風祭文庫・乙女変身の館






「カードギャンブラー・かつみ」


原作・山田天授(加筆修正・風祭玲)


Vol.T-215





「浩ちゃん。

 何寝ているのよっ

 ねぇ久しぶりに今日ポーカーしない?」

昼休みの教室、

机の上に突っ伏して寝ている俺に向かって

幼馴染の賭村勝美が話しかけてきた。

「いぃ・やぁ・だぁ」

その言葉に俺は顔も上げずに即そう返すと、

「えー?

 なんでぇ?」

と勝美の残念そうな声が響き、

「そんなこといわないでやろーよぉ」

俺の腕を引き、

勝美は執拗に誘い始めた。

「何が久しぶりだよ、

 この間、お前に全財産巻き上げられたばかりの俺が、

 馬鹿素直に勝負をするわけ無いだろう?」

ついに顔を上げた俺は先日のポーカー勝負のことを指摘すると、

「そんな事を言わないでよぉ」

目を潤ませ組んだ両手を胸につけながら勝美は迫ってきた。

「だめだ、

 ここで押し切られたら絶対にダメだ」

そんな勝美を押されながらも俺は意思を固めた。



”カードギャンブラー・かつみ”

誰が名づけたのか知らないか、

勝美にはそのあだ名が付いて回ってくる。

確かにその名の通り、

勝美はカード系ギャンブルにはめっぽう強く、

トランプ・花札は元より、

パチンコ・マージャン・チンチロリン・競馬・競輪に競艇。

株式投資から先物取引、

レアメタル鉱山や油田の開発、

さらに空中分解して太平洋に落下した某国のミサイルの捜索まで、

あの帝愛グループですら尻尾を巻いて逃げ出してしまうほど、

博打勝負に関しての彼女の才能はズバ抜けていた。

無論、法律上問題のあるケースは大人たちが代行するそうだけど…



「うーん…

 お金が無いのなら仕方がないか…

 じゃぁこれ使ってみない?」

中々折れない俺の意志の強さに作戦を変更したのか、

少し考え込んだ勝美はそういうと、

なにやらカードの束を取り出してきた。

「何時もならカードを交換するときにお金を置くでしょ?

 今日は代わりにこれ使ってやろうよ」

笑顔を見せながら、

勝美は取り出したカードを俺に勧める。

「えぇ?」

文句を言いながらも、

つい俺は勝美の取り出したカードを受け取ってしまうと、

「はいっ、

 勝負を受けてくれてありがとう!」

と勝美は目を輝かせる。

「ハッ!

 しまったぁ!!」

あれほど抵抗をして見せたのに、

あっけなく陥落してしまった俺は頭を抱えてしまうと、

「そんなに悩まないでよっ」

と勝美は眉間に眉を寄せる。

”一歩譲歩すれば二歩踏み込んでくる。”

カードギャンブラーの恐ろしさを垣間見ながら、

俺は渡されたカードを見ると、

『特 殊』

『 心 』

『記 憶』

『 顔 』

『 髪 』

『容 姿』

『能 力』

『 服 』

『両手足』

『戸 籍』

と意味深な少女の図柄と共にそう書かれたカードが10枚ずつ色違いであり、

合計20枚あった。

”なんだこのカードは?”

俺は不思議そうにカードを見ていると、

「そのカードはね、

 香港に昔住んでいた有名な魔術師が作ったカードなんだよ、

 魔術師の死後、ばらばらに散ってちゃってね、

 あたしが一枚一枚集めたのよ、

 もぅ逃げ回って大変だったんだから」

と勝美は奇妙な飾りの付いている杖を取り出して俺に言う。

「あっ、そっ」

それから始まった勝美のカードゲットの話を聞き流しながら、

俺は一枚のカードを裏返しにすると、

”Made in HONGKONG”

確かにカードにはそう書かれてあり、

カードからはなにやら不思議なオーラを放っているのが感じられた。

でも俺はあまりそのことを気にせずに、

「仕方がないなぁ、

 あくまでも賭けはカードだけだからな、

 現金は一切払わないぞ」

と念を押し、

「でも、これで面白いのか?

 こんなカードがお金の代わりで…」

と尋ねると、

「うん、いいの。

 じゃ、今日の放課後何時ものところで」

勝美はそういい残して自分の教室へと戻っていった。



放課後、約束していた空き教室に俺は入ると、

「おそーい」

ほぼ同時に勝美の声が響いた。

「あれ?

