風祭文庫・異性変身の館






「初詣」


作・風祭玲

Vol.712





シャララン!!

気持ちが改まる元日の朝。

やや曇り空の下に鈴の音が鳴り響くと

パンパン!

本殿の元に振袖を来た一人の人影が立ち、

拍手を打つ。

名前は綾小路ヒカル。

その容姿と名前は一見すると少女を思い起こさせるが、

だが、ヒカルは列記とした男性…であり、

某名門高校に通う男子高校生であった。

「(…どうか、

  今年こそ、女の子になれますように)」

口には出さずに心の中でヒカルはそう唱える。

どんな願い事でも必ず叶うとうわさの神社に来た彼は、

年の初めの願いとしてそう唱えたのであった。

「よろしくお願いします」

幾度も念を押した後、

ヒカルはそういって頭を下げると、

『はて、どうしたものかいのぅ』

と社殿の奥に鎮座するご神体からそのような声が漏れた。

そして、

『むーっ

 確かに男の子にしておくのは勿体無いくらいにかわいいし、

 まっ一回だけ、

 チャンスを与えてやろう』

と声はつぶやくと、

『そーれっ!』

と声を張り上げた。



「やったぁ、

 大吉だ」

笑みを浮かべる巫女さんからおみくじを引いたヒカルは、

その文面に大吉と書かれているこたことに飛び上がるが、

すぐに、我に返ると、

「といっても、

 女の子になれるわけじゃないんだよなぁ」

とため息をついてしまった。

そして、

「はぁ…

 あんなお願いで女の子になんてなれるわけもないか」

と初詣からの帰り道、

ヒカルがため息をつきながら歩いていくと、

やや薄暗い路地へと入って行く、

長く振袖を着ていたいヒカルにとって、

本当は通りたくは無いのだが、

だが、来るときに見た

この先の雑踏を避けるための抜け道であるために、

仕方なく道を曲がると路地へと入っていったのであった。

ヒヤッ!

日が差し込まない路地は文字通り真冬の寒さで、

「うぅ、寒い…」

ヒカルは身を縮こまらせながら先を急いだ。

と、そのとき、

キラッ☆

前方の路上に携帯らしいものが落ちているのが目に入ると、

「なにかな?」

ヒカルは近寄り、それを拾い上げた。

手にとってみると、

それは普通に売っている携帯より一回り小さく、

「あれ?

 おもちゃか?」

ヒカルは訝しがりながら二つ折りになっているそれを開いてみせる。

「むーっ

 見たところ、普通の携帯に見えるけど…

 はっ、

 まっまさかっ、

 この中から渦巻き耳の変な生き物が出てきて、
 
 希望のナントヤラを守ってくれなんて言ってくるんじゃ…

 どっどうしよう、

 そんな、僕、女の子でもないのに…

 あぁでも、変身するなら、

 お花よりも鳥のほうが良いかなぁ…」

などと、ヒカルは拾った携帯を相手に一人勝手に盛り上がていた。

そして、

「…あ……」

突然我に返ると、

顔を赤らめながら周囲を見回し、

そして、誰も居ないことを確認すると、

ホッ

とした表情を見せながら、

「あーぁ、

 またやってしまった…

 でも、誰も居なくてよかった」

と胸に手を置き一呼吸してみせる。

そして手にしているジッとその携帯を眺めた後、

ヒカルは何も言わずに徐に耳に当ててみると、

『申し訳ありません。

 我々が叶えらる願いは一つのみでして、

 あなたの場合は先ほどお社にてお預かりした願いが対象となります。

 さて、あなたは女性になりたくありませんか』

と携帯から話しかけてきた。

「うわっ」

突然の話しかけにヒカルは驚いて手から携帯を落としそうになるが

ピンッ!

