風祭文庫・乙女変身の館






「花鳥風月・ 猪鹿 蝶(後編)」

(ふたりはプリキュアS☆S & Yes!プリキュア5・二次創作作品)



作・風祭玲


Vol.807





放課後…

「Nattsu House?

 ナッツの店?」

街中に建つ小洒落た店の前で

りんは店の前に置かれた看板に目を通した後、

「ほぉぉぉ…」

っと感心をしながらその全体を眺める。

「ナッツの店なんだけど…

 これも…判らない?」

そんなりんに向かって遠慮しがちにのぞみは尋ねると、

「うーん、

 全然!!」

りんは右手を左右に振ってみせる。

「そう…」

それを見たのぞみは肩を落とし、

「初めてここに着た時、

 みんなで大掃除をしたんですけど…」

のぞみの後ろに立つうららがやや寂しそうに呟いた。

「まっまぁ、

 そんな…お通夜みたいなことを言うなよ、

 なっ!

 こっここに入るんだろう?」

重苦しい雰囲気を振り払うかのように

りんは先頭を切って Nattu House のドアを開け、

店内へと入っていく。

「へぇぇぇ…

 ここってアクセサリーの店なのか…

 こんな店って入ったことが無かったけど…

 でも、すげーじゃん」

様々なアクセサリーと共に飾り付けられた店内を眺めながら

りんはしきりに感心していると、

「あの…りんちゃんの家もお花屋さんなのよ…」

とのぞみは指摘する。

「え?

 そうなんだ…

 俺んちってお花屋さんなのかぁ…」

その指摘にりんは腕を組み大きく頷いてみせるが、

「(トホホ…全然、俺の事情を話すタイミングがないぞ…)」

と心の中で泣いていた。

すると、

「ねぇ、ずっと考えていたんだけど…」

かれんが口を挟み、

「夏木さんがこの調子ではプリキュアはとても無理だと思うの、

 彼女の記憶が戻るまで休ませるべきだとあたしは思うんだけど」

とのぞみ達に提案をしてきた。

「えぇっ?!」

思いがけないかれんの提案にのぞみは驚くが、

「う…ん…

 仕方がないですわね」

「やっぱり、しばらくの間プリキュア4になってしまいますか」

うららとこまちは逆に頷いて見せる。

すると、

「だめっ、

 ダメッたらダメ!

 りんちゃんも一緒にプリキュアになるのっ、

 みんなで一緒に戦うんだから!」

とのぞみはりんの腕を引き寄せ力説するが、

「そうは言っても、

 夏木さんがこの状態ではみんなの脚を引っ張るだけじゃない?

 特に最近のナイトメアは切羽詰っているみたいだし」

かれんは執拗になりつつあるナイトメアの変化を指摘した。

「大丈夫だもん、

 例え記憶をなくしててもりんちゃんはちゃんと戦えるもん、

 そうでしょう、りんちゃんっ!」

かれんに向かってなおものぞみはりんを庇うと、

「なっなぁ…

 一つ聞いていいか…

 さっきから言っているその”ぷりきゅあ”って…

 なんだ?」

二人の話を聞いていたりんは聞き返した。

その途端、

「りっりんちゃん…」

のぞみの顔は泣き顔のように歪み、

勝ち誇ったようなかれんがのそみとりんを見る。

すると、

「とりあえず、

 戦えるかどうかは別にして、

 説明をしてみてはどうかしら」

とこまちが提案をすると、 

「りんちゃん、

 あのねよく聞いて…」

のぞみがプリキュアについての説明をしはじめた。



「へぇ…

 俺って正義の味方だったのかぁ…

 なんかすげーな」

のぞみから話を聞き終えたりんはしきりに感心をすると、

「そうよ、

 みんなで力を合わせてナイトメアからドリームコレットを守って、

 そしてピンキーを集めてココとナッツの故郷、

 パルミエ王国を蘇られるのっ

 それがあたしの夢なのっ

 判ってくれた?

 りんちゃん」

胸を張りながらのぞみは言うと、

「ココから聞いたぞぉ、

 りんが記憶喪失になったんだって?」

と5人に話しかけながら階上からナッツが降りてきた。

「ナッツ…」

降りてきたナッツに皆の視線が集まるが、

「なんだ、

 随分と格好つけた奴が出てきたな」

りんは憮然とした表情でナッツを見ていた。

ところが、

「!!っ

 おまえ…」

ふと、ナッツの何かに気がつくと、

ジッ!

