風祭文庫・乙女変身の館






「贈られた人形」


原作・山田天授(加筆修正・風祭玲)


Vol.T-220





学校…

多数の児童生徒がその場に集い、

勉学に励み、

運動に汗を流す空間。

しかし、大勢の人間が集う空間は歪みやすく、

歪んだ空間は異界より様々な者を呼び込んでしまう扉でもある。



僕の名前は大海博巳。

どこにでも居るごく普通の小学3年生だけど

唯一つ、悩みがある。

それは僕の誕生日が3月3日の”ひな祭り”だから、

春が近づくとみんなから、

”ひろみちゃん”

とよくからかわれることだった。

生まれてくるのがあと2月と2日遅かったら何も問題は無いのに…

3月2日の給食の時間、

そんな不満を僕は漏らすと、

「そんなに気にすることは無いよ」

と西脇先生は笑いながら僕の肩を叩いてくれた。

「そうですか?」

そんな先生に僕は聞き返すと、

「自分の誕生日は素直に喜ばなくっちゃ」

と先生は言い、

「そうだ、

 明日の君の誕生日にはみんなからプレゼントを貰うだろう。

 その中に君が喜んで誕生日を迎えることが出来るものがある。

 いや、あるに違いない」

自信たっぷりにそう付け加えた。

「はぁ…」

思いがけない先生の言葉に僕は目が点になっていた。



そもそも僕のクラスの担任は加藤先生なんだけど、

その加藤先生が急病ということで、

代わりに西脇先生が僕達を教えてくれていたのであった。

そして、翌日の土曜日。

ついに僕の誕生日がやってきた。

と、その前に、

僕には一つ下に”大海弘子”と言う妹がいる。

そのために毎年ひな祭りの日には、

僕と弘子、二人分のお祝いがあるのが通例であった。

けど今年はいつもと違っていた。

なぜか今年は、

近所の小父さんが僕たちに誕生日プレゼントをくれると言うのである。



「たしか…博巳君はこっち、弘子ちゃんはこっちと…」

そう言って、小父さんは僕たちに箱をくれた。

「あっありがとう」

箱を受けとった僕はそう礼を言うと。

二人揃って家へと帰っていく。

「ただいま」

「お帰りなさい」

「あら、それ如何したの?」

家に戻ると母さんは僕らが持っている箱に気がつき、

尋ねてきた。

すると、

「小父さんにもらったの」

と真っ先に妹が答えた。

「あら、

 ちゃんとお礼を言った?」

「うん」

「そう、それは良かったわね、

 で何が入ってるのかしら?

 開けてみれば」

母さんにそう言われて、

僕と弘子はお互いの顔を見合わせた後、

箱を開けた。

だけど、

「小父さん、

 渡すのを間違えたのかな?」

箱の中身を見ながらそう僕は呟いた。

そう僕がもらった箱の中には、

とびっきり可愛い女の子の着せ替え人形が入っていたのであった。

一方で、

「わぁ!

 可愛いぃ!!」

オーバーなくらいに喜んでいる弘子の方を見てみると、

弘子の箱には精巧に作られた雛人形のセットが入っていたのであった。

と言う事は、

必然的にこの人形は僕へのプレゼントと言う事になる。

「なんで?」

そう思いながら僕は人形を見ると、

パァァ!

「わ!!」

不意に人形が光だし、

瞬く間に僕は光に包まれてしまった。

だけど、

「ヒロちゃん、大丈夫?」

母さんのその声に僕はハッとすると、

「うっうん

 大丈夫」

と僕は返事をする。

だけど、

「ヒロちゃんはもう小学生なんだから、

 少しはおとなしくしようね」

と言う母さんの声に

「え?」

僕は驚きながら自分の姿を確認すると、

なんと、

去年、妹が小学校に入学する前に着ていた着物を着ていたのであった。

「なんで?」

袖を上に上げ自分が着ている着物を見ながら僕はそう呟くと、

「お姉ちゃんのお下がりだけど、

 我慢してね」

と言って母さんは台所に向かっていく。

僕は困惑しながら弘子を見ると、

弘子はお雛様を持ってまだ喜んでいた。

「弘子は…何も変わりは無い…

 だけど、僕は?」

不思議に思いながら小父さんから貰った人形を見ると、

なぜか僕の手の中にある箱には

子犬の人形が入っているだけだった。

「子犬の人形?