携帯からヒカルの耳の穴へは

触覚のような管ですでにつながっており、

「なっなに?」

それに気づいたヒカルはあわてて引っ張るものの、

耳の奥が引っぱられるようで

ただ、痛いだけであった。

「いてててて!!!」

管がつながっている側の耳を下に向けながら、

ヒカルは悲鳴を上げていると、

『申し訳ございません。

 あなたの変身はもう始まっております。

 楽にしてれば、すぐ終わりますよ』

と注意を受けるが、

「あっ

 あの、変身って…」

携帯から響いてくる言葉の意味をヒカルは尋ねるものの、

『大丈夫ですよ、

 どこか、公園のベンチにでも座ってお待ちください』

と言うだけだった。

「ううっ…

 どうなっちゃうんだ?」

ヒカルはひざが震わせ、

携帯を耳にあてながら歩き始めると、

路地を抜け、

程なくして姿を見せた小さな公園へと入っていく、

そして、そこに据え付けてあるベンチに腰をかけた。

「うーん、

 どうすればいいんだよ」

と耳にぶら下がった携帯を持っていると、

ズルズル

ズルズル

携帯から耳の奥へと何かが入ってくる感触がし始めた。

「うわっ」

その感触に驚きながらヒカルは目を瞑ってしまうが、

パチッ

パチッ

瞑った目の視界には映画の映像のような

まばゆい光が光るだけだった。

そのうちに

グッググググッ

っとヒカルの肩が誰かに抑えられるような感触があると、

ジワジワ…

っと肩幅が縮んで行く感触が起き、

すぐに、

ムニムニムニ

っとヒカルの胸が膨らみ始めた。

そして、

見る見る膨らんでくると、

ヒカルが着ていた振袖を下より持ち上げ、

その一方でウェストに緩みが出てきた。

「うわぁぁぁ…」

体形が変わり着崩れし始めてきた振袖に、

ヒカルが慌てはじめだしたときには

胸の乳首は女性のように大きく膨れ、

敏感になってくると、

襦袢に触れるだけで感じ始めてきた。

「あぁ…

 オッパイが…」

膨らみ続ける胸を腫れ物に触るかのように手を触れさせながら、

ヒカルは思わずつぶやくが、

その胸はすでに立派なバストへとなっていた。

メキッ!

「あんっ」

肋骨から痛みが発してきた。

同時にギシギシと音を出してくると、

今度はお腹がぐるぐる鳴り始める。

すると、

ジッジジジ…

ヒカルの耳に入っている管がまたいやな機械音を出し始めた。

「うっ」

その音にヒカルは少し引いてみるが、

やはり携帯は離れない。

また腹の中で何かがうごめくような感触がしてくると、

今度は自分のペニスが引っ張られはじめた。

「あっあぁぁぁ…」

強い力でペニスが引っ張られる感覚に、

ヒカルは慌てて股間を押さえるが、

すでに、ヒカルのペニスは彼の体内にもぐりこんでしまっていて

そこには縦に閉じる溝が刻まれているだけになっていた。

「あぁぁぁ…

 無くなっている…

 ぼっ僕のオチンチンが、

 そんな」

振袖の上から股間に手を当て

ヒカルは何もなくなってしまった股間に呆然とする。

まだ腹の中ではグズグズと音が鳴り続け、

肋骨が今までよりも細くなる。

そして、胸には

持ち上げると重く感じられるほどのバストが存在を誇示している。

「どっどうしよう…

 僕、女の子に…」

急速に女性化してくる体にヒカルが困惑をしていると、

あれだけ鳴っていたお腹の音が収まった。

だが、それと同時に足がサポーターをつけたときのような締め付けと、

足先もまたきつい靴を履いたときのような締め付けられる感覚が走った。

「うぅっ」

ミシミシと締め付けられる脚の感覚にヒカルは脚を抑えようとするが、

今度はその腕も締め付けられ始め、

さらに、体全体が絞り込まれるように締め付けられていった。

「くっ苦しい…」

何かの型枠に嵌め込まれるような息苦しさに、

ヒカルは苦しまされる。

そして数分たった後、

あの耳についた携帯より

『終わりました。女性に完全に代わりました』

との声と同時に

フワァッ…

ヒカルを苦しめてきた締め付け感が一気に消えてしまうと、

「ふはぁぁぁ」

ヒカルは思いっきり深呼吸をする。

「なっなにが…」

呼吸を整え、

ヒカルは下に落ちてしまている携帯を取ろうとするが、

『お前の願いは叶えた。

 これからは女として生きるが良い』

と威厳に満ちた声が響き、

シュワァァァァ…

落ちている携帯は蒸発をするかのように消えてしまった。

「えーーーっつ」

その声にヒカルは悲鳴を上げるが、

ベンチには振袖を来た乙女が一人座っていたのであった。



「僕…本物の女の子になっちゃった…

 ってやっぱり、

 あの神社ってお願いが叶うんだ」



おわり