風祭文庫・乙女変身の館






「フルーツバスケット」


原作・山田天授(加筆修正・風祭玲)


Vol.T-216





学校…

多数の児童生徒がその場に集い、

勉学に励み、

運動に汗を流す空間。

しかし、大勢の人間が集う空間は歪みやすく、

歪んだ空間は異界より様々な者を呼び込んでしまう扉でもあった。



夏休みを間近に控えたある日のことだった。

その日最後の授業である6時間目は総合学習、

僕にとってはあまり面白く無い授業だ。

「はぁ退屈だなぁ…

 プールに入りたいなぁ…」

午後の日差しが照りつける校庭を見ながら、

窓際に座る僕は頬杖をついていると、

急病で学校を早退した担任の田沢先生に代わり、

西脇先生という先生が黒板の前に立つと、

徐に後ろの黒板に向かって

”フルーツバスケット”とチョークで大きく書いた。

「え?」

思いがけないその言葉に僕は呆気に取られてしまうと、

同じようにみんなも驚いたのか、

ザワッ

教室の中が一斉にざわめき立つ。

すると、

「おーいっ

 静かにしろぉ!」

そんなみんなを黙らせるように西脇先生は声を張り上げると、

「さて、今日の総合学習だけど、

 夏休み前だし、

 少し息抜きをしてみようと思う。

 で、先生からの提案だけど、

 コレッ

 フルーツバスケットをしてみたいと思うが、

 みんなはどうかな?」

コン!コン!

と黒板を叩きながら、

先生は僕達に尋ねてきた。



「さんせー」

「やろうっ、

 先生」

その途端、クラスの中は一斉に色めき立ち、

みんなは席を立つと、

机を後ろに片付け、

椅子で円陣を作り出した。

「おいおいっ

 気が早すぎるぞ」

そんなみんなを見ながら先生は笑い、

そして、チョークを持つと、

さらに黒板に向かって、

”種 目:バスケット”

”ルール:三回鬼になったら負け”

と書き加えた。



「はいっ、注目!。

 ルールについてはみんなが詳しいと思うけど、

 種目はバスケット。

 ルールは三回鬼になったら負け。で行うぞ」

と言うと、

「はーぃ」

みんなは一斉に返事をした。

「よしっ

 じゃぁ始めるぞ、

 まずはジャンケンで鬼を決めろぉ」」

腕時計をチラリと見て先生が声を上げると、

「せーのっ」

「ジャンケンポン!」

クラス全員参加のジャンケンが行われ、

徐々に鬼が絞られていく。



ところが、

「ジャンケンポン!」

「ほうらっポイッ!」

「ポイッ!」

「ポイッ!」

「ポイッ!」

「げっ!」

ジャンケンでは負けたことが無かった僕・大藤誠が

どういうわけか負けてしまうと、

「よーしっ、

 じゃぁ、大藤が鬼だな」

と先生は言う。

「ちぇっ!」

その声に押されるようにして、

僕は円陣の中の中央に立つと、

他の子達はみんな円を組んだ椅子に座る。

そして、僕と西脇先生以外のみんなが座ると、

「では、はじめ!!」

そう先生が号令をかけた。

と同時に僕は大きな声で

「眼鏡をかけた女の子!!」

と叫んだ。

すると、僕の叫び声にあわせ

クラスの中にいた数人の女子達が動き出し、

素早く空いた席をゲットする。

そしてその中で僕も行動を起こすと、

間一髪、席をゲットすることに成功した。

「よしっ」

座れたことに僕は満足しながら、

新しく鬼になった娘を見ると、

(あれ、水野って眼鏡かけてたっけ?)

と彼女が眼鏡を掛けていることを不思議に思った。

そう水野夏美は僕の記憶の中では眼鏡をかけていなかったはずだ。

しかし、そんな僕の疑問を他所に、

「白い靴下を履いている男の子!!」

と夏美は叫んだ。

(げっ!

 白い靴下って言えば!)

