風祭文庫・異性変身の館






「ルージュ」


作・風祭玲

Vol.540





「ちょっと、そこの君」

「はい?」

その女性に声を掛けられたのは僕にとって17回目となる誕生日の朝だった。

「なにか用ですか?」

登校途中に呼び止められてことに少し腹を立てていた僕は

いぶかしげながら尋ねると、

「ふふっ」

真っ赤なルージュがかすかに笑みを浮かべ、

「はいっ

 これを差し上げるわ…」

と僕に告げると、

サッ

小さな手提げの紙袋を僕に差し出した。

「え?」

突然のことに僕は驚くと、

「どうしたの?」

とルージュは驚いた訳を尋ねる。

「どっどうって…

 何で僕に?
 
 だって、いま会ったばかりでしょう?」

訳も無く差し出されたプレゼントに僕は驚きながら聞き返すと、

「あらっ

 プレゼントを貰うのに理由はあるの?」

とルージュは聞き返す。

「それはあるに決まっているでしょう」

その言葉にすかさず言い返すと、

「ふふっ

 そうねぇ…」

ルージュは少し考えるフリをすると、

「それは、あなただからよっ」

と言いながら、

ギュッ!

僕に紙袋を強引に手渡し、

「確かに渡したわよ」

と言う声が頭の中に直接響き渡った。

「え?」

その声に僕は慌てて顔を上げるが、

しかし、そのときにはルージュをつけた女性の姿は無く、

ただ、彼女の台詞に合わせて動く真紅のルージュのみが僕の記憶に残っていた。



「ふぅぅん、

 で、その女性の顔も」

「スタイルも」

「何も記憶に無いのか?」

登校後、

紙袋の素性を聞かれた僕は口々にそういわれる。

「うっうん

 なんにも覚えていないんだよ」

机の上においた紙袋をじっと見つめながら僕はそう返事をすると、

「それにしてもなぁ…」

「いきなり、誕生日おめでとうだなんて」

「なんか気味悪いよなぁ」

いきさつを知った悪友達は口々にそう言い、

そして、

「まっ

 とりあえず、何を貰ったのか
 
 あけてみろよ」

と一人が提案をした。

「うっうん」

その声に押されるようにして僕はうなづき、

そして紙袋に手を掛ける。

カサッ

手提げの小さな紙袋は小さく乾いた音を立てながら開くと

その中からさらに小さな包みが出てきた。

「なんだ?」

紙袋から出てきた長さ5cm、横幅2cmほどの筒状の包みを

僕はしげしげと見ていると、

「なんだそれは?」

と言う声と共に手が伸び

パッ

瞬く間に僕の手から包みを奪い去ってしまった。

「あっこらっ」

悪友の思いがけない行動に僕は抗議の声を上げるが、

「もったいぶるなよっ」

と言いながら悪友は小さな包みを開き、

その中から出てきた小箱を開けてしまった。

すると、

「え?

 口紅?」

彼のその言葉と共に

コロン

一本のルージュが彼の手のひらに転がり落ちる。

「………」

言い様も無い無言の時間が過ぎた後、

ポンッ

いきなり僕の肩が叩かれると、

「よーしっ

 そのお姉さんのプレゼントを使ってあげようでないか」

という言葉と共に

ガシッ

いきなり僕は羽交い絞めにされると、

キュッ!

大きく伸びたルージュが僕の口に迫ってきた。

「ばっ馬鹿な事はやめろ」

迫るルージュを見つめながら僕はそう怒鳴るが、

「ふふふ…

 なにが馬鹿だって?
 
 だってこれはお前の口紅だろう?」

「そーそ、

 どこのお姉さんがくれたのか知らないけど」

「ふふっ

 そのお姉さんに感謝する意味でも
 
 ちゃぁんと塗らないとな」

という言葉と共にルージュが僕の唇に押し押し当てられる。

ぬりっ

「わっ!!」

唇の上を移動していくルージュの感触に僕は声を上げようとするが、

「おいっ

 口を動かすなっ
 
 口紅ははみ出すじゃないか」

悪友はそう言いながら僕の口にルージュを塗り続け、

そして、下唇を塗ってしまうと、

「ふふっ

 中津くーん、
 
 なかなかセクシーだよぉ」

と感想を言いながら離れていった。

「え?

