風祭文庫・乙女変身の館






「ミルクの受難」
(Yes!プリキュア5・二次創作作品)



作・風祭玲


Vol.851





「悪いっ、のぞみっ、

 練習もぅ少し長引きそうだから先に行ってくれない?」

フットサルの練習場で夏木りんは迎えに来た夢原のぞみに向かって手をあわせながら謝ると、

「うん、判った。

 りんちゃん。

 じゃぁ、先に行っているね」

りんに向かってのぞみは笑みを浮かべながら返事をすると、

足早に校門へと向かっていく。

「りんちゃんは練習。

 かれんさんは生徒会。

 こまちさんはそのお付き合いっと、

 ふぅ…

 相変わらずみんな忙しいんだね。

 あっうららちゃんの予定は判らないけど、

 まぁ先に行っているかな」

頭の両側に結び上げた髪を揺らしながらのぞみは校門を抜けて、

学校を出るとNattu Houseへと向かって行く。

そして、Nattu Houseまであと少し。というところまで来たところで、

ドドドドド…

のぞみの行く手に一台のバイクが止まると、

「のぞみちゃぁん!!」

とこまちの姉ののどかが声をかけてきたのであった。

「のどかさん!」

それを見たのぞみは嬉しそうに手を振って見りながらのどかの元に駆け寄ると、

「あら、

 また、今日も一人なんだ」

のどかはのぞみ以外のメンバーの姿を探しながら尋ねる。

「えへへ、

 なんか、みんな忙しいみたいで…」

その質問にのぞみは照れ笑いをしてみせると、

「そっか…

 あっそういえばりんさんの足。

 治って良かったね」

話題を変えようとのどかはりんの足について話題を替える。

「えぇ、

 まぁ…色々ありましたけど、

 お陰さまで」

のどかから貰った栄養剤によって引き起こされた騒動を思い出しつつ

のぞみは頭を下げると、

「色々?」

のぞみの口から出たその台詞が引っかかったのか、のどかは聞き返してきた。

「あっいえ、

 頂いた栄養剤で何かが起きたわけじゃないんですよ。

 男の人のアレが生えちゃったりとか、

 筋肉モリモリになっちゃたりとか、

 うん、そんなことは何もないなぁい」

のどかの質問に慌ててのぞみは両手を左右に振って安心させようとするが、

「男の人のアレって?」

すかさずのどかは切り返してくる。

「いっ

 いやぁ、そうじゃなくてぇ、

 あっそうそう、

 りんちゃんって言えば、

 この間、記憶喪失になったりもして、

 もぅ大変な大騒ぎがあったんですよぉ」

のぞみは話題を逸らそうと、

りんの身に起きた記憶喪失の騒動について話し始めた。



「そんなこともあったの」

のぞみの話を聞き終えたのどかは興味津々そうに頷くと、

「えぇ、

 かれんさんからはあたしがりんちゃんに迷惑をかけ過ぎたからだ。

 って言われるし…

 あのままりんちゃんが元に戻らなかったらどうしようかって、

 それは心配で心配で…

 はぁ、でも、元のりんちゃんに戻ってよかったぁ」

のぞみは胸をなで下ろしてみせると、

「ストレスねぇ…

 あっそうだ、

 良いものを持っているわ」

のぞみの話を聞いたのどかは手を打つと

「はい、これ、あげる」

と言いなながら曰くありげな小瓶を手渡した。

「なんです?

 これって?」

前回の事もあってか、

警戒をしながらのぞみは小瓶について尋ねると、

「この間、話をしたあたしの知り合いが作ったお香よ、

 これの匂いをかぐとスーッと魂が浮いたような感じになって、

 とてもリラックス出来るの。

 良かったら使って」

とのどかは瓶の中身について説明をする。

「お香か…

 薬じゃないなら大丈夫だよね」

説明を聞いたのぞみは少し安心して小瓶をカバンの中にしまうと、

「じゃぁね」

その言葉を残してのどかはのぞみの前から去って行った。



「よしっ、

 早速、Nattu Houseで焚いてみよう」

のどかからもらったお香を持ち、

足取り軽くNattu Houseへと向かっていと、

「あぁ、のぞみさぁん」

Nattu House には春日野うららが既に来ていて、

ソファの上でのぞみに向かって手を振ってみせる。

「やっぱり、うららちゃんが先に来ていたか」

うららを見ながらのぞみは苦笑いして見せると、

「ココ様は一緒じゃないミル?」

とうららと一緒にいたミルクが振り返り、

のぞみを睨み付けながら尋ねてきた。

「うっ」

ミルクの眼力にのぞみは少し身を引きながらも、

「ざっ残念でした。

 ココは職員会議があるとか言って、

 遅れてくるそうよっ」

ソファにわざとドッカリ腰を下ろしてのぞみは返事をすると、

「ふんっ、

 つまりあなたはココ様を置いて、ここに来たミル?」

ギラリ。

目を光らせミルクは指摘すると、

「いちいち五月蠅いわねっ」

ミルクの挑発にのぞみが腰を上げたところで、、

「まぁまぁ、

 ココさんも先生という立場でいる以上、

 お仕事上いろいろあるんですよ」

とうららは間に割って入りミルクに言い聞かせた。

「あれ?

