風祭文庫・乙女の館






★執筆300物語達成記念★
うる星やつら・オリジナルストーリー

「ダーリンがうち?」
(前編)



作・風祭玲


Vol.298





…この物語を原作者・高橋留美子氏に捧げます…




Seen1:諸星家・あたるの部屋

「ちょこざいな!!」

「喰らえ!!」

ドタバタ!!

日が落ちて夜の帳が降りた諸星家では、

もはや年中行事とかしているテンとあたるのド突き合いが

過激にそして熾烈に繰り広げられていた。

ゲシッ

パコン!!

飛び交う雑貨をかいくぐりながら、

「もぅ、ダーリンもテンちゃんもいい加減にするっちゃ!!」

ついに痺れを切らしたラムが声を上げると、

「止めるなラムっ、今夜こそは…」

「そうや、これは男と男の一騎打ちや!!」

ケンカの当事者である諸星あたるとテンは共に怒鳴り声をあげた。

そして、ラムの制止の言葉も聞かずに、

「これでも喰らえっ!!」

ゴワッ!!

テンがあたるに向かって火焔を吐くと、

「なんの!!」

サッ!!

素早くあたるは手にしたフライパンで防御する。

「はぁはぁ…くっそぉ」

火焔を吐き終わり、テンに一瞬の隙が生じた時、

「(キラッ)ちゃーんすっ」

あたるの目が一瞬光るや否や、

ブォォォォン!!

猛烈な勢いでフライパンがテンに迫ってきた。

刹那…

すぱぁぁぁぁぁぁぁん!!

「うぎゃぁぁぁぁ!!」

響きのいい音と叫び声を残してテンの姿は夜空の彼方へと消えて行った。

「ふっ、勝ったな…」

片手に残る感触を確かめるように、

あたるは決めポーズを決めながら勝利宣言をすると、

「もぅ…ダーリンったら…」

そんなあたるの姿を横目で見ながらラムはため息をついていた。



Seen2:ラムのUFO

「くっそぉ…アホのあたるめ、調子にのりくさりおってぇ〜っ」

お尻に大きな「×」印の絆創膏を張ったテンが、

文句を言いながらラムのUFOに戻ると、

一通のダイレクトメールが届いていることに気がついた。

「あっ、わい宛や…なんやろ…」

テンがそのダイレクトメールを開けると、

カタン!!

乾いた音を立てながら一本のビデオテープが転がり落ちてきた。

「?」

疑問を抱くこともなくテンがビデオテープをセットすると、

パッ

いかにも爽やかそうな青年が画面に姿を見せ、

『やぁ、宇宙のよい子のみんな…

 元気にしているかなぁ…』

と元気に挨拶をした。

そして、

『さて、今日紹介する秘密アイテムは

 どうしても勝てないいじめっ子を

 徹底的に懲らしめる画期的なアイテムだぁ…』

と喋りながら、

青年はある品物を画面に出しその能力を説明し始めた。

そして、テンはその映像を食い入るように眺めた後、

「こっこれや!!!」

すかさず膝を叩き、

スグに画面に表示された惑星ネットのアドレスにアクセスを始めた。

そして注文フォームに打ち込みながら、

「ふっふっふっ…見ておれよあたるぅ〜っ」

と不逞な笑みを浮かべていた。



その翌日…

『まいどぉ〜っ』

威勢のいい惑星宅配便の配達員の声と共にテンの元に一個のコンテナが届けられた。

「来た!来た!!来た!!!」

ほくそ笑みながらテンがコンテナを開梱すると品物をセットし始める。

しかし…

「それにしても、こないに大きいとは思わんかったな…

 これじゃぁ、手に持ってとは…いかんなぁ…」

っとテンはUFOの操縦室をほぼ占拠してしまったマシンを残念そう眺めながら、

パラパラと同梱の取扱説明書に目を通し始める。

すると、

「あっなんやコイツ…

 リモコンで操作できるんや…

 しゃぁない…

 よし、こうなったらお前はわいの最終兵器や!