そう思いながら恐る恐る自分の靴下を見ると、

今朝、母さんが

”洗濯物が乾かないから、

 コレを穿いていきなさい”

と持ってきた真っ白な新品の靴下が目に入る。

「やべぇ!」

それを見た僕はダッシュで飛び出すと、

多くの男子が動く中、

目ざとく席をゲットする。

「ふぅ、

 危なかったぁ」

2回続けて席をゲットでき、

僕は冷や汗をぬぐいながら次の言葉を待った。

すると、

「髪の毛の長い女の子!!」

また鬼になってしまたのか、

夏美が声を上げると、

それに応じて数人の女子が動いた。

とその時、僕の隣にいた安田篤志が、

間違えたのか慌てて立ち上がるが、

立ち上がると同時に、

間違いに気付いたのか急に立ち止まった。

「どんくせー奴」

篤志を横目に僕はそう思うが、

ところが、

立ち止まるのと同時に篤志の身体に変化がおきる。

まず、髪の毛がバサっと伸びたかと思うと、

その身長が少し縮み、

伸びた髪の毛に可愛らしいリボンがつけられた。

そして、気がつけば、

篤志は男物の服を着た女の子になっていたのであった。

「おっ女の子になった?」

それを見た僕は唖然としていると、

一人円陣の中に立つ篤志は構わずに

「フルーツバスケット!!」

と叫んだ。

全員、一斉の移動である。

それを聞いた途端。

ガタッ!

みんな席を立ち移動を始めるが、

篤志の変身に唖然としていた僕は、

またも出遅れてしまうと、

今度ばかりは新しい席をゲットすることは叶わなかった。

「ちっ、

 んだよぉ」

半ばふて腐れながら僕は円陣の中に立ち、

そして、このきっかけを作った篤志を睨みつける。

だが、

女の子になってしまった篤志も

また、その両隣に座る子も皆先ほどの異常現象に驚いていないらしく、

何事も無かったかのように僕を見ていた。

(いいのかよっ、

 誰も驚かないのかよ、

 篤志、女の子になっちゃったんだぞ)

そんなみんなを見ながら

僕は心中でそう思うと、

(よーしっ)

あることを考えながら僕叫んだ。

「ジーパンを履いていない女の子!!」

僕の口からその言葉だ出た途端、

クラスの女の子が立ち上がって移動して行ったが、

篤志もまた間違えて動いていく。

「おいおいっ

 篤志っ

 お前また間違えて…

 こりゃぁ鬼、決定だな」

そう思いながらも僕は席をゲットし、
 
そして、今度の鬼を見た。

すると案の定、鬼は篤志だったが、

だが、服装が変わっていた。

なんと篤志は可愛らしいワンピースを着て立っていたのであった。

(なっなんだぁ?

 マジで女の子になっちゃったよ)

ワンピース姿の篤志を見ながら、

僕は目を丸くするが、

「身長が150ない女の子!!」

と篤志は叫んだ。

するとそれを聞いて大多数の女の子が移動を始め、

そして、終わった後周りを見てみると、

何人か今度は男モノのTシャツに半ズボン姿をした女の子の姿があった。

(どうなってるんだ?)

徐々に変わっていくクラスメイトの姿に僕は混乱してくると、

「男の子で、女の子の服を着ている人!!」

と鬼が叫んだ。

それを聞いた途端、

(んなのいねーだろ)

と思うが、

ガタン!

突然何人かの子が立ち上がると移動し始めた。

(え?)

普通ありえないはずのその設定に僕は驚くが、

だが、立ち上がった彼らは皆女装していたのであった

それもとてつもなく少女趣味なフリヒラな服を…

「……なんで…」

もはや、その言葉しか僕の口から出てこない。

僕の目の前で男子が女子に変身したり、

いきなり女子が男子の服を着ていたり、

そして、今度は男子が女子の服を着ている。

(ありえない。

 絶対にありえない!)

幾度も頬を抓り、

僕はこの”フルーツバスケット”が

現実の世界で行われている事を確認するが、

リボンがいっぱい付いているフリヒラの服を

可愛らしく着こなしている男子達の姿を見ているうちに、

次第に気分が悪くなってきていた。



そして、僕が考え込んでいると、

「・・・を着た・・の子」

と声が上がるが、

考え事をしていた僕はつい聞き逃してしまうと、

すると、

「おい、お前もだろ!!

 早く動けよ!!」

と隣に座る子が僕のわき腹を突付いた。

「え?

 あぁ!」

促されるまま僕は立ち上がると、

クラッ!

