風祭文庫・異性変身の館






「ビール」


作・風祭玲

Vol.685





街にクリスマスソングが鳴り響く中、

会社帰りの美緒はひとりで商店街の中を歩いていた。

そんな美緒に見せつけるかのようにして、

街中には手を繋ぐカップル達の姿がそこそこにあり、

「はぁ…」

そんなカップル達の姿を眺めつつ美緒はため息をつき、

通りがかったショーウィンドゥに視線を移した。

すると、

そこにはライトに照らされた装飾品が輝いていて、

それを見つめながら

「…涼二からのプレゼントなんて期待する方が無理か…」

あきらめ顔で呟く。

その時、

ブルル…

美緒の肩から下がるバッグの中で携帯電話が振動しはじめた。

「ん?」

その振動に気づいた美緒はバッグから携帯を取り出すと、

「なんだ…

 涼二か…」

携帯のディスプレイに浮かぶ発信元を眺めつつ、

美緒はガッカリした表情で言い、

「はい、もしもし、

 なによ?」

と言いながら電話に出た。



「え?、

 ビールを買って来てって?」

既に一足先に帰っていた同棲相手の涼二からの頼み事に

美緒は不満そうに返事をすると、

『いやぁ、

 いま冷蔵庫を見てみたらビールが切れていたんだよ、

 美緒はいま商店街なんだろう?

 悪いっ

 ちょっと遠回りになるけどさ、

 国道沿いのディスカウントストアで缶ビール買ってきてよ。

 今夜たっぷりと可愛がってあげるからさ』

電話向こうの涼二は謝りながらも

悪びれずに頼んでくる。

「まったく…」

そんな涼二の頼みに美緒はむくれながらも、

「判ったわよっ

 買って帰れば良いんでしょう」

と怒鳴りつけると、

『じゃぁ頼んだよ、

 愛しているよ、

 美緒っ』

涼二はそう言うなり電話を切ってしまった。

「ふんっ、

 何が愛しているよ。よ、

 人をバカにして…
 
 あたしは涼二の召使いかっ」

やり場のない怒りを堪えつつ、

美緒は携帯をしまうと足を速めた。

彼女が向かったディスカウントストアは

駅前通りからほど遠くない国道沿いにあった。



「いらっしゃませ」

アルバイト店員の声に迎えられ、

美緒は酒類の売り場へと向かっていく。

「そうだ、

 ついでだからあたしのワインも買っていこう」

そう言いながら美緒は真っ先にいつも飲んでいる銘柄のワインを買い物カゴに入れ、

そして、ビールのコーナーへと向かっていく、

そこには様々な銘柄のビールが山と積まれ、

その中を歩きながら美緒は涼二が好んで飲んでいる銘柄のビールを探し始めた。

とその時、

『あぁ、

 そこのお嬢さん?』

いきなり男性の声が響き渡った。

「え?」

その声に美緒はキョトンとすると、

ヌッ!

彼女の目の前に黒スーツ姿の男が姿を見せ、

『ビールをお探しですか?』

と尋ねてきた。

「はぁ?」

どこかのジムで身体を鍛えているのか、

涼二とは比べもののならないマッチョな体型に、

美緒は2・3歩、身を引きながら見上げていると、

ニヤッ

男は営業用の笑みをみせながら、

『このビールは如何でしょうか?』

と6本パックの缶ビールを美緒に見せた。

「え?」

男の思いがけない対応に美緒は呆気にとられていると、

『我が黒蛇堂酒造が全世界の名水100選より

 さらに選りすぐった最高級の名水で作ったビールです。

 その味は天にも昇ると評判…

 お嬢さん、如何ですか?』

と男はセールスをはじめ出す。

「はぁ…」

それを聞きながら美緒の目は涼二のビールを探していると、

キラッ☆

一瞬、男の目が光り、

『さらに…』

と続けると、

『このビールを飲むと、

 あなたなら男性になることが出来るのです』

と言い切った。

「え?」

彼のその言葉に美緒はハッとすると、

『ふむ、

 どうやら、彼氏と何かうまくいっていないようですね、

 そう言うときにはこのビールを飲んで、

 お互い反対になってみるのも良いことかも知れませんよ。

 試しにこれを飲んでみてください』

と男は言いつつコップに少しビールを注ぐと美緒に差し出した。

「はぁ…」

まるで狐につままれたかのようにして、

美緒はコップを受け取ると、

キュッ!

