風祭文庫・異性変身の館






「華と海」


作・風祭玲

Vol.1051





「心華や」

「なっなんだい、

 お婆ちゃん」

「これをお前に授ける」

「これは?」

「お前もよく知っているだろう。

 代々引き継がれている”証の札”だよ」

「でも、これって…」

「わたしのお役目は終った。

 心華、

 お前がわたしの跡目を引き継んだよ。

 判ったね」

「うっうん…」

「よし、いい子だ」



俺の名前は刃心華

先日19歳になったばかりのうら若き男子大学生…である。

なんで男子大学生とわざわざ銘打って紹介したか、

それは、この名前のせいでよく女性に間違えられるからで、

他意はない。

とまぁ自己紹介はこの程度にして、

実は先日から俺は何者かに見張られているような気がしている。

いや、気のせいではない。

確実に何者かが俺を見張り、

そして、行動をチェックしているのだ。

けど、その証拠はまったくと言っていいほど無い。

「誰が…」

食事中。

トイレ。

風呂場。

相手の不意を突いてこちらから探りを入れるものの、

しかし、何度探りを入れても、

まるで腕の中からすり抜けるネコのごとく、

尻尾をつかませない。

「まさか、

 忍…」

ふとそんなことが頭をよぎるけど、

「いや、そんなはずは無い」

なぜなら、

この国、最後の忍はついこの間亡くなったばかりなのだから。



「ったくぅ、

 誰だぁ?

 男にストーカーして楽しいか?」

頭を抱えながら、

学内の食堂で課題のレポートを纏めていると、

「何、ブツブツ文句を言いながら

 レポートを書いているんだよ」

と声が掛けられる。

「ん?

 あぁ、

 穂波かぁ…」

佐々木穂波、

高校からの友人で性別は名前に似合わず俺と同じ男である。

「うるせーな、

 いろいろと忙しいんだよ」

彼に余計なちょっかいを出されないように、

俺は書きかけのレポート一式を腕を広げて庇ってみせると、

「まったく、そこまで敵意丸出ししなくても」

掛けているメガネを直しながら穂波は俺を眺め、

「で、今度はどんな幻聴なんだ?

 いや、幻覚か?」

穂波はテーブルを挟んた正面の椅子に座り、

両肘をテーブルに突くと、

口の前で手を組んでみせる。

「なんだよ、

 どこかのロボットアニメの司令気取りか?」

彼が見せるその姿を見ながら俺は皮肉を言うが、

「気配だよ、

 気配!

 どっかの誰かがずっと俺を監視しているんだよ」

と怒鳴るように言うと、

テーブルの上に突っ伏してみせる。

「相変わらず気苦労が絶えない奴だなぁ、

 で、そいつは今もこの近くに居るのか?」

「ん?

 そういえば気配がしないな」

「ふむ、

 なるほどね」

俺の返事を聞いた穂波は大きく頷いてみせる。

「判るのかよ」

「さぁ?

 でも、心華は判るんだろう?

 忍の末裔として」

「そのことはここで言うな」

「ふふっ」

穂波の指摘の通り

俺はかつてこの国の闇で暗躍した

”忍”こと忍者の血を引くけど、

でも、果たして今のこの世界で

それがどこまで誇れるものなのか、

せめて履歴書の一輪の華になってくれれば良いのだが…



「にしてもだ」

そういいながら穂波はタブレット端末を取り出して操作すると、

「学内で奇妙な反応があるのは事実だね」

とその画面を見ながら言う。

「奇妙な反応?」

「あぁ、工学部と情報学部の好者に声を掛けて、

 ちょいと面白いものを作ってもらった。

 CIAにも無いものだぞ。

 それによるとだ、

 先ほどから学内を転々と移動する人間サイズの

 高速移動体が検出されている

 ちょうど今は…第3棟あたりで停止しているね。

 お昼でも食べているのかな」

俺にタブレットの画面を見せつつ

不審者らしきものの存在と居場所を説明する。

こいつは時折こういう奇妙な発明をしてみせる。

この間はゴミ問題の究極の解決方法だとか言って、

ゴミの山を衛星軌道上に打ち上げるナントカという物を作って、

いざ実験をしたら、NASAから怒られたと言っていたけど、

結局、アレはどうなったのだろうか。



「そういう不審者は、警備員の仕事だろう?

