風祭文庫・異性変身の館






「ノリコのキャンデー」


作・風祭玲

Vol.935





「マキぃいるぅ?」

それはとある昼休みのことだった。

小学校からの腐れ縁で科学部部長代理を務めるノリコが教室に飛び込んでくると、

そう言いながら駆け寄ってくるなり、

「ちょっと、これ、味見をしてくれない?」

小さな包みが満載されている籐のカゴを差し出して見せる。

「なにこれ?」

カゴを指差してあたしは尋ねると、

「キャンデーよっ、

 作ってみたのぉ」

ノリコは笑みを浮かべつつあたしに説明をするが、

「手作りのキャンデー…

 へぇぇぇ…ノリコが作ったの?」

シゲシゲとカゴを見ながら中に入っているキャンデーが彼女の手作りかどうかを尋ねると、

「そうよっ、

 ホワイトデーも近いし…ね。

 それに新学期の早々に行われる部活の勧誘で

 ウチの部に来てくれた新入生にプレゼントしようと思っているのよぉ」

とノリコはキャンデーが自分の手製であることとその目的を教えてくれた。

「ちょっとぉ!

 男の子が女の子にキャンデーを送る日でしょうが、

 なんであたしがノリコからキャンデーをもらわないといけないのよ。

 でも、ノリコにこんな趣味があっただなんていや知らなかったなぁ」

彼女はこのような行事とは全く縁のない子だと思っていたあたしは

半ばあきれつつカゴの中からひとつ摘んでみようとしたとき、

「あっ、キャンデー

 ひとつ頂戴!」

それを見た一人のクラスメイトが近寄ってくるなり手を伸ばそうとすると、

ビシッ!

いきなり彼女の手が叩き落とされ、

「これは人が食べるものじゃないのっ!」

とノリコの怒鳴り声が響き渡る。

すると、

「なっなによっ

 紛らわしいわねっ

 食べられないような持ってこないでよ、

 もぅっ!」

手を叩かれ怒鳴られたクラスメイトは不服そうに文句を言い、

叩かれた手をさすりながらスゴスゴと離れていくが、

「ノリコ…

 そのキャンデーってあたしに勧めていたよね。

 で、なに?

 その人が食べられないものって…」

その模様の一部始終を見ていたあたしは冷や汗を掻きながら指摘すると、

「あっあぁ、マキは特別よぉ、

 ねぇねぇ食べて食べて」

ノリコはクルッと表情を変え甘い声であたしにキャンデーを勧めてきた。

「………いやっ、いやよ…

 そんな…

 人が食べられないものなんて食べられるわけないでしょう。

 ねぇ中に何が入っているの?

 説明できないものなの?」

首を左右に振りつつあたしは拒否をするが、

「あら、そんなにあたしって信用できない?

 そんなに信じられないの?」

とノリコは何かが取り憑いたかのように顔に影を作りあたしに迫ってくる。

「ひっ、

 来ないで!

 あっち行ってぇ!」

迫るノリコから逃れようとあたしは体を横に動かし、

さらに座って居た椅子からお尻が零れ落ちそうになってしまうと、

ガタンッ!

あたしは慌てて席から立ち上がり、

「いやっ!」

と言いつつその場から逃げ出そうとするが、

「逃がすかぁ」

ノリコのドスの聞いた声が響き渡るのと同時に、

グィッ!

あたしの襟首がつかまれると、

引き釣り倒されるようにして床の上に仰向けに押し倒される。

そして、

ドスッ

押し倒されたあたしの上にノリコが馬乗りになると、

「抵抗しても無駄よ」

とあたしを見下げ冷たい口調で告げたのであった。

「何をする気っ」

馬乗りになるノリコに向かってあたしは聞き返すと、

「何をする…だなんて、

 そんな、

 あたしはただ精魂込めて作った手作りのキャンデーをマキに食べてもらいたいだけよ」

とノリコは急に乙女ぶりつつまたしても甘い声を響かせながら言うと、

ガサッ

カゴの中から一粒のキャンデーを取り出すなり、

「うーん、これがいいか」

とまるで悪魔が品定めでもするかのような口調で言う。

そして、透明フィルムの包みを取り、

「はいっ、あーんしてぇ」

と言いながらキャンデーを手にあたしに声をかけてみせるが、

「いやっ」

あたしは顔を横に向けて拒否をすると、

「食べてぇ」

と彼女の声は命令調になる。

「いやっ!」

その言葉に合わせるようにあたしは強く拒否すると、

「食べなさいっ」

ノリコは命令をしながら、

グイッ

っとキャンデーをあたしの口の押し当てた。

すると、

「もぉ、いやったら、イヤ!!」

そんなノリコに向かってあたしは大きな声で叫んだとき、

コロッ!

