風祭文庫・異性変身の館






「鬼太鼓」
(前編)


作・風祭玲

Vol.421





9月初旬…

日中、残暑をもたらしていた陽は西に傾き、

シャシャシャ…

秋の気配が香り始めた鎮守の森にヒグラシの声が一斉に響き渡りはじめると、

ドーン!

ドーン!!

森の奥から祭の始まりを告げる太鼓の音が響き渡りはじめた。



「へぇ…

 すっごい、杉木立…」

「ほんと…」

周囲に響き渡る太鼓の音色に惹かれるように

浴衣姿の野沢つばさとTシャツにパンツ姿の島田香津美が続く参道に踏み入れると

ヒヤッ

二人にまとわり付いていた熱気をなぎ払って冷気がすっぽりと包み込んだ。

「うひゃっ

 冷たーい!!」

金魚柄の浴衣の襟元から忍び込んできた冷気に思わずつばさが悲鳴を上げると、

「格好をつけて浴衣なんて着てくるからよ」

やや軽蔑気味の視線でつばさを見ながら香津美は呟く、

「だって、お祭でしょう?

 やっぱり浴衣で行かなくっちゃ」

香津美の言葉に手にしたうちわで胸元を隠しながらつばさはそう言い返すと、

「だからって…

 旅行先にまで浴衣を持って来なくても」

呆れるような表情をして香津美は呟く。



そう、香津美とつばさは同じ職場の同僚でようやく貰った遅い夏休みに

この神社の近所にある温泉に遊びに来ていたのであった。

「はぁ…それにしても休みをくれるのなら8月中に欲しかったわ」

長い髪を結い上げたつばさが木立を見上げながらふと漏らすと、

「無理を言わないの、

 夏休みはかき入れ時でじゃない。

 こうして9月に休みをもらえるだけでもあり難いと思わなくっちゃ」

そんなつばさを窘めるように刈上げ頭の香津美は言う、

すると、

「でも…」

つばさはそう呟きながらチラリと香津美の方を見るなり、

「はぁ…

 これであたしの隣にいるのが

 未来のダンナ様ならこの参道を歩くのも楽しいのに…」

と愚痴にも取れる言葉を呟いた。

「申し訳ありませんねっ

 あたしが女で!!」

「べっ別に香津美に文句を言ったわけでは…」

皮肉を込めた香津美の返事につばさは戸惑っていると、

「はーぃ、

 順番ですよ

 順番!!」

参道に男性の声が響き渡ってきた。

「あっあれ、何かしら…」

漂っていた気まずい雰囲気を逸らすかのように香津美が声が響いてきた方を指差すと、

参道の行く手に人だかりが出来ていて、

その中に法被姿の男性が

「はいっ

 これを引いてください」

と言いながら並んだ人に木で出来た箱を手渡し、

手渡された人に何かをさせていた。

「あっあれね、

 鬼太鼓の叩き手を決めるクジじゃない?

 旅館の人がそんなことを言っていたから」

宿を出る前にその話を聞いていたつばさは、

アレがこの祭のハイライトである神社の宝物・鬼太鼓を叩く叩き手を選ぶクジであることを教えると、

「ねぇねぇねぇ

 あのクジ引いてみない?」

と香津美に提案をしてきた。

「引くって…

 女性でもいいの?」

つばさの提案にキョトンとしながら香津美が尋ねると、

「ほらっ、

 女の人も並んでいるじゃない、

 大丈夫よ」

「でっでも…」

「いーから、いーから」

「ちょちょっと」

戸惑う香津美の手を引き香津美は男性のところへと向かっていった。

そして、

「あたし達もクジを引いて良んでしょう?」

とつばさが法被姿の男性に尋ねると、

「はいっ

 どうぞ」

男性はチラリと二人を見た後、つばさと香津美に別々の漆塗りの八角形の木箱を差し出した。

「これっておみくじに使う…」

木箱を手渡された香津美は箱がお正月、神社のおみくじで使う箱であることに気づくと、

「ありがとう」

その一方でつばさは男性から受け取った木箱を

ザッザッザッ

っと振り、

そして、

トン

っと箱の蓋に小さく開いた穴を手のひらに向けた。

すると、

トッ

木箱から飛び出してきた一本の竹棒を取り出し、

「ほらっ香津美も」

と言って竹棒を手にしたままの香津美に促すと、

「うっうん」

ザッザッザッ

香津美も同じ様にして木箱から竹棒を取り出した。

そして、

「じゃぁ、いっせのせで見わよ」

「うっうん」

「はいっ、いっせのせ!」

「じゃんっ」

つばさの掛け声で二人が竹棒の先を掲げると、

つばさの手にある竹棒には赤い印が、

一方で香津美の手にある竹棒には青い印がしっかりとつけられていた。

「あっれ?」

印のある竹棒を見て二人はキョトンとすると、

「はいっ

 おめでとう!!