 警備室に通報したらどうだ」

「警備会社が相手にするのはまともな人間のみだ」

「じゃぁ、こいつはまともじゃないのか?」

「少なくとも…普通の人間はこういう動きはできない、」

そう言いながら穂波は学内での不審者の移動航跡を見せる。

「こんなに動くことなんて、

 俺でも出来ないよ」

「忍の末裔でもか」

「当たり前だろう、

 忍と言ってもあくまでも人間だ。

 こんなオリンピック選手でも出来ない様なまねなんて、

 出来ないって言うの」

「なるほどねぇ

 じゃぁ、これは人間ではないのか?」

「これ以上詳しくは判らないのか」

「このシステムのセンサーを置くのは黙認してくれたけど、

 連動型監視カメラは肖像権の問題があって無理。

 そうなると、

 これの気配を察することができる君が頭一つ抜けるね。

 データを取りたいんで、

 これの正体を確かめてくれると助かるんだけど」

と期待の目で穂波は俺を見つめる。

「あのね、

 忍者の末裔でも

 俺を便利屋じゃないっ」

俺はそう言い残して

テーブルに広げていた資料をまとめ席を立った。



「まったく、

 人を何だと思っているんだよ」

文句を言いながら

俺は資料が入ったカバンを肩から提げ

正門へと続く歩道を歩いていく。

外の景色はいつもと変わららず、

ここに正体不明の者が居るようには思えなかった。

「第3棟…

 あそこに居るのか」

穂波に教えてもらったヤツの居場所に向けて

俺は全身の感覚神経を総動員して探りを入れるが、

しかし探ってもまったく感知することはできなかった。

「あれ?

 帰ったのかな」

何度も探りを入れて見るが、

相変わらず感知することができず。

「なんだよ」

ちょっと文句を言いながら、

俺は近くのベンチに腰掛けると、

懐から一枚の木札を取り出してみせる。

持っているスマートフォンよりも2回り小さい木札は

先日亡くなった婆ちゃんから受け継いだもので、

丁寧に塗られた漆の上に”華”と言う達筆の金文字が1文字書かれている。

”証の札”と呼ばれている木札はご先祖様から代々受け継がれているもので、

これを持つ者は正統後継者ということらしい。

「忍者の血統書か」

スマフォのストラップ代わりとなっている木札を俺は眺めていると、


【みぃつけた!】


突然、女性の声が俺の耳元で響き渡る。

「え?」

いきなり響いた声に俺は立ち上がって当たりを見渡すが、

しかし、その声の主と思える女性の姿は何処にも無く、

学内のアイドルとなっている数匹のネコがこっちを見ているに過ぎなかった。

「…だれ?」

顔を引きつらせながら俺は周囲を改めて見ると、

【やはり”華”はあなただったのね。

 わたしの目に狂いはなかったわ】

と再び声が響く。

「誰だよ、

 姿を見せろ」

姿なき声に向かって俺は怒鳴ると、

【悪いけど、

 ちょっと試させてもらうよ】

の声と共に、

シュッン

自分の側から何かが離れ、

同時に

キラッ

視界に小さな光が一瞬輝いた。

「うわっ」

それを見た瞬間、

俺の体は直ぐに反応し、

肩に掛けていたカバンを小さく俺がいた位置に投げると、

すばやく引き下がる。

そして、投げられたカバンが地面に落ちると、

そこには数本の針が突き刺さっていた。

【なるほど、

 じゃぁ、コレはどうかな】

再び声が響くと、

キラリ

空に光の航跡が一瞬現れる。

「とととっ」

俺はその航跡が示す延長線上から体をそらすと、

バサッ!

今度はベンチ近くの植木の枝が落ちた。

「おまえっ、

 学内で刃物を使うなっ

 危ないだろう」

相変わらず姿の見えない相手に向かって俺は怒鳴ると、

【気にしないっ。

 気にしない。

 大丈夫。

 あなた以外には当たらないようにしているから】

と声が響く。

「余計悪いわっ」

その声に向かって言い返すと、

「こいつ、

 やはり忍なのか?」

相変わらず姿が見えない相手だけど、

もし、忍であれば使っている術の見当はつく。

「ならば」

その素性を見てやろう。

俺はお婆ちゃんから教わった術を使って

反撃に転じようとしたとき、

【とりあえず試験は合格よ。

 ご褒美にあたしの姿を見せてあげるわ】

いきなりその声がすると、

「こんにちわ」

の声と共に俺の前に一人の女性が姿を見せた。

しかし、彼女の姿は、

よく知られている忍装束を身にまとった姿であった。

「えっと、

 あのぅ」

勢いをそがれてしまった俺は

彼女にどう言葉を掛けて良いのか迷っていると、

スッ

忍装束の女性は俺を制するように手を差し出し、

「あなたの言いたいことは良っくわかる。

 私自身、こんなだっっさい格好をするのは嫌なのよ。

 でもね、一応初対面だしぃ。

 まぁこの格好がクノイチの正装なので

 仕方が無いから着てるってわけよ。

 これって判るでしょう」

と話しかける。

「えぇ、まぁ」

確かに彼女の言うとおり、

いまどきその格好はコスプレでも早々お目にかからない

レアなものではあるのは認める。

「で、ものは相談なんだけどさ、

 これ、脱いでいいかな?」

彼女は忍装束を指差して尋ねてきた。

「は?

