風祭文庫・異性変身の館






「少女になる薬」


作・風祭玲

Vol.1024





「あのぅ…

 おっ女の子になる薬ってありますか?」

昼下がりの業屋に少年の声が響き渡ると、

『はい?』

その声に呼びだされるようにして店の主人である業屋が店先に顔を出した。

すると、

「このお店ってどんな願いでも叶えてくれるんですよね」

近くの中学校の制服を着た女子のグループに取り囲まれた学生服姿の少年が業屋の前に進み出ると、

確認するようにして尋ねる。

『はぁ、

 どんな願いを叶える。

 と言いますとちょっと語弊がありますなぁ

 正確には”秘めた思いを現実にする”と言うのがウチのモットーですので』

癖となっている揉み手をしながら業屋はそう少年に言い聞かせると、

「……」

周囲の気配を気にしつつ、

「でっですから、

 女のに子になれる薬を…ください」

といまにも消えそうな声で少年は再度所望をする。

『はぁ…

 まぁ、そうおっしゃるのであるならお売りいたしますが…』

その言葉を受けて業屋はシブシブ店の中へと引っ込もうとしたとき、

『…売ってあげても良いけど…

 高いわよぉ』

の声と共に白い衣装を纏う金髪碧眼の白蛇堂が姿を見せる。

『しっ白蛇堂殿っ、

 いつの間に…』

彼女の姿を見た業屋は驚きながら聞き返すと、

『あらぁ、業ちゃん。

 たったいまここに来たところよぉ

 それともあたしが居てはいけないの?』

と意地悪そうに白蛇堂は尋ね、

改めて少年を見据えると、

『ふぅん。

 女の子達をいっぱい引き連れて女の子になる薬を買いに来るって、

 なんか面白い組み合わせなんだけど、

 なんで女の子になりたいのかちょっと理由を聞きたいなぁ…』

と少年に向かって問い尋ねた。

すると、

「あなたはこの店の方なんですか?」

女子のグループの中より気の強そうな少女が少年の前に出ると白蛇堂に向かって質問をする。

『ん?

 店員ではないけど…

 まぁ…関係者ってことかしら…

 そうよね、業ちゃん』

少女を見据えながら白蛇堂は答えると、

「…そうですか。

 では、その薬って幾らぐらいするんですか?

 こいつ…いや、この子に飲ませたいので」

憮然とした態度で少女は尋ねると、

『(可愛くない娘ねっ)

 さぁ?