 なんだよぉ

 もぅ来ていたのかよ」

教室の中で俺を待っていた勝美に向かって文句を言うと、

「まぁそういう日もあるって」

と勝美は笑みを浮かべる。

そう、何時もは勝美の方が遅刻してきていたのである。

「なんだよ、

 全く」

ある意味出鼻を挫かれた格好になった俺は、

渋々教室の中に入っていくと、

「さぁーさ、始めよ」

と勝美は備品の机を向かい合わせに並べ椅子を置くと、

そして、その片方に座った。

どうも腑に落ちない感じがしながらも、

俺は勝美とは反対側に座ると、

勝美からカードとトランプを受け取り、

開いたトランプを睨み付けた。

「じゃ、私が先攻ね」

と勝手に勝美は先攻を宣言すると、

『 髪 』と書かれたカードを一枚前に出して、

トランプを一枚交換した。

そして、彼女が交換し終わると、

俺はトランプをもう一度見た。

俺の手札はハートの1と5と3と10とスペードのキング。

そこで俺は『 服 』と書かれたカードを前に出し、

スペードのキングを交換した。

俺が引いたカードを開けてみるとそれはクラブの4だった。

すると、

「私はもういいわ」

と勝美は笑みを浮かべながら言う。

「え?」

その言葉に俺は一瞬躊躇するが、

とりあえず何も考えずに『 顔 』を選んで前に出し、

クラブの4を交換した。

出て来たのはハートの11だった。

(勝った!!)

トランプを見ながら俺は心の中で叫ぶと、

「俺もいいよ」

と勝美に言う。

そして、俺たちは同時にカードをお互いに見せた。

俺の手札はフラッシュ。

しかし、勝美は…

「フラッシュか〜。

 う〜ん、私の勝ちだね」

と満面の笑みを浮かべ、

パタッ

と手札を見せた。

「げっ!」

それを見た途端、

俺は声に出さないまでも心の中では悲鳴を上げていた。

そう、彼女の手札は…

ハートの1、スペードの1、クラブの1、そしてジョーカーが二つ…

「いくらジョーカー二枚有りだからって、

 いきなりファイブカードかよぉ」

頭を抱えながら俺はそう呟くと、

「うん。

 だからぁ、

 これはもらうね」

そう言うと勝美は俺の出した二枚のカードを取った。

そして彼女がカードを持ち目を閉じた途端、

パァ!

見る間に俺の体が光で包まれ、

そして、光が収まると…

「な…なんじゃこりゃ??」

いつの間にか穿いているスカートを摘みながら俺は悲鳴を上げた。

すると、

「うーん…

 似合ってると言えば似合ってるけど…

 やっぱり変…」

そんな俺を見ながら勝美は苦笑すると、

「当たり前だろ!!

 それより…」

勝美に向かって俺は怒鳴るが、

「ハイ、

 まずはこれね」

そんな俺の言葉をさえぎり勝美は手鏡を差し出してきた。

手鏡を奪い取って俺は自分の顔を見た途端、

そこには…誰が見ても女性だと言うであろう、

可愛らしい少女の顔が映っていたのであった。

ガーン!

「んぁぁぁぁ!!!

