風祭文庫・異性変身の館






「誤配の薬」



原作・nao(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-256





ある日のことだった。

「ごめんくださぁい。

 古谷玲さんのお宅でしょうかぁ?」

響き渡る宅配便のその声とともに高校生の玲の家に1つの小包が届いた。

「はーぃ」

「すみません、

 ここにサインをお願いします」

「はいはい」

そんなやりとりをした後、

玲は宅配便から小包を受け取り、

いそいそと自室へと向かって行く。

ところが、

「兄さん何を買ったの?

 その箱の中に何が入っているか教えてよ」

と言う声が響き弟の敏夫が姿を見せたのであった。

しかし、

「誰がお前に教えるかよ」

敏夫に向かってそう玲は言い放つと、

バタン!

とドアを閉めてしまった。

「兄さんの意地悪!!」

閉じられたドアに向かって敏夫はアッカンベーをしてみせるが、

部屋の中ではビデオの早送りを思わせる手さばきで小包の包装を破かれ、

出てきた箱より1本の薬瓶が取り出されると、

「フフフ、

 これさえあれば…

 これさえあれば俺を振った女どもを見返すことができる」

と薬瓶を愛おしそうに頬掏りしながら玲はそう呟いてみせる。

実を申せばこの古谷玲と言う男は大の女好きで、

上級生下級生問わずアプローチを繰り返すが、

だが、節操のないその態度が嫌われ、

いつも振られていたのであった。

しかし玲自身は振られるのは小柄で貧弱な体格のせいではないと考えてしまい、

インターネット通販で筋肉増強サプリを購入したのであった。

一方、玲の自宅からほど近い大学の寮に住んでいる古谷怜の部屋にも同じ小包が届いていた。

こっちの古谷怜は女性でありながら180センチという長身であり、

小さい胸にコンプレックスを抱えていて、

「これでまな板呼ばわりされていた胸に谷間ができるわ」

と彼女は期待を込めつつそう呟くと、

瓶に入っていたサプリを3・4粒口に含んだのであった。



さて、サプリが届いた翌日から玲は筋力トレーニングに励み出し、

それから一週間後、

「兄さんなら2・3日であきらめるかと思ったよ」

「あはは敏夫、

 少しは逞しくなっただろう」

得意満面の玲が上半身裸になって見せると敏夫は思わず目を疑った。

なんと兄の胸が左右対称に膨らみを持つようにして腫れているではないか。

「むっ胸、どうしたの?」

「ん?

 気が付いたら腫れていたけど、

 なぁに大した事ないよ」

驚く敏夫の指摘に玲は笑って見せるが、

彼は自分の体で進行しつつある異変に気づいていなかった。

同じ頃、大学の寮では…

風呂場の鏡に映る自分の体を眺めながら、

「どーしよ。

 胸が大きくなるどころか真っ平らのままだし、

 それに手足が太くなるし、

 それにこれって…

 あっ、

 うんっ、

 くぅぅぅ」

困惑した口調で呟きながらも怜は一週間前に股間に生えてきた肉棒を扱いていたのであった。

その翌朝、覚めた玲の胸の膨らみはさらに増しており、

プルンッ

と揺れる膨らみの頂点ではピンク色に染まる乳首がツンと上を向いていた。

「これって、

 どうなっているんだよ」

そのときになってようやく自分の体の異変に気づいた玲が動揺しつつズボンを下ろしてみせると、

「な、無い、

 無くなっている!!」

と自分の股間から男のシンボルが消え去っていたのであった。

「んなぁぁぁ!!」

響き渡る玲の悲鳴で隣の部屋で寝ていた敏夫が飛び起き駆けつけるが、

玲の変わり果てた姿を見た途端、

目を丸くして見せる。

「に、兄さんだよね?」

「俺、女になっちまった」

「何か変なものでも食べたりしていない」

敏夫の言葉に玲はサプリの入った包みからチラシを取り出すと、

「バストアップサプリ!?、

 これであなたもバストアップって…

 ちょっと待て、これって

 ふざけやがって」

届けられた薬が間違っていることに気づいた玲はそう言ってチラシを丸めて窓へ放り投げた。

そして敏夫にサプリを購入した事を打ち明けると、

「兄さん、

 とりあえずメーカーに電話してみよう」

「確かにそうだな」

と促され玲は通販会社に電話をする事にしたのであった。

「誤配?

 そんな事で済むと思っているのか?」

「すいません、

 当方も注意を払ったのですが、

 よく似た名前の方がいらっしゃったものですから」

「取りあえず、

 どうでもいいから俺を男に戻す薬を用意してくれよ」

「それはできません」

「どうしてだよ?」

「筋肉増強サプリもバストアップサプリも一度使用すると効果が半永久的に持続するのです」

オペレーターのその言葉に玲は愕然となったが、

とっさにある考えが浮かぶと、

「ちょっと聞きたいんだけどさ」

と話を切り替えたのであった。

「…ふむふむ

 名前は古谷怜、

 住所は松本町3丁目168番地

 近所だな…

 わかりました。

 どうもありがとうございます」

「こちらこそどうも申し分けませんでした」

玲とオペレーターとのやり取りを聞いていた敏夫は電話が終わるのを見計らって、

「兄さん、どうするつもりだよ」

と聞き返す。

すると、

「怜って人に会うのさ」

「無茶だよお互いの事を何も知らないのに」

「どうしても怜って人に会わないと気が済まないんだよ」

二人が言い争っていると、

突然、二人のお腹が鳴り出し、

「まだ朝食を食ってなかったんだ」

とまだ朝食を食べていないことに気づいたのであった。

「よし、兄さん、いや姉さんがうまいものを作ってやるか」

その声とともに妙に張り切った怜特製の朝食を二人は食べ終えると、

オペレーターに教えてもらった大学の寮へ向かうが

その途中、

「女のくせに男みたいな恰好して」

「姉ちゃん、胸がデカイな」

などと人相の悪い5・6人の不良が絡んできたのであった。

そして、

「なぁちょっと触らせろよ」

と胸を触られそうになり、

玲は必死に抵抗したが多勢に無勢であった。

そのときだった。

「おいっ、

 そこで何をしている」

の声とともに一人の青年が現れると、

なんと不良から玲を助けてくれたのであった。

そして玲が青年にお礼を言うと、

「僕の名前は古谷怜」

「え?あなたが怜さんですか」

「どうして僕の名前を知っているの?」

「えーと…それは」

「とにかくあたし…僕の部屋に来てくれない?」

怜は玲を自分の部屋に連れて行き、

そこで玲が事情を説明すると、

「僕と君の名前が似ていたから間違って違うものが届いたわけか」

「あの通販会社も無責任ですよ」

「でも、僕は男になってから女の頃よりも自信が持てるようになった気がするんだ」

「怜さん」

「だから、君も女になってかえって良かったと思うけど」

そう言って怜は玲を抱き締める。

「あの二人、良いムードだな」

「まさに彼らの言葉で怪我の功名ってやつだ」

奇妙な二人の男が玲と怜の様子を特殊な望遠鏡で覗いていると、

同じような格好をした女性が現れ、

「お前らのヘマにはあきれるよ」

「でも、あの二人幸せそうですよ」

「口答えするな」

の声とともに鉄拳制裁が男に落とされたのであった。



おわり



この作品はnaoさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。