 うっうわぁぁ!!」

ようやく自由になった僕は口を押さえ、

教室を飛び出すと一直線にトイレへと駆け込んだ、

そして、そこにある洗面所に自分の顔を映し出すなり、

「あーたく

 なんてことをしてくれたんだよ」

と文句を言いながら

ティッシュで自分の唇に塗られたルージュを拭い取ろうとするが、

しかし、幾ら拭いても唇に塗られたルージュを取り去る事は出来なかった。

「え?

 うそっ
 
 なっなんで?」

鏡に向かってなかなか取れないルージュに悪戦苦闘していると、

ズルッ

着ていた制服がかすかにずれる。

最初は気に留めなかったが、

しかし、

ズルッ

ズルッ

と動いていく制服に僕の注意が向くと、

「え?

 あれ?」

いつの間にか着ていた制服がダブダブになり、

ティッシュを持つ手の下で制服の袖口がだらしなく下がっていた。

「なんだこれは?」

まるで自分の身体が一回り小さくなってしまったかのようなその姿に僕は驚くが、

それ以上に、

「へっ」

鏡に写る自分の顔に思わず目を見張った。

確かにルージュを塗られたせいで多少は女っぽく見えていたのだが、

いま目に入る自分の顔はそれ以上に女っぽく…

いや、女性と言っても誰も気がつかないくらいに変化していたのであった。

そして、

「なっ

 なんだこれぇ
 
 !!っ」

自分の顔を見て思わず出た声の違和感に僕は慌てて口をつぐみ、

「(なんだよぉ…

  声がまるで女の子じゃないかよ)」

と心の中でつぶやきながら、

「なっなんか

 だんだんと女の子になっていくような…」

得体の知れない恐怖感に僕が包まれて行った。



ジャーッ

蛇口より流れ出る水道の音を聞きながら僕はじっと自分を見つめていると、

「おいっ、

 中津っ

 鏡の前でさっきから何をやっているんだ、

 1時間目は体育だぞ」

と言いながら用を終えたクラスメイトが僕の横に立つと手を洗い始める。

そして、その去り際、

「さっさとしろよ!」

の声と共に、

バシンッ!!

僕の背中が思いっきりひっぱたかれた途端、

ビクンっ

身体の中を電撃が一気に貫いていくと、

「(ひゃうんっ)」

僕は頭の中で思いっきり叫び声をあげながら

その場にへたり込んでしまった。

「おっおいっ

 そっそんなに強くひっぱたいたか?」

「うっううんっ

 だっ大丈夫
 
 大丈夫だから」

驚く声に僕は喉を押さえ、

声を作りながらそう返事をすると、

「悪い…

 体調が悪いんだ、

 今日、体育は休むって先生に言ってくれ」

と付け加えて個室に駆け込むようにして飛び込んだ。



「あぁ、じゃぁそう伝えておくよ」

そんな僕をクラスメイトは訝しげながら去っていくと、

「ふぅ…」

僕は崩れるようにして便座の蓋の上に座り込んだ。

ジンッ

叩かれた際の衝撃がまだ身体の中を反響し合い、

まるで蓋を閉じたコップの中で暴れる水のように、

僕の身体を内側から叩き続け、

それによる火照ったような暑苦しさを感じながら

僕は感度を増してゆく自分の腕を眺めると、

「一体どうしちゃったんだろう…」

と呟きながら腕を下へと下ろした。




それから20分以上が過ぎた。

すでに1時間目の授業が始まったらしく、

校内から騒々しさが消え、つかの間の静寂が支配する。

しかし、

「はぁはぁ

 はぁはぁ」

ジンジン…

ジンジン…

個室の中の僕は身体の中から湧き上がってくる

得体の知れない欲求にただもだえていた。

「うっくっ」

滴る汗を顔からこぼしながら僕はそれに耐えながらも

下に落とした指が次第に股間へと這いずっていく、

「うっ

 だっダメだっ
 
 こんなところで」

股間へ忍び寄る指を押さえつつ

僕はこれからしようとしていることを否定するが、

けど、指は股間に取り付くと、

ズボンの中へともぐりこみ始めた。

「だっダメぇぇっ」

もぐりこんでいく指に向かって僕はそう叫ぶのと同時に、

ニュルンッ!!