あたしの口の中に何かが飛び込んでくると、

「うぐっ」

それを感じたあたしは慌てて吐き出そうとするが、

フッ!

今度は鼻にノリコの息が吹きかけられたのである。

「うぐっ、

 ゴクンッ!」

いきなり息を吹きかけられた為にあたしは反射的に口の中のものを飲み込んでしまうと、

「うふっ、

 これでおっけーっ」

と勝ち誇ったかのようにノリコは言いながらあたしの体から腰を上げたのであった。



ゲホゲホゲホ

教室にあたしの咳き込む音が響き

あたしは喉をかきむしりながら飲まされたキャンデーを吐き出そうとすると、

「無駄よ、

 キャンデーはすぐに溶けて体に吸収されるように分子構造を弄ってあるのよ」

とノリコはあたしに言う。

「ノリコぉ!

 何でこんなことをしてくれたのぉ」

泣きながらあたしはノリコの胸倉を掴みあげると、

「とは言っても飲んでしまったものはどうにもならないわ、

 さぁて、何が起こるかをじっくりと観察させてもらいましょうか」

怒り心頭のあたしに対してノリコはいたって冷静にあたしの手を振り解くと、

いつの間に用意していたのか白衣を身につけ、

観察ノートを片手にあたしを観察し始めたのであった。

「なによっ、その格好は…

 それじゃぁまるであたしが実験動物…」

不愉快そうにあたしはそう言おうとしたとき、

モリッ!

あたしのお股でなにかが膨らみ始めた。

「いっ!」

急激に膨らみを増してくるそれの感覚にあたしは慌てて股間を押さえると、

「ねぇねぇ、

 何か起きたんでしょう。

 ねぇ何が起きたの?

 教えて教えて」

と目を輝かせてノリコは尋ねる。

「だっ誰が!」

ノリコに向かってあたしは怒鳴るが、

あたしの口から出た声は本来のあたしの声ではなく濁ったような声であった。

「!!っ」

変わった声にあたしは驚いて口をつぐむと、

「ふむふむ、

 まず先にお股からおちんちんが生えてきて、

 続いて声が変わる。と」

とノリコは観察ノートに記載をしてみせる。

「ノリコぉ!

 おっおちんちんって!」

それを聞いたあたしは思わず悲鳴を上げると、

「うふっ、

 マキがさっき食べたキャンデーは女の子が男の子になっちゃう不思議なキャンデーなの」

とノリコは説明をして見せる。

「なっなにが不思議なキャンデーよっ、

 全部ノリコが仕込んだことでしょう」

喉仏を盛り上げ、支えをなくしたブラをずらしながらあたしは怒鳴ると、

「あらん、

 もぅおっぱいがなくなっちゃったの?

 もぅ、マキったらそれじゃぁ男の子になる楽しさが半減じゃない」

と言いつつ、

バッ!

彼女はあたしのスカートを捲り上げた。

「きゃっ!」

野太い悲鳴が上げ、

あたしは股間から固い肉棒が突き上げテントを張る下着を晒してしまうと、

「うわぁぁぁ、

 こっちは人並み…うぅん、それよりもちょっと大きいかなぁ」

とノリコは興味津々にあたしの股間を覗き込み、

手にしたペンの先でテントの先っぽを突っついて見せると、

「うわっ」

あたしはノリコを突き飛ばしスカートもろとも股間を押さえる。

そしてノリコを睨みつつ、

「こっこれっ、

 どうしてくれるのよっ」

男になって身長が伸びてきたのか、顔を出してきたおへそを見せながら迫ると、

「そんなに怒らない、

 どうせ一週間もすれば元に戻ってしまうんだから」

ノリコはさめた口調で言い、

「でも、それまでの間、

 いろいろ調べさせてね」

とあたしに告げるなり、

「さぁて、午後の授業が始まるわね、

 んじゃ、放課後にまた来るね」

そう言い残して去って行ってしまったのであった。

「放課後にまた来るって…

 一週間このままって…

 ちょっとぉ、

 あたしは、

 あたしはあんたのモルモットかぁ!」

すっかり男性化してしまった体をクラスメイト達に見せ付けながら

あたしは怒鳴り声を上げるが、

「おほほほほほ…」

あたしが上げたその声は嬉しそうに廊下を走っていくノリコの笑い声に

かき消されてしまったのであった。



おわり