風祭文庫・異性変身の館






「転送装置」



原作・nao(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-257





それは夏休みを間近に控えたある日のことだった。

「え?

 うそっ

 本当に良いの?」

俺、こと金子和幸は我が耳を疑いながら声を上げて聞き返すと、

「えぇ…」

目の前に立つ松田秀美ははにかみながら返事をして見せる。

「うぉぉぉぉぉ!!!」

まさに性転の…もとい青天の霹靂。

棚からぼた餅。

犬も歩けば棒に当たる。

えぇいっ、細かい意味などどうでも良い。

とにもかくにもキュートで可愛く、

お付き合いしたい女子No1の栄冠に輝くあの松田秀美が…

事もあろうにこの俺を彼女の実家に案内してくれる。と言うのだ。

何処に断る理由などあろうものか、

いや、それどころか実家に案内と言うことは、

ズバリ、ご両親にご挨拶をすることである。

そして、ご両親へのご挨拶を意味するものとはぁぁぁ!!!

打ち上げられていくH2ロケットの如く俺の脳は猛烈な勢いでアナドリン吹き上げ、

両親へのご挨拶後に訪れるであろう様々な儀式を正確にシミュレートし、

老後までに及ぶ壮大な人生設計の報告書を精鋭のスタッフ達が不眠不休でまとめあげていく。

そして、まばゆく光り輝く無数のフラッシュを浴びながら

俺の手に分厚い報告書がしっかり手渡されたとき、

「あのぅ…

 あたしの話聞いてます?」

と松田さんの声が響いたのであった。

「はっ!」

彼女のその声に俺は我に返り、

「ほっ本当にお伺いしてもよろしいですか?」

と緊張した面持ちで再度聞き返すと、

「えぇ、お待ちしていますわ。

 それと、とても”おもしろいもの”が見れるかも知れませんわ」

そう松田さんは返事をしたのであった。

りぃぃんごぉぉん!!!

りぃぃんごぉぉん!!!

最後に付け加えられた意味不明の言葉など聞かなかったことも同然、

俺は彼女の口から出た”お待ちしていますわ”の言葉を、

壊れたレコードの如く脳内に響かせながらにやけていると、

「では…」

手入れが行き届いたサラサラの髪を揺らしつつ、

松田さんは軽く会釈して俺の前を去っていく。

「ふふふふふ…」

俺一人が佇む校舎の屋上、

初夏のさわやかな風を頬で感じつつ俺はほくそ笑み、

そして、

「くくくくく…

 はーはははははははは!!!!」

まさにいま沈まんとする真っ赤な夕日に向かって

俺は胸の奥から込み上げてきた勝ちどきに似た笑いを高らかにあげたのであった。

長かった…

本当に長かった…

思い返せば入学式、

まだウブな坊やだった俺は式典の会場に一人佇むの美少女に思わず釘付けになるのと同時に、

俺の心の中で固く皮を被っていた”あるもの”が固く太く伸びていくとその先端を

プリッ

と剥け切って見せたのである。

あぁなんて可憐な子なんだ…

まさに春である。

青い春の目覚めであった。

松田秀美…

後日彼女の名前を知ると、

俺の心の中で血管を浮きあがらせて剥けきっている”あるもの”はビクビクとヒクつきながら、

名前の5文字を俺の脳裏で稼働しているデータベースにしっかりと書き込んで見せると、

即座にバックアップが取り小脳の隅にあるデータセンターへと保管されたのであった。

同時に俺は”あるもの”に命じられるまま猛烈に彼女へアタックを始めたのである。

お手紙は無論、

陰に陽にと俺は松田さんを守るべくつきまとい、

それはまさに美しき姫を守る忍の者であった。

だが、ライバル…敵も多かったのも事実。

美しき姫を我がものとせん不埒な輩との戦いは日常茶飯事であり、

その戦いの中で拙者は男として成長していったのである。

そして、あの入学式から数えて28ヵ月目にしてついに姫からお呼びが掛かったのである。

もはや拙者の周囲には敵の姿はほとんど見られず、

姫の寝所へと続く道は綺麗に掃き清められているのである。

まさにオールグリーン…出発進行!。

赤絨毯という名のレールの上を俺は18段フルノッチで駆け抜けていけばそれで良いのである。

無論、終着駅は白シーツの上で全裸M字開脚して待ってくれている柔肌の彼女であり、

彼女の密壺に向かって俺の固く熱いモノをぉぉぉぉぉ!!!!!!!