 どっどうぞ、

 ご自由に」

拒否をする理由が無い俺はそう返事をすると、

「さんきゅーっ」

俺の返事を待たずに彼女は装束に手を掛け、

バッ!

それを振り払うかのように払って見せる。

すると、

「ふぅ…

 やっぱこの格好が動きやすいわ、

 涼しいし…」

そう言いながら自分の髪の毛を手で梳いてみせる彼女は

シャツにスパッツ姿の格闘系美少女という出で立ちへと変っていた。

「ほぉ…」

その変身振りに俺は関心の声を上げると、

彼女は俺が持っているのと同じ漆塗りの木札・証の札を見せ、

「わたしは”海”

 クノイチの”海”よ。

 よろしく」

と自己紹介をする。

「へぇ…

 俺のと同じだね」

証の札に書かれている文字こそ違うけど、

同じ証の札を見た俺は親近感を持ちながら返事をすると、

いきなり彼女・海は俺の体を触り始めた。

「なっ何をするんですか」

思いがけない海の行動に俺は驚くと、

「ん?

 んん?

 あれぇ?」

と俺の体を触りながら海は怪訝そうな顔をしてみせると、

「ちょっと、

 あなたの持っている証の札

 見せて」

手を伸ばしながら”海”は言う。

「え?

 あっあぁ」

彼女のぶっきら棒な言葉遣いに、

引っかかるものを感じながら、

俺は自分の札を手渡すと、

「ふむっ

 ふむふむ」

海は俺から受け取った札をあれこれ眺めてみせる。

「何かわかるのか?」

彼女の様子を見ながら俺は尋ねると、

「やっぱりそうだわ、

 ちょっとぉ、あなた、

 ”女陰烙印”を発動させてないじゃない」

と指摘する。

「にょっ女陰…烙印?

 発動?」

聴きなれない言葉に俺は聞き返すと、

「ダメだよぉ、

 証の札を引き継いだら、

 女陰烙印を必ず発動させるっ、

 道理で動きが鈍いと思ったわ。

 あなた、男のままじゃないの。

 男のクノイチなんて見たことが無いわ」

証の札をつき返して海は言う。

「あの、

 男のクノイチって、

 それって普通の忍者じゃぁ…

 第一、あなたの言っていることって、

 俺に女になれって言うことじゃないですか」

俺は言い返すと、

「あぁもぅ、

 じれったいわねっ、

 いいわ、わたしが発動してあげる。

 ”華”の女陰烙印を」

海は再び俺から証の札を奪うと、

右手の人差し指と中指で木札をはさみ、

婆ちゃんから聞いたことがある呪文を唱えた。

すると、

キンッ!

木札から金属が鳴るような音が響きはじめる。

「え?

 なんだ、それ」

驚きながら俺は声を上げると、

「ここにいてはヤバイ」

何か得体の知れない危険を感じ取ると、

2・3歩後ずさりし、

ダッシュでその場から逃げようとする。

しかしっ、

「逃がすかぁっ

 女陰烙印っ

 発動!

 てぇいっ!」

海のその声が俺の背後から思いっきり響くと、

ビシッ!

「あっ!」

俺の体の中を貫くようにして鋭い衝撃が走り、

それ以上、足を動かせなくなってしまった。

「うっ動けない…」

立ったまま金縛り状態に陥ってしまった俺は

その場でもがいていると、

俺を襲う衝撃は次第に膨らみ始め、

俺の体の中から外へと広がりはじめた。

「あっ

 あっ

 あぁ

 くぅぅ…

 へっ

 変な気持ちぃぃ」

快感と不快とを混ぜながら広がってくる感覚に俺は戸惑うが、

やがてその衝撃が肌に達すると、

ゾワァァァ

言いようも無い寒気が全身を包み込み、

体中の毛が一斉に逆立ち始める。

「ひゃぁぁぁ!」

毛穴という毛穴から汗が噴出し、

その汗でずぶ濡れになっていくと、

ツンッ

ツンツンッ

胸の乳首が急激に敏感なってしまうと、

ぷっくりと膨れ始める。

「え?

 なにどうして?」

シャツに突き出した2つの尖突の姿に俺は戸惑うが、

その一方で、

キュゥゥゥ!

