風祭文庫・乙女変身の館






「夢」


原作・山田天授(加筆修正・風祭玲)


Vol.T-224





学校…

多数の児童生徒がその場に集い、

勉学に励み、

運動に汗を流す空間。

しかし、大勢の人間が集う空間は歪みやすく、

歪んだ空間は異界より様々な者を呼び込んでしまう扉でもある。



「あーあ、だりーな…」

俺・宮崎薫は欠伸をかみ殺しながら廊下を歩いていた。

「次は西脇の生物か…また寝るか」

そう、次の時間は学校一眠たいといわれている西脇の生物だった。

クラスのうち起きていられるのは真面目な奴だけで、

他の奴はウトウトとしてしまう魔の授業。

もちろん俺もその一人だ。

「大内、これやるよ」

急に後ろから隣のクラスの山上が現れて、

俺にお守りのような物を渡した。

「なんだよこれ?」

「この前生物部の活動の合間に作ったお守りさ。

 それを持って寝たらきっといい夢が見れるよ」

そういって山上は俺の肩を叩くと、

足早に去っていった。

「あぁ、ありがとう、

 じゃ遠慮なく借りとくよ」

そう返事をしながら俺はそれを内ポケットに入れて

教室へと向かっていった。

「ふぅ…大内には悪いがこれで助かった。

 蛇は好きだけど、

 蛇になる夢なんかごめんだもんな」

と、山上が呟いていたとも知らずに…

キーンコーンカーンコーン…

何時ものように西脇はチャイムとほぼ同時に入ってきた。

「起立!!礼」

「よろしくお願いします」

挨拶が終わるとほぼ同時に俺は机に突っ伏す、

そして、時間が経たないうちに俺は深い睡眠の中へと堕ちていった。



「大内さん!!

 起きなさい!!」

あれ…もしかして俺の事か?

俺はまだ半分眠ったままの意識のまま顔を上げると、

そこには綺麗な女の人が仏頂面でこちらを見ている。

「あれ、

 綺麗な女の人…」

その人を見ながら俺はそう呟くと、

「何をしているんです

 さっさとトイレに行って、

 顔を洗ってきなさい!!」

と女の人は俺に命じた。

「はいはい」

彼女にそう言われて俺は立ち上がるが、

「ん?」

何か違和感を感じたが、

「さっさとするっ」

その声に押されるようにしてトイレへと向かって行った。

ジャァ…

トイレに着いた俺は水道の水で顔を洗う、

冷たい水のおかげで、

頭がすっきりして目が覚めて来る…

だが、

「ってなんじゃこりゃ!!」

顔を拭いた後、

目の前の鏡を見た途端、

俺は唖然とした。

そう、鏡には俺の面影が僅かにあるが、

何処からどう見ても…

おそらく十人中十人が美少女というくらい、

可愛らしい女の子が鏡に映っていた。

「一体…って声も高いし…にしても…」

戸惑いながら俺は後ろを振り返ってみると、

そこには…ピンク色の壁と個室しかなかった。

「一体何がどうなって…」

キーンコーンカーンコーン…

そこでこの時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

「ん?

 チャイムかひとまず…戻るか」

そう俺は呟いて教室へと戻ろうとしたが…

ドン!!

「いってぇ!!!」

急に何かで頭を叩かれ、俺は飛び上がった。

「大内、授業はとっくに終わっているぞ!!」

目を覚ますとそこは何時もの教室で、

無論、俺も男だった。

「夢…か」

そう言いながら周囲を見ていると、

「おい、夢まで見たのかよ」

と言いながらクラスメイトが寄ってきた。

「あぁ。

 なんか変な夢だった」

俺はどんな夢かと聞いてくるそいつを無視し、

廊下に出て山上にお守りを返そうとしたが、

「いいよ、それあげるよ」

と山上はそう言って来たので、

俺はお守りをありがたく貰った。

やはり、

そのお守りのおかげなのか、

寝るたびに俺は女の子になる夢を見る。

時には向こうも寝ていて、

気がついたら戻ってるという事もあるが、

いくつか面白い事も分かった。

一つは西脇の生物のように分かりづらく眠たい授業が、

あちらではとても分かりやすく面白いのだ。

しかも、その記憶をこちらに持ってこれるらしく、

中間テストの成績もかなり上がった。

「大内、お前なんで急に頭が良くなったんだ?」

放課後、

初めてあの夢を見たとき、

俺の頭を叩いた奴がそんな事を聞いてきた。

「夢のおかげさ」

シレっと俺はそう返事をすると、

「はぁ?」

当たり前だが、

そいつは全く信じなかった。

「さぁて、帰るか」

今日は部活が休みだったので、

俺はそいつをほっといてバス停へと向かい、

「ふぅ…俺の降りるとこは終点だし、

 中で一眠りするか」

と俺はできるだけ運転手の近くに陣取り、

一眠りする事にした。



「佳織!!

 早く行こうよ!!」

ふと気がつくと、

夢の中で何時も俺と一緒にいる子が話しかけてきた。

「あ、うん」

俺は返事をすると後をついて行く。

どうやら、ここはまだ学校らしい。

こちらの世界は向こうとは全く逆。

俺の頭も運動神経も、

ついでに見た目もかなりよくなっていた。

それに、校舎も元は古く薄汚かったのが、

かなり綺麗な物に変わっていた。

普段は、授業中しか寝ないようにしていたので、

こんなにいろいろなところを見れるのは嬉しいのだが…

(遅い…)

そう、夢の世界に来てから既に1時間は経過していた。

俺はソフト用のバットを握りながら、

一体何が起こったのかといぶかしんでいた。

「ふぅ、やっと終わった」

「お疲れ様!!」

「お疲れ様」

後ろから後輩の女の子が…

おそらくは現実では野球部の後輩子が俺に話しかけてきた。

「先輩、事故の事聞きましたか?」

「事故?」

「なんでも、先輩が部活のない日に乗っていた便のバスが事故起したらしくて…」

という話を聞いた途端

「ちょっと待て、それって元の俺が乗ってたやつか?」

俺は驚く、

「私の友達も何人か乗っていたんです…」

俺はそれを聞いてまさかと思った。

確かにこの世界は何もかもが逆だが…

歴史上で起こった事や授業、

最近の出来事などは元の世界と酷似していた…

「そんな…まさか…」

「先輩?

 先輩!!!

 大丈夫ですか!!

 先輩!!」

彼女の声を聞きながら

俺は目の前が暗くなりそのまま倒れてしまった。

この先、一体俺はどうなるんだろうか、と…



―おまけ―

キーンコーンカーンコーン

「大内さん。

 昨日倒れたそうでうが、

 大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

俺は本当は休みたかったが、

そうも言って入られない。

聞けば事故は相当酷かったらしく…

おそらく俺はこの世界からは元に戻れないだろう。

一体、俺はどうなるんだろうか…



おわり