風祭文庫・異性変身の館






「ホトアワビ」


作・風祭玲

Vol.939





コトコトコトコト…

キッチンに煮立つ音がこだまし、

シュッシュッシュッ

コンロの上では火にかけられている鍋が盛んに湯気が吹き上げている。

そんな鍋を割烹着姿のススムは口を真一文字にしてじっと見下ろしていると、

フワリ

鍋より湧き上がってきた芳しい香りがキッチンを包み込みはじめた。

そして、

「ふっふっふっ、

 いいぞいいぞ」

漂ってくる匂いを嗅ぎつつススムは笑みを浮かべながら、

「えーと、

 こんなものだな…

 よしっ」

貝料理のレシピが並ぶクッキング本を見ながら頃合を見計らい、

徐に鍋の蓋を取って見た。

「うーん」

唸るような声を上げつつ

ススムはじっと鍋の中とレシピを見比べてみせた後、

「うんっ、

 この色なら大丈夫だなっ

 よしっ

 これでおっけーっ!」

味見をせずにレシピの記述を再点検したススムは手早く火を止め、

出来がっていたものを慎重に皿へ盛り付けをはじめるが、

「くっくっくっ、

 これをアニキ…じゃなくて姉貴が食べれば…

 あいつは元の女に…

 はぁ、長かったなぁ…

 辛かったぁ…」

と盛り付けの途中でこの日まで起きたさまざまなことをつい思い出してしまうと、

「うっうぅっ」

つい涙してしまい、

そのまま崩れるようにして蹲りながらすすり泣き始めたのであった。

そして、

ジワジワと痛んでくるお尻をさすりながら、

「もぅすぐ、

 もぅすぐこの痛みともお別れになるんだ

 毎晩毎晩アニキ…じゃなかった姉貴の相手をするなんて、

 もぅごめんだ。

 俺は今夜、男に戻るんだ。

 そうだ、

 このホトアワビがあれば…俺は自由の身だ」

決意を新たにすると再び立ち上がり盛り付けの続きを始めだす。

と、そのとき、

「おっ好い匂いだな…」

男の声がキッチンに響き渡り、

「何を作っていたんだ?」

の言葉と共にダンコンダケを食べたために、

ナイスガイに変貌してしまったススムの姉ノリコが台所に来たのであった。

「あっ姉…

 じゃなかった、

 アニキ!!」

ノリコを見ながらススムは表情を硬くしてしまうと、

「なっなんだよっ

 驚いた顔をして…

 俺の顔に変なものが付いているか?」

ススムの表情を見たノリコは困惑しながら自分の顔をさすってみせる。

「首筋にキスマークがあるよ」

そんな元姉に向かってススムは横目で言うと、

「ん?

 そうか?

 ちっ、あの女めっ、

 こんなところにキスマークをつけてやがったか」

とノリコは首筋を擦ってみせる。

「また、ナンパしてたの?」

それを見たススムは呆れ半分に尋ねると、

「いや…

 こっちからは仕掛けてないよ、

 向こうから言い寄って来るんだよ」

とノリコは返事をし、

「なぁ聞けよ、

 今日の女…

 俺のチンポをべちょべちょのマンコで咥えこんだと思ったら、

 いきなり締め付けて来やがってよ、

 俺のガキを産みたいから中出ししろ。なんて言い出したんだよ。

 いや、まいっちゃうよなぁこういうのって」

とノリコはススムに話しかけてきた。

「ふーん」

その話にススムは興味が無いような返事をすると、

「全く、なんで女って簡単に股を開くんだろうな。

 俺、そういうのってすっごく萎えるんだよ」

とノリコはつい先日まで女であったことなど忘れたかのようにして言うが、

「アニキだって女だったじゃないかよ」

すかさずススムは釘を刺した。

「あはは…

 そう言えばそうだったな、

 いやぁ、男になったときはどうしようかと思ったけど、

 でも、こうして男の体で生活してみると便利なものだよ。

 街を歩けばすぐに女は言い寄ってくるし、

 なんか俺の体から女を集めるフェロモンが出ているのかな?」

と言いつつノリコは自分の腕の匂いを嗅ぐ仕草をしてみせる。

「…まったく…

 本当なら俺がそうなるはずだったのに…」

ノリコの”自慢話”を聞きながらススムは小声で文句を言うと、

「ん?

