風祭文庫・乙女変身の館






「借り物競争」


原作・山田天授(加筆修正・風祭玲)


Vol.T-223





学校…

多数の児童生徒がその場に集い、

勉学に励み、

運動に汗を流す空間。

しかし、大勢の人間が集う空間は歪みやすく、

歪んだ空間は異界より様々な者を呼び込んでしまう扉でもある。



よく晴れ渡った秋の大空の下、

その小学校では運動会が開かれていた。

『借り物競争に出場する人はぁ、

 入場門のところに集まってくださぁぃっ』

仮設のスピーカーより連絡が流れると、

5年生の各クラスより1人づつ、

合計3名の代表選手が集まってくるが、

僕・大闇光(おおやみひかる)は3組の代表として入場門へと向かっていた。

程なくして3人が集まると、

入場門より行進をしながらスタート地点へと向かっていく。

「第1コース!5年1組水野真君!!」

「はい!!」

「第2コース!5年2組増野一君!!」

「はい!!」

「第3コース!5年3組大闇光君!!」

「はい!!」

スタート地点上で呼ばれる名前に、

僕ら3人は大きく返事をすると、

「位置について」

の指示と共にスタートラインにつく。

そして

「よーい……」

ピストルと高々と掲げて、

西脇先生が声を上げると、

ググッ!

僕は前傾姿勢になって正面を注視する。

パァァン!

乾いた音が鳴り響き、

ダッ!

僕は一気に前へと飛び出していった。



今回の借り物競争は変わっていて、

全部で3回紙をめくる事になっていた。

そして、第一ポイントに1番で到着した僕が

1枚目の紙をめくるとこう書いてあった。

【小学2年生女子】

…それを見た瞬間、僕は思わず呆気に取られるが、

まぁ誰か2年生の女の子を連れて行けば良いのだから、

簡単と言えば簡単だ。

そう思った僕は早速2年生の応援席に向かおうとした。

しかし、立ち上がった瞬間。

クラッ

僕は軽い眩暈を感じ、

そしてそれが収まると、

なぜか視点が異常に低い事に気がついた。

「なんだ?…

 何が起こって…」

突然変わった視界に僕は困惑しながら周りを見回すと、

「大闇っ!!

 なにをしているんだよ、

 走れぇ!!」

とクラスメイトの声が響いた。

「走れって言われても…」

みんなは何も気がついていないらしいが、

奥の1コースを見ると、水野と書かれた体操服を着た女子が立っており、

隣の2コースを見ると、増野が一人独走していた。

それを見た僕はぶかぶかになった体操服を引きずりながら、

二枚目の紙を取るために走った。

そして、どうにか二枚目の紙にたどり着いた。

【女子の制服】

と紙にはそう書いてあった。

「制服って…言われても…」

運動会の日は体操着で登校が決まりである。

その運動会の日に制服を着てくる子なんているのか。

紙をみながら僕はそう思ったが、

フッ!

急に服が軽くなり、

足元がスースーし始めた。

「え?」

驚いて服を見ると、

僕はいつの間にか女子の制服を制服を着ていたのであった。

「なっなんでぇ?」

それを見た僕は驚いたが、

しかし、後ろからは水野が追いかけてきており、

まるで尻を叩かれるようにして僕は3枚目へと急いだ。

なれないスカートで恥ずかしい思いをしながらも、

やっとの思いで三枚目の紙にたどり着いた。

【どじ娘】

確かに紙にはそう書かれていた。

僕は念のため他コースを見ると

1コースも水野は華麗な衣装を着て僕に近づいており、

2コースの増野が、ワンピースを着て―早い話が女装して立っていた。

そこでようやく僕は気がついた。

僕自身が借りてこなければならないものになっている事に―

「じょ冗談じゃない」

何でこんなことになってしまったのかは判らないが、

とにかく先生に報告しようと僕は先を急いだが、

しかし、小さくなった事が大きく響き、

瞬く間に水野に追い上げられてくる。

「くそっ」

迫る水野の足音に脅かされながらも僕は走った。

そしてゴールの目前で…盛大にすっコケた。

まさに”ドジっ娘”である。

しかし、運のいいことにコケた時に前に出た頭がゴールラインを越え、

強引ながらも水野と同着となるが、

その瞬間、

パァァァァァ!!!!

校庭に光が満ち溢れた。



「う、うーん」

目が覚めるとどうやら僕の部屋のようだった。

「夢…だったのかな?

 ってなにこれ?」

そう部屋の間取りは確かに僕の部屋だったが、

すっかり様変わりしていた。

まず、可愛らしい小物や人形がたくさん置いてあり、

クローゼットの中にはスカートやブラウスなど女の子用のものしかなかった。

「あ、起きたの?」

そう言いながら母さんが入ってくると、

「光(ひかり)昨日の運動会で疲れたのかしら?