 一体…

 何がどうなってるんだろう」

ますます訳がわからなくなりながら

僕は考え込んでいると、

「はいっ」

そう言って、

真新しい着物を着た弘子が僕のそばにやっていた。

そして、

「弘美ちゃんにも触らせてあげる」

と薦めてくるが、

「きっ気にしないで…」

僕はそう返事をした。

「変なの?」

僕の言葉に何か釈然としない様子であったが、

弘子は僕に背を向けるとお雛様を眺めに戻った。

「とっとにかく、

 部屋に戻って、

 この着物を脱がなきゃぁ」

着慣れない着物の裾を気をつけながら、

僕は自分の部屋へと向かっていく、

だけど、なぜか僕の部屋は物置になっていたのであった。

「なにぃ!」

思いがけないその光景に僕は呆然とするけど、

「まさか…」

ある考えがよぎると、

僕は大急ぎで弘子の部屋に行った。

すると、そこにはベットが二つあり、

僕のアルバムが入れてある本立てもそこにあった。

「弘子と一緒の部屋ぁ?」

今にも倒れてしまいそうな眩暈を感じつつも、

僕はベッドの端に座り、

本棚からアルバムを取り出してみると

僕は”弘美”という弘子の妹であるらしい。

さらに部屋にあった鏡を見ると、

そこには長い髪の毛をリボンとヘアバンドで可愛くお洒落をしている

着物姿の女の子が映っていたのであった。

「おっ女の子?」

鏡を見ながら僕は自分の身体のアチコチを触ってみると、

鏡の中の女の子も同じ動きをする。

そして、お股の中に手を押し込んでみたとき、

「うっ、

 ないっ

 無くなっている…」

僕のお股からオチンチンが無くなっていることに気付いた。

「そんなぁ」

泣きたくなってしまった。

「なんでぇ、

 どうしてぇ

 僕が女の子に…」

ガックリと肩を落として僕がその場に座り込んでいると、

「弘美ぃ〜

 行くわよ〜」

そう母が僕を呼んてきたので、

僕はノロノロと立ち上がり、

リビングへと戻っていった。

それからお父さん、お母さん、弘子を含めた家族でのお祝いがあり、

さらに近所で執り行われていた雛祭りのお祭りに参加すると、

僕と妹の弘子…今となっては姉だけど、

の二人で賞までもらってしまった。

そしてしばらく後

「弘美ちゃん、

 行こう」

そう言って弘子が僕に手を伸ばす。

「うっうん」

フリルのたくさんついた可愛らしい服を着た僕は

戸惑いながら弘子の手を取る。

そう、あれから元に戻る事はなく、

僕は再び小学一年生、

それも女の子として入学する羽目になってしまった。

しかも傍目から見ても僕の方が弘子より可愛らしい。

そのためか弘子は僕に女の子らしい服しか着させないのである。

この先弘子の着せ替え絵人形になるのかと考えていると、

ある事に気がついた。

僕がもらった人形も"可愛い着せ替え人形"であった事に…

きっとあれは、二つとも弘子へのプレゼントだったのだろう。

あの小父さんはあれからも毎日会うが、

僕の事を以前とは比べ物にならないくらい可愛がってくれた。

どうも、男の子よりも、

女の子の方が好きだったようである。

さらに数年後

「お姉ちゃん、いい加減にしてよ!!」

すっかり女の子としての生活に慣れた僕だったが、

でも弘子から相変わらず着せ替え人形にされていた。

「逃がさないわよ、ヒロちゃん」

「お姉ちゃんも、

 私の服ばっかりじゃなくて自分のも買ったら?」

「この服のお金、私が出してるわけじゃないのよ?」

「え?」

「ママとパパと…小父さんが

 弘美が着替えた写真を買ってくれるから、

 おつりもあるわよ」

そう言って姉は僕を捕まえて、

自分では恥ずかしがって着ないであろう、

かなり派手で、可愛らしすぎる服を着せた。

僕のクローゼットには、まともな服が一つもない。

どうも、この先まだまだ続きそうである。



おわり