りんはナッツから視線を離さすにジッと見つめつつ

一歩、一歩、ナッツに近寄り始めた。

「!!っ」

近寄ってくるりんにナッツは得体の知れぬ不安を覚え、

彼女が近寄った分後ろに下がり距離を置くと、

「どうしたの?

 りんちゃん」

のぞみは尋ねながらりんの顔を覗き込み、

続いてナッツを見た。

「ナッツに…なにか?」

「何か思い出したのですか?」

「??」

遠巻きに見ていたかれん・こまち・うららも、

りんの変化に興味を持ち近寄ってくる。

すると、

ズイッ!

周りに構わずにりんはさらに一歩ナッツに迫り、

サッ

りんが迫った分だけナッツが逃げると、

ズィ!

サッ

ズイズイズイ!

サッサッサッ

店の中で二人は追いかけっこを始めだした。

「おいっナッツ…

 りんとなに鬼ごっこしているんだ?」

そんな二人を覚めた目でコージが指摘すると、

「ちょっとぉ、

 りんっ、

 ナッツと何をしているのよ」

見かねたかれんが注意をする。



「こほんっ

 さっきからなんですか?

 ぼっ僕に何か用でも…」

ナッツは柄になく咳払いをして追いかける理由を尋ねると、

スッ

りんはそれに答えずにナッツを指差し、

「感じるぜ…

 この気配…

 この感覚…

 うん、間違いない。

 お前、サコッチだな」

と指摘した。

「!!!っ」

りんのその指摘に総毛立ててナッツは驚くと、

「?

 なにそれ?」

「サコッチ?」

「なにかのお菓子の名前ですか?」

「それってなんですか、

 りんさん?」

成り行きを見ていたのぞみ達がりんに理由を尋ねた。

ところが、

「いっ一体、何を言い出すのかと思ったら、

 僕には何のことだかさっぱり?

 第一、僕はそんな名前ではなっないからな」

なぜかナッツはソワソワしながら言い返し始めると、

「いーや、

 お前はサコッチだ。

 この俺がそう言うんだから間違いない」

とりんは首を横に振りながら言い切り、

そして、急に安心したような表情になると、

「はぁ、よかったぁ、

 こんなところでお前に会えるなんてさ」

嬉しそうにりんはナッツの手を握り締めながらブンブンと振ってみせ、

「なぁ、サコッチ、

 これって何の余興だ?

 手の込んだことをしやがって、

 咲や美翔たちは何所に行ったんだ?」

とナッツの耳元で囁き、

改めて店の中を見回す。

すると、

「ねぇ、りんちゃん?

 話が見えないんだけど…

 りんちゃんはナッツのことは覚えているの?」

そんなりんに向かってのぞみは尋ねると、

「あぁ…

 知っているも何もこいつはサコッチといってな…

 俺の友達兼相棒なんだよ」

のぞみに向かってりんはそう言うと、

ナッツの腹に軽く肘鉄を喰らわせる。

その途端、

「ちょっとぉ!

 ナッツに何をするの?」

かれんが飛び出してくると、

「夏木さんっ、

 あなた、記憶喪失とか言ってぇ、

 ナッツに馴れ馴れしくしようって魂胆じゃないのぉ?」

と文句を言いながらナッツの左腕を引いた。

「なっ、

 なにすんだよっ、

 サコッチは俺の相棒だぞ!