っとそれを飲んでしまった。

「(あっ美味しい…)」

喉越しに感じるビールの風味に美緒は驚くのと同時に、

ポッ…

急に身体の中が熱く感じ始めると、

ザワザワザワ

体中の体毛がざわめきはじめ

そして、

ムクッ

ムクムクッ

身体が膨らみ始める。

「え?

 え?
 
 なにこれ?
 
 やっやだぁ…」

体中の筋肉が急速に張り出し、

さらに、股間で最も敏感な部分が膨れてきた感触に美緒は困惑していると、

『いまお嬢さんの身体は男性になろうとしているのです』

と男は言う。

「そつそんなぁ…」

男のその言葉に美緒は驚くと、

「もっ元に戻してください。

 男性になんてなりたくありません」

と訴えた。

すると、

『大丈夫です』

と男が言った途端、

シュゥゥゥゥゥゥゥ…

膨れ始めていた美緒の身体は急速に萎みだし、

膨れかけていた敏感な部分も中へと引っ込んでしまった。

「これは?」

何事もなく元の身体に戻ってしまった事に美緒はまた驚いていると、

『このビールは酔っている間だけ性転換するのです。

 そして、いまお嬢さんは少量しか飲まなかったために、

 直ぐに戻ってしまったのですよ』

と男は説明をした。

「へぇぇ…

 そうなんだ…」

それを聞いた美緒は感心していると、

「(そうだ…)」

その瞬間ある考えが美緒の脳裏に浮かぶなり、

「ねぇお兄さん、

 そのパックいただこうかしら?」

と男に向かって言った。

『毎度ありがとうございます』

ニコリを笑みを浮かばせながら

男はビールのパックを美緒に手渡すと、

「♪〜」

美緒はそのままレジへと向かっていった。



「なんだよ美緒、

 俺が飲んでいる銘柄を知らない訳じゃないだろう?」

美緒が差し出した缶ビールを見ながら涼二は文句を言うと、

「安かったんだから良いでしょう?」

と美緒は涼二に言う。

「かぁぁぁぁっ!

 あのなっ、
 
 ビールつぅーのはなっ
 
 安い、高い、で判断するんじゃないんだよっ、

 味なんだよ、コクなんだよっ

 昼間懸命に働いてきた俺が、
 
 この部屋で疲れを癒やすときに最高のビールでもてなす。
 
 それが出来ないでどうする?」
 
それを聞いた涼二はねじ込んでくるが、

「はぁ…」

美緒はため息一つつくと、

「涼二に一つ聞きたいことがあるんだけどさ、

 昨日洗濯したときに見つけたんだけど」

と言いながら、

ピッ!

小物入れからから馬券を取り出し、

「これってなに?」

と聞き返した。

「え?」

それを見た途端、

涼二の顔色が変わると、

「あれぇ?

 何のことかな?」

と涼二はしらばっくれ始めた。

「涼二…

 あなた、もぅ競馬はしない。

 ってあたしに言っていたわよねぇ。

 それなのに、もぅ約束を破ったの?」

キツイ視線を向けながら美緒は涼二に問いただすと、

「あぁ、

 そのビール…とっても美味しそうだねぇ、

 さっ先に頂くよ…」

と言いながら涼二は美緒が買ってきた缶ビールを開けると、

コップにつぎ始めだした。

「(ふふっ、かかった…)」

それを見ながら美緒は小さく笑うと、

顔を怒り顔に作り直し、

「まったく…

 これなんだからぁ

 もぅ、シャワー浴びてくるわ…」

と言いながら部屋を出て行った。



「ふぅ…」

美緒が部屋から出て行った後、

涼二は大きく息を吐くと、

「やべーっ、

 馬券、Yシャツのポケットに入れっぱなしだったんだ…」

と反省も込めて自分の頭を小突くと、

「黒蛇堂酒造かぁ?

 聞いたことがないメーカーだなぁ…」

と開けたビール缶を見ながら感想を言う。

そして、

「どうせ不味いんだろう?」

と言いながら一口飲むと、

「ん?

 おぉ、なかなか旨いじゃないか」

喉越しに感じる味に感心しながら

涼二はグィッとビールを飲み干し、

さらに次の缶へと手を伸ばした。

「ふぅ…」

結局3缶のビールを飲み干したところで、

すっかり酔いが回ってしまった涼二だったが、

ムリッ

ムリムリッ!

