風祭文庫・異性変身の館






「霧の温泉」



原作・nao(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-296





ここは中国の奥地…

どれくらい奥地かと言うと、

そう成田から直行便を乗り継いで約一週間。

中国の奥地・チンハイ省バヤンカラ山脈の山中である。

「はぁはぁ

 はぁはぁ。

 なぁガイドさん。

 まだ着かないのか。

 その伝説の修行場って所には…」

某大学の2回生である大山明俊(19)は前を歩くガイドに向ってそう問いたずねると、

「もうちょっとアルヨ。

 お客さん」

と人民服姿に手に旗を持つガイド(年齢不詳)は微笑みながら返事をしてみせる。

「くっ

 さすがは伝説の修行場。

 そう易々とは辿り着けないか。

 燃えてきたぜ!」

すでに半日以上歩き通ししている明俊は闘志に火をつけ、

弱くなっていた脚力に力を漲らせて見せる。



日本とは違い中国の山奥である。

のんびりと笹を食べていた野良パンダが驚いて逃げ出すことなど当たり前、

下手をすると昼寝をしていた白竜の尻尾を踏んで追い掛け回されることや、

尾が九本もある狐のお姉さんからお色気たっぷりのお誘いを受けることなど経験済みである。

「なんか…

 段々と異世界に入り込んできているような…」

九尾狐の誘いを振り切り、

中華風魑魅魍魎を掛けわけながら明俊は進んでいくと、

サァァァァ…

その周囲を乳白色の霧が覆い始める。

「ガスが出てきたか。

 おいっ、ガイドっ

 もぅ少しゆっくり歩いてくれ」

先を行くガイドに向って明俊は声を上げるが、

「・・・・・アルヨ!」

そのガイドからの返事は次第に聞き取りにくくなっていく。

「おいっ、

 勝手に先を行くなっ、

 俺を置いていくなっ」

次第に濃さを増してくる霧を掻き分け明俊は進んで行くと、

サァァァ…

不意にその霧が晴れたのであった。

と同時に、

「おっと」

カランカラカラカラ…

明俊は切り立つ崖の淵を歩いていることに気づくなり、

足元から崩れた岩が落ちていく。

「ふぅ、危ないところだったぜ。

 ってここはどこだ?」

木一つ生えていない岩場に居ることに明俊は戸惑いつつ、

その周囲を眺めてみせる。

ツーンッ

風向きが変わり卵の腐ったような硫化水素の匂いが鼻をついてくる。

「中国に温泉なんてあったっけ」

鼻を押さえながら明俊は回れ右をすると歩き始めると、

その視界に一人の人間の姿が飛び込んできた。

「うん?

 人か?

 ガイドではないみたいだな。

 女の人か」

リュックを背負い、

まるでハイキングに来たかのような装いのその人物に惹かれるようにして

明俊は近寄って行くと、

「あの、すみませーん」

と日本語で声をかける。

すると、

「はい?」

設置されていた案内版を読んでいた女性は日本語で答えて振り返るなり、

「あれ?

 明俊君じゃない」

と親しそうに返事をして見せたのであった。

「た、孝枝さん?」

目の前に立つ女性が明俊の近所に住んでいる池田孝枝(22)であることに気づくと、

「なんで?

 孝枝さんも中国に来ていたのですか?」

と信じられない表情で聞き返すが、

「なに馬鹿なことを言っているの?

 明俊君こそ中国に修行をしに行ったんじゃないの?

 なんで日本に居るのよ」

と逆に聞き返される。

「え?

 え?

 えぇ?」

まさに狐につままれたような話である。

意味不明のまま明俊は孝枝が見ている案内板を見ると、

そこには間違いなく日本の地名が書かれていたのであった。

「そんな。

 そんな。

 そんなばかなぁぁぁぁ!!!」

衝撃的な展開に明俊は頭を抱えると、

ヒラリ

一枚の葉っぱが舞い降り、

そこには

『振り出しに戻る By九尾狐』

と書かれてあった。



「振り出しに戻るか。

 まっ、こういうこともたまにはあるわね。

 元気出しなさいって」

がっくりと肩を落とす明俊を励ますようにして孝枝は励ますと、

「おっ俺の旅費はぁ…

 がんばってバイト代を貯めた旅費がぁ…」

と明俊はうわ言のように繰り返す。

「もぅ、諦めが悪いわねぇ…

 ほうらっ、

 サッサと立つっ」

そんな明俊を孝枝は抱きかかえるようにして起こすと、

「うわっ、

 汗臭いっ

 もぅ、何日お風呂に入っていないのよぉ」

と明俊の体から漂ってくる汗臭さに鼻をつまんで見せる。

放心状態ながらもようやく立ち上がった明俊と共に孝枝はその場を去ると、

「ところで、孝枝さんはどうしてここに?」

と明俊は孝枝がなぜこの場に居たのか尋ねる。

「ん?