 これが・・・俺だとぉ?」

鏡に映る顔を見ながら俺はショックを受けると、

「けどね…身体がそれじゃ…ねぇ」

と勝美は笑いを堪えながら指摘する。

確かに顔はいくら可愛らしくなっても体は男のままである。

「まさか…」

そのときになってようやくこの変身のカギに気付くと、

「そうよ。

 あのカードで浩ちゃんの服と顔は私の思いのままなの。

 もちろん他のカードも同じ効果があるわよ」

と俺の考えを察したのか勝美は説明をする。

「じゃぁ…俺がこんなの着ているのも?」

俺は女子の制服を指差しながら言うと、

「そ、私がしたから」

勝美はあっさり認めた。

「冗談じゃない、やってられるか!!」

そう言って俺は逃げようとするが、

「言い忘れてたんだけど、

 中途半端にゲームが終わったら…」

そこで勝美は間を空け、

「今後一生顔と服は私の思いどうりの物になるよ?」

と結論を言う。

「く…」

まさに屈辱であった。

でも、どうすることも出来ず俺は仕方なしに再び席に着いた。

たとえ勝美の手のひらの上で踊る羽目になっても

せめて…取られた分だけでも取り返さないと…

俺の人生は…

悲痛な思を胸に俺は勝美を見ると、

「じゃぁ、配るわね」

そんあ俺の気持ちは察しないのか、

勝美は淡々とトランプを配り始めた。

そして、今度の俺の手札は、

ハートの2、ダイヤの2、スペードの1と2、そしてクラブの10。

「今度は俺が先攻な」

勝美に言われる前に俺はそう宣言をすると、

『 髪 』と書かれたカードを前に出し、

クラブの10を交換した。

新たに加わったのは、ダイヤの5だった。

すると、

「次は私の番ね」

そう言って勝美は俺の『 服 』と『 顔 』を出すとトランプを交換した。

「私はもういいわ」

相変わらず運のいいことだと思いながら、

俺は迷った末に『体 型』のカードを使い、

トランプを交換する。

でたのはクラブの1だった。

(今度こそ…)

「もういいぜ」

リベンジを誓いながら俺はそういうと、

手札を見せ合った。

だが、

「あーら、残念。

 また私の勝ちね」

と言う勝美の手札はストレートフラッシュだった。

そして俺はまた二つ取られ。

姿を変えられた。

その調子で、その後勝ったり負けたりしたが、

気がつくと俺の手札は

『戸 籍』

『記 憶』

『 心 』

の三枚だけが残り、

そのときの俺の姿は身体も服装も女の子になってしまっていた。

ブラの感触が胸から背筋に当たり、

丈の短いスカートのせいか足下がスースーとしてくる。

ギュッ!

俺は膝小僧が見える白い足をきつく閉じ、

長く伸びた髪を背中に回しながら、

「次は負けられない!」

と勝美を睨みつける。

そして、

「そういえば…

 『特 殊』と『能 力』のカード使ってないよな?」

と俺は鈴のような音色の声で尋ねると、

「ん?

 使ったわよ。

 ただ…浩ちゃんが気がつかないだけよ」

と勝美は言う。

それを聞いた途端、

俺の背筋に冷たいものが走り、

「そうか」

と言葉短めに返事をすると、

”一体、何に使ったんだ?”

とあの2枚のカードを何に使ったのか、

考えを巡らせ始めた。

すると、

「さて、始めるわよ」

と勝美は言い、腕をまくった。

だが俺は今回も手札が悪く、

中ば背水の陣の覚悟で残る三枚とも使い、

手札を交換すると、

なんとかかんとかフォーカードを作ることに成功した。

(たのむぞ…)

手札を祈る気持ちで見ていると、

勝美もまた今回は運が悪いらしく、

せっせと手札を変えていた。

そして、歓喜に満ちた表情をしたかと思うと。

「待たせたわね」

と自信たっぷりに彼女は言い、

俺たちは手札を見せ合った。

今回の俺のカードはフォーカード、

負けることはないと思っていたのだが…

「んなにぃ!!!!

 ロイヤル・ストレートフラッシュだと?

 バカなぁ!」

そう彼女の手札は最強の組み合わせである

ロイヤルストレートフラッシュだった。

「はーぃ、残念でしたぁ!」

そう言って勝美は俺の目の前からカードを取る。

「どうするんだよ?」

俺の手元から全てのカードを奪い取った勝美に向かって尋ねると、

「そうねぇ…

 このまま私が何もしなかったら、

 その姿で固定されるだけなんだけど…」

と勝美は少し間を空けてから言う。

そして、

「でもね私にもね…

 どうしてもかなえたい願いってあるのよぉ」

と言うと、

見る見る俺の体を光が包んで行き、

ついに俺の意識は闇に沈んでいった。



「お姉ちゃん、早く起きてよ!!」

少女の声が響き。

「んんっ」

勝美は目を覚ました。

すると、

「もぅ、いつまで寝ているのよ、

 朝食できているよ」

と勝美に向かってエプロン姿の少女・恵は呆れた様に言うと、

ツインテールの髪を靡かせながら部屋から出て行った。

「あっ、

 うん、ありがとう…」

ゆっくりと起き上がりながら勝美は

走り去っていく妹を見送ると、

「ごめんね…ちょっとズルちゃって…」

と一言、心の中で浩二に謝り、

「でもね、

 『特 殊』と『能 力』のカードを使わせてくれたのは、

 他ならない勝負に負けた浩ちゃんなんだから、

 悪く思わないですね」

と付け加えると、

机の上に置いてあるカードを見る。



説明しよう!!