 とっても高い…とでも言っておきますか、

 何しろ秘めた思いを実現する薬ですもの…

 それ相応の対価になるわ』

碧眼を怪しく光らせながら白蛇堂は答える。

「ぐっ」

白蛇堂からのオーラに気押されるように少女は身構えると、

「あのぅ…

 本当に幾らなんですか?」

と少女と白蛇堂の間に割り込むようにして少年は尋ねた。

「(あら)」

彼の行動に白蛇堂は少し驚き、

改めて彼の目をジッと見据えた後、

『本当に女の子になりたいの?』

と尋ねると、

コクリ…

白蛇堂の目から視線を反らせずに少年は頷いてみせる。

『そうねぇ…

 一粒、千円で良いわ』

握った右手から人差し指一本立てて言うと、

「やっ安っ!」

その途端、さっきの少女が声を張り上げた。

『失礼ねっ、

 あたしの値付けに文句を言うなら帰って貰っても結構よ』

プイッ

とそっぽを向きながら白蛇堂は言うと、

「そっそれ貰います」

少年は千円札を1枚、白蛇堂に向かって差し出した。

『はい、

 乙女の涙A、一錠お買い上げまいどありぃ』

彼が差し出した千円札と交換するようにして、

白蛇堂は不思議な色に輝く錠剤を一粒少年の手に落としてみせる。

「さっ、薬が手に入ったんでしょう。

 こんなところに長居は無用よ」

少年が薬を手に入れたのを見計らうようにして少女は急かすと、

「うっうん。

 あっありがとうございます」

彼女に手を引かれるようにして少年は業屋を後にする。

『乙女の涙A1錠が千円ですか…

 ワリがあいませんが』

去っていく少年達を見送りながら業屋は嫌み半分に呟くと、

『さぁて、

 ちょっくら様子を見に行ってみるか』

大きく背伸びをしながら白蛇堂はそう呟き、

スッ

景色に溶け込むようにして姿を消した。



「ほらっ、

 突っ立ってないでこっちにくるのっ」

放課後の校舎裏に少女の声が響くと、

「あっ」

少女に手を引かれるようにして少年は人気のない裏庭へと引っ張り込まれる。

と同時に少年の周囲を少女達が取り囲むと、

「さっき、業屋で買った薬を出しなさい」

リーダー格の少女は命令をする。

その声に逆らえずに少年はさっき買ったばかりの乙女の涙を差し出すと、

「へぇ…

 これが男の子を女の子にする薬かぁ」

と少女は物珍しげに眺めてみせる。

「本当にそんな薬ってあるんですね…」

「信じられないなぁ」

少女が掲げる薬を他の少女達もつられる様にして眺めていると、

「うふっ」

少女は笑いながら掲げていた薬を隠すようにして握りしめ、

チラリと少年を見た後、

カシッ!

コンクリートの上で石を使って2つに割ってしまったのであった。

「あっ!」

その途端、少年の声が響くや、

「そいつを押さえろ!」

と少女の声が飛ぶ。

そして、

「何をするんだ、

 やめろっ」

押さえつけられても暴れる少年の口に、

半分に割った乙女の涙を押し込んだのである。

「うぐっ

 (ごくん)

 あっ…

 あっあはんっ、

 体が…熱い…」

薬の効き目はスグに現れ、

少年は顔を真っ赤にすると身もだえるようにしてくねらせる。

すると、

「あははは、

 見ろよ、

 まるでオカマだよ」

そんな少年の姿を見て少女は腹を抱えて笑い始めると、

「本当だ」

「あはは」

取り巻きの少女達も笑い始める。

しかし、

「はぁはぁ

 はぁはぁ」

肝心の少年は変化していく体に翻弄されていて、

笑い転げる少女達に構っている暇はなかった。

グッググググ…

少年らしさを見せていた肩幅が狭くなり、

ムクッ

細いヒップが張り出してくる。

学生服を着ていても少年の体型の変化は確かに判るものの、

だが、その変化量が次第に小さくなっていくと、

「はぁはぁは…

 あれ?」

少年の変化は少女に変わりきる前に止まってしまったのであった。

すると、さっきまで笑い転げていた少女が少年に近づくと、

ムギュッ!

