に学校を後にするが、

「ねぇ、私の家に来ない?」

「え?

 何でいきなり?」

優奈からの突然の誘いに正和は困惑してみせる。

「うん、ちょっと色々話をしたいのよ。

 体のことで…」

はにかみながら優奈はそう言うと、

「いきなり僕なんか行って大丈夫かよ?」

と正和は心配してみせる。

「両親は仕事で家を留守にしているから大丈夫よ」

「そういう問題じゃないだろう」

「だって、正和君が一緒にいれば怖くないかなと思って」

「怖くない?」

「あぁっ、

 ちょっと言葉を間違えたかな」

「分かったよ」

「ありがとう」

そのようなやり取りをした後、

結局、正和は優奈の自宅に向かうことになり、

二人そろって彼女の自宅に着くや、

「お風呂に入らない?」

と優奈が誘ってきたのであった。

「えぇ!?」

あまりにも唐突なその誘いに正和は思わず声を上げてしまうと、

「しーっ!

 大きな声を上げないで。

 近所に聞こえちゃうでしょ」

とその口を塞ぎながら優奈は注意をする。

「いや、だって。

 いきなりお風呂って…

 だって、僕たちそう言う関係でも…」

顔を真っ赤にして正和は言い聞かせようとする。

しかし、

「正和君の体と同じ様にあたしの体もおかしくなっているって学校で言ったでしょう。

 でも、保健の先生は何も言ってくれなかったし。

 だから…見て欲しいのよ」

と優奈は言うと、

「うーん…

 確かに…」

進行する体の異変のことが頭から離れなかった正和は頷いた。

そして、

「判ったよ。

 そうさせてもらうよ」

と正和は返事をすると脱衣所へと向かい、

そこで制服を脱ぐと、

膨らんだ胸、

くびれた腰、

華奢になった手足が露わになる。

「あぁ…

 こんなに変わっている」

確実に変化している自分のを眺めながら正和は表情を曇らせると、

「私も一緒に脱いじゃお」

の声と共に優奈が脱衣所に入るなり制服を脱ぎ始める。

「ゆ、優奈?」

「恥ずかしがる事は無いでしょ」

「意外と大胆だな」

制服を脱き裸になった優奈の体つきは、

なで肩になった正和より肩幅が広く、

股間にペニスが存在しない事を除けば優奈の体は明らかに男性化していたのであった。

「正和君、女の子っぽくなっているね」

「優奈こそ男っぽくなっているじゃないか」

「それより早くお風呂に入りましょう」

「うっうん」

「ほら、なに赤くなっているの?」

「だってぇ」

「うふっ、可愛い」

こうして風呂の中で二人は互いの体の変化の具合を確認し合った後、

「ねぇ…業屋ってディスカウントストアに行かなかった?」

と優奈が尋ねる。

「業屋?

 あぁ、そう言えば…

 変なお爺さんの店でしょう?」

「そこで寝かされた後に変な機械の中を通されなかった?」

「うっうん

 ひょっとして優奈さんも?」

「えぇ…あたしも…」

「そうか、

 ひょっとしたら僕たちの体の異変って…」

「間違いなく業屋よ」

と正和と優奈、二人ともが業屋に置かれていた奇妙な機械の中を通されたことに気づいたのである。

二人がお風呂から上がると

「ねぇ…着ていたものを交換しない?」

と言う優奈の提案で二人はお互いの制服を交換をした。

「スカートって違和感あるな」

「そのうち慣れるわよ」

「そっそうかな…

 じゃあ、家に帰るよ」

「気をつけてね」

こうして優奈が着ていた制服で正和が家に帰ると、

「正和、どこ行っていたの?」

正和は早退したのにすぐに家に帰ってこなかった事を母の和恵に叱られるが、

和恵は何故か正和がスカートを穿いている事について何も指摘をしなかったのでる。

そして正和は部屋に戻ると、

制服と優奈から貰ったブラジャーを脱ぎ、

パジャマに着替えるとすぐに寝てしまった。

そしてその翌朝、正和が目を覚ますと、

「うわっ!

 完全に女になっているよ」

と言う甲高い声が部屋に響いた。

プルンッ!

パジャマを脱ぎ取った正和の胸には乳房となった膨らみが二つその存在を誇示し、

一方、股間にはペニスの痕跡すら残っておらず、

女の子の縦溝がしっかりと刻まれていた。

「やっぱりそうだったの」

「か、母さん」

母親の声を聞いて正和が振り返ると和恵が立っていた。

「そうだったのって?」

「正和、あなた業屋って店に行ったでしょう」

「え?

 どうして?」

「ふふっ、

 母さんもかつて男だったのよ。

 そして、業屋で変な機械に通された後、

 あなたみたいに目が覚める度に体が変化していったの」

「母さんが男だった事を父さんは知っているのかよ?」

「正彦さんも当事者だからね」

「当事者って?」

そこへ父の正彦がやって来ると、

「わたしも業屋に行く前は女だったんだ。

 そこで変な機械に通されると、

 和恵が女になっていくに反して男になってしまってね」

と事情を説明する。

「そうだったんだ」

両親から衝撃の告白を受けた正和は優奈の家に向かうと、

「おはよう」

すっかり男前になった優奈が出てきたのであった。

それを見て正和は、

「格好良くなったね」

と褒めてみせると、

「ありがとう」

と優奈は顔を赤くしながら返事をしてみせる。

そして二人は優奈の部屋で裸になるや、

「あの…僕…ううん、あたし、前から優奈のことが好きだったんだ」

「ありがとう、あたし…いや、僕も正和の事が気になっていたんだ」

「優しくしてね」

「分かっているよ」

と囁きつつお互いの体を抱き寄せ合うと一つになったのであった。



今回のお客様も満足していただけたようで嬉しいです。

互いに性が変わったことで自分の胸に秘めていた気持ちを言えたようですな。

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



『ごーちゃん!

 華代ちゃんの真似なんかしちゃって気味が悪いわねぇ』

『良いじゃないですかっ、

 わたしにもこういう締めの台詞を言わせてください』

『業屋…一言言っておく。

 似合わないことをするな』



おわり