突然僕は眩暈を起こし、

一瞬ふらつくが、

(おっと)

慌てて脚を踏ん張り、

顔を上げると、

どういうわけか目線が下がっていた。

(あれ、

 僕ってこんなに小さかったっけ?)

突然変わった視界に僕は慌てて下を見て見ると、

そこにあったのは、

いつも着ている短パンとTシャツではなく、

女の子でも着るのを恥ずかしがるような、

フリルがたくさんついていて、

とても可愛らしいエプロンドレスだった。

(へ?

 なにこれ?)

エプロンドレスを持ち上げながら、

僕は呆気に取られていると、

「ストップ!!

 そこまで!!」

と先生が叫んだ。

そして、

「大藤、

 お前これで鬼になったの三回目だろ?」

と指摘してくると、

「あっ!」

そう言われて初めて、

僕は3度目の鬼になっていることに気がついた。

すると、

「よぉし、みんな席を元に戻せ

 それと、もうすぐチャイムなるからな、

 ホームルームまで休み時間にしていいぞ

そう先生は言うなり教室を出て行ってしまった。

そして、椅子の円陣がなくなると同時に、

「うわ、何で俺

 こんな格好してるんだ?」

「キャー、変態」

「あれ、何で私男の子になってるの?」

「なんで、俺が女の子に…」

クラスの中はまるで魔法が解けたかのように

大騒ぎになってしまった。

どうやら今頃になって異常に気がついたらしい。

(なんで今頃)

混乱しているクラスの中を見ながら僕は首を捻っていると、

「ねぇ、まこちゃん早く行こうよ」

と清水美和が親しそうに話しかけてきた。

「え?

 どこに?

 それに…」

これまであまり話したことが無かった美和を見ながら

僕は唖然としていると、

「どうしたの?

 早くトイレに行こうよ、

 馬鹿な事してる子達はほっといてさ」

と、美和はまるで僕を以前からの友達だったように話しかけ、

そして、腕を引くと、

僕を女子トイレへと引っ張っていた。

「うっ、

 ここに入るの?」

思いがけなくトイレに入ることになってしまったことに

つい躊躇ってしまうと、

「ほらっ、

 チャイムが鳴る前だからって遠慮なんかしないで、

 チャイムが鳴ると混んじゃうんだからいいのよ」

美和はそんな僕の背中を押し、

そのままトイレに押し込んだ。

「うわぁぁぁ…

 ココも女の子になっている」

何も無くなってしまった股を手で確認すると、

「どうしよ、

 母さんになんて言ったらいいんだ。

 いきなり、女の子になっちゃった…

 何て言える訳ないし」

と僕は頭を抱えた。

そして言い訳を考えながら個室から出ると、

そのまま手洗い場に向かうが、

洗い場の鏡には、

髪の毛を腰まで伸ばし、

両側に赤と白のリボンをつけている、

とても可愛らしい女の子が映っていた。

「うっ、

 女の子だ…

 どこから見ても…」

以前の面影など微塵も無い女の子の自分の姿に

僕は肩を落とすと教室へと戻っていく。



クラスの中の騒ぎはまだ落ち着いては無く、

服装を含めて変身をしてしまった子達は職員室に行ったそうだが

しかし、西脇先生はどこを探しても姿は無く、

仕方なく、他の先生に事情を話すと、

そもそも西脇先生という先生は学校には居ない。

と言う返事が返ってきたのであった。

まるで狐につままれたような話である。

あの時フルーツバスケットを提案した先生は誰なのか、

男子を女子に、

女子を男子に変身させてしまったあのゲームはなんだったのか、

何も解き明かされないまま僕はランドセルを取り出した。

だが、僕のランドセルは赤い女子用のランドセルになっていて、

さらに、教科書の裏やランドセルに書かれている名前も、

大藤誠から女子の名前・大藤真琴になってしまっていた。

「なっなんで?」

何もかもが僕が女の子であることが前提になってしまっていることに、

僕は疑問を持ちながら、

他の子に確認したところ、

フルーツバスケットで最後に鬼になった子が言ったのは、

”エプロンドレスを着た女の子”だったそうだ。



翌日。

クラスの大半の子が欠席している中、

僕はいつもどおりに登校した。

「あ、まこちゃんおはよ〜」

無論、一人の女の子として。



おわり