 手を離せよぉ」

それを見たりんも負けじとナッツの右腕を引く。

「そっちが離しなさいよ」

「そっちだろう」

両腕を引かれ困惑気味のナッツを他所にりんとかれんが言い合い始めると、

「今のりんさん、いつもと変わりませんよ…」

ポツリとうららが呟いた。

そして、

「記憶障害って言っても、

 全てを忘れてしまったわけじゃないから…

 きっとナッツに関係する記憶は残っているんでしょう。

 それと…かれんと意地を張っているところもね」

それを受けてこまちが少し嬉しそうに指摘すると、

「あたしのことはすっかり忘れちゃっても、

 ナッツのことは覚えていたのね…」

涙目になりながらのぞみは呟く。

「まぁまぁ、のぞみさん。

 諦めてはダメですよ、

 りんさんがナッツのことを覚えているってことは、

 それを手がかりにすれば、

 みんなのことを思い出すことも出来るはずですよ」

ガッツポーズを見せながらうららが励ますと、

「そっかぁ、

 そうだよね、

 うん。

 よーしっ、

 りんちゃんの記憶を取り戻すまで頑張るぞぉ、

 けってーぃ!」

のぞみは気勢を上げた。

と同時に

「いい加減にしてください!」

ナッツの声が響き渡ると、

同時に自分の手を握るりんとかれんの手を切る。

「サコッチ…」

「ナッツ…」

怒るナッツの姿に二人は驚くと、

「いいですかっ

 僕はナッツです。

 サコッチとかいう人ではありません」

ナッツはりんに向かって言い聞かせ始めるが、

「そんなツレない事を言うなよぉ、

 サコッチぃ」

りんは再び猫撫で声で囁くと、

「だから、俺は…」

とナッツは言葉を重ねた。

すると、

「ほら、あそこの塀。

 あんなに頑丈に見えても、

 実は木で出来ているんだってよ、

 へぇ〜っ

 なんちゃって」

突然りんは駄洒落を言はじめた。

その途端、

「あのねっ、

 それは塀と、

 感心する意味の”へぇ”を掛け合わせているんでしょう。

 そんなのタマちゃんだって笑わないよ」

とすかさずナッツは突込みを返すが、

それを聞いてりんは

ニヤッ

と笑って見せると、

対照的にかれんは顔を強張らせる。

「うっ(しまった)」

二人のその姿にナッツは自分の手で口を塞ぎ後、

ずさりしながらコージやのぞみ達を見ると、

「ナッツ、お前…」

「そんなナッツまでおかしくなっちゃったの?」

「困りましたわねぇ」

「えんがちょ」

冷たい視線が一斉にナッツに突き刺る。

「なぁ、サコッチぃ、

 何をオロオロしているんだよぉ、

 もっと堂々としろよ。

 こういうときでも漫才が出来る。

 これって俺たちのコンビは永久に不滅だと思わないか?

 そうだ、

 コンビ名だけど、

 ちょっと弄って 

 ”りんと愉快な森の妖精たち”

 でどうだ?」

とりんは話しかける。

すると、

「ちっちがうっ、

 僕は…僕はナッツだ。

 パルミエのナッツ。

 それが僕なんだ、

 決してサコッチなんて人では…」

うわ言のようにナッツは繰り返し始める、

「うわぁぁぁぁぁ!!」

ついに頭を抱えて、

声にならない声をあげてしまうと、

「違うぅ

 違うんだぁ…」

と叫びながら店を飛び出してしまった。

「あっサコッチ、

 待てよ!」

それを見たりんも店から飛び出し、

「待て、ナッツ!

 みんなっ、

 追いかけるぞ!」

「あぁ待って、

 りんちゃーん!」

そのりんの後をコージやのぞみやうららも追っていく、

「ねぇ、かれん、

 そろそろ動ける?」

相変わらず固まったままのかれんにこまちは話しかけると、

「(ハッ)

 いっ行くわよ!」

こまちの言葉にようやく気がついたのか、

顔を真っ赤にしてかれんは声を上げ、

こまちと共に追いかけていった。



「うぉーっ

 サコッチ、随分と足が速くなったなぁ」

街の中を駆け抜けていくナッツを追ってりんは感心していると、

ナッツは一直線に街の真ん中にある公園へと駆け込んでいく。

「ん?

 公園?…

 一体、サコッチは何所まで行く気だ?」

公園に踏み入れてもなおも走り続けるナッツの姿を怪訝そうに見ていると、

ポンッ!

突然前を走るナッツの周囲に煙が沸き起こったと思った途端、

ヒョコヒョコ…

煙の中から一抱えほどの小動物が姿を見せた。

「はぁ?

 何だあれ?」

足の速さの差から見る見る迫ってきた小動物をりんは後ろから拾い上げると、

『離せッ!

 離せナツ!』

と小動物は抵抗を始めた。

「いっ、

 言葉を喋ったぁ!」

それを見てりんは驚きの声をあげて、

その場に尻餅を付いてしまうと、

スグに、

「ナッツ!」

似たような小動物を抱えたのぞみとうららが到着してきた。

「夢原…さん、

 なにそれ?」

のぞみが抱えている小動物を指差してりんが尋ねると、

「ココよ」

とのぞみは答える。

「それがココ…

 ココって小々田先生の本当の姿って言っていたよな。

 じゃぁ…

 これは…ナッツ?