その指先が縦に開く割れ目を捕らえた。

「え?

 なっなに
 
 これ…」

ウニウニ…

あるはずの無いそれを指でなぞりながら僕は驚くと、

慌ててズボンと下着をおろして覗き込んだ。



「そんな…

 こっこれって…
 
 おっオマン…」

股間に浮かぶ縦溝を眺めながら僕の口からその言葉が漏れ、

「うそだろう…

 なっなんで…」

信じられない物を見るような口調で僕はその溝に指を這わした。

すると、

ビクン

「あんっ!!」

これまでよりもはるかに強い衝撃が僕を襲い、

一瞬、僕の身体が浮き上がると、

ドサッ

大きな物音を立てて便座の蓋に落ちる。

ふはぁ

ふはぁ

「あっ

 あぁ
 
 きっ気持ち良い…」

クニュクニュ

溝を弄りながら僕はそう呟くと、

「はぁ

 もっと
 
 もっと…」

まるで盛りのついたメス猫のごとく快感を求めて、

次第に激しく溝を弄り始め、

そして、

「あっあぁっ

 あぁ〜っ
 
 いっいくぅぅぅ〜っ」

初体験となる絶頂を味わったのはそれから程なくのことだった。



キーンコーン…

1時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響く中、

ジャーッ!!!

トイレに水洗の音が響きわたると、

「へへへ…

 まっ参ったな…
 
 おっオナニーちょっとしすぎたかな…」

肩まで掛かり始めた髪を振り払い、

そして、股の縦溝から流れ出る愛液を腿にしたらせながら

僕はフラフラと廊下を歩き出した。

そして、歩くたびに

ツンツンと膨らんだ乳首からの刺激を感じながらも、

なんとか教室へと戻ると、

「あっあぁ…

 いっいいっ
 
 いっちゃうっ」

「あんっ

 もっと…
 
 もっとオッパイを吸ってぇぇ」

教室の中では口にルージュを引いた全裸の女達が絡み合い、

そして舐めあっていた。

「こっこれは…」

衝撃の光景に僕は驚いていると、

「あっ

 トイレ長かったのね…」

絡み合っている女の一人が僕に気がつくと、

男のもののパンツをあげながら僕の傍に寄ってきた。

「だっ

 だれ?」

目の前に迫った女の子に僕は尋ねると、

「うふっ

 あたしの事忘れちゃったの?」

彼女はそう言いながら僕の顎を軽くなでる。

「え?」

彼女の言葉に僕は驚くと、

「ふふっ」

「うふふっ」

たちまち乳房を揺らす数人の女が僕を取り囲み、

「あなたが持ってきたルージュをつけたら

 みんな女の子になっちゃったのよ」

と口をそろえて僕に告げた。

「え?

 えぇ?」

彼女達の言葉に僕は驚き、

そして改めて見ると、

「あっ」

そう、いま僕の間の前に立つ彼女達は、

僕の口にルージュを塗った悪友達である事に気がついた。

「おっおまえら
 
 女になっちゃったのかよ」

震える指で僕は指差すと、
 
「うふふっ

 あなたも女の子になっちゃんったんでしょう

 さぁこっちに来て、
 
 お仲間じゃない」

と言いながら手にしたルージュを掲げた。

「あっそれは!!!」

半分ほどになってしまったルージュを指差し僕が声をあげると、

「うふっ

 一緒に楽しみましょう
 
 女の子同士…
 
 気持ち良いわよぉ」

と言いながら僕に絡みつき、

「あっ

 いっいやっ」

叫び声を上げる僕を教室内へと引き込んでいった。



「よう、どうだった?」

「え?」

「お前がまいた種の成果だよ」

「さぁ?

 もぅしばらくすれば結果が見えると思うよ」

「そうか」

「さーて、

 この性転換ルージュの威力、

 どれほどのモノなのか楽しみだなぁ」

ルージュが塗られた口はそう呟くとニヤリと笑った。



おわり