風祭文庫・異性変身の館






「ダンコンダケ」


作・風祭玲

Vol.889





コトコトコトコト…

キッチンに煮立つ音がこだまし、

シュッシュッシュッ

コンロの上では火にかけられている鍋が盛んに湯気が吹き上げている。

そんな鍋を割烹着姿のススムはじっと見下ろしていると、

フワリ

鍋より湧き上がってきた芳しい香りがキッチンを包み込みはじめた。

「ふっふっふっ、

 いいぞいいぞ」

漂ってくる匂いを嗅ぎつつススムは笑みを浮かべると、

「えーと、

 こんなものだな

 よしっ」

レシピを見ながら頃合を見計らい、

サッ

素早く鍋の蓋を取ると、

その中にアルコールに匂いを漂わせる液体を振り掛けるようにして適量注ぎ込み蓋を閉じる。

その途端、漂う香りは濃さを増し、

アルコールの匂いも合わさって芳醇な香りへと代わって行くと、

「これでいいのかな?

 大丈夫だなっ

 よしっ

 できたぁ」

レシピの記述を再点検した後、

手ごたえを感じつつススムは手早く火を止めて閉じた蓋を開けると、

中で蒸しあがっていたものを慎重に皿へ盛り付けていく。

「ふっふっふっこれを食べれば…

 俺は女の子がキャーキャー言い寄ってくるイケメンに大変身…」

盛り付けられたものを見下ろしながら

ススムは頭の中に不純な妄想を抱きつつ腕まくりしたとき、

「あら好い匂い…」

その匂いにつられるようにしてススムの姉ノリコが台所に入ってきたのであった。

「げっ、

 ねーちゃんっ!!」

突然入ってきた姉の姿にススムは驚くと、

「割烹着なんか着ちゃって

 何をしていたの?」

と勤務先から帰宅したばかりなのか、

モノトーンのスカートスーツ姿のノリコはススムに尋ねる。

「いや、その…」

ノリコの質問にススムは盛り付けられた皿を背後に隠してしどろもどろの返事をし始めると、

「あら、あたしに隠し事?

 そんな悪い弟を持った覚えはないけどなぁ」

とノリコはわざとらしく言い、

スンスン

「うーん、

 この匂い…マツタケね、

 しかも酒蒸し!」

キッチンに漂う匂いの正体を言い当てススムを見るなり、

「あっらぁ、

 マツタケの酒蒸しなんて気が利くじゃない。

 姉思いの弟を持って幸せだわぁ」

と態度を一変させて言い寄ってきた。

が、しかし、

「だめだよぉー、

 あげないよぉ」

言い寄って来る姉をススムは冷たくあしらいつつ、

さっき蒸し揚げたばかりの棒状の物体が乗る皿をノリコの入る方向とは反対側に向けてみせる。

「あらっ、

 姉ぇちゃんに向かってその態度は何よぉ」

ススムの行動を見たノリコは不機嫌そうにススムの頬を摘まむと、

「イテテ…

 だぁかぁらぁ、

 これは食べられるものじゃないのぉ」

と姉に奪われないように皿を頭の上に掲げてススムは説明しようとするが、

「なんですってぇ、

 そこまで盛り付けておきなながら食べ物じゃないってどういうことよ、

 まさか、あんた一人でこっそりと食べる気だったのぉ?

 姉ぇちゃんあんたをそんな弟に育てた覚えはないわよ」

それを聞いたノリコは怒りながらススムの皿を取り上げようとする。

「違うって…

 これはただのキノコじゃないんだ」

皿をかばいつつススムは声を上げるが、

「言われなくても一目見ればシイタケやマイタケじゃないことぐらい判っているわよ。

 あたしはねぇ…

 マツタケを独り占めしようとするあんたのその根性が気に入らないのよっ

 よこしなさいっ

 さっさとよこしなさいっ!」

とノリコは怒鳴り、

皿を左右に動かすススムの腕を封じようとする。

「だぁかぁらぁ、

 姉ちゃん、聞いてくれこれはマツタケなんかじゃなくて、

 ダンコンダケって言って…俺をイケメンに変身させてくれる…」

姉との激しい奪い合いを演じながらススムは皿の中身を説明しようとするが、

「ダイコンダケ?

 嘘をつくならもっと本当らしい嘘をつきなさいっ」

ノリコはススムの説明には一切取り合わず、

ススムの頭ごなしに腕を伸ばすと、

「もらいっ」

その言葉と共にノリコは皿の中のものを無理やり取り上げてしまった。

「あっ!」

その途端、ススムの声が響くと、

「返してよ、

 返してよ姉ちゃん!」

さっきまでとは形勢逆転。

今度はススムがノリコがもつ皿を奪おうとする。

しかし、

「ススムっ

 よく聞きなさい。

 このようなものがあるから争いが起きるのっ

 だから、姉ちゃんがぁ…」

とノリコはススムに言い聞かせるようにして声を上げ、

「こんなものっ、

 こんなものっ

 このわたしが成敗してくれる」

と声を上げながら、

さらに盛り付けられていたものを全て食べてしまったのであった。

「あ…

 そんな…

 そんなぁ」

瞬く間に空になってしまった皿を眺めながらススムは愕然と膝を床につけてしまうと、

「残念、

 もぅみんな食べちゃいましたぁ」

とノリコは皿のものを完食してしまったことを告げるが、

モコッ!

突然、ノリコのスカートスーツのスカートの真ん中が膨らみだすと、

ムクムクと膨らみは成長し立派なテントを張り出していく。

「あら?

 なにこれ?」

自分の股間からスカートを突き上げるモノの存在にノリコは気が付くと、

メリッ!

ゴキゴキゴキ!!

今度はノリコの身長が伸び始め、

見る見るススムを追い抜いていくと、

肩が張り出しノリコが着ている服は窮屈そうなっていく。

「ちょちょっと、

 なによ、

 なによ

 なんなのよぉ!」

キッチンに野太い声が響き渡り、

バリッ!

太くなっていくウェストについていけなくなったスカートの悲鳴が響き渡ると、

「いやぁぁぁぁぁ!!

 そんな、

 あたし、男になっちゃったぁ!!!」

とノリコの絶叫がこだまして行ったのであった。

「ダンコンダケを食べると男性ホルモンが活性化して

 精力パワーアップ、男の魅力たっぷりのイケメンに変身できるって聞いていたけど、

 女性がダンコンダケを食べると男性化しちゃうのか…」

股間からイチモツを伸ばし、

すっかり男性化してしまった姉を見ながらススムは頭を掻いていたのであった。

「で、どうしよう…

 俺、兄ちゃんなんて欲しくないんだけど」



おわり