 このふわふわのモコモコが…」

ココを見ながらりんは呟き、

そして、手元のナッツを見ると、

『ナッツ!』

りんに抱えられたナッツはプィッと横を向く。

「え?

 え?

 えぇ!

 サコッチがこんなふわふわのモコモコになったぁ?!」

衝撃の事実にりんは驚くと、

コツリ!

物音が響き、

『おや、

 こんな所にいらしたのですか、

 お探ししましたよ』

男の声が響いた。

「え?」

その声にりんやのぞみ達が振り向くと、

『どうも…

 こんにちわ』

大きな眼鏡をかけ、

帽子を被ったいかにも怪しげな男が徐に頭を下げた。

「誰だ?

 お前は!」

男に向かってりんは怒鳴ると、

ピクッ!

男のこめかみが微かに動き、

『おやぁ?

 わたしを忘れてしまったのですか?

 あなた方とは随分に顔を合わせていたじゃないですか』

と冷静そうに話しかける。

「顔を合わせている。って言われてもなぁ…

 今日初めて会ったわけだし」

その言葉に頭を掻きながらりんはそう返事をすると、

「(りんちゃんっ

  ナイトメアよぉ)」

とのぞみが小声で声をかけた。

「(え?

  あれがナイトメア?)」

のぞみの言葉にりんが驚くと、

『冷たいのですね…』

男はポツリと呟き、

クワッ!

いきなり目を大きく見開くと、

『このギリンマ様がほんのちょぉぉぉっと休暇を取らされている間に

 私のことなどきれいサッパリ忘れてしまったと言うのですかっ!

 それでもあなたは心が痛まないのですかっ

 プリキュアってそんなに冷たいのですかぁ!!!』

と怒鳴り散らし、

そして、

『さぁ、

 今日こそはドリームコレットを渡して貰いますよぉ!』

鼻息荒くギリンマはりんやのぞみ達に向かって手を差し出した。

すると、

『誰がお前なんかに!』

『いい加減諦めたらどうだ?』

ギリンマに向かってナッツとココが叫ぶと、

ニヤッ

ギリンマは笑みを浮かべ、

『では仕方が無いですね、

 話し合いでわからないのなら、

 実力で頂くとしましょうか』

再び落ち着いた口調でそう言うと、

背広の懐からお面のようなものを取り出し放り投げる。

そして、

カポッ!

放り投げられたお面がりんの後ろにあるベンチにかぶさると、

『コワイナァ〜っ』

の声と共にベンチが周辺の物と一体化しながら起き上がり襲い掛かって来た。

「うわぁぁぁ!

 でたぁ!」

襲い掛かってきたコワイナーにりんは悲鳴を上げて逃げ出すと、

「みんな変身よ!!」

追いついてきたかれんが声を指示をする。

「うんっ」

「はいっ」

かれんのその声にのぞみは頷くと、

ピンキーキャッチュのカバーが開き、

「プリキュア・メタモルフォーゼっ!」

の掛け声と共にのぞみ達4人はプリキュアに変身し

『コワイナァ〜』

と声を上げるコワイナーと対峙する。

「んじゃっ

 後をよろしく!」

プリキュアたちに後を託してりんは走り去ろうとするが、

「お待ちなさいっ!」

すかさずキュアアクアがその腕を握り締めると、

「何をやっているんですかっ

 あなたも一緒に戦うんですっ」

とドアップになって迫ってきた。

「アクア…」

思いがけないアクアの言葉にキュアドリームは驚くと、

「あたし達が初めて変身したときでも戦えたんです。

 記憶を無くしていたって、

 りんなら出来るでしょう?」

そうアクアが言い切ると、

「そっそうよっ、

 アクアの言う通りよ。

 りんちゃんだって、

 初めてのときもちゃんとあたしと戦えたんだから出来るよ!」

とりんに向かってドリームは力説した。

「え?

 やっぱ戦うの?

