風祭文庫・異性変身の館






「銭湯の怪」



原作・nao(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-285





小学生5年生の大山智明は友人である佐藤浩一郎と丸谷裕也の3人で

近くにオープンしたばかりのスーパー銭湯に向かう途中、

黒い服を着た男に出会った。

『君達、3人だけかい?』

髪を7・3に分け長いあごを持つ男は3人の前に立ちはだかるなりそう尋ねてくると、

コクリ

コクリコクリ

3人は示し合わせたかのように頷いてみせる。

『そうか、

 では良いものをあげよう』

細面ながら体格の良い男はそう告げると、

「いっいいよ」

と男に対し不信感を抱いた智明達は断ろうとするが、

『この路地を通るということは、

 お前たちは業屋に行くつもりなんだろう。

 ならばこのチケットが必要になるぞ、

 言っておくが、

 もぅ入場券は売り切れている』

男はそう言いながら懐より3枚の入場券を取り出し、

3人に向かって差し出してみせる。

「え?」

「それって」

「本当?」

それを聞いた3人は驚いた顔をしてみせると、

『あぁ、このチケットを持っていないとお風呂には入れない』

と男は言いながら智明達に赤い色の入場券を手渡すなり、

どこかへ消えてしまった。



スーパー銭湯・業屋。

先日開店したばかりのスーパー銭湯であり、

早い時間帯でもあるにも関わらず多くの利用客で賑わっていた。

「うわっ」

「本当に混んでいる」

賑わう銭湯を眺めながら智明達が玄関をくぐると、

「大山君に佐藤君、丸谷君じゃない」

「げっ口うるさい野口だ」

3人はクラス委員の野口律子に出会う。

「口うるさいで悪かったわね」

律子は店番に持っていた青いチケットを渡し、

「君達もチケットは持って来たかな、

 言っておくけど当日券はもぅ売り切れよ」

3人に向かって嫌味っぽく律子は尋ねると、

「ふふんっ」

「これの事かな?」

と智明はさっき男からもらったチケットを掲げてみせる。

「あら、持っていたの?

 用意の良いこと」

ちょっと悔しそうな顔をして律子は中へと消えて行き、

それに続くようにして3人は赤いチケットを店番の男に手渡すと、

浴場へと向かっていく。



「ワー、海みたいだ」

「本当だ…」

「すげーっ」

まるで海のごとく眼前に広がる浴場の大きさに3人は驚きつつ、

お湯の波が打ち寄せる波打ち際より中へと入っていく。

そして、お湯を掛け合いながら3人は沖へと向かっていくと、

「あれ?

 体が浮かんでいる」

という声と共に、

3人は自分の体がまるで浮き輪に捕まっているかのようにプカプカと浮いてることに気づいた。

「へぇ…」

「これならおぼれる心配はないね」

「よしっ、じゃ遠慮なく」

「それ」

「この、お返しだ」

浮いていることに気を大きくした3人はその場で盛大にふざけ合うと、

「キャッ、何するのよ?」

たまたま傍を通りがかった律子の顔にお湯が掛かったのであった。

「ま、まずい」

「ここって混浴だったのか?」

「ご、ごめん」

「全く、他の人の事も考えなさいよ」

「他の人って言ってもここには俺達しかいないよ」

先に謝った浩一郎に対し、

律子の側にいた香山香苗と古谷光江が寄ってくると、

「そういうのが自分勝手って言うのよ」

「フン、良い子ぶりやがって」

「何よ、文句があるの?」

と口げんかが始まったのであった。

そして気まずい雰囲気の中、

「裕也、胸が腫れているよ」

「そう言う智明こそ」

「どうした浩一郎?」

「無い、無くなっている」

「本当だ」

と3人ともいつの間にか僅かながら胸が膨らみ、

股間からペニスが消えてしまっている事に気づくと、

一方、律子、香苗、光江の3人も股間で何かがぶら下がっているのに気付いたのである。

「何よ、これ?」

「やだ、誰か取ってよ」

「いやぁん」

ともはや喧嘩などしている場合ではなくなっていた。

そして、大あわてでお風呂から上がった6人だが、

「なぁ、お前が持っていたあの青いチケットってどこで手に入れたの?」

と裕也が尋ねると、

「私達は白い服を着た女性から青いチケットを貰ったけど」

その問いに対して律子が答える。

「僕達は黒い服を着た男性から赤いチケットを貰ったんだ」

「もしかして、僕達、

 何かの実験台にでもされちゃったのか?」

「変な事言わないでよ」

「それよりも大山君達と私達の服を交換しない?」

「何でそんな事をしなくちゃならないのさ?」

「だって私達は男の子になってしまったからスカートなんて穿けるわけないでしょ」

律子の提案で智明と律子、浩一郎と香苗、裕也と光江は

それぞれお互いの服を交換する事にし、

「こんな格好恥ずかしいよ」

「今はあなた達が女の子だから仕方がないでしょ」

「男の子の格好も悪くないね」

「何で俺がこんな服を着なくちゃいけないのさ」

「佐藤君、意外と似合っているわよ」

などと戸惑いつつ6人は銭湯を出た。

そして

「あっ業屋がないっ」

その声と共に振り返ってみると業屋があった場所は空き地になっていて

さらにあれだけ居た利用客も消えていたのであった。

「そんな馬鹿な」

「どういう事なのさ?」

人気のない路地の奥で6人は何が起こったのか分らぬまま立っていたが、

しかし、これ以上どうすることも出来ず、

「いいかっ、

 このことは秘密だぞ」

「そっちこそ」

と性転換してしまったことを秘密にすることを申し合わせた後、

それぞれの家に帰って行ったのであった。



『業屋っ、

 もぅ店じまいか』

『えぇ、おかげさまでとっても良いデータが取れましたので、

 ここで退却です』

『ちょっと、業屋っ、

 報酬ってこれだけ?』

『白蛇堂どの、

 最初に言ったはずですよ。

 アルバイトだと』

『はっ、こんなことなら

 香織のプールで黒蛇堂をからかっていたほうが良かったわ』



おわり