 ナッツは?」

ミルクのことは余所においてのぞみは姿が見えないナッツのことを尋ねると、

「えぇ…

 ナッツさんは先ほど用事があると言って出かけられましたが」

とうららは答えた。

「そっかぁ」

それを聞いたのぞみはソファに身体を預けたとき、

「あっ、そうそう、

 いまそこでのどかさんに会って、

 これ貰ったんだ」

と言いながらカバンを開け、

つい今し方のどかから貰った小瓶を出すと、

「そっそれは!」

反射的にうららはのぞみから距離を置き身構えた。

「ミル?」

話が見えないミルクが小首をかしげ中、

「あはは、

 大丈夫だってぇ、

 これは薬じゃなくてお香よ」

そんな二人に向かってのそみは小瓶の蓋を開け、

中から緑を帯びた細いスティック状のものを取り出してみせると、

フワッ

たちまちミントに似た香りが漂い始めた。

「うわぁぁ、

 いい香り…」

それを嗅いだうららはホッとした表情でそう言うと、

「この香りはとても気が落ち着くミル」

とミルクもまたリラックスした表情を見せた。

すると、

「うーん」

立ち上がったのぞみは何かを探し始めるそぶりを見せると、

「のぞみさん、何を探しているのですか?」

とうららが尋ねる。

「いやねぇ…

 このお香をたく道具がないかなぁ…ってね」

頭を掻きながらのぞみはそうつぶやくと、

「それを焚くつもりミル?

 面白そうミル。

 じゃぁこれを使うミル」

ミルクはそう言いながらキャリーをあけると、

のぞみに大きく口を開けた豚の姿をした焼き物を手渡した。

「ミルクぅ」

それを見たのぞみは呆れた顔をすると、

「どうしたミル?

 それはパルミエでは”夏来香”という香を焚くための道具ミル。

 毎年夏になるとこれでお香を焚くミル。

 そんなことも判らないミル?」

と説明をしてミルクはのぞみを蔑む視線で見つめた。

「うっ、

 だから何だって言うのっ

 大体、夏来香なんて知らないわよっ」

顔を引きつらせながらのぞみは言い返すと、

「まぁまぁ、のぞみさん。

 ところ変われば品変わる。と言いますから」

見かねたうららがそっと口を添えると、

「仕方がないなぁ…もぅ…、

 これじゃぁお香じゃなくて蚊取り線香だよぉ」

ふくれっ面をしながらものぞみは香の棒に火をつけ、

それをセットすると、

ふわぁぁぁ…

大きく口をあけた豚の容器からほのかに煙が立ち上り、

瓶を開けたときとは少し違う香りが漂い始める。

「ふわぁぁぁぁ…

 あぁ、なんか体の力が抜けていくような…」

漂う香りを嗅いだ途端、

のぞみは大きくあくびをすると、

グッタリとソファにもたれかかり、

「くーっ」

その横ではうららが既に寝入ってしまっていた。

その一方で、

「ふわぁぁ

 眠くなってきたミル」

ミルクもまたがふら付いてしまうと、

ドサッ!

のぞみの足元に倒れこみ、

そのまま気を失ってしまうと、

「ん?

 ふあぁ…

 なんか魂が抜けていくようなぁ…」

体が持ち上がっていく幻覚を感じながらのぞみも寝入ってしまうと、

「クー」

「スー」

3人はその場に寝込んでしまったのであった。



「うっ…

 あれ?

 床の上?」

のぞみはふと気がつくと、

床の上に寝てしまったのか自分の視界を床が大きく占めていた。

そして、

「うーっ、

 頭がふらふらする…」

頭を左右に振りながら起き上がると、

パフッ!

頭の左右からふわふわのモノが垂れ下がってくる。

「ん?

 何かしらこれ、

 鬱陶しいなぁ

 ってあれ?

 なにこれ?」

と垂れ下がってくるモノを払いのけながらのぞみは周囲を見ると、

どーん!

彼女の目の前に聳え立つ巨大な二本の脚が聳え立ち、

その上には巨大な女の子がグッタリと寝ていたのであった。

「あれぇ?

 あたしが…

 随分と大きなあたしが居るのね」

巨大な女の子が自分と瓜二つであることにのぞみは小首を傾げると、

「うっ」

女の子は目を覚ましたのか、

閉じていた目を開けてのぞみを見た。

そして、

「あれぇ?

 ミルクさん?

 どうしたんですか?」

と話しかけてくると、

「え?

 ミルク?