と彼の股間を握りしめてみせる。

その途端、

「ひゃっ!」

甲高くなった少年の悲鳴が辺りに響き渡ると、

「ふふっ

 ちゃんとチンコはあるよ。

 そして…オッパイも…あるね」

少年の股間と膨らみ掛けている胸を揉みながら少女は囁く。

「そっそんぁ」

絶望的な声を少年はあげると、

「あはは、

 オカマなお前にはその半端な姿がお似合いだよ。

 さぁ、着ているものを脱いでもらいましょうか?」

顔色を青くしている少年に向かって少女は命令するものの、

「いやだ」

少年は胸を押さえながら反抗してみせる。

しかし、すぐに周りの少女達に取り押さえられてしまうと、

瞬く間に身ぐるみ剥がされてしまい、

「やめてぇぇ」

胸と股間を隠しながら少年は悲鳴をあげた。

「ねぇ、中途半端なお前の体、

 みんなに見せてあげなよ」

そんな少年に向かって少女は話しかけると、

「いやだぁ!」

顔を真っ赤にして少年は抵抗するが、

「じたばたするなっ」

その声と共に業を煮やした少女達が襲いかかると、

少年の手足が開かされ、

皆の前にその裸体がさらけ出される。

「あは…

 見て、オッパイがあるのに、

 チンコ着いているよ」

「チンコの下にマンコもあるよ、

 小さいけどさ」

「へぇ…まさにオカマだねぇ」

男と女の2つを併せ持つ少年の体を眺めながら

少女達はそれを笑い、そしていじり始める。

「くっ」

敏感に感じてしまう乳首、

そして股間に口を開き掛けている縦溝に少女達の指が入り込もうとしたその時、

『あら、

 それってイジメってヤツ?』

と白蛇堂の声が響いた。

「!!っ」

思いも寄らないその声に皆が驚くと、

『あらあら、

 あたしが折角売ってあげたお薬で悪戯するなんて、

 ふふっ

 ちょっとお仕置きが必要ね』

と腰を屈めた姿勢ながらも少女達の真上に浮く白蛇堂は呟くが、

「うそっ」

「空中に浮かんでいるよぉ」

「おっお化け…」

そんな彼女の姿を見た少女達は顔を青ざめると、

一・二歩下がると、

「ぎゃぁぁぁ!」

悲鳴を上げて一目散に逃げ出すが、

『あらら、

 そんなに走りたいの?

 だったら、ずっと走っていなさい。

 ウサギになって…』

彼女たちに向かってそう言うと

パチン!

と指を鳴らす。

その途端、

「ひっ!」

「ぎゃぁ!」

逃げ出していく少女達の体から白い獣毛が吹き出し、

瞬く間に体が服の中へと没してしまうと、

タタッ

タタッタタッ

着ていた服の中から耳をピンと伸ばすウサギが走り出して行く。

「あわわわ…」

取り残された形になっていたリーダー格の少女はその様子を見て腰を抜かすと、

フワリ

白蛇堂はその少女の前に降り、

『あたしの薬で悪戯をした罰を受けなさい』

碧眼で少女を睨み付けながら、

ピンッ!

と彼女の額を指で弾いた。

すると、

ボンッ!

少女の体は爆発するかのようにはじけ飛び、

その中から無数の蝶が一斉に舞い踊ると、

ヒラヒラと空に向かって飛び立って行く。

『あらあら、

 あたしの術は半日で切れるから、

 風に流されないように固まって飛んでいくのよ。

 じゃないと、元に戻ったとき悲惨よぉ』

風に流されるようにして飛び去っていく蝶に向かって白蛇堂は笑いながら警告をし、

そして、改めて少年へと視線を動かすと、

『さて、君っ。

 どうする?』

と問い尋ねた。

「え?」

白蛇堂の問いかけに少年は驚くと、

『元の男の子に戻るのか、

 それとも、本物の女の子になるのか

 いま決めなさい』

白蛇堂は少年の決意を再確認する。

「うっ、

 あっあの…

 おっ女の子にして下さい」

その問いに少年は自分の決意を改めて言うと、

『そっ、判ったわっ、

 あなたを本物の女の子にしてあげる。

 その代わり男の子には戻れないから覚悟しなさい』

と白蛇堂は言う。

コクリ

彼女の言葉に少年は静かに頷くと、

『よろしい』

白蛇堂は大きく頷いて大きく両手を掲げ、

『(華代ちゃんの真似だけど…)

 そうれっ!』

かけ声と共にその手を振り下ろした。



『いらっしゃいませ、

 いらっしゃいませ』

その数日後、

いつもと同じように業屋が店先で声を上げていると、

「あの、白蛇堂さんはいらっしゃいますか?」

と問い尋ねる声が響く。

『はいっ?』

その声に業屋が振り返ると、

真新しい制服に包まれた少女が立っていた。

『えっとぉ』

少女を見ながら業屋は考え込んでいると、

「居ないのでしたら、

 伝言をお願いします。

 あたし…

 女の子になってとても幸せです。と」

笑みを浮かべながら少女はそう告げると、

足取り軽く走り去っていった。

『はぁ…

 白蛇堂どのも人に褒められることをするのですなぁ…』

走り去っていく彼女の背中を見送りながら業屋は感心しながらそう呟くと、

『いらっしゃいませぇ』

と声を張り上げた。



おわり