 今年の清十郎と瑠璃姫はあなた方に決まりました!」

その棒を見た法被姿の男性はつばさと香津美の手を掲げながら高らかに宣言をすると、

「はぁ…」

「いいなぁ」

周囲にいた人たちからため息にも似た声が響き渡った。

けど、

「え?」

「え?」

「これってどういう…」

その中でただ一人、

香津美だけは相変わらず事情が飲み込めてなく混乱をしていた。



「…その昔、この地に瑠璃姫という美しい姫がおったそうな。

 姫の美貌は周囲に広く知れ渡り、

 大勢の若侍が姫の婿として名乗りを上げたが、

 しかし、姫の意に叶うものは誰もおらんかった。

 そのときだった。

 都を荒らしまわっていた大鬼が姫のうわさを聞きつけ、

 自分の妻に娶ると、この地にはるばるやってきた。

 無論、姫を大鬼の手に渡すことなど出来るわけはない。

 姫を守るべく大勢の侍達が大鬼に立ち向かったが、

 けど、大鬼に適うものはなく、

 一人、

 また一人と倒され、

 瑠璃姫の運命はまさに風前の灯火となってしまった。

 そのときだった。

 一人の若者・清十郎が大鬼の前に立ちはだかり刃を向けた。

 大鬼は清十郎を一払いで倒そうとしたが、
 
 しかし、清十郎は大鬼の腕を右へ左へと交わし、
 
 瞬く間に大鬼の喉元に迫ると、

 その胸元を一太刀で切り裂いた。

 清十郎の太刀を浴びた大鬼は10里先にまで声を響かせながら倒れ、

 こうして、瑠璃姫を狙っていた大鬼は退治されてしまった。

 清十郎の活躍に村人達は大いに喜び、

 そして、その活躍を見ていた瑠璃姫は清十郎を自分の婿として迎えることを承諾し、

 以後長く暮らしたそうな…

 以上!」

「へぇぇ」

くじ引き後、

連れて行かれた社務所の中でつばさの昔話を聞いた香津美は感心していると、

「まぁこれの話って、

 旅館の人に教えてもらったんだけどね」

「はぁ、よくもまぁ…

 あたし、何も知らなかったわ」

「えへへ…

 で、この昔話とこの神社の鬼太鼓との関わりなんだけど、

 清十郎が大鬼を倒した後、村に人たちが彼が倒した大鬼の腹の皮を剥いで、

 他の大鬼が近づかないようにって、

 清十郎と大鬼との戦いで倒されたご神木を刳り貫いて作ったそうなの、

 それで、

 それ以降、災除けとして、
 
 毎年男女二人を瑠璃姫役と清十郎役としてくじ引きで選び、

 瑠璃姫の役の女性の見ている目の前で

 清十郎役の男性は鬼の皮で作られたという鬼太鼓を叩くそうなのよ」

と祭の説明をする。

「ふぅぅん…

 ってちょっと待ってよ」

「なに?」

「あのね、

 あたしは女よ!

 女のあたしが清十郎役で鬼太鼓なんて叩けるわけがないでしょう!!」

つばさの話を聞いていた香津美はそう指摘すると、

「あっ」

それを聞いたつばさは思わず声を上げた。

「頼むわよぉ…

 女っ気が薄いからといっても付き合いが長いんだからさぁ…

 あたしが女であることを忘れないでよ」

「ゴメン、うっかりしていた」

ペロっと舌を出すつばさに

香津美は彼女の肩にもたれかかるようにしてそう言うと、

「あのぅ、

 そろそろ、準備をお願いします…」

と社務所で準備をしていた神職の声が響き渡った。



「え?