勝美は妹が…

そう家事が万能で女の子らしい可愛い妹が欲しかったのである。

そして、最後の勝負のとき、

希望する手札を出すために勝美は『特 殊』と『能 力』の力を借りて

半ば強引に手札を揃えたのであった。

果たしてこの手法がカードギャンブラーとしての経歴に傷をつけるのか、

それは勝美の台詞にあるとおり、

勝者による正規に執行であるため問題は無いのである。



ベッドから起き上がった勝美はパジャマ姿のまま下に降りると、

湯気が上がるおいしい朝食がテーブルの上に並べられ、

「あっやっと降りてきた。

 さぁ、早く食べてよお姉ちゃん。

 片付かないでしょう」

と恵は姉に催促をする。

すると、

ミャーミャーミャー!

恵の足下で何かが鳴き始めた。

「あぁ、リョウちゃん。

 お待たせ、大好物のニンジンよぉ」

恵はそう言いながら足元でじゃれ付く

大きな耳が可愛らしいペットにニンジンを差し出した。

ペットと無邪気にじゃれ合う可愛らしい妹を見ながら、

勝美は幸福を感じつつTVのスイッチを入れる。

だが、画面には緊張した面持ちのアナウンサーが出てくると、

某国が核実験を強行したというニュースを流し始めた。

その途端、

勝美のケータイが鳴ると、

『はい、

 あっ総理、おはようございます。

 え?

 あぁ、実験の事ですか?

 先日わたしが指摘したとおりになりましたね。

 さて、将軍様は『 核 』のカードを使いましたが、

 総理はどうされます?

 『安保理』と『制 裁』のカードのほかに、

 そろそろ、別のカードを用意したほうがいいのでは?

 えぇ、その際には最大限のご協力をいたしますわ。

 大統領とよく話し合って追加するカードを決めてください。

 あっそれと「支持率」のカードもお忘れなく』

そう話すと勝美は電話を切った。

カードギャンブラー・かつみの元には様々な立場の人より相談事が持ち込まれる。

無論、各々のケース毎に返答をしているのだが、

さて、勝美の目に映る未来とは…



「行ってきまーす」

真っ赤なランドセルを背負って恵が元気に学校へと登校してゆくと、

「さて、あたしも」

支度を終えた勝美もまた元気に登校をしてゆく、

平和な一日の始まりである。



あとがき。

この場を借りまして、

それぞれのカードが何を変化させられるかを書こうと思います。

『 髪 』:髪の毛の長さや色、質等、髪の毛にまつわる事すべて。

『 顔 』:顔の輪郭や造り等顔にまつわる事ならすべて。

『記 憶』:対象となる人の記憶に関することすべて。(回りには反映されない)

『容 姿』:胴体部分にかんする事すべて。(体内は不可です)

『 服 』:対象となる人の服装をゲーム終了時まで
      強制的に別の物に変える事ができる(何度も可能)

『両手足』:主に長さしかできないが、手と足に関することならすべて。

『 心 』:対象の精神に関することすべて。(トラウマ・性格などもここ)

『能 力』:運動神経や料理の能力、ともかく、現実にある能力すべてです。

『特 殊』:超能力や霊感など、
      そういった能力から上に含まれていないことすべてです。

『戸 籍』:内容を回りに反映させ、性転換、名前の変更、血縁関係の変更など、
      戸籍に関係する事もすべて変えられる。


いずれの場合も、現実世界に存在しない物、

存在しない力も自由自在に生み出せるが、

力を使うにはお互いがカードをかけた勝負で勝つ(たとえインチキしても)必要がある。

また、どちらかにすべてのカードがいかずに終わった場合、

その時、自分のカードとだぶってる場合は相手のその部分を一生変更できる。

たぶっていない場合は、相手とその部分が交換される。

なお、放棄した方は、たとえ相手のカードを持っていても変更され、

例:ロングヘアーで料理上手で内気な少女と、

  スポーツ刈りで元気いっぱいな野球少年の場合。

  少年が勝負を放棄したとします。

  少女は相手の髪と精神、そして能力のカードを持っていて、

  自分の髪と精神は持っていない。

  この場合、少女はスポーツ刈りの元気いっぱいの料理上手な少女に変身し、

  少年の能力について未来永劫好きなときに変えられる。

  そして少年はロングヘアーの内気な少年に変わり、

  野球の能力を含むすべての能力を少女に支配され続けます。

と、こんな感じです。

これで…オチの意味が分かってもらえると嬉しいです。



おわり