風祭文庫・異性変身の館






「性転換パンツ」


作・風祭玲

Vol.629





『性転換パンツ入荷しました』


「なっなんだこれは…」

クルマの往来が激しい夕方の国道沿い。

自宅から歩いて5分ほどの所にある

ディスカウントストアの正面のポップに

僕の目は思わず釘付けになってしまった。

「性転換パンツってやっぱアレ?

 男の子が女の子になるってことか。

 でも、そんなこと簡単にできるのかよ?

 いや、まてよ、

 聞いたことがある。

 女装をする人が股間のモッコリを隠すための用品があると、
 
 そっか、
 
 そうだよな、
 
 うん、それに決まっている。
 
 でも、
 
 なんで、そんなのがこの店に?
 
 コスプレでも扱うようになったのかな?」

コスプレ用品とは縁が薄かったこれまでの事を考えながら

僕は店に入ると、

「あれ?」

その店の中はいつもと変わらず、

商品棚にはいつもと同じ医薬品に化粧品

そして日用雑貨の類が陳列されてあった。

「ん?

 なんだ?
 
 昨日と変わらないじゃないか、

 ユザ●ヤのような感じじゃないのか?」

本当に全く変わらない店内に僕は戸惑いながらも、

「まっ…

 とりあえず、買い物っと」

気を取り直し、

必用な品々を次々と買い物カゴへ入れていく、

そして、

「あっと、

 あれにこれにそれにこれ…っと」

買い物かごの中の商品を確認し終わると、

そのままレジに向かっていった。

「いらっしゃいませ」

いつものアルバイトの娘が

いつもと同じ挨拶をして、

いつもと同じようにレジ打ちをはじめだす。

ピッ

ピッ

その横で僕はバーコードの読み取り音を聞きながら

ふと、

「あのさ…」

とバイトに尋ねた。

「はい?」

僕の声にバイトは振り向くと、

「表に書いてある性転換パンツって」

とやや顔を赤らめながら尋ねると、

「あぁ、見つかりませんでした?

 ちょっと待っててください」

そう言うなりレジを離れ、

そして程なく戻ってくると、

「ちょうど良かったですね、

 最後の一枚が残っていましたよ」

と言いながら、

ピッ!

レジを通した。

「(え?

  あっいやっ、
 
  別に買うとは…)」

バイトの行動に僕はそう言いかけるも、

「(まぁいいか)」

と思うと、

「全部で3983円になります」

いつもと同じようにバイトは金額を言いながら、

精算が終わった買い物カゴに手提げ袋を入れる。

「あっあぁ…」

その声に僕は財布を開き、

漱石・英世の混成部隊を4枚、1円玉を3枚手渡すと、

「はいっ、120円のおつりです。

 ありがとうございました」

とバイトの娘は僕に釣り銭を渡しながらこやかに笑った。



ガサッ

ガサガサッ

手提げ袋を鳴らしながら自転車に跨る僕は家路を急ぐ。

「性転換パンツってなんだ?」

成り行き上、

確かめずに買ってしまったこの妖しげな商品に

奇妙な期待を込めながら帰宅し、

そして、

「あら、早かったのね…」

と母親のかける声も聞こえないほど急いで自分の部屋に飛び込むと、

ガサッ!

僕は袋からあの性転換パンツを取り出した。

「ふむ…」

逸る気持ちを抑えながらパンツが入った袋を表に裏にひっくり返し、

つぶさに観察してみる。

見たところ、

ごく普通の女性用のパンツにしか見えない。

「値段は…

 えっ、998円?
 
 ちっ中国製かな?」

意外と安い値段に僕は思わず首を捻ってしまった。

本当に性転換をするならもっと高い値段が付くはずだし、

いや、そうあるべきだと思っていた。

「クスッ

 やっぱり、女の子の気分を味わうための女装用品か…」

パンツを見ながら僕は小さく笑うが、

「あれ?」

袋の中に入っている紙札を見つけ、

それをひっくり返してみると、

そこには黒蛇堂ケミカル・NASA承認と書いてあった。

「黒蛇堂ケミカル…って聞いたことがないな…

 でも…NASAって

 なんで?

 只の宣伝文句?

