風祭文庫・異性変身の館






「ミス」



原作・あむぁい(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-104






ミーンミンミンミン…

長かった梅雨がようやく明け、

うだるような暑さと共にやってきた夏。

「では、失礼致します、

 戻り次第、正式な契約書を作成いたしますので、
 
 宜しくお願いいたします」

俺は判が押された仮契約書を丁寧にバインダーに閉じると、

幾度も頭を下げながら客先を辞した。

「ふぅ…」

スッと開いた自動ドアを抜けた途端、

モワッ

真夏の日差しと熱気が俺にまとわりついてきた。

「あー暑い…」

ぎらつく太陽を恨めしそうに見上げながら俺はネクタイを少し緩め、

タオル地のハンカチで吹き出す汗を拭きながら地下鉄に続く階段を降りていく。

本来ならここで一息つきたいところなのだが、

しかし、いわばここが天王山、

まさに踏ん張りどころである。

ムズッ

…いまはダメ!!

ストレスからか身体の中に沸き起こってきたあの感覚に向かって俺は心の中で怒鳴ると、

俺は地下鉄の車内へと吸い込まれていった。



「ああん、ごめんなさぁい!!!」

三山の甘ったるい声がフロアに響いたのは

それから1時間後のことだった。

…まぁったく、またいつものミスか…

 まったく

 って…ちょっと待て、

三山の声に俺は彼女に依頼していたことを思い出すと慌てて席を立ち、

「おいっ

 何をやらかした?」

と怒鳴りながら三山の元へと向かっていった。

「あっあの

 あのあの」

紺のスカートスーツを可愛らしく着こなす三山は俺の顔を見た途端、

俯き加減でシュレッダーを指差した。

「シュレッダー…って

 おいっ
 
 さっきコピーしてと指示をして渡した契約書はどうした?」

顔色を青くしながら俺は三山に問い詰めると、

「だっだから…

 その…」

モジモジしながら三山は再びシュレッダーを指差した。

…おいっ

 まさか、お前…
 
 …まっマジなの?

考えたくもない最悪の事態を目にして

一度は血の気が引いた俺の頭に血が昇ってくると、

「何やってんだよ!

 馬鹿。
 
 なんで、コピーしなきゃならない契約書をシュレッダーにかけるんだよ!
 
 どうすんだよ!お前、
 
 あーぁ…
 
 俺がこの契約を取ってくるのにどれだけの苦労をして来たと思っているんだよ、

 会社に一体、何しに来てるんだ!
 
 ぼけっ!!」

怒濤の如く俺の怒鳴り声がフロアに響く。

すると、

ムズッ

押さえ込んでいたあの感覚が再び起き上がってきた。

しかし、俺はそれを抑えようとはせずに再び怒鳴ると、

「だって、

 だって、
 
 ふぇええええん」

三山はさらに泣き叫んだ、

「泣きたいのははこっちだよ、

 それとも、またいつもの泣きまねか、大体お前は…」

と俺が怒鳴りかけたところで、

「おいおい。

 マジで泣いてるじゃねえか」

「可愛そうだろ」

「そーだよ、

 わざとじゃないんだから許してやれよ」

幾度も響き渡る俺の叱責の声に

見かねた同僚たちが席を立つと俺にそう言ってきた。

…な、お前らなんで三山の味方するんだよ?

 どう考えても悪いのはあいつだろ!

同僚達の冷たい視線に俺は憮然とすると、

「木下くん、もうそれぐらいで…

 契約書なら先方にお詫びをしてもぅ1度貰えばいいじゃないか」

と今度は課長までが声をかけてきた。

げげっ、課長まで…

なんで、なんでそんなに三山に甘いんだよ、

あーもぅ!!

頭ったまきた。

「好い加減にして下さいっ!

 みんな、こいつがTS能力者だって、知ってるでしょ!」

ついにぶち切れた俺は三山を指差し怒鳴ると、



無言でネクタイを外し、

そして、ボタンを上から三つまで外す。

身体の準備はオッケーだ。

…くっ

怒りをぶつけるようにして俺は精神を集中すると、

ザワザワザワ…

一瞬、俺の髪がざわめき、

う〜んっ…っと髪が伸び、ストレートになる。

そして、

それに合わせて俺の胸がどんどん、どんどんと大きく膨らみ

またお尻もふっくらと膨らむ、

それにあわせるようにして、

もわん。

大量のフェロモンが放出されると、

「おぉ…」

回りの男どもの目がたちまちハート型になる。

胸の膨らみはDカップを越え、

無論谷間もくっきり。

「あはんっ」

胸を締め付ける圧迫に思わず俺は女の声を出すと、

ビンッ

あたしの色気に男どもは股間を膨らませた。

「ふぅ…」

身体の変化が止まったのを感じ取った俺は長く伸びた髪を手早く纏め上げると、

「大体、あなたは仕事に対する姿勢がなってないのよ!

 その程度のTSだけで、世の中渡っていけると思ったら大間違いよ!」

キッと厳しく見つめ指摘した。

「ふぇえええん」

「泣いたって始まりませんっ

 すぐに支度をしなさい。

 いまから客先にお詫びに行きますっ」

そう言いながら俺は指差すと、

「ああ、木下さん、相変わらず素敵だ…」

「おいおい、三山、

 あんまし木下さんを困らせるなよ」

「だいたい三山は適当すぎんだよな」

「三山くん、木下くんの言う事を良く聞いて、

 ちゃんと仕事をしてもらわないと困るよ」

とさっきまでは三山支持だった同僚たちは一斉に注意を始め出した。

…ふっ勝った。

 無論、TSでもあたしの方が彼より上。

 はあ。

 それにしても…男って相変わらず…馬鹿よね。

 俺の姿が変わった途端これなんだから…

 所詮、男の本質は変わんないってことか。

 さて、三山のヤツどうお仕置きしてやろうかな、

 ふふっ

 まぁいいわ、今夜、罰としてたっぷりと抜いてあげるから。



おわり



この作品はあむぁいさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。