っと胸の回りで違和感を感じ始めた。

「?」

いつの間にか痛痒さを伴ってきた違和感に、

「なんだこれは?」

と赤らんだ顔で自分の胸をまさぐろうとした時、

プルンッ!!

自分の胸で何かが揺れた。

「え?」

さらに

プルンプルン

と立て続けに揺れる胸の感覚に涼二は驚くと、

慌てて着ていたシャツをめくり上げるが、

その途端、

プリンッ!

眼下に二つの膨らみがつきだした。

「はぁ?

 なっなんだこれはぁ!」

プルンと左右対称に膨らみ、

ピンク色の大きな乳輪を頂く乳房が

自分の胸から突き出していることに涼二は驚くと、

「わっ

 わっ
 
 わっ」

その乳房を揺らせながら涼二は

意味もなく部屋の中を走り回り始めた。

そして、その時に涼二の股ぐらにあるはずのものが

無くなっていることに気づくと、

「なくなっている?」

涼二は顔を青くしながらその場に蹲り、

恐る恐るパンツの中に指を入れた。

ヌルッ!

「ひっ!」

パンツの中に指を入れた途端、

指の先に陰毛に隠れヌメヌメと湿った縦溝の感覚が走る。

「(びくっ)

 あ…ん…

 かっ感じちゃう…

 でも、これってまさかオマン…コ?

 女に…

 俺が…女になっちゃった?」

クニクニと指を動かしながら

涼二はその場で固まってしまうと、

「どう、女になった感想は?」

とシャワーを浴びた美緒が身体を拭きながら尋ねてきた。

「!!っ

 美緒っ

 これはお前がしたことか?

 どういう事か説明しろ」

その声に涼二はハスキーな声を上げてまくし立てると、

「うふっ、

 このビールを飲むと性転換しちゃうんだって、

 我が儘な涼二に女性の感覚を味合わせてあげるのも良いかなって思ってね、

 買ってきたのよ」

と美緒はさばさばした口調で返事をする。

「なっ、なんだとぉ

 とにかく早く元に戻せ。

 直ぐに俺を男に戻すんだ」

たわわに膨らんだ乳房を揺らしながら涼二が迫ると

「あら、

 せっかく女になれたのに、もったいない。

 さて、涼二が女になったんだから、

 私も男になってみようっと」

と言いながら美緒はビール缶を手に取ると、

プシュッ!

っとそれを開け、

グビッ!

一気にビールを飲みしていった。

そして、涼二と同じ3本目の缶を空にしたとき、

シュルルル…

美緒のボリュームのある胸は見る間に萎んでいくと、

ムキムキムキ!!!

体中の筋肉が膨らんでまるで鎧の様に盛り上がりはじめ、

また、

ムリッ!

ムクムクムク!!!

陰毛に隠れていた縦溝からはペニスが飛び出してしまうと、

その後ろに陰嚢がゆっくりと垂れ下がっていく。

「へぇぇぇ…

 これが男の身体かぁ」

ジョリッ

のど仏が盛り上がり、

顎の回りに生えた髭を擦りながら美緒は感心すると、

チラリ…

すっかり女性化してしまった涼二を見ると、

「へへっ

 涼二っ

 さっき、ビールを買ってきたら俺を可愛がってやる。

 って言っていたよなっ

 今夜は俺がお前を可愛がってやるよ」

と言うと、

ビンッ!

股間で固く勃起しているペニスを鷲づかみにするなり、

それを扱きながら、

「さあ、これを咥えろ、

 コイツの味見をさせて上げるよ」

と言いながら涼二に近づいていった。

そして、その夜…

2人の部屋からは激しくよがる女の喘ぎ声と、

鬱憤を晴らすかのようにつきまくる

淫らな音が鳴り響いていたのであった。



翌日…

「お兄さん!!」

売り場に立っている顎長の男に女性から声がかけられた。

『ん?

 あぁ、昨日のお嬢さん』

その声に男が振り返ると、

カートを押しながら美緒が駆け寄ってきた。

そして、

「昨日のビール、とても美味しかったわ、

 今日はケースで買っていくね」

と言うなり、

「涼二っ」

と後からついてきた涼二を手招きした。

「えぇ…っ

 それを買うのかよ」

美緒の声にゲッソリとした涼二が文句を言うと、

「うふっ、

 何を言っているのよ、

 これからしばらくの間、可愛がってあげるんだからさ」

と美緒は笑いながら涼二の脇腹を突いていた。



おわり