風祭文庫・乙女変身の館






「代償」


原作・山田天授(加筆修正・風祭玲)


Vol.T-225





学校…

多数の児童生徒がその場に集い、

勉学に励み、

運動に汗を流す空間。

しかし、大勢の人間が集う空間は歪みやすく、

歪んだ空間は異界より様々な者を呼び込んでしまう扉でもある。



「ここを、こうやって…」

僕、大崎牧夫は学校の図書室から借りてきた本を横目に

床にある魔法陣を描いていた。

「本当にこれで悪魔を償還できるのかな」

西脇先生が図書室に置いたと言われる本を片手にして

僕は最後の線を書き足しながらそう呟いた。

そして、

「うん、

 これで良しと!!」

そう叫んだのとほぼ同時に、

モクモクモク!!

なにやら怪しげな煙が魔方陣から出てくるなり、

瞬く間に巨人の形になって行く。

そして、

「お前が俺を呼んだのか?」

と煙の巨人が尋ねると、

「そうだ」

僕は目の前の煙の巨人

俗に言う”悪魔”を睨みつけながら答えた。

「なら、

 俺が悪魔だという事も承知しているのだな?」

「もちろんだ!!

 それにちゃんと生贄も用意してある!!」

悪魔の質問に僕はそう答えると、

チャッ!

クローゼットを開け、

中から、

クラスメイトの大野泰男を引きずりだした。

そして、

「大野君、起きろ」

と僕は大野君の頬を叩きながら怒鳴ると、

「うーん…ここは…」

寝ぼけているのか大野君はキョロキョロを周囲を見回し始めた。

「悪魔さん。

 こいつが生贄です。

 どうぞお納めください」

大野君が目を覚ましたのを確認すると、

僕は悪魔に向かってそう言う。

すると、

「ハッ!」

その時になって大野君は目を覚ましたのか、

「おい、大崎!!

 俺にこんなことしてただで済むと思ってるのか!!」

僕に怒鳴りつけるが、

「もうお前なんか怖くないよ。

 君は今から死ぬんだから」

と僕は胸を張って言う。

「はぁ?」

僕のその台詞に大野君は首を捻ると、

「少しいいか?」

とずっと黙っていた悪魔が口を開いた。

「なんでしょうか?」

その言葉に僕は返事をすると、

「そいつが生贄で間違いないんだな?」

と悪魔は再確認をする。

「はい。

 もちろんです」

鼻息荒くそう僕が返事をすると、

「そうか。

 確かにいただいた」

と悪魔は納得するが、

「おいっ俺の意見も聞かずに勝手に決めるな!!!」

と大野君は怒鳴る。

そして、

「殺せるもんなら殺してみろ!!

 このウスノロが!!」

と嗾けた途端、

「ふんっ

 俺は男は余り好きではなくてな…」

悪魔はそう呟くと、

「うぐっ」

急に大野君が苦しみだした。

そして、

「か…体が…」

と大野君が声を上げると、

見る見る大野君の体が変わり始めだした。。

まず、骨格が変わり、

体に丸みが帯びて行くと、

彼が運動で鍛えていた筋肉も、

脂肪に変わったのかやわらかくなっていく。

さらに、日焼けで黒かった肌もどんどん白くなっていき、

あっと言う間に透き通るような肌になってしまった。

「ふん、

 まぁこんな物か…」

満足そうに悪魔が頷くと、

「おっ俺に何しやがった…」

と大野君が力なくそう声を上げるが、

その声もすでに鈴の音ような綺麗な声になっていた。

「なぁに、美味しくしただけだ。

 では、そろそろはじめるか」

舌舐めづりをしながら悪魔がそう言うと、

何処からともなく調理器具が現れ、

そして、

「料理の鉄人と呼ばれたこの私の腕、

 貴様に見せてやろう。

 くっくっ

 悪魔を侮辱した事、

 とくと後悔するがよい」

と声を響かせると、

ゴワッ!

