風祭文庫・異性変身の館






「担ぎ手」


作・風祭玲

Vol.943





明日に迫った秋祭り

街には注連縄飾りをつけられた縄張りが張り巡らされ、

社の境内では街中を練り歩く神輿や

山車の入念な手入れなどの準備が行われるなど、

否応なくともお祭りの気分は盛り上げている。

そんな街の様子を横目に見ながら、

「ただいまぁ」

部活から帰宅したあたしが元気よく自宅のドアを空けた途端、

ツーンッ

家中に篭っている湿布の匂いが鼻をついてきた。

「うわっ、

 なっ何ぃこの匂いっ、

 誰か怪我でもしたの?」

その臭いに思わず鼻を摘み、

あたしは急いでリビングへ向かっていくと、

「あぁ、ナツミ。

 お帰りなさい」

母さんが出てくるなり、

あたしに声をかけ、

そして、

「あっ…玄関まで臭っていた?

 もぅお父さんがねぇ、

 ぎっくり腰をしちゃったのよ」

と父さんの身に起きた一大事を告げたのであった。

「ぎっぎっくり腰ぃ!!」

母さんの口からでたその言葉にあたしは目を丸くして驚くと、

「お父さんったら変に張り切っちゃって…

 明日の練習だとか言って

 箪笥を一人で持ち上げようとするから」

困惑した表情で母さんは

父さんがぎっくり腰に至るまでの経緯を説明してくれた。

「あーらら、

 それは自業自得としか言えないわ。

 それにぎっくり腰なんて簡単には治らないんだから、

 明日の神輿はパスしたら?

 神様も許してくれるんじゃないの」

キッチンのテーブル上に置いてあったクッキーを頬張りつつ

あたしは無責任にそう指摘すると、

「でも、ほらっ、

 今年はウチに白羽の矢が立っているでしょう。

 しきたりでお神輿は絶対に担がないといけないのよ」

と母さんはうちに白羽の矢が立った事を言う。

そう、神輿の担ぎ手は持ち回りとか希望者が担ぐものじゃない。

祭りのひと月前となる日の早朝に、

どこから飛んで来るのか判らない白羽の矢が立った家の男子が

担ぐのが仕来りとなっている。

「ふぅーん、

 事情が事情なんだからそれくらい目こぼししてくれてもいいのにね、

 融通の利かない神様なこと…

 そうだ兄貴はどうなの?」

それを聞いた私は家を出てて離れて暮らす兄貴のことを言うと、

「それがねぇ…

 電話をしたけど繋がらないのよぉ

 また何処かに旅に出ているんだわぁ

 もぅ高いお金を払って大学に行かせてあげているのに困ったものね。

 まったく何処かほっつき歩いているんだか」

と母さんは兄貴と連絡が取れないことを嘆いて見せる。

「えぇ?

 兄貴、また大学にも行かずに何処か放浪しているの?」

そのことを知ったあたしは驚くと、

「誰に似たんだか、

 ケンジのあの性格は治りそうもないわね」

母さんは諦めた顔でため息をついてみせると、

「とにかく、

 明日の朝までには父さんに治ってもらわないとね」

そう言い残して手にした氷嚢を寝室へと運んで行った。

そして、その日の夜、

「えぇっ!?、

 先輩が来てくれるってぇ!、

 それって本当?」

あたしは親友のミカとケータイで話をしていると

思い出したかのように明日のお祭りに

あたしの憧れの先輩を連れてくることに成功したことを告げたのであった。

『感謝しなさいよ、

 もぅ大変だったんだからね』

ケータイの向こう側で

胸を張り鼻高々にしているミカの姿が

浮かび上がってくるような声を聞きながら、

「ありがとう、ミカ

 感謝しているわ、

 愛している」

とあたしは彼女を褒め称えると、

『あれ?

 ナツミ?

 声がおかしいみたいだけど大丈夫?』

不意にミカが聞き返してきた。

「え?

 声おかしい?」

少し前から声色が変わってきたことに

薄々気づいていたあたしは彼女に聞き返すと、

『風邪?

