風祭文庫・異性変身の館






「ドラッグ」


作・風祭玲

Vol.708





そのディスカウントストアは

ごく普通の国道沿いに、

ごく普通の佇まいを見せながら建っていた。

「ここか…」

ようやく探し当てたディスカウントストアを見上げながら

俺は気合いを入れると、

「いらっしゃいませ」

アルバイトの店員の声に迎えられながら店内へと入っていく、

店内の様子は余所のストアと大して変わりはなく、

よく見かける商品が山のように陳列され、

訪れた多くの客がそれらを物色していた。

「ふん…」

そんな者達を一瞥しながら、

真っ直ぐ中を進んでいく。

俺が、今日ここを訪れた最大の理由…



何のことはない、ただの時間をつぶしだ。

この街に引っ越してきて1週間が過ぎ、

その間に街に関する様々な情報を分析する。

誰もがするごく当たり前のことを俺は行い。

このディスカウントストアの情報に行き当たった。

あまり聞いたことがないチェーンに属していること、

扱っている商品は極めて豊富であること、

ドラッグストアを併設していることなどが俺の頭脳にインプットされ、

そして、

「1度現場を確認する必要があり」

と言う結論に達したのであった。

「ふーん、

 確かに商品は豊富だな…」

陳列されている商品を眺めながら、

何処の店にもある定番の商品の値段の違いを見比べたり、

「こんなもの何処から仕入れたんだ?」

と首を捻る商品を見つけるのもまた楽しいことだ。

そんなことを思いながら俺は店の中を歩いていくと、

「そういえば…」

最近見かけた不思議な出来事を思いだした。

そう、それは、

俺の住んでいるマンションの向かいにある一戸建ての住宅。

この街に引っ越してきた1週間前に

あの家から男子の制服を着て掛けだしてゆく

高校生くらいの少年が居たのだが、

しかし、昨日の朝、

その家から出てきたのは

スカートを恥ずかしげに気にしながら出て行く

1人の女子高生の姿だった。

「うーん…

 妹なのかな?

 でも、あの顔は…

 女の子と言うにはちょっと…なぁ?」

顔を赤らめながら去っていく男顔の少女の姿を思い出しつつ、

俺は腕を組み首を捻る。

すると、

「あっ…」

なんと、前方にあるドラッグストアにその彼女が立っていた。

「あの子だ…」

どうやら、彼女は生理用品の売り場に立っているようだ。

俺は列一つ離れたシェービング用品の売り場に向かい、

彼女の様子を観察することにする。

「うーん…」

女の子と言うには短髪すぎる髪に

やや無骨な骨相…

そして、よそよそしい立ち振る舞い。

でも、そんな彼女の胸は大きく突き出し、

腰回りもぽっちゃりと膨らんでいる。

彼女のシルエットは紛れもない女性そのものである。

「どう見ても女の子だよなぁ」

ボーイッシュと表現するにはちょっと違和感がある彼女を見ていると、

緊張しているのだろうか、

メモを片手にした彼女は盛んに周囲を気にしながら生理用品を手に取り、

それをカゴに放り込むと、

逃げるようにして去っていってしまった。

「あん?

 生理用品を買うことって

 そんなに恥ずかしいのか?」

去っていく彼女を俺は視線を追っかけていくと、

「あれ?」

隣の下着コーナーなどにも

顔を真っ赤にしながら下着を見ている別の少女の姿があった。

「変なの…」

店の中にでポツリポツリと居るそんな少女達を見ながら、

「はぁ、

 夕紀も昔はあーだったのかな…」

と俺はいま付き合っている仁科夕紀のことを思い出した。

「はぁ、

 知り合った頃はあんなに俺のことに夢中だったのに…
 
 最近は妙に余所余所しくなりやがって…

 ったく」

最近、夕紀が俺との距離と置きたがっていることに

俺は胸騒ぎを覚えるのと同時に

ある種の腹正しさを感じていた。

すると、

「あの、ウワサ…

 はやり本当なのかな?」

夕紀の周囲から聞こえてくる。

あるウワサが俺の脳裏をよぎっていく、

そう、夕紀はとあるIT関連会社の社員と付き合っている。

と言うウワサだった。

「まっウワサだからな…
 
 でも、火のないところに煙は立たないか…」

否定するウワサよりも肯定するウワサの多さを思ううちに

俺は次第に疑心暗鬼になってくる。

そして、

「はっ、なんかガツンと一発ブチかませられるモノはないかな」

と呟きながらドラッグストアを見ていくと、

「はぁ?」

俺はとあるポップの前で建ち止まった。

「へぇぇぇぇ…

 マジでこんな薬があるのか…」

ちょっと顔をニヤつかせながら

俺はポップの横で山積みにされている薬の箱を手に取った。

そして、

「ふふっ、

 お仕置きには丁度良いか…」

と呟くと、

それを持ったままレジへと向かっていった。



「ねぇ、どうしたの?

