風祭文庫・異性変身の館






「若返りの泉」



原作・nao(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-258





むかーし、むかーし

あるところにお爺さんとお婆さんがいました…

はぃ?

むかしむかしっていつのことか判らない?

あるところってどこなのかはっきりしろ?

お爺さんとお婆さんってそんな抽象的な説明では誰のことか判らない?

判りました。

では少し細かくいたしましょう。



時は安政6年(1859年)

前年第14代将軍として就任した徳川家茂の後見人である大老・井伊直弼が幕政を牛耳り、

世に言う安政の大獄が始まった頃の夏の話でございます。

場所は雪女伝説が語り継がれる武州・多摩北部。

その地に堀伊右衛門と言う御年61歳となる翁と夏と言う同い年の婆が住んでいました。

その日の朝、

「お婆さん、薪を集めてくるでな」

セミ時雨が響き渡る森を背にして伊右衛門(以降お爺さんと記す)は

そう言い残して薪を集めるために山に入って行きますと、

お爺さんの後ろ姿を見送りながら夏(以降お婆さんと記す)は

「よくあんな女々しい奴と長年連れ添う事ができたのが

 ほんと自分でも信じられないよ」

曲がった腰を大きく伸ばして呟いたのでした。

お爺さんは子供の頃から物が落ちる音がしただけで震え上がる村一番の臆病者であり、

そんなお爺さんと村一番の美人であったお婆さんが連れ添うようになって、

「あの女みたいな奴がよく女房をもらえたな」

「よくあんな奴と夫婦になる気になったよ」

村の人々は陰口を叩いたのでした。

それでも若い頃ほど臆病ではありませんが、

女々しい奴と馬鹿にされるお爺さんをお婆さんは見捨ててはいませんでした。

そんなお爺さんが薪を集め終えて家に戻ろうとしたとき、

カッ!

突然、辺りが眩しくなったのです。

「なんじゃこりゃぁ?」

天空に輝く紅蓮色の光のカーテンを見上げながらお爺さんはしばしの間見入っていますと、

パチッ

パキパキパキ!!!

森の至る所から何かがはじける音が響き始め、

ザワザワ

と森がざわめきだしたのです。

その途端、

ズドドドドドド!!

ざわめく森から逃げるようにして狐や狸、熊などが一斉に飛び出して来るなり、

立ちつくすお爺さんをガン無視してその脇を次々とすり抜けていったのです。

「一体、なにが…」

巨体を揺らす熊までもお爺さんを無視して走り去っていったことに、

お爺さんは言いようもない恐怖感にとらわれますが、

その次の瞬間。

バシッ!

突然大音響が響き渡ると、

「ひっ!」

お爺さんは目を瞑り頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまったのです。

そして恐る恐るお爺さんは顔を上げてみせると、

ブスブスブス…

なんとお爺さんの目の前にあった大木が真っ黒に焦げ、

煙を噴き上げていたのです。

「ひっ

 ひぃぃ!!

 祟りじゃぁぁ!!

 山の神様の祟りじゃぁぁ!!!」

衝撃の光景を目の当たりにしたお爺さんはせっせと集めていた薪を放り出して、

転がるようにして逃げ出しますが、

パンッ

パンパンッ!