 女の方だったのですか?」

日が落ち、祭のムードが高まってきた社務所内に神職の驚く声が響き渡る。

「はぁ」

驚く周囲に対して申し訳なさそうに香津美は返事をすると、

「申しあけありません、

 もぅ少し、
 
 女に見える格好をしてくれば良かったのですが」

と言いながらつばさが頭を下げる。

「ちょっと、その言い方ってないでしょう」

つばさのその言葉に香津美は思わず怒鳴り声を上げると、

「どうする?」

「どうするって言われてもなぁ」

「新たにクジ引きをするにしてももぅ時間が…」

社務所の中に詰めていた神職達の間から困惑の声が広がっていった。

「もぅ、つばさがクジを引かせるからだよ」

「そんなこと言ったって」

気まずい雰囲気の責任をつばさへと振る香津美に文句を言うと、

「どうした?

 まだ準備は出来てないのか」

という声と共に宮司が社務所内に姿を見せた。

「あっ」

宮司の登場に居合わせた神職達が

「実は…」

と香津美のことを相談を始めだすと、

「なんだ、そんなことか」

宮司は意に止めない返事をした。

「しっしかし…」

宮司のその返事に神職達は香津美の方を見ながらなおも食い下がると、

「なぁに、

 昔にもこんなことがあったそうだ、

 問題はないっ

 さっ準備を」

宮司は清十郎役が女性であることが祭の進行の障害でないことを告げた。

「はっはぁ…」

宮司のその声に神職達は顔を見合わせた後、散会すると、

「じゃぁ、岬さん、

 あなたは清十郎役をするその方の着替えと、

 西山さんは瑠璃姫役をするこの方の着替えをお願いします」

テキパキと宮司は社務所に詰めていた二人の中年女性に

つばさと香津美の着替えを指示をした。



「えぇ?

 ちょちょっとこれって」

程なくして更衣室に割り当てられた部屋から香津美の驚く声が響き渡る。

「なに恥ずかしがっているのっ、

 清十郎に決まったからにはあなたが清十郎なのっ

 そして鬼太鼓の叩き手は褌って決まっているんだから、

 ほらっじっとしてなければ締められないじゃないの」

部屋の中で全裸になっている香津美を窘めるように岬を呼ばれた女性は、

シュル…

彼女の股間に3重に重ね合わされた純白の六尺をあてがうと、

キリキリッ

と六尺を縦褌にするために捻りながら腰の位置まで持って行き、

その位置で指を六尺に当てると、

当てた指を開始点に彼女の腰の周りを一周させていく。

そして、正面に横褌が通ると肩に掛けていたもう片方の端を下ろし、

そのまま股間に通すと、

ギュッ

っと締め上げた。

「ひゃうん!!」

グィッ

六尺が褌として締め上げられるのと同時に

自分の局所とお尻に食い込んできた縦褌の感覚に香津美は思わず声を上げてしまった。

そんな香津美に、

「あはは、

 引き締まって気持ち良いだろう」

女性は笑いながら声を掛け、

「まぁこの辺は男も女も同じみたいだね」

と言いながら

キリキリ

っと余った両端を横褌に絡ませていった。

こうして、香津美の腰に六尺褌が締められると、

「さっ

 胸にサラシを巻くから手を上げて」

女性はテキパキと香津美に指示を出し、

今度は香津美の胸にサラシを巻き始めた。

そして、

「よしっ、

 これで良い、

 うん、男前になった!!」

腰と股間に力強く締められた六尺褌とサラシを胸に巻いた香津美の姿に女性は大きく頷きながら、

「頑張ってきな」

と言って、

ピシャリ!

っと香津美の背中を叩く。

「痛ぁ!!