 どこにミルクがいるの?」

のぞみは自分の周囲を見回すが、

その視界にはどこにもミルクの姿は無かった。

「ミルクなんて、いないじゃないっ」

自分そっくりの女の子に向かってのぞみは声を上げると、

「あっ!」

急に女の子は驚いた顔をすると、

「あたしが、

 あたしが…」

と指差しながら寝入っているうららを指差した。

「へ?」

状況が理解できないのぞみは電源が落ちている薄型TVを見ると、

そのガラス面にフワフワのモコモコ姿のミルクが映し出されていた。

「ミルク、

 そんなところで何をしているの?」

ミルクに向かってのぞみは駆け寄ろうとするが、

「え?

 あれ?

 はぁ?」

自分が手を動かすと、

ガラスのミルクも同じように動き、

脚を動かすと、

また同じようにミルクも動いてみせる。

そして、

ヒタッ!

ガラス面に手を当てながらのぞみは考え込むと、

チラリと自分に似た女の子を見るなり、

「ねぇ、そこに居るあたしに良く似た女の子。

 名前はなんていうの?」

と尋ねた。

その途端、

「まっまさか…

 のぞみさんですか?」

少女は驚きながらのぞみを拾い上げた。

そして、その直後、

「えっぇぇぇぇ!!!

 ど、どういうことミル!!」

寝ていたはずのうららが飛び起き、

のぞみを指差して悲鳴を上げたのであった。



「すっかり遅くなってしまったココ」

「のぞみが先に行っているはずだけど」

モコモコ姿のココを抱きながら、

練習を終えたりんがNattu Houseへに向かって走っていくと、

「ココじゃないか」

とイケメン姿のナッツが走り寄ってきた。

「あれ?

 どうしたココ?」

走り寄ってきたナッツにココは驚きながら尋ねると、

「いや、ちょっと用事があって…」

とナッツは返事をすると、

そのりん達から少し離れて、

「まったく、こまちったら、

 これっ、どうしてくれるのよっ」

横を歩く秋元こまちに向かって文句を言いつつも

顔を赤らめスカートの盛り上がりを気にして歩く水無月かれんと、

「あはははは…

 そのうち慣れると思うわ」

とひたすら笑って誤魔化すこまちが後に続いていた。

そして、5人が向かっているNattu Houseでは

「ってなに?

 あっあたしがミルクで…」

「あたしがのぞみさんになって…」

「あたしがうららになってしまったミル?」

香の香りが立ち上る部屋の中で、

入れ替わってしまったのぞみ、うらら、ミルクの3人が頭を抱えていると、

「のぞみさん、

 こうなった原因ってまさか、このお香では?」

とのぞみの姿をしたうららが豚の口から立ち上る煙を指差した。

「それにあたしをを巻き込んでって、

 どうしてくれるミル!!

 この姿じゃぁココ様、ナッツ様のお世話ができないミル!」

それを聞いたうららの姿をしたミルクがミルクの姿をしたのぞみに食って掛かると、

「もっ文句はあたしに言わないでよぉ

 あたしだってショックなんだからぁ!」

ミルクの姿をしたのぞみも負けはしない。

と、そのとき、

カタン!

階下のドアが開き、

「のぞみ、居る?」

「お待たせしたココ」

「いま戻った」

とりんとココ、ナッツの声が響き渡った。

「!!!っ」

その声にのぞみ達3人は振り返ると互いに顔を見合わせ。

「まっまずいっ!」

と声を揃えるが、

さらに、

「こんにちわ」

「あら、いい香りね…香を焚いているの」

追って入ってきたかれんとこまちの声も響くと、

「うわぁぁ!!!」

「ここに入っては!!」

「ダメーッ!!」

3人は声を上げながら慌てて階段を駆け下りるが、

「遅かった…」

階段から降り立ったのぞみ達の前には

りん、ココ、ナッツ、かれん、こまちが折り重なるように倒れていたのであった。

「うわぁぁぁん、

 りんちゃん、起きてよぉ!」

「たっ大変なことになるミル」

「この場合、どうすれないいんですか?」

これから起こるであろう混乱を前にして3人が途方にくれていると、

キッ!

そのNattu Houseの前に1台のタクシーが止まり、

3人の人物が姿を見せる。

「ここです、ブンビーさん。

 プリキュアたちが居る場所は」

先頭に立つギリンマがNattu Houseを指差すと、

「ふぅーん、こんな所に住んでいたの。

 あの子達は」

それを見ながらアラクネアが腕を組む、

そして、

「まったく、最初っからこうすればよかったのだよ。

 3人がかりで確実にドリームコレットを頂かないとね」

領収書を胸ポケットに入れながらブンビーは胸を張り、

「では行きますよ」

ギリンマの声を共に3人は勢い良くNattu Houseのドアを開けるが、

「あーっ!

 あんた達!」

のぞみの声が響く間もなく、

ドタッ!

ドタッ!

ドタッ!

相次いで人が倒れる音が響き渡り、

ブタの焼物から流れる煙がほのかに揺れたのであった。



おわり