 すごいおね坊さんよ」

と笑いながら言う。

「へ?」

僕は母さんが”ひかる”ではなく”ひかり”と言ったことに、

少なからずショックを受けたが

「そういえば増野君って知ってる?」

と話しかけてくると、

「一応は…」

そう返事をした。

すると、

「今日家に来て、て言われたんだけど…一人で行ける?」

と尋ねてきた。

「何の用かな…うん、いいよ」

その質問に僕はそう答えると、

「光はえらいわね」

母さんはそう言い残して部屋から出て行った。

僕は着ていたフリルのたくさんついたピンクの可愛らしいパジャマを脱ぎ、

一番着るのが簡単そうに見えた黄色のワンピースを着ると、

増野の家に向かっていく。

「こんにちは」

そう僕が言うと増野の母親は、

「あら、可愛らしいお嬢さんね。

 はじめまして」

僕に挨拶をしてきた。

増野の母親とは以前あたことが会ったはずである。

その後、

増野の部屋に案内されるとそこには先客がいた。

「来たか」

僕を見るなり先客はそういうと、

「それよりもそっちは?」

と僕は先客に尋ねた。

すると、

「水野だよ」

と先客は返事をした。

「えぇ?」

それを聞いて僕は今更ながらびっくりした。

なぜなら部屋に居る女の子は、

とても可愛らしく、

どうやって着るのか分からないのだが、

これまた可愛らしい服を着て、

長い髪の毛を可愛く整えているとてもお洒落な少女だったからだ。

「何でお前…そんな格好をしてるんだ?」

「それ行ったらお前もだろ。

 …ひとまず状況確認しあおう」

そう水野が言うと、

ずっと状況を見ていた増野が口を開いた。

「俺は特に何も変わらない。

 運動会で女装した事もみんな覚えてなかったし。

 けど…」

と言うと、

少し言いずらそうにしながら、

「ちょっと…ごめんな」

そう言って増野が僕に触れた。

「なに…これ?」

次の瞬間、僕は唖然とした。

なぜなら僕が着ていたワンピース…

それが所謂メイド服へと変わっていたからだ。

「見ての通り…

 俺は思いどうりの服装に相手を帰る事が出来る。

 …姉貴で試してみたら、

 なんとその服を切る職種の人の技能がついてたよ」

と言い辛そうに言う。

そして、もう一度僕の体に触れると、

僕の服装を元に戻してくれた。

「僕は部屋と親の反応、

 それと教科書を見て分かったんだけど…」

今度は僕が事情を話し始めた。

「小学二年生の大闇光という女子になったらしい。

 …周りもお前ら二人以外はそう思ってる」

すると、

「なら、俺よりとほとんど同じだな」

と水野が口を差し挟んだ。

「そうなのか?」

「あぁ、俺の場合小学5年の女子で…

 …小学生アイドルとして活躍中…らしい」

少し間を空けてそう言うと、

水野は可愛らしい鞄からビデオテープを一つ出した。

そして、

「これを見てみろよ」

と言われて、

僕らは増野の部屋にあったビデオをつけた。

そのビデオには今の姿の水野が、

舞台の上で踊りながら歌っていた。

「マジかよ」

「みたいだよ。

 今日も来るのが大変だった」

どうもそれぞれが変な事になってるらしい。

「一応聞くけど…

 水野たちが引いた紙ってなんだった?」

「俺は”小学5年男子””ワンピース””なんでも”の三つだったな」

と、増野が言う。

「俺は”小学5年女子””アイドルの衣装””神童”だったな」

と、続けて水野も言う。

「僕は”小学二年女子””制服””どじ娘”だった」

それらを聞いた僕はそう言うと、

「まさかと思ってたけど、

 やっぱり、紙に書いてあった通りになったのか」

「うん…」

どうやら僕らは…少なくても僕と水野はめくった紙と同じ姿になっていた。

「西脇先生…そうだ西脇先生に確認したら何か分かるかも」

僕はこの借り物競争を企画した西脇先生に会いにいこうと言うが、

「それがな…」

すると水野が

「今朝、俺のところに来てたマネージャーさんに確認したんだけど…

 昨日、借り物競争なんかなかったそうだ」

と言う。

「え?」

「それを聞いて、

 俺も学校やら、クラスメイトの何人かに確認したんだけど、

 やっぱり借り物競争なんかなくて、

 第一、西脇先生なんて学校にはいないってさ」

「じゃ…僕らは…」

「もう分かってるんだろう?

 一生このままだろうさ、

 きっと」

「…」

僕らは黙り込んだ。

「そういえば…」

水野が不意に話し始め、

「どうして…増野だけは戻れたんだ?」

と尋ねると、

「それなら僕でも見当がつくよ」

と僕は続けた。

二人の視線を感じながら、

「きっと増野が一位だったから…

 力はそのご褒美だよきっと、

 そして、僕と水野は…水野は気がつかなかったみたいだけど、

 実は僕ゴール前でこけて…

 水野と同着だったんだ、

 だから、最下位が二人いたわけだから―」

と言ったところで、

「もういい判った」

水野は頭を振り、

「それじゃ俺、帰るわ。

 仕事に早く慣れないとな」

と言い残して部屋から出て行った。

こうして僕達の会議は終わった。

その後、

増野はあの力が男子の服も変えられることを知り、

周りの子に気がつかれないように、

いたずらをして毎日を過ごしているそうだ。

一方の水野は学校に来る日はほとんどなくなったが、

日増しにテレビに出てくる回数が増え、

口調も仕草も可愛らしい女の子の物になっていった。

最後に僕は―

「あ、光ちゃんおはよ〜」

「いた!!」

毎日、小学二年生として学校に通い始めたが…

「もう、光ちゃんはどじなんだから」

自分がどじな事を除けば楽しい日々を送っている。



おわり