 ハイキングよ。

 ここは東京から電車を乗り継げば簡単に来られる所だから」

「東京から電車って…

 そんな…トホホホホ」

「そうそう、

 ここはねぇその昔、

 中国からやってきた尾が九本もある妖怪狐が討ち取られたところよ。

 きっとその狐の怨念が明俊をここに引き寄せられたのね」

明俊が中国からワープをしてしまった原因を孝枝は解説した。

「くっ、

 あのとき狐のお姉さんのお誘いに乗っておけば良かったのか」

それを聞いた明俊は悔しそうにそう呟くと、

「ばかっ!」

孝枝の声が言葉短く響くのと同時に明俊の頭が小突かれた。

二人が歩き始めて程なくすると、

サァァァァ

まるで絡みつくようにして霧が立ち込め始める。

「やだぁ、

 霧が濃くなってきていない?」

次第に濃さを増してくる霧を見て孝枝は怯えてみせると、

「段々濃くなってきた。

 僕が中国で霧にまかれたときと同じだ」

と明俊は中国の山奥での体験を口にする。

「ってことは…

 あたしたちどこかに連れて行かれるのかな」

「うーん、それは困るかも…

 とは言ってもこれだけ霧が濃いと何処へ行けば良いのか

 見当がつかないな」

まさにホワイトアウト。

一面の白の世界に放り込まれた形になってしまった明俊と孝枝は立ち止まっていると、

サァァァ

その霧が動き始めた。

「こっちに行け。

 って言っているみたいね」

「よーしっ、
 
 行ってやろうじゃないか」

動く霧と共に二人は歩き始めると、

硫黄の匂いが強くなり始めた。

「何か匂わない?」

「本当だ」

「行ってみましょう」

「あぁちょと、

 待って、

 待ってくださぁい」

孝枝が匂いがしてくる方向へと走り出すと、

明俊もすぐに後を追う。

そして、

サァァァ

立ち込めていた霧が晴れ渡ってくると、

ピチョン!

なんと二人の前に豊富な湯量を湛えている温泉が姿を見せたのであった。

「温泉だ…」

「温泉だね、

 折角だから入ってみようか」

「え?

 入るって…

 ここって男湯も女湯もないですよ」

「もぅ…

 気分台無しっ」

「あぁすみません。

 って孝枝さん?

 ちょっと待ってください」

驚く明俊に構わずに孝枝は服を脱ぎ出すと、

「明俊君、何を慌てているの?」

「いや、その

 べ、別に…」

戸惑いつつ明俊は思わず目を背ける。

すると、

チャポンッ!

「ふぅ…

 良い湯加減だわぁ

 気持ち良いわよぉ

 明俊君、あなたも突っ立ってないで入りなさいよ」

と湯の中に体を沈めた孝枝は誘いをかける。

「あのぅ…」

「こらぁ、お姉さんの言うことが聞けないかぁ」

「はっはい…」

彼女のその声で覚悟を決めた明俊が服を脱ぎ、

彼にとって久方ぶりとなる湯の中へと体を沈めた。

「はぁ…

 気持ちいい…」

心の中から洗われるような寛ぎを感じつつ、

明俊はリラックスしていると、

「でしょう?」

と孝枝は話しかける。

そして、二人並んで湯の中に入っていると、

「あれ?

 胸がくすぐったい…」

と明俊は自分の異変に気づく。

「どうしたの明俊。

 さっきからモゾモゾして」

それに気づいた孝枝が話しかけると、

「いえ、

 なんかこう…

 体が変なんです」

そう明俊は訴えると、

ザバッ

っと立ち上がって見せた。

その途端、

プルンッ!

明俊の胸に突き出ている乳房が大きく震えて見せると、

「やだ、明俊君の胸におっぱいが…

 膨らんでいる」

と孝枝は声をあげたのであった。

「んなぁぁぁ!!!」

甲高い声を上げて明俊は自分の胸を両手で隠すが、

しかし、その時の明俊の体は筋肉が落ちて体つきが華奢になっていて、

股間には女の子の縦溝が刻まれていたのであった。

「キャー、何よこれ?」

それを見た孝枝は明俊の体を指差して悲鳴を上げるが、

ムリッ!

「え?」

ムクムクムク!!!

「えぇ!!」

孝枝も股間に違和感を感じるのと同時に立ち上がると

彼女の股間から男のシンボル・ペニスが力強く勃起していて

さらについさっきまであった乳房が消えうせてしまうと、

胸が平らになっていくではないか。

「どうすれば良いんだ」

すっかり女性化してしまった体を眺めながら明俊は動揺していると、

その背後に孝枝が立ち、

そっと抱き寄せる。

「た、孝枝さん?、

 何をするんですか?」

その事に明俊は気づくと、

孝枝は膨らみの増した明俊の胸を揉み始め、

「嫌がっている割には気持ち良さそうね」

と囁いてみせる。

「やだ、そんな事言わないで」

「うふっ、

 すっかり女の子になっちゃって…

 可愛い」

「やめてください」

「だーめっ」

嫌がる明俊に対して、

孝枝は積極的に攻め、

やがて孝枝は勃起しているペニスを明俊の縦溝へと挿入をする。

二人が温泉から上がる頃には霧が晴れたが、

湧き出ていた筈の温泉は影も形も無くなっており、

「ば、馬鹿な」

「でも、ここに温泉があったのは事実だよ」

「それにしても、

 孝枝さんが何で俺の服を着ているんですか?」

「あなたも服を着た方が良いよ」

孝枝は明俊にタオルと自分の着ていた下着を手渡し、

こうして互いの衣服を交換した二人は下山する事にしたが、

「家族にどう説明すれば良いんだ」

「正直に言うしかないでしょ」

女になった明俊に対し両親の反応は意外なもので、

「女で明俊ってのは変だから改名しないといけないな」

「親子で似たような経験をするなんて思ってみなかったわ」

「そうだな」

「似たような経験って?」

「小学生の頃に友達と銭湯に行ったら男になってしまって」

「そして、私も女になってしまったの」

「冗談だろ」

「本当の話だ」

両親の意外な過去を知って驚く明俊だった。



おわり