 イザと言うときよろしく頼むな」

そう言いながらテンは、

”KDN−01:必殺、階段落とし1号”

と言う形式が書かれたマシンの筐体をコンコンと叩いた。

そして、

格納庫の方へと移動しながら、

「あのマシンを使ってあたるをネコにでもしてやろうと思っていたんやけど、

 まっ、前もってコイツをパワーアップしといたさかい、

 これで、あたるのアホを徹底的にどついたる。」

と言いながら、格納庫のスイッチを入れると、

カッ!!

テンの目の前に出力を強化したオマル型エアバイクが姿を見せた。

ひゅひゅひゅひゅ…

ごわぁぁぁぁぁ…

ちゅどどどどどどどどど…

格納庫内にエンジン音が響き渡ると、

ヘルメットを被りに首にトラジマのマフラーを巻いたテンがエアバイクに跨る。

「ようし…

 いっくどぉ…

 わいには最終兵器があるんや、

 あたるに勝って祝賀パーティや!!」

テンは高らかにそう宣言すると、

ちゅどどどどどどどど…

リモコンを片手に颯爽とUFOから発進していった。



Seen3:再びあたるの部屋・決戦前

パリッ!!

ポリポリ!!

「ダーリン、何しているっちゃ?(もご)」

あたるの部屋でラムは煎餅を囓りながら、

セッセとフライパンの手入れをしているあたるに声を掛けると、

「なぁに、もうじきジャリテンが押し掛けて来るだろうから、

 そのお手入れさっ」

と口笛を吹きながらあたるが説明をする。

すると、

「不吉じゃっ!!」

突然の響き渡った声と共に錯乱坊の顔があたるにドアップで迫った。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

唐突な登場にあたるは叫び声をあげると、

スパァァァァァン!!

手にしていたフライパンで錯乱坊の頭を殴ると、

「いきなり、ドアップで迫るヤツがあるかっ!!」

と怒鳴った。

「チェリー…どうしたっちゃ?」

胸の動悸を押さえているあたるを押し退けてラムが錯乱坊に訳を尋ねると、

「不吉じゃ…

 今宵、この部屋でとんでもないことが起こるぞ!!

 この事態を解決するには拙僧を於いて他にはない」

と錯乱坊は告げながら

バリボリバリボリ

ラムが食べていた煎餅を取り上げるなり貪りはじめた。

「あぁ!!、うちの煎餅!!」

ラムがそれに気づいたときには、

錯乱坊は煎餅を食べ尽くくし、

「お代わり…」

と空になった袋をラムに差し出した。

その途端、

ブォォォォォ!!

空気を切り裂きながらフライパンが錯乱坊に接近してくると、

パコォォォォォォン!!

と言う音を残して錯乱坊は弾道軌道を描きながら夜空へと消えていった。

「おぉ…400ヤードは飛んだな…

 イーグルかなこれは?」

身体を思いっきり捻り、

フライパンを振り抜いた姿のあたるが

錯乱坊が消えた方角を眺めながらそう言うと、

「ふっふっふっ」

テンの不貞不貞しい笑い声があたるの頭から降りかかってきた。

「む?、その声は…ジャリテンか…」

フライパンを片手にあたるが声をあげると、

「ひとぉーつ、人の世の生き血をすすり…

 ふたーつ、不埒な悪行三昧…

 みっぃーつ、醜い浮き世の鬼を…

 退治してくれよう桃太郎!!…」

そう言いながら、

ちゅどどどどどど…

ゆっくりとエンジン音と共にエアバイク跨ったテンが窓の外に姿を見せた。

すると、

「面白い…返り討ちにしてくれる」

いつの間にか悪代官ルックに身を固めたあたるがフライパンを構えた。

そして、一瞬の間をおいて、

「勝負やっ」

ごわぁぁぁぁぁ!!