 って言うかアレが話に聞いていたのとは随分と違うなぁ…

 っと」

冷や汗を掻きながらりんは迫ってくるコワイナーを指差すと、

「何をしているココ、

 りんも早くプリキュアに変身をするココ!」

ココがりんに変身を促す。

「えぇ!?」

ココの催促にりんは困惑していると、

『コワイナァ〜』

力を蓄え終わったのか構えていたコワイナーが襲い掛かってきた。

「あっ、

 危ないっ!」

襲い掛かるコワイナーの姿を見てりんは声を上げるが、

「ハッ!」

それよりも早くドリームたちは散開すると、

「このぉ!」

「毎度毎度」

「しつっこいわよぉ」

ついにコワイナーとの間で戦いの火蓋が切られた。

「あっ、

 そこっ、

 違うっ

 あぁ何をやっているんだ」

プリキュアとコワイナーとの闘いから一歩離れてりんは見ているが、

「あぁ…ルージュが抜けると」

「決め手に欠けるナツ」

押され気味の戦い方にココとナッツは声を上げる。

「みんな…

 おいっ、

 あいつらと同じようにすれば俺も変身できるんだな」

戦いを見ていたりんはココたちに尋ねると、

『大丈夫、りんなら出来る』

とココは胸を叩いた。

「よーしっ、

 ふっ

 男・健太、

 プリキュアになってやろうじゃないのっ!」

それを聞いたりんは頷き、

「えーと、こうすれば良いんだよな」

と腕を構え、

「プリキュア、メタモルフォーゼ!」

りんは声を張り上げた。

そして、

「情熱の赤い炎っ、キュアルージュッ!」

見事りんはキュア・ルージュに変身をすると、

「おぉっ、

 何かすげー格好になったな」

キュアルージュはプリキュアに変身した自分の姿に驚く。

すると、

『やっと出てきましたね。

 わたしのことを忘れたことを後悔させてあげますよ、

 コワイナー!!』

ルージュの登場に気がついたギリンマは

コワイナーに命令をすると、

『コワイナぁ〜』

ルージュに向かってコワイナーが突撃してきた。

「ルージュッ、

 気をつけて!!」

直にミントの声が響き、

『コワイナァ〜っ』

間近に迫って来たコワイナーの触手がルージュに襲いかかる。

「はっ!

 んなろぉ」

襲ってきた触手をかわしたルージュは素早く裏側に回り皆と合流すると、

「わーぃ、

 ルージュだぁ!!」

喜びながらドリームがルージュに抱きついてくる。

「こらこら、

 そんなことよりも、

 で、あれ、どうやって倒すんだよ?」

ドリームを押し戻してルージュは尋ねると、

「いつもどおり分担しましょ、

 今回の攻撃はあたしとドリームで行うから、

 ルージュとミントはひきつけ役で

 そして、レモネードは足止めを…」

とアクアが指示を出すと、

「イエスっ!」

その返事と共に5人は二手に分かれ、

「鬼さんこちら!」

さっそくひきつけ役のルージュがコワイナーの前で飛び跳ねて挑発を始めだす。

『おまえらぁ〜っ』

それを見たギリンマが怒り始めると、

『何をしている』

とコワイナーに向かって怒鳴り声を上げた。

すると、

『コワイナ〜』

コワイナーはルージュを追いかけ始めだした。

「ルージュ、

 挑発もほどほどにね」

追いかけてくるコワイナーから逃げながらミントはルージュにさり気なく注意すると、

「あはは…逃げろ、逃げろ」

追いかけてくるコワイナーを引きつけながらルージュとミントは走り、

そして、あるところまできたとき、

「レモネード!」

と声をかけた。

すると、

コワイナーの前にキュアレモネードが立ちはだかり、

「弾ける乙女の底力、

 受けてみなさい。

 プリキュア・レモネード・フラーッシュッ!」

と声を張り上げ、

無数の光の蝶がコワイナーへと襲い掛かっていくと、

その動きを止めた。

と同時に、

「岩をも砕く乙女の激流、

 受けてみなさい。

 プリキュア・アクアストリーム!」

「夢見る乙女の底力、

 受けてみなさい。

 プリキュアドリームアターック」

キュアアクアろキュアドリームの技が炸裂し、

『コワイナ〜っ』

コワイナーからお面が剥がれ落ちてしまうと、

コワイナーは崩れ落ちるように元の姿へと戻っていく。

「やったぁ」

コワイナーを倒したことにドリームは喜んで飛び上がるが、

『プリキュアぁぁ!!