 もぅ!!」

文句を言いながら香津美が部屋の戸を開けると、

「あっ」

そこには巫女装束姿のつばさが立っていた。

「やあだぁ、

 なに、香津美のその格好!!」

裸体に六尺褌とサラシを巻いただけの香津美の姿を見た途端

つばさはお腹を抱えて笑い声を上げると、

「うっうるさいっ

 男役だからこんな格好をさせられたのよっ」

香津美は体を隠すことなく顔を赤らめながらそう返事をする。

そして、

「つばさこそなんで巫女の格好をしているの、

 姫様役じゃないの?」

とつばさが巫女装束を着ていることを指摘すると、

「うん、

 瑠璃姫ってこの神社の巫女だったから、

 これで良いんだって、

 ちょっと拍子抜けだね」

と返事をする。

「はぁ…

 こんな格好…

 知り合いには見えられないよ」

むき出しのお尻を手で隠しながら香津美がぼやくと、

「まぁまぁ、

 貴重な体験よ」

そんな香津美を宥めるようにつばさは言い、

「ほらっ、

 行こう行こう!!」

なおも渋る香津美の背中を押しながら鬼太鼓がある境内へと向かっていった。




二人が向かっていった神社の境内には大掛かりな仮設舞台が設けられ、

その中央に観客側に白い面を見せている鬼太鼓が周囲に置かれた篝火の光を受けて怪しく輝いていた。

「うわぁぁぁ…」

「大きい…」

直径はゆうに2mはあろうか、

舞台の下からでも鬼太鼓のその巨大さと威圧感に香津美とつばさは驚いていると、

「おっ

 可愛い、清十郎の登場だね」

男性の声が響き渡った。

「だっ誰?」

響き渡った男性の声に慌てて香津美はつばさの後ろに隠れて声を上げると、

「あぁこの方は大鬼の役として鬼太鼓を叩く渡瀬さんだ」

神職が鬼の役を演じる男性・渡瀬武を紹介した。

「はじめまして

 どうやら今年は大鬼の勝ちかな?

 三浦さん」

紹介された男性・武はにやけながら神職に話しかけた。

「大鬼?

 勝ちって」

武の話に香津美とつばさはその意味を尋ねると、

「あれ?

 説明を聞かされてなかった?

 あなたは大鬼の役の渡瀬さんとあの鬼太鼓で勝負をするのですよ」

と神職はこれから行われる祭の形態について説明をした。

「えぇ!

 勝負するのですか?」

「いや、勝負といっても真剣勝負ではなくて、

 一応、最後には大鬼が負けることになっていますよ」

驚く香津美を宥めるように神職はそう言うと、

「渡瀬さんも脅さないでくださいよ」

と武に注意した。

「あはは

 まぁそういうことだ、

 とは言っても

 君は太鼓を叩いたことはないんだろう、

 だったら俺に合わせて叩くと良い」

香津美とは違い大鬼を思わせる赤い六尺褌にサラシを巻いた姿の武は

そう言うとクルリと背を向けた。

「うわっ

 すっごーぃ、

 まさに男って感じだね」

筋肉隆々の武の後姿につばさが関心しながら呟くと、

「そっそう…」

彼女の後ろに半分隠れていた香津美はジッと武の後姿を見つめ、

「はぁ…」

とため息を吐くと、

「そんなに緊張しなくても良いですよ、

 ここの太鼓はテンポはそんなに速くないので

 渡瀬さんにあわせれば良いですから」

香津美の緊張を解きほぐそうとしたのか神職がそう言う。

すると、

「あっそうだ、

 撥の持ち方と叩くときの格好って当然知らないだろう」

背を向けていた武が思いついた表情で振り返ると、

「あっはい」

「いいか…

 まず撥の持ち方はこうっ

 そして、こういう風に一歩踏み出して…

 腕はこの形、

 いいか?」

と香津美に向かってレクチャーをし始める。

「ここはこぅ」

「はい」

「で、こうしたら、こぅ」

「あっはい」

「へー、いい雰囲気じゃない…」

そんな二人の姿をつばさは羨ましそうに眺めていると

「さて、そろそろ時間ですが準備は良いですか」

時計を眺めながら神職がそう告げた。

「おっけーっです!」

その声に周りの神職達は返事をすると、

それぞれの持ち場へと散って行き、

「じゃぁ、あたしのために頑張って叩いてね」

その様子につばさはポンと香津美の肩を叩いてそう告げると、

タッタッタ

つばさは瑠璃姫用に設けられた席へと走って行った。

「ひとの気も知らないで…」

ジロッ

香津美は走り去っていくつばさを恨むような視線で見送りながら、

舞台の上に登ると、自分の目の前に迫ってきた巨大な太鼓を見上げ、

「うわっ近くで見ると無茶大きい…」

と呟きながら両手に撥を持った。

その途端、

カッ!!

点灯させられたライトが一斉に香津美と太鼓を照らし出すと、

「おぉ!!」

詰め掛けていた観客から一斉に歓声が上がる。

「なぁ、今年の清十郎って妙に細くないか?」

「大丈夫か?

 なんか女みたいな体をしているけど」

「さぁ、とりあえず最後まで叩ければ良いけどなぁ」

香津美の後姿を見た観客達の間からそんな声が沸き起こると、

その声を背で聞きながら

「…あのぅ…

 あたし、本当は女なんですが…」

鬼太鼓を目の前にしている香津美は心の中で呟いていた。

「じゃぁ行くよ」

タイミング良く武の声が裏側から響くと、

「はっはいっ」

香津美は慌てて返事をする。

すると、

「ハッ!!」

香津美の返事と同時に太鼓の裏側で撥を構えた武が掛け声を上げると、

「ハイッ」

それにつられるように香津美も撥を構え掛け声を上げる。

ドーン!!