エアバイクのアクセルが入るや否や

猛スピードでテンが飛び込んで来た。

しかし、

スッ、

あたるは冷静に目を瞑り、

ピクッ!!

あるタイミングで身体を横にそらすとフライパンを思いっきり振った。

と同時に、

パコォォン!!

響きのいい音が部屋に響くと、

ぶぉぉぉぉぉん!!

主がいなくなったエアバイクは夜空の彼方へと飛んで行く、

「ふっ、決まったな」

感触を確かめつつゆっくりと目を開けたあたるは

足下で目を回してひっくり返っているテンを見下ろしながらそう呟くと、

「てっテンちゃん大丈夫?」

それを見たラムが飛び出してくるなりテンを介抱し始めた。

「ほっとけラム、自業自得じゃ!!」

ラムの様子にあたるはそう言うと、

「くっくっくっ…

 これで勝ったと思うなよ」

「なに?」

目を廻しながらも、テンは声を上げると、

「最終兵器発動や!!」

カチッ!!

と叫びながらテンは手にしていたリモコンのスイッチを入れた。

すると、

ピッ、

がちょん!

がちょん!!

がちょん!!!

ラムのUFOの操縦室を占拠しているマシンに設置してあるレバーが次々と引き上がると、

マシンの各所から顔を覗かせている無数のメーターに火が入った。

そして、

『目標、座標確認、

 プログラムナンバー”お”の一番・尾道、神社前、階段落とし発動!!』

とマシンが無機質な声をあげた途端、

すどぉん!!

UFOより一発のビームは放たれると地上の諸星家目指して一直線に突き進む。

「わはははははは、

 勝った、わいは勝ったんや!!」

「なにを!!」

テンの高笑いが響く中、

カッ!!!

あたるの部屋は目映い閃光に包まれた。

そして、

ドォォォォン!!

突如部屋の中に出現した階段に

あたる・ラム・テンの三名は足をとられると、

「うわぁぁぁぁぁ!!」

「ちゃぁぁぁぁ!!」

「あははははは………はぁ?」

叫び声を残して一斉に転がり落ちていった。



コォォォォォォ!!!

諸星家より立ち上る光の柱を眺めながら

「ふっ」

ノンビリとタバコをふかすコタツネコを背に

「不吉じゃぁ…」

と呟きながら

ズズズズ…

錯乱坊は湯気が上がるお茶を啜っていた。



Seen4:あたるの部屋・決戦後

「イテテテテ…」

あれからどれくらい時間が経ったかは判らないが、

パチっ!

ようやく気がついたあたるが目を開けると、

部屋の明かりは消え、

真っ暗な部屋の中に同じ様に倒れている二人の気配があった。

「ったくぅ…

 ジャリテンめぇ…姑息なマネをしおって」

そう文句を言いながらあたるが起きあがると、

「小便してこ…」

呟きながら立ち上がった。

とその時、

フワサッ

あたるの背中に髪の毛の束が軽く触れた。

「ん?、

 なんだ?」

ブンブン…

髪の感覚を不快に思いながらあたるは頭を軽く振るが、

しかし、髪は頭の動きより一歩遅れて身体にまとわりつく、

「げっ、髪が伸びている…

 ゅたくぅ

 ジャリテンのせいだな…」

長く伸びた髪を触りながらあたるはそう呟くと、

そのことをあまり追求することなく部屋を出た。

トントン

と階段を下り、

そして洗面所の横を通ったとき、

さっ、

薄明かりの鏡の中をラムの横顔が通り過ぎた。

「あん?

 なんだ、ラム…俺を脅かそうって言うのか?

 何を企んでいるかは知らないが、

 止めとけ止めとけ…」

手を振りながらあたるはラムにそう言うと、

パタン…

トイレに入った。

そして、所用としようとしたとき、

「え?