 せめてお前だけでも』

いつもはすぐに身を引くはずのギリンマがドリームに向かって切り込んできた。

「ドリーム!」

それを見たルージュがギリンマの前に飛び出し、

「純情乙女の炎の力、

 受けてみなさい。

 プリキュア・ルージュファイヤー!!」

の掛け声と共に炎の蝶をギリンマに向けて放った。

『ちぃぃ!!!』

向かってくる炎にギリンマは歯軋りをしながら姿を消すと、

炎の蝶は空を切っていった。

「ルージュ…

 すごーぃ、

 ちゃんとできるじゃない」

ルージュが技を放ったことにドリームは驚き、

そして喜ぶと、

「その辺はいつもと変わらなかったのね」

「問題は…ないですわね」

「良かったです」

アクアやミント、そしてレモネードも一安心する。



「さて、

 夏木さんの記憶を取り戻すのって

 どうも長丁場になりそうね」

公園からの帰り道、

かれんはそう指摘すると、

「まぁまぁ、

 ゆっくり行きましょう、

 焦りは禁物ですよ」

とこまちは言う。

「いや、だから、

 俺は…違うって…」

彼女達の言葉にりんは不満そうに頭を掻いていると、

「頑張ろう、

 りんちゃんっ!」

とのぞみはハッパをかけながらりんの背中を叩いた。

その途端、

「え?

 あっ

 うわぁぁ!」

丁度石段の降り口のところを歩いていたりんは

叩かれた勢いでついバランスを崩してしまうと、

「うわぁぁぁ!!」

ドタタタタ!!

階段の下にまで転げ落ちてしまった。

「おっおいっ!」

「きゃぁぁ!!」

「大変!」

「りんちゃんっ!!」

りんの転落に顔を青くしながらのぞみ達が降りていくと、

「痛ぁぃ」

頭を押さえながらりんは起き上がり、

ジロッ!

降りてきたのぞみを睨みつけるなり、

「ちょっとぉ、のぞみぃ!

 いきなり突き飛ばすってどういうつもりよ!」

のぞみに向かって食って掛かる。

そして、

「あれぇ?

 ここって教室じゃない?

 あたし、

 なんでこんな所にいるの?」

と景色がガラリと違っていることに気づくと、

キョロキョロと周囲を見回し始めた。

「記憶が、戻ったみたいですね」

りんの姿を見てこまちはそういうと、

「りっりんちゃん?

 あたしのことが判るの?」

りんに向かってのぞみは自分を指差して聞き返す。

すると、

「?

 なっなによ、いきなり、

 あたしをからかって誤魔化すつもり?」

ジロッ

睨みつけるようにしてりんはのぞみを見ると、

「もっ元のりんちゃんだ。

 良かったぁ!」

泣きながらのぞみはりんに抱きつき、

「どうやらここからから落ちたのが良かったみたいですね」

そんな二人を見下ろしながうららが言うと、

「まったく、くだらない…」

呆れ半分にかれんはため息を付きながら

さっさとその場から立ち去って行く。



「…たぁ、

 健太ぁ、

 健太ぁ、大丈夫?」

闇の底から呼び起こされる声に健太は目を覚ますと、

目の前一杯に咲の顔があり、

「あっあれ?

 俺…」

目を覚ました健太は周囲をキョロキョロと見回した。

そして、

「!!」

何かに気づくと

バッ!

バッ

バッ!

身体のあちらこちらに手を当てて、

自分の身体を確かめる仕草をして見せると、

「おっ俺だぁ…

 星野健太だぁ!」

と安堵の表情を見せる。

すると、

「星野君、大丈夫?」

太田優子が割って入り、

心配そうに健太を見詰めると、

「え?

 あぁ、

 いや、大丈夫だよ、

 ほらっ

 ピンピンだよ、

 ああははは」

心配そうに見る皆を健太は安心させようとしてか、

飛び起きるなりガッツポーズをして見せる。

「健太、ごめんね、

 なんかコロネが悪戯したみたいで」

そんな健太に向かって咲が謝ると、

ニィ…

咲の腕から零れ落ちそうな姿のコロネは小さく鳴いて見せた。

「え?

 あぁ、そうか、

 コロネが俺の足元にぶつかったのか、

 蝶に気を取られていたからな…

 いや、ビックリした俺が悪いんだよ、

 コロネのせいじゃないさ」

そう言いながら健太はコロネの頭を撫でていると、

「まったく脅かさないでよ」

と宮迫がぼやいた。

その途端、

「あっ、サコッチ!

 お前、なんだよ、

 イケメン男になんてなりやがって!」

と宮迫を指差して健太は食って掛かかると、

ピクッ!

加代のこめかみが微かに動く。

「はぁ?