ブスッ!


「おいっ、

 金子ぉ

 なに一人でにやけているんだ。

 気持ち悪いぞ…」

ささやかな妄想をぶちこわすかの如く俺の後頭部が突っつかれ、

呆れたような男の声が静かに響いた。

同時にツーンとくる饐えたような臭いが鼻腔を刺激してくると、

「んだよぉ」

と俺は文句を言いつつ振り返ってみせる。

すると、

「なかなか部活に戻ってこないから、

 向かえに来てやったんだ」

の声と共に剣道着+胴・垂姿の日向芳樹が自分の肩を手にした竹刀をトントンと叩きながら話しかけてきた。

「まったく、

 人のささやかな妄想をぶち壊しやがって」

愚痴をこぼしつつ実は芳樹と同じ格好をしている俺は階段に向かって歩き始めると、

「で、果たし状の彼女とはどんな約束をしたんだ?

 決着をつけてやる。

 放課後、屋上に来いっ!

 って呼び出しを受けたんだろう?」

と俺の後に続く芳樹は尋ねる。

「ふふふふ…」

その問いかけに俺は不敵な笑い声を上げて見せると、

「友人として忠告をする。

 松田の家に行かない方がいいぞぉ〜」

と俺に言ってきたのであった。

「むっ!

 何でだよ」

待ちに待った上げ潮の運気を一気に吹き飛ばすかのようなその言葉に俺は立ち止まって聞き返すと、

「彼女と言うより

 彼女のお父さんがヤバいって噂がある」

と芳樹は俺の肩に肘を乗せて指摘してきた。

「それってどういう意味だよ」

奴の肘を払いのけて聞き返すと、

「松田のお父さんは変な発明ばかりして、

 近所の評判が良くないらしいし、

 それに…」

と芳樹は一つ一つ例を挙げて松田さんの父親の評判の悪さを熱弁したが、

「だからって、

 松田さんとは関係ないだろう」

と俺は聞く耳を持たなかった。



そして向かえた夏休みのある日。

「ここよ、さっ入って入って」

松田さんに連れられた俺は彼女の自宅へと迎え入れられてのあった。

「どっどうも…はじめまして、

 金子和幸といいます」

玄関で出迎える彼女の母親に向かって俺は不器用に挨拶をしてみせると、

「どうぞ、ゆっくりしていきなさい」

と母親は微笑みつつ俺の前を去っていく。

「はぇぇぇ」

住宅街に聳え立つ白亜の御殿。

とは行かないものの、

しかし、相当な資産家と見える松田さんの自宅の様子に俺はただ関心をしていると、

ふと、芳樹の言葉が頭の中をよぎり、

「あのぅお父さんは?」

と俺は尋ねてしまったのであった。

すると、

「え?

 父さんに会いたいの?

 きっと研究室にいるわよ」

松田さんは一瞬、意外そうな顔をして見せた後、

スグににこやかに微笑んで見せると、

まるでやっかいな手間が省けたかのような軽い足取りで、

俺の手を引き自宅とは棟続きになっている別棟へと案内をしていく。

「ここは…」

別棟に踏み入れた途端、

周囲の雰囲気はがらりと打って変わり、

拉致してきた善良な市民を奇っ怪な改造人間へと仕立てていく

悪の秘密結社の研究室を思わせる佇まいになっていたのである。

「なっなんですか?

 これって…」

ゴボゴボと怪しげな蒸気をわき上がらせる怪しげな器具。

手枷足枷が備え付けられた円形の寝台。

天井にはきっと謎の怪光線を発するであろう奇っ怪な投稿器。

そして、謎の生物がうごめく不気味な培養器。

いかにも五体満足の人間の姿で出て行くことなど全く不可能を思わせる

それらを眺めながら俺は一人冷や汗を掻いていると、

「…実はな、

 松田には変な噂があってな…」

で始まる芳樹の言葉がまたしても頭をよぎっていったのであった。

違うっ!

松田さんはそんなことはしない子だ。

芳樹の忠告を振り払う様にして俺は頭を振ると、

「驚いたでしょう。

 これって父さんの趣味なんです。

 子供の時に見た仮面レーサーって番組に出て来た悪の組織を再現してみたいって言って、

 研究室をこんな風にしてしまったんです」

と申し訳なさそうに説明してくれた。

「いえいえ、

 なかなか趣のある研究室で…」

意外にも父親の趣向を恥ずかしく感じているのか、

シュンとしてみせる松田さんを気遣いつつ俺はそう言いながら歩いていく、

そして、よそ見をしながら歩いていくウチに、

ゴツンッ!

