風祭文庫・異性変身の館






「雨に濡れて」



原作・カギヤッコ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-204





「あら?

 香山くん。

 ノートを机の上に置きっぱなしじゃない」

終業後の掃除が片付きかけていた時、

クラスメートの一人がそう言った。

名前を見ると確かに終業後サッサと帰って行った

クラスメートの問題児にして幼なじみの香山敏志のものだ。

「敏志らしいぜ全く。

 机の中にこっそりとならともかく

 堂々と机の上に置くなんてな」

男子の一人が気楽そうに言う。

確かにあいつのキャラクターを考えると

そんな事は自然にやりかねない。

「で、

 どうするの?

 一応明日の宿題の事もあるし…」

気になったわたしは少し心配げに尋ねる。

それが自爆スイッチだった。

「萌、

 ここは恋女房のあなたが届けに行くべきじゃないの?」

ノートを見つけたクラスメートがそう言った。

「な、

 何言ってるのよ!

 わたしは敏志…じゃなくて

 香山君とは何ともないんだから!」

思わず真っ赤になって反論する。

「…幼なじみで今ではちょっと突っぱねているけど実は…

 ツンデレだ、

 これがツンデレと言うものなのか…?」

バシン。

軽口を叩いた男子の頭をノートで叩く。

しかし、

これでわたしが敏志の家にノートを届けに行く事になってしまった。

「でも大丈夫なの萌?

 そろそろ“雨”が…

 傘持っていないけど大丈夫?」

クラスメートが心配そうに声をかける。

確かに外を見ると空はどんより曇り、

雨がパラパラと降り出している。

しかし、

問題はそれだけではない。

そう、

それだけでは…。

「う〜む、

 我らが学級委員長の真田ちゃんが…

 見てみたいような、

 見たくないような…」

男子が両腕を組みながらウンウンと考え込む。

もう一度ひっぱたこうかと思ったが、

時間が惜しいとばかりにノートを手にして飛び出そうとする。

「雨が上がるまで待った方がいいんじゃないの?

 下手すればあんた…」

クラスメートが心配そうに声をかける。

「だ、

 大丈夫よ。

 そうなる前にはあいつの家にいけるし、

 どうせ家族の人もいるから馬鹿はできないでしょうしね」

そう言ってウインクすると
 
わたしはそのまま支度を済ませて教室を飛び出した。

「おっ、

 真田、
 
 掃除は終わったみたいだけど
 
 もう雨が降り出しているぞ。
 
 今外に出たら危ないんじゃないか?」

下駄箱の近くで担任の先生が声をかける。

「はい、

 でも急いでいるんです。

 それじゃ!」

そう言うとわたしはそのまま飛び出す。

パラッ、

パラパラ…。

やはりと言うか、雨は少しずつ勢いをまして降り出した。

街の人達も相次いで家の中に入り、

心配そうに外を見ている。

「急がなきゃ!」

そう口の中でつぶやくとわたしは大急ぎで―

もちろん車には気をつけて―

敏志の家目がけて走り出す。

しかし…。

パラッ、

ポタッ…

ザザーッ…。

あと少しでと言う所で雨は遂に本振りになってしまった。

「やっ、

 やばい!」

そう言う間もなくわたしの体は雨に包まれてしまう。

そして文字通り飛び込むように敏志の家の玄関の前に飛び込む。

ザー…。

雨は激しく降り続いていた。

「はぁ…」

わたしは全力疾走で上がった息を鎮めながらそれを見ていたが、

同時に激しい不安を感じていた。

「まずいな…

 完全に雨に当たっちゃったし…

 間違い無く…

 “来る”わね…」

ため息をつきながら玄関のチャイムを鳴らす事もせずに座りこむ。

ドクン。

「…来た」

突然心臓が激しくなると同時に少しずつ体が熱くなる。

「あっ、

 あんっ、

 ダメッ、

 こんな…所で…」

ドクン、ドクン、ドクン…。

激しい胸の鼓動と全身を包む熱さに耐え切れず

わたしは淫らに全身を広げる。

そして、

それと同時に…

ピクッ!

「うっ!」

全身の肌、

いや、

筋肉がピンッと張り詰めたと同時に、

ピクッ、

ムクッ、

ムキムキッ!