股間のイチモツはまるで搾り取られるかのように縮み上がり

体の中へとめり込み始めた。

「いやだ、

 いやだ、

 かっ体が変わっていくぅぅぅ」

軽くなっていく股間と、

重みを得ていく胸。

敏感になった肌は柔らかさを増し、

次第にふくよかになっていく。

そして、俺を形作る骨格もまた、

見えない力で圧縮され形を変えられはじめた。

ビクンッ!

「あんっ!」

喉仏が引っ込み、

トーンの高い声が俺…

いや、あたしの口から漏れてしまうと、

プルンッ

胸には乳首を頂点とした膨らみがさらに盛り上がり、

豊かなバストへと成長していく、

そしてイチモツが引っ込んでしまった股間には、

一筋の溝が口を開き、

その口の中で小さくなった元イチモツが核となって顔をだす。

「あはっ

 あはっ

 お腹に…

 やだ、

 あたしのお腹に…何かが…出来て

 あっあんっ」

お腹の中に何かが作られていく違和感が湧き上がると、

それの一部が股間へと伸び、

股間に開いた穴の奥につながり、

プチュッ!

あたしに子供を孕む力を与えてくれた。



「はぁ

 はぁはぁはぁ」

長く伸びた髪の毛を振り乱して、

あたしは座り込んでいると、

「ふむっ

 女陰完了!」

と海の声が響く。

「え?

 え?

 えぇ?」

すっかりダブダブになってしまった

シャツやズボンをめくりあげて

あたしは自分の胸や股間を触ってみると、

そこには確かに女の証が存在していた。

「うそ…

 おっおっぱいが…

 おちんちんが無くなっている。

 そんな、

 おっ女になって」

プルンと揺れる胸を押さえ、

そして、手で股間を隠しながら

あたしは顔を真っ青にして呟き、

海を見上げた。

「なんて顔をしているのよっ、

 これで正真正銘のクノイチになれたんじゃん。

 さぁーて、

 これからあたし達は協力してクノイチ稼業がんばらないとね」

あたしの混乱などどこ吹く風。

「そんな、

 クノイチだなんて、
 
 あたしを元に戻してください。

 まだ、わたしにはやることがあるんです」

海に向かってあたしはそう訴えますが、

「無理無理、

 一度クノイチになったからは、

 もぅ元には戻れないよ。

 大丈夫、あたしがついているから」

と胸を叩いて見せます。

「ぜんぜん

 励ましになっていませんっ!!」

涙を流しながらあたしは声を上げますが、

「それよりもさ、

 早いところ”華”のご主人様を決めないとね」

海は思案顔で言い、

「だ・れ・が、いいかなぁ…」

と呟きながらスマートフォンを操作します。

「え?

 何をしているんですか」

彼女を指差してあたしは問いますと、

「何を言っているの?

 クノイチはねぇ、

 殿方に抱かれてないと直ぐに枯れてしまうのよ。

 大丈夫。

 わたしが”華”に合うご主人さまを用意してあげるから、

 大船に乗った気でいて」

わたしの両肩をつかんで海は力をこめて言うと、

「殿方に抱かれるって、

 せっセックスですか?

 そっそんなのいやぁぁぁ!」

わたしの悲鳴が響き渡ったのでした。




「どうしたの”華”、

 証の札をずっと眺めて」

「いえ、昔のことを思い出していたのです」

「そう、

 そういえばわたし達がコンビ組んで何年だっけ」

「さぁ、忘れました。

 ところで、あの件の報告は?」

「あぁ、さっき済ませたよ。

 あの二人、アフリカ送りになったって、

 まぁ自業自得だね」

「そうですか。

 仕方が無いとはいえ

 いきなり体を変えられる衝撃に耐えられるでしょうか」

「何とかなるんじゃない?

 あの志乃って人も、

 マサイの戦士に馴染んじゃっているじゃない。

 人間、そんなに柔じゃないって」

「はぁ、

 あたしは大変でしたけど…」

「それって、ひょっとしてあたしへのあてつけ?」

「さぁ?」

「ところで、

 次の任務決まったわよ」

「どなたです?」

「月夜野って言うマッドサイエンティストを捕まえて来いって、

 何でも旦那様から資金提供を受けていながら

 バックレちゃったんだってさ。

 怒った旦那様がエージェントを送り込んだんだけど

 どれもそれっきりになっちゃってね」

「返り討ちですか」

「上等じゃんっ、

 まっあたし達にかかれば

 その首根っこを直ぐに捕まえて見せるけどね」

「そうだといいのですが…」

「大丈夫、

 大丈夫。

 さっ支度よ、支度。

 クノイチに休みは無いのよ!」



おわり