武の撥が振り下ろされ、

その衝撃が太鼓の中を伝わり、

反対側の香津美の体を揺らすと、

「ふんっ」

ドーン!!

香津美も負けじと橋を振り下ろした。

ドーン

ドーン

二人の手による太鼓の音が境内に鳴り響く、



ドンドンドンドン!!

ドンドンドンドン!!

光を一身に浴び、

白の六尺褌にサラシを締めた出で立ちの香津美は全身を汗で輝かせながら一心に鬼太鼓を叩く、

「へぇ…

 意外と様になっているじゃない」

そんな香津美の姿を瑠璃姫役のつばさは感心しながら眺めていた。

ドドドドドン!

ドンドコドンドコ!!

香津美と武の勝負はさらに続き、

最初の頃はおっかなびっくりの様子だった香津美の撥捌きも次第に力がこもり、

そして体の動きも滑らかになっていった。

ドドドドドン!

ドンドコドンドコ!!

「はぁ、いいなぁ…

 あたしも叩きたいなぁ」

身体から汗を飛び散らせ鬼太鼓を叩く香津美の姿を見ているうちに

つばさは次第にこうして見ているだけの自分に退屈を感じると、

「あれ?」

つばさは香津美の体が少しずつ変化していることに気が付いた。

ミシッ!!

懇親の力を込めて鬼太鼓を叩く香津美の肩周りに筋肉が盛り上がり始めると、

ムキッ!!

白く柔らかな表情を見せていた臍の周りに腹筋の凹凸が姿を見せ、

次第に溝を刻み始めだしていく。

「ん?

 あれ?」

変化していく香津美の姿につばさは目を幾度もこすり、

目を凝らして香津美を見つめた。

そしてその頃

ハァハァハァハァ…

「なっなに?

 体の中から力が…

 力が湧いてくる…」

目の前の白い太鼓に向かって撥を振り下ろしている香津美は、

体の中から湧き上がってくる力を感じると、

その力をぶつけるように鬼太鼓を叩いた。

ドンコドンコドンコ!!

ドドンドドン!!

太鼓勝負はさらに続き、

「くはぁ…

 うっっく!!」

ビキビキビキ!!

香津美は自分の体中の筋が張り、筋肉が盛り上がっていくのを感じながら、

しかし、振り下ろす撥を止めることなく叩き続けていた。

そして、その間にも、

ムキッ!!

サラシで締めこんだ乳房を飲み込んで胸板が盛り上がっていくと、

サラシをその内側から押し出し始め、

ズズズズ…

香津美の胸にしっかりと締められていたサラシが筋肉の力で徐々に膨らんでいく。

ドンドコドンドコ!

ドンドコドンドコ!!

気迫を増してくる香津美の撥捌きに太鼓勝負は次第に白熱し、

「すっげー」

それを見ていた観客達はただ圧倒されていた。

ドンドコドンドコ!

ドンドコドンドコ!!

お互いに一歩も引かない太鼓勝負に合わせるように

ビキビキビキ!!

香津美の肩幅が広がっていくと、

丸くポッコリと盛り上がっていたお尻が萎むように小さくなり、

お尻の両側に凹みが出来ていく、

ドンドコドンドコ!

ドンドコドンドコ!!

「くはぁ

 はぁはぁ

 あぁ…
 
 なんか…気持ちが良い…」

全身の力を込めて太鼓を叩くことに香津美は酔いしれると

その上半身はきれいな逆三角形の形になり、

さらに、喉仏が盛り上がった香津美の口から荒い息と共に男の声が漏れ、

「ぐっ…

 でっ出るぅぅぅぅ!!」

香津美は自分の体内に充満してきたエネルギーが股間をその出口と定めて

突き出してきたのを感じた。

その途端、

モリッ!!

六尺褌で締められていた股間に小さな膨らみが姿を見せると、

ググググググ!!!

空に向かって膨らみはキノコの様に成長し、

グンッ!!

六尺褌を内側から突きあげた。

「うっ!!」

その時、香津美は全身に電撃が走るのを感じると、

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

ドドドドドドドドドド!!!

噴出てくるエネルギーをぶつけるように鬼太鼓を叩きまくった。

「こりゃぁすごい」

反対側から押し寄せてくる津波のような力に武は圧倒され、

そして、勝負は終わった。



つづく