と何かにぶち当たってしまったのであった。

「痛っ、

 なんだこれは?」

痛む頭を押さえながら俺はしげしげとそれを見上げると、

そこには巨大な筒を横にした物体が置いてあり、

「何でしょうねこれは」

「きっと父さんの失敗作よ」

俺と松田さんはそう言いながら筒状の物体をぐるりと回り込んでみると、

「こっこれは…」

なんとあの蚊取りブタを模した巨大な装置が姿を見せたのであった。

「これって…

 幽体離脱装置…?」

かつて5000円で販売されたという伝説の幽体離脱装置を思い浮かべながら俺は中をのぞこんで見ると、

内部は伽藍洞になっていてメカメカしい寝台などは存在しなかったのである。

「途中で作るのを諦めたのかな?」

そう思いながら俺はブタの口から装置内部へ踏み込み、

続いて松田さんも中に入ってきた。

そして2人で装置内部の壁などを触っていると、

カチリ!

俺が触れていた壁から機械音が響き、

その途端、

ウィィン!!

軽い音を立てながらブタの口とお尻を透明なガラスが塞ぎ始めたのであった。

「うそっ」

それを見た俺は松田さんの手を握り慌てて逃げだそうとしたが、

その寸前にガラスがふさいでしまうと文字通り俺たちは中へと閉じこめられ、

さらに

グォォォン…

不気味な起動音を奏でながらブタの内壁にそって光があふれ始める。

「やだ、

 どっどうしよう」

全く予想外の展開だったのか松田さんは青ざめてくると、

「誰か、

 誰か居ないんですかっ、

 出して下さい」

と俺はガラス板を叩きながら声を上げるが、

しかし、ガラス板は特殊な作りになっているのか、

いくら叩いても、

思いっきり体当たりをしても割れることはなく、

さらに、俺の声を聞きつけて駆けつけてくる人影もなかったのである。

「おいっ!

 誰もいないのかっ、

 何とかしろ!」

泣き崩れる松田さんを横目で見ながら俺は思いっきり声を張り上げると、

「10」

「9」

「8」

「7」

と装置の内部にカウントダウンの声が響き始めた。

そして装置の中の光がみるみる増してくると、

「だれかぁぁぁぁぁ!!!」

俺は悲鳴を上げながら光の中へと没し、

その中で

「3」

「2」

「1」

「0」

とカウントダウンの音を聞きながら気を失ったのであった。



「うっ」

気がつくと俺はぼんやりと青空を眺めていた。

「ここは?」

空を見上げながら身体を起こすと、

俺の横に松田さんが倒れていて、

「松田さん…」

そう囁きながら彼女の身体を揺すってみせると、

「うんっ」

どうやら気づいたのか松田さんも身体を起こしてみせる。

「大丈夫ですか?」

彼女を気遣いながら俺は話しかけると、

「ここは…

 うちの裏庭?

 なんで?」

と松田さんは母屋と研究室がある別棟を眺めながら小首をひねって見せた。

「さぁ?

 なんで、こんなところに…」

彼女と並んで俺も同じように小首をひねっていると、

「説明しよう」

と言う男性の声が響いたのであった。

「!!!」

その声に俺たちは振り返ると、

パタパタ

なぜか俺の後ろに一匹の白い犬が座っていて、

そして尻尾を振りながら、

「君たちはわたしの研究室にある瞬間物質移送機…

 そう転送機によってこの場に移動させられたのだよ」

と説明したのであった。

「ひっ、

 いっ犬が人の言葉をしゃべった!!!」

それを聞いた俺は飛び上がって驚くと、

「お父さん!!」

と松田さんは声を上げる。

「へ?

 この犬がお父さん?」

思いがけないその言葉に俺の目が点になると、

「わたしは犬ではない、

 お父さんと呼びなさい」

そう言いながら犬が前足で自分の首筋を引っ張ってみせると、

ズルリ

とその顔が取れ、

同時に白髪交じりの中年男性の顔が姿を見せたのであった。

そして、

「よいしょっ」

かけ声を掛け、

まるで服を脱ぐようにして犬の身体を脱いでみせると、

「初めまして、

 父の松田秀雄です。

 あっこれはわたしが開発したボディアーマーと言うものですよ」

二本の足で立ち上がった男性は自己紹介と犬の正体を明かしてみせる。

ところが、

「父さん、

 また私を使って実験台にしたわね」

父さんに向かって松田さんは怒鳴ると、

「ちょっと転送装置の性能を試しただけじゃないか、

 しかし、実験は大成功!!!