五徳から紅蓮の炎が燃え上がる。

そして、

「いっいやぁぁぁ!!!」

その後には大野君の甲高い悲鳴が響き渡るだけだった。



カチャカチャ

「うむ、美味であった。

 はやり厳選された素材でこそ至高のメニューが出来るというものだ。

 では士郎よ、貴様の究極のメニューを見せてもらおうか」

ナプキンで口周りを整えながら悪魔が食事し終わると、

そこには大野君が存在したという痕跡が全く残っていなかった。

「うわぁぁぁ…

 本当に食べてしまったんだ」

すっかり平らげられた皿を見ながら僕は身体を震わせていると、

「で、貴様の望みはなんだ?」

と食事を終えた悪魔は

ジロリ

と僕を見据え尋ねる。

「あ、はい!!」

その声に僕は身を硬くして、

「平野さんを…生き返らせてほしいんです」

と懇願をした。

「ほぉう…死者の蘇生か」

それを聞いた悪魔はニヤリと笑うと、

「はい。

 実は…」

と僕は平野さんについて話し始める。

とても可愛いくて、

優しく、

しっかりした女の子だった事。

大野に告白されて大野君を振ったが逆に仕返しをされた事。

そして、最後は大野君達に呼ばれ、

そのまま帰らぬ人となった事―

「なるほどな…」

「僕は昔、

 彼女に助けられた事があったんです。

 ですからどうか…」

悪魔に泣き落としが通じるのかと思いながら、

僕は泣き落としにかかった。

すると、

「ふんっ

 まぁ、良いだろう。

 旨い食事を食べさせてもらった礼だ。

 では、はじめるか」

と悪魔が言った途端、

「ありがとうござ…って体が…あっあれ?」

僕は体がまたく動かなくなった事に気がついた。

そして、その一方で、

「あぁ、サタン様っ、

 平野沙紀さんの死亡記録はこれでございますが…」

「うむ、ご苦労」

何者かと悪魔とがそう話をしているのが聞こえたが、

だが最後の方はよく聞き取れなかった。

すると、

ギュッ!

僕の身体が巨大な手の様なもので握り締められると、

フッ!

僕が着ていた服が瞬く間に消え、

ヒタッ

露になった肌に何かが押し当てられると、

カンカンカン!

いきなり甲高い音を響き渡らせながら僕の体が削られ始めだした。

「うわっ、

 なっなんだぁ」

冷たく鋭く尖った金属の刃先が、

容赦なく僕の身体を削り取り、

さらに巨大な鑢が僕の肌をそぎ取っていく。

「ぐわぁぁぁ

 やめてくれ!」

問答無用、情け無用で作業は続き、

僕の身体は細くなり、

そして、華奢な姿へと変わっていった。

「うむ、

 よし、これで体の方は大体完成か」

「さすがはサタン様っ、

 悪魔界のフィギュア王を名乗るだけのことはありますな」

鑢掛けを終えた悪魔は満足そうに呟くと、

そのご機嫌を取る声が追って響いた。

「フィギュアって…一体何が…どうなって」

それを聞いた僕は思わずそう言うが

「え?」

だが、自分の口から出た声が甲高くなっていることに気がつくと、

「そうだな、

 このまま逝くのも可愛そうだ。

 最後に一目見るがよい」

と悪魔が言うなり、

パサッ!

いきなりさっきまで着ていたものとは違うものが着せられた。

そして、僕はゆっくりと下に降ろされると、

キラ☆

僕の前に鏡が置かれ、

そこには中学校の制服を着た女の子が姿が映し出された。

ロングヘアーのかみに大きめの瞳、

ほっそりした体つきの可愛らしい女の子

僕の憧れだった、

心の支えだった平野沙紀さんの姿がそこにあった…

「どうだ、

 中々の出来栄えだろうが」

悪魔がそう僕に話しかけると、

「では、心も変えてやろう」

と悪魔が言うと、

それが、僕の最後に見た光景となってしまった。



ピーポーピーポ…

「さっちゃん。

 今日はなんかパトカー多くない?」

「え?」

親友の響子ちゃんにそう言われて、

ハッ

私は気がつくと、

「どうしたの?」

と響子ちゃんはあたしの顔を覗き込んだ。

「うん、何か違うような気がするんだけど…」

そうあたしは心の中でモヤモヤとする違和感の事を口にするが、

ブルブル

っと首を横に振ると、

「うっ

 ううん、別に何でも無いよ」

とあたしは答えると、

「行こう」

と制服のスカートを翻して走り始めた。


「ふわぁぁ

 久方振りに下界に下りてみたが、

 ふんっ

 死人を生き返らせるには、

 術を使うための贄と、

 ヨリシロとなる贄の

 二人分の贄が必要なのだが、

 あの少年はそこをちゃんと理解していたんだろうなぁ」

 

おわり