 何か言ったか?」

そう囁きながらノリコはススムの顔のすぐ横に自分の顔を付け囁いてみせる。

「いっ!」

突然のことにススムは驚くと、

「ふふっ、

 いろんな女を抱いたけど、

 でも、締まり具合はお前のケツが一番だったよ。

 なぁ、また今夜…いいだろう…」

とノリコはススムのお尻を撫でながら問い尋ねる。

そう、ススムは夜になるとノリコの”オンナ”となり、

排泄しか知らない肛門でノリコのそそり立つペニスを飲み込まされていたのであった。

「うっ…」

ノリコの言葉にススムは声を詰まらせると、

「なんだよ、イヤなのか?」

とノリコは男前の顔でじっとススムを見つめてみせる。

すると、

「そっそんなことよりもさ」

とススムは話題を変えようとして声を上げると、

「蒸しアワビを作ってみたんだけど、

 食べて…」

とノリコにさっき自分が作った料理を差し出したのであった。



「蒸しアワビ?」

目の前に差し出された皿を見ながらノリコは尋ねると、

「うっうん、

 取れたての新鮮なアワビだよ。

 とっても美味しいよ」

とススムは作り笑いをしながら薦めてみせる。

「新鮮なアワビかぁ…

 うーん、

 じゃっ先にお前が食べてみろ」

アワビを見ながらノリコはそう指示をすると、

「え?」

その言葉にススムはキョトンとして見せた。

だが、

「どうした?

 先に食べて良いよ、

 せっかくお前が作ったんだろう?

 それとも何か?

 自分が食べられないものを俺に薦めるのか?」

とノリコは言うと、

バッ!

羽織っていた上着を脱ぎ去り、

絞られた男の体を見せ付ける。

「いやっ

 そうじゃなくて、

 俺はアニキに先に食べてもらいたくて…」

とススムは言葉を選びながら言うが、

「だから、

 お前が先に食べろって…」

ノリコはそれを拒否するかのようにして言う。

「うぅ…」

言葉を交わすごとに薮蛇となっていく状況にススムはついに黙ってしまうと、

「なんだよ、

 食べないのか?

 じゃぁ、俺が食べさせてやろうか」

とニヤリと不敵な笑みを浮かべながらノリコは言うと、

いきなりススムをお姫様抱っこをし、

そして、そのまま居間へと連れて行くと、

ズンッ!

居間の真ん中に胡坐を掻き、

その胡坐の中にススムを座らせながら、

尻に自分のペニスの膨らみを押し付ける。

そして、ススムが持っていたアワビの皿を取り上げると、

「さぁ、食べなさい」

と言いながら箸で摘み上げたアワビをススムの口元へと持ってこさせたのであった。

「………」

「どうした食べないのか?」

ぐっと口を閉じるススムを見てノリコはやさしく尋ねるが、

「そんなに食べたくないとなれば、

 無理やりでも食べさせたくなるよな」

といた途端、

バッ!

ノリコは無理やりススムの口をこじ開けさせ、

その口の中にアワビを流し込むと、

一気に飲み込ませてしまったのであった。

「うごぉ!」

アワビを食べさせられたススムはノリコを突き飛ばして駆け出そうとするが、

ムリムリムリ

プルンッ!

まるで飛び出すようにしてロケットの先端のような膨らみがススムの胸から飛び出すと、

ジワジワジワ…

次第に腰がくびれ、

ヒップが張り出してくる。

「あわわわ…」

次第に甲高くなっていく声を上げながらススムは振り返ると、

「へぇぇ」

胡坐を掻くノリコは興味深そうにススムを見つめ

「お前、俺を女に戻そうとしたわけか、

 ミイラ取りがミイラになったわけか」

と言いながら笑みを見せる。

「そんな…

 そんな…何で……」

絶望に似た表情で笑みをみせるノリコを見ながらススムは呆然とするが、

その間にも彼の体は女性化し、

クチュッ…

股間に縦溝が刻まれ、

子供を育む器官がススムの体内に作られていくと、

ビクッ!

「あんっ」
 
ススムは伸びた髪を揺らしながら喘ぎ声をあげてしまった。

「へへっ、

 すっかり女になってしまったみたいだな」

ススムの女性化が終わるのを見計らってノリコは腰を上げると、

「さぁ、俺のことを”お兄ちゃん”って呼べ、

 ちょうど、お前のような妹がちょうど欲しかったんだ」

と言いながらススムを抱き上げてみせる。

「ちょちょっと、

 どっ何処に連れて行く気?」

お姫様抱っこをさせられ、

足をばたばたを動かしながらススムは尋ねると、

「決まっているだろう?

 これから何をするのか」

と股間を大きく突き上げてノリコは返事をする。

「やめて、お兄ちゃんっ、

 あたし達、姉弟よ。

 だめよ、変なことをしちゃぁ」

それを聞いたススムはノリコを咎めようとするが、

「いまは兄妹さっ、

 禁断の恋っていうのもいいじゃないか」

白い歯を輝かせながらノリコはそういうと、

スッ

襖を開け、

床が敷かれている寝室へと入っていったのであった。



おわり