 やはりわたしの理論は正しかったのだ。

 くぅぅ!!

 この転送装置を先人達が発明出来ていれば、

 あんなくだらない戦争など起こらなかったのに」

と人類が地球から追い出された戦争を引き合いに出して悔しがってみせ、

そして一通り悔しがって見せた後、

「さて、ところで君は誰だね」

と尋ねたのであった。

「おっ俺は…じゃなかった。

 僕はか、金子和幸と申します」

いきなり名前を尋ねられたことに慌てながら返事をすると、

「もぅ、金子君まで巻き込まないでよ」

と松田さんは口を尖らせてみせる。

「いやぁ、

 あははは…

 そうかそうか、

 今日は遅いからウチに泊まって行きなさい」

そう俺たちに向かって言うと、

「さぁて、

 ログを取って瞬間物質移送機の稼働状況を調べないとな」

そう言いつつ研究室に戻っていったのであった。

そんな秀雄を言動を見て、

芳樹の話が全くのデタラメではないと思う反面、

行方不明者が続出という部分は話半分以下であることを実感していたのである。



ところが…

翌日の朝、

松田さんとは別室に寝た俺が股間に違和感を感じつつトイレに向かうと、

「あれ?

 あれ?

 あれあれあれ?」

俺の股間から慣れ親しんでいた男のシンボルがどうしても見つけられなかったのである。

「おっかしいなぁ…」

いつもならピンと朝勃ちしてその存在感を誇示しているモノが見つけられないことを不思議に思いながら、

俺は股間を覗き込むと、

「んなぁぁぁぁぁ!!!

 無い、

 無い無い無い!!

 俺の大事なものがぁぁぁ!!!

 無いっ!」

と声を張り上げてみせる。

そう、俺の股間にあったはずの肉棒が姿を消し、

代わりに縦に閉じている女の割れ目がついていたのであった。

「そんな…

 これって、

 おっおっ女の人のオマ…ン…」

喉をカラカラにしながらら俺は呟くと、

突然、

「いやぁぁぁぁ!!!」

松田さんの部屋から悲鳴が響いたので、

「!!!っ」

俺は慌てて駆け付けると、

ヘタリと座り込んでいる彼女の股間から男の肉棒が生えていたのであった。

「金子君、

 まさかあなたも?」

「あっあぁ…

 ここが女の子になっていた」

「どうなっているの」

「まさか、

 昨日の実験で…」

「きっとそうよ」

俺と松田さんは互いに頷いて見せると、

研究室に居る秀雄の元に駆け込み事情を話した後に、

もう一度転送装置を作動させるよう懇願したが、

「うーん、

 そのような不具合があったとは…問題だな…

 しかしこの装置を稼働させるには調整が必要だ」

と犬の姿の秀雄にそう言われ

俺と松田さんは翌日まで待つ事にした。

そして翌日、

一昨日と同じように転送装置装置を作動させたものの、

俺たちの性器は入れ替わったままだった。

「松田さん、

 どうしたら…

 あれ?

 声が……」

「和幸君、

 どうした……ゴホゴホ」

気がつくと俺の声が少し高くなっており、

逆に松田さんの声が低くなっていたのである。

そして日に日に俺たちの異変は進行していき、

俺は女性化し松田さんは男性化していたのであった。

そして、変化の進行が緩やかになったとき、

俺と松田さんは松田さんの部屋で裸になると、

「すっかりおっぱいが大きくなったわね」

「松田君こそ逞しいですよ」

と囁き合いながら松田さんは俺の膨らんだ乳房を揉み、

俺は松田さんの股間から伸びる肉棒を掴んで見せる。

そして

「後悔はしていない」

と問い尋ねると、

「お、いえ、

 私を女にしてください」

と俺は答え二人はそっと体を抱き寄せ合うち一つになる。



…まさか

…まさか俺がM字開脚させられるはめになるとは

…あんっ

…いっいぃ

…あはんっ、

…そう、突いて、

…もっと激しく、

…思い切り突いてぇぇぇ



おわり



この作品はnaoさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。