 こじらせない様にするんだよ、

 じゃぁね』

と気を利かせてくれたのか、

ミカから先にケータイを切ってしまったのであった。

「うっうんっ、

 あーっ、

 あーっ

 うーん腫れているのかな、

 なんか喉が膨らんでいるような…

 やっぱり風邪かな…」

ポッコリと喉仏が盛り上がり始めた喉を摩りつつ、

あたしはさっさと自分の布団の中へと潜り込んだ。

そして翌朝、

「うーんっ」

深い眠りの底から目覚めたあたしは

ズクン

ズクン

と突っ張るような感覚が股間から生じていることに気が付き、

「…なにかな…これ」

寝ぼけながら股間へ手を移動させると、

股間から立ち上がっている肉の棒を無意識にいじり始めた。

「…なんだろう…

 …太くて…

 …硬くて…

 …でも、指でこすると気持ちいい…」

モゾモゾ

モゾモゾ

シュッシュッ

シュッシュッ

あたしは股間の手を動かしながらそう思っていると、

次第に目が覚め、

そして、

「あれ?

 あたし…何をいじっているんだろう」

と思いながらギュッっと手で弄っていたソレを思いっきり握り締めた。

その途端、

ビシーン!!

あたしの背筋を強烈な快感が一気に突き抜け、

と同時に股間が急激に熱くなって行く。

「あはっ、

 くぅぅぅぅ〜」

これまでに味わったことの無い快感にあたしは堪えるが、

「はぁ…

 はぁはぁはぁ」

それが通り過ぎ呼吸を整えると、

熱くなった股間が徐々に冷え、

冷たいモノが股間を覆い始めていく。

「あっあっあっ、

 なっなになに?」

冷たくなっていく股間にあたしは驚きながら布団を蹴飛ばし、

そしてパジャマのズボンを引き下げると、

ムワッ!

栗の花に似たような臭いが鼻を突き、

それと同時に

ビンッ!

ネトネトとした粘液に濡れた下着を内側から突っ張ってみせるものが

目に飛び込んだのであった。

「うそっ

 なにこれぇ」

猛々しく盛り上がる股間を信じられないような目で見ながら

あたしは呆気に取られるが、

「ハッ!

 胸っ!」

不意に胸のことが気になるや否や、

バッ!

両手で胸を掴んで見せた。

しかし、

「そんな…

 ない…」

女性としては標準的と言えるであろうバストの感触は無く、

ペッタンコになってしまっている胸がそこにあったのであった。

「なっなっなにこれぇ!!!」

部屋に野太い声が響き渡ると、

「どうしたのナツミ?、

 いきなり変な大きな声を上げて」

あたしの声を聞きつけたのか母さんが部屋に駆け込んできた。

その途端、

「え?

 いっいやぁぁぁ!」

あたしは部屋に入ってきた母さんの姿を見るなり、

平たくなってしまった胸を隠して悲鳴を上げるが、

しかし、

「ナツミ……」

あたしは母さんの前で

男性に変身してしまった自分の姿をさらしてしまっていたのであった。

「おかさぁん、

 あっあたし…どうしよう」

骨太になってしまった体を見せつつ、

あたしは涙を浮かべると、

急に母さんの顔が安心した表情になり、

「よかったぁ!」

とホッと胸をなでおろしてみせる。

「へ?

 良かったって…」

信じられない母さんのその言葉にあたしは唖然とすると、

「父さんのぎっくり腰が治らなくて困っていたのよ、

 ちょうどいいわ、

 ナツミっ

 あなたが父さんの代わりに出てくれない。

 いま支度するから」

の言葉を残して母さんが部屋から飛び出していくと、

それから1時間もたたないうちに

あたしは祭法被に褌を締めた

神輿担ぎのお兄さんとなって部屋に立っていたのであった。

「ちょっと、

 これってぇ…」

青天の霹靂という言葉以上の信じたくない自分の姿を見つつ

あたしは泣き出しそうな声を上げると、

「いやぁ、

 神様の思し召しね」

と母さんはホッとした表情で言うが、

「そんなことよりも、

 あたしはどうなるのよぉ、

 こんな格好じゃぁ先輩に会えないよぉ」

あたしは泣き声を上げていたのであった。



おわり