 でも、なんだこれは?」

ますます理由がわからなくなった僕は

包装のビニール袋を破りパンツを取り出してみる。

「うーん、

 全く持って…
 
 普通のパンツだよなぁ…」

大きく引き延ばしてみても、

鼻に近づけ臭いを嗅いで持ても、

コレと言って不審なところは見あたらなし、

全くごく普通の下着だった。

でも、こうして女性用のパンツははじめて手にするだけに、

ちょっと胸がドキドキして、

また、僕の股間はいつの間にか硬くなってしまっていた。

「どっどうしよう…」

パンツを手に僕はしばし迷うが、

「えぇいっ」

とばかりにいま着ている服に手を掛け、

Tシャツ一枚になるとパンツを脱ぎ、

性転換パンツに足を通す。

スススス…

パンツは何の抵抗もなく腰まで上がり、

ぴったりと僕の股間を覆うと、

思いっきり固くなっているチンポもパンツの中に隠れ、

見事なテントを作り上げている。

まさにぴったりである。

すると、

カサッ

性転換パンツに挟まれていたのだろうか、

一枚の紙が落ち、僕の足下に舞い落ちた。

「?」

パンツを穿いたままは、僕はそれを手に取り開いてみると、

『説明書』

と言う文字が真っ先に飛び込んでくる。

「説明書?」

その文字に僕は惹かれるように、

下に書いてある文章に目を通した。

1,性転換パンツの穿き方、

  1)すでに別のパンツをはかれている場合はそれを脱いでください。
  
  2)性転換パンツに足を通し、股間まで引き上げます。
  
  3)お尻が隠れるまで引き上げましたら、1分ほどお待ちください。
  
    10分で終了しますと…

とそこまで読んだとき、

キュッ!

僕の股間が締め付けられはじめた。

「え?」

「えぇ?」

その感覚に僕は驚くと、

ジワッ…

今度はパンツが熱くなりはじめる。

「えぇ、

 ちょっとヤバいんじゃ」

とんでもないことが起こったと、

僕は慌てて脱ごうとするが

ピチッ!

性転換パンツは僕の股間にぴったりくっついたまま脱げそうもない。

「まずい」

僕は慌てて机からハサミを取り出し、

パンツを引き裂こうとしたとき、

クックッククク…

あれだけ固くなっていた僕のチンポが見る見る小さくなり、

まるで引き込まれるようにしてパンツの中へと消えていってしまった。

「うそぉ!

 なっ無くなっちゃった?!」

生まれてこの方10ウン年、

常に僕の股間に下がっていたチンポが消えてしまったことに

僕は衝撃を受けていると、

ムズッ…

今度は下腹部が張ってきた。

痛いような、気持ち悪いようなその感覚に、

「うっ」

僕はお腹を押さえていると、

今度はTシャツを持ち上げるように胸が出てきた。

ムクッ

ムクムク…

まるで空気で膨らませるかのように僕の胸は膨らみ、

見事な果実の谷間を作り上げた。

「うそぉ…」

のど仏が消えた僕の口から、

トーンの高い声が漏れる。



「女の子になっちゃった…」



股間に浮かび上がる縦溝を細くなった指先でなぞりながら

僕は…いえ、あたしは実感していると、

ユルッ…

あれだけピッタリとくっついていたパンツが緩んできた。

「あっ」

その感覚にあたしは慌ててパンツを脱ぐが、

しかし、中から現れたのはまさに女性の股間…

陰毛の中でピッタリと口を噤んでいるクレパスが僕の目に飛び込んできた。

「あっ

 どっどうしよう…
 
 もっ元に戻れるのかな…」

シャツの下で揺れる胸を手で押さえながら説明書を読み直すと、

『この性転換パンツは使い捨てです。一回の使用品です』

の文字があった。

「使い捨て?

 って、あたしは女の子のまま?
 
 どっどうしよう」

困惑する僕の傍で性転換パンツは

使ったあとの紙おむつの様によれよれになって落ちて行った。



『こんにちわ、黒蛇堂です』

その声と共に事務所にスーツ姿の男性が姿を見せると、

『性転換パンツの追加分を置いていきますね』

そう言いながら男性はワゴンから下ろしたダンボールを

そのまま店のバックヤードへと運び入れていく。

「あっお疲れ様です」

その音に店長が事務室から飛び出してくると、

「そのパンツ、結構売れるんだよね」

と話しかけてきた。

『はいっ

 毎度ありがとうございます』

男性は笑み見せながら返事をすると、

『これからもよろしくお願いします』

と言いなから深々と頭を下げた。



おわり