逃げるお爺さんにまるで追い打ちを掛けるようにして森の木々がはじけ飛んでいったのです。

実はこの日、活動の極大期を迎えていた太陽で巨大な爆発があり、

それに伴う猛烈なエネルギー嵐である太陽嵐が爆発から10分程度で地球に襲いかかったのでした。

暴風のごとく襲いかかった太陽嵐は地球の磁力線を大きく乱し、

極地の夜空を彩るオーロラを低緯度地方にまで押し下げた上に

さらに放射線から地球を保護していたバンアレン帯をも吹き飛ばしてしまうと、

普段は到達しない放射線が一斉に地表へと降り注ぎます。

それによって地球内を流れる地電流が急激に上昇してしまいますと、

上空に向かって一斉に放電を開始したのです。

まさに大地震や火山噴火とは桁違いの大災害なのですが、

しかし、直接的な被害を感じた人はさほど居なかったため、

”幕末・維新”と言う名の激動の歴史の前にかき消されてしまったのです。

さて、お爺さんに話を戻しますと、

山の変事に恐れ戦き逃げ出してしまったお爺さんはいつの間にか道に迷ってしまっていて

「ど、どうすればいいんじゃ」

と途方に暮れながら山中をさまよい歩いていました。

そして、

「あっ」

張り出していた木の根の蹴躓いてしまうと、

なんとお爺さんは足を滑らせ近くの泉に落ちてしまったのです。

ガボガボ

「たっ助けてくれぇ」

思いもよらない事態にお爺さんは泉の中で藻掻き、

そして何とか自力で這い上がりましたが、

なぜか皺だらけであるはずの手が白くスベスベになっており、

白髪が黒くなって伸びていくではありませんか。

「どうなっているんじゃ」

自分の異変を目の当たりにしてお爺さんは思わず尻もちをついてしまうと、

着物がはだけて少しずつではあるが膨らんでいる胸が露わになっていたのでした。

そのころ、

「お爺さんやぁ」

お婆さんは村の人々が止めるもの聞かず赤く輝くオーロラの下、

お爺さんを探して野山を歩いていました。

「お爺さん、どこ行ったんじゃろ」

お爺さんの手がかりを探し回っていたおばさんがふと立ち止まって辺りを見渡すと、

シクシク

シクシク

なんと泉の畔で12、13歳位の少女が泣いているではありませんか。

「ん?

 このようなところに童が…

 面妖な…

 まさか、雪女では?」

あり得ないところでであった少女を見たお婆さんは咄嗟に懐に仕舞い込んでいた払い串に手を掛けます。

お婆さんには代々受け継がれてきた巫女神流退魔師の血が流れていて、

お爺さんには秘密で魑魅魍魎の退治を行っていたのでした。

気配を殺してお婆さんはゆっくりと少女へと近づいていくと、

少女はお婆さんに気づいたのか、

彼女の見るなり

「お婆さん!!」

と叫けんだのでした。

実はこの少女こそ泉に落ちて若返ってしまったお爺さんだったのです。

しかし、お婆さんは少女がお爺さんである事に気付かず、

「お前さんが羽織っているのはお爺さんの着物じゃないか、

 この妖怪めっ

 爺さんをどうした!」

そう言って少女の胸ぐらを掴み挙げます。

「な、何を……」

「えぇいっ

 まだしらばっくれるかっ、

 貴様、その着物をどこで手に入れたんじゃ、

 吐けっ

 吐かぬば退治するぞ」

ハタハタと揺れる払い串を掲げて

困惑する少女に向かって鬼気迫る表情でお婆さんは詰め寄ります。

「ま、待って」

そう言いながら迫るお婆さんから逃れるようにして少女は跳ね飛ばしてしまうと、

「あっあぁぁぁ!!!」

なんとお婆さんはお爺さんが落ちた泉とは一本の堤で仕切られた隣の泉に落ちてしまったのでした。

「おっお婆さんやぁ」

少女はお婆さんがなかなか上がってこないので心配になりました。

そして、しばらくして泉から上がってきたのはお婆さんではなく、

14、15歳の少年ではありませんか。

「貴様、よくも突き飛ばし…」

お爺さんをにらみつけながら這い上がってきた少年でしたが、

「え?

 あれ?

 なんで男に…」

自分が何も身に着けていない事と男性になっていることに気付くと顔を赤らめます。

するとそこで少女は自分が羽織っていた着物を少年に着させ、

お爺さんは少年になったお婆さんに自分がお爺さんである事を話したのです。

「そうだったのか」

「私達、これからどうしましょう」

そう言って困惑している少女となったお爺さんでしたが、

少年となったお婆さんはさっきから少女の裸ばかりを見ており、

そっと手を伸ばすと

「何をするのです」

「お前は女になって良かったの」

そう言って少年は少女を抱き締めたのでした。

そして、少年の男根が少女の女陰に挿入されてしまうと、

「よく締まっているじゃないか」

「や、やめて」

「何だかんだ言ってお前も気持ちよさそうだな」

「ハアハア、もう駄目」

「ウー、俺もだ」

そう声を上げながら二人は同時に絶頂に達したのです。

「ここで暮らしましょう」

「そうだな」

その後、二人は後にこの泉の近くに引越し子宝にも恵まれ幸せに暮らし、

この泉は後年、近くで発見された狐溺泉、狸溺泉、熊溺泉と共に

娘溺泉・男溺泉と呼ばれるようになったそうな。

とっぴんぱらりのぷぅ



おわり



この作品はnaoさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。