手足が少しずつ長く、太く伸びながら

大きくなって行く。

「あんっ、

 あうっ、

 くうっ…」

全身を変化による苦痛、
 
そして快感が覆う中、

わたしは指一本動かせず大の字になりながら変化を見届けていた。

幸か不幸か誰も前を通る事もなく、

敏志の家から人が出る事もないが、

人様の家の前でこんな姿を見せているのは

恥ずかしい意外の何物でもない。

そう思うとより赤面が増すが、

そんな気持ちにかまう事なくわたしの変化は進む。

ググッ、

ムグッ、

ググ…。

「あん、

 あうっ…

 ぐぐ…」

服越しにMサイズの胸の膨らみに筋肉が張り詰め、

そして胸の中に引きずり込んで行く感覚が伝わる。

柔らかい胸の感覚の代わりに逞しい胸板の感覚が胸にかかる。

ムクリ。

「ああ…

 ああ…

 こ、

 声まで…」

喉の奥から何かが盛り上がると同時にそこから出る声も太くなる。

今やわたしの姿は90%女子学生の制服を着た筋骨隆々の男の姿となっている。

そして残り10%の場所もまた…。

ピクン。

「うっ!」

すでに全身の感覚が普段とは全く違うものになっている中、

それは来た。

わたしが女である事を生理的に証明していたそこ、

そこもまた変化の流れに侵され、ついに迫出し始める。

わたしの“中”でそれは密度を強くしながら収束し、

少しずつせり上がる。

そして普段絶対にさらす事のない“門”の先にある“突起”や

その…トイレの時に使う“場所”を巻き込んでついに…

ビンッ!

「うあっ!」

ショーツを、そしてスカートを盛り上げて

“それ”

は立ち上がった。

そう、

わたしのいる町ではこの時期になるとおかしな雨―

男を女に、

そして女を男に変える雨が降る。

科学的な理由はわからないらしく、

変化も一時的なものなので

みんなそんなに不安がってこそいないものの、

やはり変身に抵抗を感じている人は少なくはない。

わたしも今まで何度か経験はしたのだが…

よりによってこんな時に、

こんな場所で変身する事になるなんて…。

「ふうー、

 はあー、

 はぁー…」

体に残るけだるさを振り払いながらわたしはゆっくりと立ち上がる。

やはり少し視界が高い。

全身を覆う体の感覚もどこか鎧を着たような…

と言うより鎧と同化したような感じがする。

そして何より股間の感覚…

変化したてでまだ興奮しているそこは

普段なら恥ずかしさでいっぱいなはずなのにどこか頼もしさすら感じる。

それだけわたしの意識が男になっていると言う事なのか。

それらを振り払い、

ようやくドアをノックする。

ドンドン!

ドンドン!

壊れるかのような勢いでドアを叩いているうちにスッとドアが開く。

その中にいたのは…。

「さ、敏志?」

そこにいたのは敏志だった。

ただ、

いつもより背が低く、
 
体の線も細い。
 
そしてなにより胸元には柔らかなふくらみが…。
 
間違いなく敏志もまたあの雨に降られて女になっていたのだ。
 
「敏志、

 わたしが判るわよね?」

わたしはわざと敏志に問いかける。

「う、

 う〜む…

 こんなずぶぬれのマッチョオカマに知り合いはいないし…」

その瞬間、

わたしは敏志の頭を軽く小突く。
 
「いたっ!」

頭を押える敏志にわたしはふくれながら、

「わたしよ、

 学級委員であんたの幼なじみの真田萌。

 あんたが宿題のノートを忘れたおかげで

 見事にこんなマッチョオカマに大変身しちゃったんだから」

そう言いながらカバンからノート

―何とか濡れずにすんでいた―

を手渡す。

敏志は少しバツの悪そうな顔をしながら、

「あ、

 ありがとよ…」

 と言いながらノートを受け取る。

キュンッ。

その瞬間、

わたしの中でまた何かが動いた。

なんだろう…この気持ち…。

女の子になった敏志がかわいく、

そしていとおしく思える…。

 このまま抱きしめたい、

そして…。

「ウォーッ!」

わたしの喉から獣の咆哮が

とどろくのと同時にわたしの理性はとぎれた。



ザー…。

 雨が…降ってる…。

「わ〜い、

 おちんちんだおちんちんだ〜!

 わたしにおちんちんがはえてきた〜!」

小さな女の子が裸になって雨の中を走ってる…

いや、

もう男の子になってるか…。

「ほらほらおかあさん、

 さとし、

 わたしのおちんちんこんなになるんだよ〜!」

やだ…。

その女の子は生えたばかりのそこを

自慢げにつかんだり伸ばしたりしている。

「萌ちゃん!

 女の子がそんな事するものじゃないわよ!」

そう言いながらお母さんが女の子―

小さい頃のわたしを抱き抱える。

「べ〜だ、

 いまのわたしはおちんちんのはえたおとこのこだも〜ん!」

今のわたしからはすごく恥ずかしいけど、

小さい頃のわたしはそう言いながら胸をはってそこを揺らす。

その直後、お母さんが飛び出すと
 
体が男に変わるのも気にせずぱしぱしとわたしのお尻を叩く。

パシッ、パシッ…。

「いたいよ、

 いたいよおかあさん…」

「萌ちゃんは男の子なんでしょ?

 だったらこれ位ガマンしなさい!

