風祭文庫・乙女変身の館






「靴隠し」


原作・山田天授(加筆修正・風祭玲)


Vol.T-222





学校…

多数の児童生徒がその場に集い、

勉学に励み、

運動に汗を流す空間。

しかし、大勢の人間が集う空間は歪みやすく、

歪んだ空間は異界より様々な者を呼び込んでしまう扉でもある。



「あーぁ、

 何で今日みたいな日に学校があるんだろう」

寒風が吹き抜けていく冬の朝、

僕・先峰履夫は通学路をブツブツ文句を言いながら歩いていた。

今、僕の学校では冬の年中行事となっているインフルエンザが流行ていて、

僕の学年では1組は学級閉鎖、

僕ら2組もかなりの人数が休んでいた。

「はぁ、

 もう少し休んでくれれば…」

人気の無い1組の教室を横目にして、

僕は何時ものように下駄箱で上履きに履き替えると、

3年2組の教室へと向かっていく。

すると、

「あれ、休み増えていないか?」

教室に入るなり、

昨日よりも空席が目立っていることに気付いた僕は

傍に居た仲のよい友人に尋ねた。

「また、インフルエンザだってよ」

「またかよ」

これで僕のクラスは30人中11人が休んでいる事になる。

「何で学級閉鎖にならないんだろ」

「さぁな」

と、そんな他愛のないことを話していると、

キーンコーン!

チャイムが鳴り、

ガララ!

そのチャイムが鳴り止まないウチにドアを開けてはいってきたのは、

僕らの知らない先生だった。

「誰?」

「さぁ?」

その先生の顔を見ながらみんなが首を捻っていると、

「おい、

 お前ら。席に着け」

と先生は声を上げ、

先生に言われるままみんな席へと着いた。

「担任の上山先生はインフルエンザで休みだそうだ。

 で、代わりに俺が来たわけだ」

と先生は言い、

黒板に大きく西脇と名前をチョークで書いた。

「へぇぇ」

「まじかよ」

「上山先生までインフルエンザ?」

ザワッ

教室中がざわつき、

そんな声があちこちから聞こえてくる。

すると、

「それでまぁ、

 1時間目は学活と言う事だし。

 靴隠しをしようと思うんだが、

 どうだろう?」

と西脇先生は提案してくると、

「さんせー」

それを聞いたみんなはすかさず賛成し、

無論、僕も賛成をした。

「じゃぁ鬼は今日の日直のぉ、

 うん、先峰君と崎野さんの二人にしてもらおう」

西脇先生はチラリと黒板に書かれている日直の名前を確認すると、

今日の日直である僕と崎野さんを指名し、

その僕達を残して他のみんなに校庭に出るように告げた。

ゾロゾロ

ゾロゾロ

クラスメイト達は先に出た先生の後を追って教室から出て行くと、

そのまま外へと向かって行く。

そして、

「良いかな?」

「良いみたいだ、いくよ!」

頃合を見計らって

僕と崎野さんは下駄箱へと向かって行った。



「崎野さん、見つかった?」

「うーん、こんなものかな?」

「あ、これで全部じゃない?」

そう言いながら僕達はみんなの上履きを下駄箱から取っていく、

その結果、何故か崎野さんは男子の靴を14足、

僕は女子のばかりを13足持っていた。

「二人で27足、

 全部だね」

数を数えた崎野さんがそういうと、

「あ、本当だ」

僕達二人の分を差し引いたクラスの人数になっていることに僕は気付いた。

「どうする?

 どこに隠す?」

「どこか適当なところに隠そう」

靴を手に入れた僕達は抱えていた上履きを下駄箱の近くにそっと置き、

そのまま外へと出て行くと、

「よーし、

 戻って確認しろぉ」

と先生は待機していたクラスメイト達にそう指示を出した。

程なくして、

「あ、僕の上靴がない!!」

「私のも!」

と下駄箱の辺りからみんなの声が響き渡り、

ワラワラとこっちに戻ってくる。

「おっ、見事全員の分を持ってきたみたいだな」

そんな姿を見た先生は満足げに言うと、

「どこに隠したんだよ」

「ねぇ、どこに隠したのよ」

次々と隠し場所についてクラスメイトが尋ねてきた。

「えぇっとぉ」

隠し場所について僕が言おうとした途端、

「あったぁ!」

再び声が響くと、

「本当?」

「行こう!」

僕達の周りに集まっていたクラスメイトは一斉に下駄箱へと戻っていった。

「おーぃお前ら、

 ちゃんと自分の靴と確認して取っとけよ」

そんなクラスメイト達に先生はと言うと、

「さて、これからが第二ラウンドだ。

 お前達二人の上履きは隠されている」

先生は僕と崎野さんの上靴がどこかに隠されている事を告げた。

「そんな!