 何のことを言っているのか判らないよ」

胸元を掴みあげられての抗議に宮迫は首を捻ると、

「プリキュアだよ、

 プリキュア!」

と健太は声を張り上げ、

「プリキュア?

 なにそれ?」

それを聞いたみのりは健太に尋ねるが、

その一方で、

ギクッ!

咲と舞はその表情が凍りつき、

そして、互いに顔を見合わせた後、

「なっ何の話を・しているのかな?

 意味が・全く判らないんだけど…」

咲がぎこちなく健太に尋ねた。

「あぁ、サコッチの奴、

 アクセサリー屋をやっててさ、

 それが傑作なんだよ。

 ナイトメアのコワイナーとか言う変な奴が襲って来るんだけど、

 そしたらさ、

 ナッツなんていうフワフワのモコモコに化けるんだぜ、

 そして、俺にプリキュアに変身して戦えってさ。

 なぁ、サコッチ」

と笑いながら健太は宮迫の肩を叩く。

「ふんっ、

 大方夢でも見たんだろう」

そんな健太に宮迫は呆れながらそういうと、

「コワイナー?

 それを言うならウザイナーじゃないの?」

と咲は指摘する。

「いーや、コワイナーだ」

「ウザイナーよ」

「コワイナー!」

「ウザイナー!」

「コワイナー!」

「ウザイナー!」

咲と健太は顔をつき合わせてそう言いあった後、

「しつこい奴だなぁ、

 第一、咲はプリキュアになったことがあるのかよ」

と健太は指摘する。

すると、

「あっっったり前でしょう!

 今日も大変だったんだからぁ!」

胸を張って咲は言い返すが、

その途端、咲の口がふさがれ、

「べっ別にどっちでもいいじゃない。

 ねっ!」

慌てふためいた舞が割って入ると、

咲を後ろに向かせ、

「だめじゃない、咲っ!」

と小声で注意する。

「あっ、

 ごめん、舞。

 ついつられて…」

そんな舞に咲は手を合わせて謝ると、

「なぁ、こうやって変身するんだぜ、

 プリキュア・メタモルフォーゼ!!」

その後ろでは健太が伸ばした手で大きく円を描いて見せてていた。

「ねっ、

 どうも星野君はあたしたちのことを知ってて言っているんじゃないみたいよ」

と舞は指摘する。

「うん…

 そっそうよね、

 宮迫君の言うとおり健太の夢の話よね」

取り繕いながら咲は笑うものの、

「でも、夢の中の話にしては、

 ちょっとあたしたちと似すぎているような…」

一度は否定しながらも、

しかし、様々な条件が似ていることに舞は不安そうな顔をする。

「もぅ、舞ったら、

 気にしないのっ

 第一、健太がプリキュアだなんて…

 そんな…」

舞を励まそうとして咲はそう言いながら、

ふと、イーグレット姿の健太を想像した途端。

「あはっ

 あははは

 やめて、

 お腹がよじれる」

咲は口を押さえてしゃがみ込んでしまうと、

「もぅ咲ったら、何を想像しているのよ」

咲の姿を見ながら舞は怒って見せるが、

舞もまたブルーム姿の健太を想像してしまった途端、

咲と仲良くしゃがみ込んでしまった。

「何をやっているんだ、お前ら?」

肩を震わせ笑い堪える咲と舞を見ながら健太は呆れると、

「ごっごめんなさぁい

その場から逃げ出すように咲と舞は表に飛び出し、

降り始めた雪の下、

「はぁ…おかしかったぁ」

白い息を吐きながら咲はそういうと、

「咲ったら変なことを言うから」

舞は咲の肩を叩く。

そして、

「でもさ、いま思ったんだけど

 プリキュアって伝説の戦士なんでしょう?」

そんな舞に向かって咲は尋ねると、

「うん、そうだけど」

「じゃぁさ、伝説なら伝説を作った…

 そう、あたしたち以外のプリキュアが居ても、

 おかしくは無いんだよね」

空を見上げながら咲はそう呟く。

「そっかぁあたしたち以外のプリキュアかぁ、

 何か会って見たいね」

咲の言葉に舞は目を輝かせながら、

「確かに…会えるなら会ってみたいかもね」

と静に舞い落ちてくる雪を眺めていた。

その頃、ダークフォールでは、

「いよいよでございます」

ミズシタターレとキントレスキーを失ったゴーヤンが奪ったキャラフェを前にして

不敵な笑みを見せると、

ある決意をしていたのであった。



おわり