 まったく、

 お風呂から出てすぐ飛び出して…

 早く入りなおしなさい!」

そう言ってわたしはお風呂に運ばれる。

前後してもう一人入って来る。

「もえちゃん…」

「さとしも入り直しなの?」

敏志は照れながらそう言う。

わたしに引っ張られながら雨を浴びたらしく、

その姿は女の子になっている。

チャポン…。

二人してお風呂に入る。

「いいきもち…」

「あったかいね…」

そう言いながら小さなわたし達は体が元に戻ってもずっとお湯に浸かり続ける。

「もえちゃん…」

「なぁに?」

その時、ふいに敏志の顔がわたしに近付いて…。

「ムグッ!」

同時にわたしは目を覚ました。

いつの間にか雨は上がり、部屋は夕灯かりに包まれていた。

ゆっくりと体を起こし体を見る。

まぎれもない女の子の体の感覚だ。

それを見つめる敏志も既に元の男の体に戻っている。

「敏志…

 わたし、
 
 一体…」
 
 起き抜けで記憶がまだ不安定なままたずねるが、

敏志はニヤリと笑うと、

「お前、

 まじめそうな顔をしてすごすぎだったぜ。

 おれの事いきなり押し倒してあんな事やこんな事を…

 しかも堂々とそのまま裸で寝やがって…」

と言った。

「えっ?

 何の事?

 何の…

 なっ!」

思い出した。

あのあとわたしは敏志を部屋まで追い詰めると敏志を裸に剥き、

押し倒してそのまま何度も…。

そのあと力尽きて眠っている間に体は元に戻ったようだが…。
 
その光景が脳裏に浮かぶうちにわたしの顔、

そして一糸まとわぬままの肌は夕日よりも赤くなり、

「ご、

 ごめん敏志、

 許して?」

と必死に手を合わせる。

しかし敏志はそれに冷ややかな目を向けると、

「お前の事、

 まじめそうな顔をして実は女を食い漁る超変態野郎です

 ってみんなに言いふらしてやる。

 今日は家族全員留守だからよかったもののな…」

といやらしい顔で笑う。

さすがにわたしもむっとして、

「じ、

 じゃあその超変態野郎にさんざんいたぶられて

 ヒィヒィ言ってた究極変態はどこの誰よ!

 お互い様じゃないの!」

と力一杯言い返す。

敏志はおののきながらも、

「おまえな、
 
 おれはまだお前のせいで完全に男に戻った気がしないんだよ。

 責任とってもらうぜ」

とわたしの前に立つ。

わたしは反発してはいたものの、

静かに両手を広げ、

「だったら…

 わたしの事も…

 ゆっくりとわたしを“女の子”に戻して…」

と敏志の体重を受け止める。

それは雨上がりの黄昏時の一コマだった…



「あれ?

 珍しいわね、

 萌がノート忘れるなんて…」

放課後、

女子生徒が萌の名前の書かれたノートを見つけて首をかしげる。

「おっと、

 おれが持って行ってやるぜ」

敏志は笑いながらノートをかっさらう。

「敏志、

 恋女房が心配かよ?」

「バーカ、

 そんなんじゃねえよ」

悪友の冗談を背に敏志はそのまま教室を出る。

「敏志、

 もうすぐ“雨”が降るぞ、

 大丈夫かよ」

 そんな声も気にする事なく敏志はノートを広げる。

 その中には、

“今日はお父さんもお母さんも出かけてるから…今回だけよ 萌“

と書かれたメモがはさまれていた。

それを見て敏志はニヤリと笑いながら

降り出しそうな雲の下へと飛び出して行った。



「〜♪」

鼻歌を交えながらわたしは部屋を片付けるとそのままテラスに足を運ぶ。

屋根の間にある小さなテラス。

家の立地条件上外からここが見える事はない。

わたしはその入り口の前に立つと静かに服を脱ぎ出す。

最後の一枚を脱いだ所でふうっと息をつく。

何でこう言う事をしているのか?

と聞くのならそれはもちろん敏志を迎え入れるためである。

もうじき雨が降る。

そしてそのあと“濡れ女”になった敏志がここに来る。

出迎えるのは“水も滴るマッチョ”に変身したわたし。
 
そしてわたし達は雨の中、

男と女、
 
そして“女と男”として…

ジュルン…。

「…」

あの雨の日以来こんな感覚が時折ある。

わずかながら火照った体を冷やすかのようにわたしは外に出る。

四角形に切り取られたかのような曇り空。

一見閉鎖的なその空間もこれからのわたし達にとっては無限の空間になる。

「…早く来ないかな…

 敏志も…雨も…」

まるで遠足を待つ子供のように胸をときめかせながら

わたしは曇り空に裸をさらしていた…。

ポツン。

ピンポーン…。

「あ、

 来た…」



おわり



この作品はカギヤッコさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。