 教室まで何を履いて行けばいいんですか?」

それを聞いた僕は猛然と抗議をすると、

「そうだな…

 これでも履いていけ」

と先生は男子用の上靴を一組、

女子用の上靴を一組、

僕と崎野さんに手渡した。

「はーぃ」

「判りました」

そう返事をして僕と崎野さんは玄関へと向かい、

渡された上靴を履こうとした。

ところが、

「あれ?

 入らない」

「私も…」

靴のサイズが合わないのか、

僕と崎野さんはうまく上靴を履くことが出来なかった。

「交換してみろよ!!」

そんな僕達を見かねた誰かがそう言うと

僕と崎野さんは仕方なしに上履きを交換してみると、

「あ、入った」

「本当だ、私も…」

と二人の足に上履きがぴったりと納まったのであった。

入ってしまったものは仕方がない。

僕達は周りにからかわれながらも、

僕は女子用のを、

崎野さんは男子用の上靴を履いて教室へと向かっていった。

そして、

「おーぃ、残り時間は15分だ。

 急げよ!!」

と嗾けるように先生が言うと、

僕達は大急ぎで隠された上履きを探し始めるが、

「あ、そこじゃない」

「ぜんぜん違う!!」

と、後ろから野次が飛ばされ、

それに阻まれて僕らは結局見つけることが出来なかった。

キーンコーン…

カーンコーン…

チャイムの音が鳴り響き、

その瞬間、

「うわ!!」

「きゃ!!」

僕達が履いていた上靴が光を放った。



「一体何が…って

 あれぇ?服が!!」

輝いていた光が収まり、

僕はキョロキョロしながら何が起きたのか確認すると、

いつの間にか僕は長めのスカートと

赤い可愛いセーターを着ていた。

そして、腰の辺りに何かが当たる感じがすると、

「せ…先生!!

 西脇先生!!

 先峰と崎野が!!」

と誰かが叫びながら何人かが教室から飛び出して行く。

その一方で、

「先峰君…よね?」

とスポーツ刈りに寒くないのか短パンにTシャツという服装の少年が

僕の前に現れると尋ねてきた。

「そうだけど…君は…

 ってまさか、崎野さん?」

髪形が変わったために気付きにくかったけど、

面影から思わず聞き返すと、

「そうよ。

 一体何があったの?

 なんであたし、

 こんな姿に?」

と少年は戸惑って見せる。

だけど、

「って言うか、

 なんで?

 僕が女の子に…」

そんな僕も同じように混乱していた。

すると、

「なぁ…あの先生、

 西脇先生って言ってたよな?」

戻ってきたクラスメイトの一人が話しかけてくると、

「そうだけど、

 どうかした?」

と僕は聞き返す。

すると、

「そんな先生いないんだって。

 それに、僕らのクラスの学級閉鎖のはずなのに、

 なんで学校にまだいるんだって怒られた」

という返事が返ってきた。

「えぇ!!」

その途端、

クラス中から驚きの声が上がると、

「お前ら、

 なんで学校に来ているんだ!」

の声と共にインフルエンザのはずの上山先生が姿を見せるなり、

大声で叱り始めた。



結局、僕らは解散となり、

僕と崎野さんは家に連絡しておくから、

一応、病院へ行くようにと言われた。

こうして僕と崎野さんは泣きそうになりながらも、

下駄箱へ向かったのだが―

「きゃ!!

 何で私こんな格好なのよ!!」

「何で俺がこんな…」

と、下駄箱の辺りが急に騒がしくなり、

その喧騒を聞いた僕達は慌てて向かっていくと、

下駄箱の前では僕らの知っている子は一人もいなかった。

ただ…

ジーパンやトレーナーを着た男子たちが、

女子のような話方で泣いたり、

パニックになっていると思えば、

スカートや派手な上着を着た女子たちが、

まるで男子のように騒ぎまくっていたのであった

「まさか、

 今度はみんなが…

 一体、どうなってるんだ?」

「さっさぁ?」

とにかく変な事になったのが僕達だけでなく、

クラス全員となったことに半ばホッとしながらも、

僕は女の子の靴を下駄箱から取り出した。



その後、性別があべこべになってしまった僕達が

なんとか落ち着くまで約1ヶ月かかり、

その間、授業は殆ど進まなかった。

そして、

「あ、おはよう」

ようやく気持ちに整理がついた時、

かつて仲のよかった友達の成れの果ての少女が僕に挨拶をし、

また、

「お前も、すっかりさまになったな」

すっかり男子のようになってしまった崎野さんに話かけられる。

少し暖かくなってきたその季節、

僕はワンピスを着て学校へ行っていた。

こうして僕達新たな性で、

新たな人生を歩み始めたのであった。



おわり