 突然呼び出したりして」

とあるラブホテルの一室に夕紀の声が響く、

「いやっ、

 たまには良いんじゃないかと思ってな」

ベッドの上に腰を下ろした俺はそう言うと、

「この部屋高いんじゃないの?」

と夕紀は料金のことを心配する。

「あはは、

 ボーナスが入ったから大丈夫だよ」

そんな夕紀に俺はニヤケながらそう言うと、

「へぇぇ、

 敦がボーナスねぇ…」

と夕紀は意外そうな顔をした。

「なんだよ、

 悪いかよ」

疑いの眼を向ける夕紀に俺はそう言い返すと、

「まぁ、いいわ…

 敦には大事な話があるから…」

含みを持たせたことを夕紀は言うなり、

さっさと服を脱ぎ始めた。

そして、彼女が身につけている下着を見たとき、

「おっ」

俺の目が大きく見開いた。

「なんだよ、

 それって勝負下着か?
 
 なんだかんだ言ってもしっかり準備をしているじゃないかよ」

夕紀の下着を指さし、

俺はそう言うと、

「あはっ

 なに言っているのよ、
 
 これは着古した下着よ」

と夕紀は俺を小馬鹿にした視線で見たのち、

「先にシャワーを浴びてくるね」

と言い残してシャワー室に入っていった。

「へぇへぇ、

 そうですか…」

そんな彼女を見送ったのち、

俺は素早く夕紀のケータイを見た。

「………ちっ、ウワサは本当だったか…」

待ち受け画面に表示されているイケメン風の男の顔に俺は舌打ちをすると、

ジャラッ

あのディスカウントストアで買ってきた錠剤を3粒飲み干す。



「ハァハァ

 ハァハァ」

「あぁん

 あん
 
 あん
 
 あん
 
 あぁぁん!!!!」

「ううぐぅぅぅぅ」

「イクぅぅぅぅぅ」

久々なのに今ひとつ乗り気のないセックス。

俺は気のないような彼女の体を抱きながらも、

たっぷりと自分の精液を彼女の体内へと注ぎ込むと、

「はぁ…」

「あはっ」

2人ともベッドの上に倒れ込んだ。

そして、余韻を楽しんだ後、

「ふぅ…

 で、大事な話って何だ?」

と俺はタバコの煙を揺らせながら夕紀に尋ねる。

すると、

「うん…」

夕紀はそう返事をした後、

無言のまま立ち上がるとシャワーを浴び、

そして、戻ってくると、

「あのね…
 
 あたしと敦の関係ってこれで終わりにしない?」

と身体を拭きながら話し始めた。

「終わりって?」

彼女の言った言葉の意味を理解しながらもあえて聞き返すと、

「あたし…

 やっぱり、敦とは合わないと思うのよ」

と夕紀は言う。

「そうか…」

上がっていく煙を見つめながら俺はそう返事をして、

「新しい彼氏はその待ち受けの男か?」

と尋ねると、

「そうよ…」

身支度を調えながら夕紀は躊躇いもなく大きな声で返事をした。

そして、

「彼ってね、大手IT企業の役員で、

 あたしにヒルズの部屋を用意してくれるって言うのよ、

 ふふっ、
 
 あたしにとってはチャンスなのよ、
 
 判るでしょう?

 ここのお代、あたしが払っておくわ、

 これまで色々とありがとね。
 
 感謝しているわ。
 
 でも、これからは二度とあたしの側に寄らないでね、

 彼にあなたのような男と付き合っていたってこと知られたくないのよ、

 だから、もし来たら、
 
 ストーカーだって警察に訴えるから、

 じゃぁね」

夕紀は言うだけ言うと

さっさと部屋を後にしていってしまった。

「馬鹿野郎…」

1人残された俺はタバコの煙を振らせながら、

さっきの飲んだ薬の空き箱を取り出すと、

それをじっくりと読み始め、

そして、そこにはこう書いてあった。

『新発明!!

 なんとあなたの精子が変身薬に!

 女性に浮気をされて

 仕返しをしたいと考えている男性は居ませんか?

 大丈夫、

 この薬を飲めば貴方の精子はたちまち性転換薬となり

 憎い女性を男性にしてしまいます。

 製造販売・黒蛇堂製薬』

「ふふっ、

 夕紀めっ、
 
 お前のようなヤツは男の身体がお似合いだぜ」

箱を見ながら俺はそう呟くと、

グシャッ!

っと手にしていた箱を握りつぶしてしまった。


ヒュゥゥ…

ココは某ヒルズ、

数多くのIT長者達がその贅を尽くす一つの部屋から悲鳴が上がる。

「うわっ、なっなんだお前は!!!」

「あたしよっ、夕紀よっ」

「よっ寄るなっ

 来るなっ
 
 今すぐここから出て行け!!」

「忠義さん!!

 聞いて、あたしの話を聞いて!」

「うるさいっ

 俺は男には興味がないんだぁぁ!!!!」

「違う!

 あたしは女よ!!」

「気持ち悪いチンコを下げて何を言うか、

 とっとと出て行け!

 この毛むくじゃら男が!!」

「違ぁぁう!!!

 あたしは、
 
 あたしは…女よぉ!!」



おわり