 あれ?」

スカッ

幾ら股間を探しても目当ての物はそこにはなかった。

「なんだ?」

不思議に思いあたるが視線を下に降ろすと、

「なに?」

そこにはあるはずのない2つの膨らみが視界に入ってきた。

「なっなんだ?、これは…」

クニッ

意味が分からずあたるが両手でそれを持ち上げてみると、

キュッ

ビキニの軽い締め付け感と共にあたるの胸は大きく動いた。

「………」

サァー

見る見るあたるの顔から血が引いてくると、

そっと、自分の頭を触った。

コツリ…

すると、頭の両脇にあるはずのない硬い角の感触が手に伝わってくる。

ゴクリ…

あたるは生唾を飲み込むと、

ドタッ!!

バタバタバタ!!!

トイレから這い出すように飛び出してくると、

そのまま洗面所へと飛び込んだ。

そして、鏡に自分の顔を映しだしてみた途端、

「!!!!!」

信じられない光景にあたるは目を丸くした。

「ばかな…」

唖然としながらも、

サッ

サッサッ

あたるは鏡の中の自分が誠であるか確かめるように幾度も手を動かすと、

ペタン!!

その場にへたり込み、

「らっらっラムじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

と自分の細い腕を見ながら叫び声をあげた。



「あぁぁ…って、

 じゃぁ俺はどーなったんだ?」

声を上げながらあたるはそのことにハタと気づくと、

ドタドタドタ!!

そのまま階段を駆け上がると自分の部屋に飛び込む、

そして、

パッ!!

消えていた灯りが灯すと、

あたるの眼下には倒れたままの”あたる”と”テン”の姿があった。

「おっ俺が…俺が寝ている…」

フルフルと震える手であたるは寝ている”あたる”を指をさすと、

「おいっ起きろ、

 起きんかっ」

とあたるは”あたる”の頬を叩き始めた。

すると、

「ラムちゃん、なにすんねん…」

”あたる”はそう寝言を言ってあたるの手を叩くと再び眠りについた。

カチン!!

その行為にムッとしたあたるは”あたる”の胸ぐらを掴みあげながら、

「くおらぁ!!

 起きんかっ!!」

と思いっきり怒鳴った。

するとその弾みで、

パリッ!!

あたるの身体が青白く光ると、

ドババババババババババ!!

身体から発せられた電撃が”あたる”をモロに直撃した。

「うぎゃぁぁぁ〜っ」

放電の光と共に”あたる”の絶叫が部屋中に響き渡る。

電撃のショックに

パチ!!

”あたる”が目を覚ますと、

「いっいきなりなにするねん、ラムちゃん…」

と半ば黒こげになりながらあたるに向かってそう言った。

「ラムちゃん?、ってことはお前はジャリテンか?」

あたるは”あたる”口調に相手がテンであることに気づくと、

「どうしたっちゃ?…あれ?なんでうちが…」

物音に目を覚ました”テン”が起きあがるなり、

あたるを指さしながら驚いた顔でそう言った。

「お前……ラムか…」

あたるは”あたる”を放り出すと”テン”を抱き上げながらそう尋ねると、

「ちゃぁ?」

”テン”は事態を飲み込めていない表情でそう返事をする。



Seen5:あたるの部屋・会議中

「テンちゃん、それホント?」

あたるの部屋に”テン(ラム)”の声が響くと、

コクリ

”あたる(テン)”は素直に頷いた。

「どっどう言うことだラム?」

”ラム(あたる)”が聞き返すと、

「テンちゃんが使ったマシンは

 特定のエリア内の人間の精神を入れ替わるものだったっちゃ…

 本来ならもっときちんと調整して作動させなければならないのに、

 テンちゃんたら初期状態のまま作動させたっちゃねぇ…

 はぁ…あれほど無駄遣いしちゃダメっていったのに」

”テン(ラム)”はそう言ってため息を付きながら浮かび上がると、

「すんまへん」

”あたる(テン)”は”テン(ラム)”に向かって頭を下げた。

それを見ながら、”テン(ラム)”は

「うち、UFOに戻って元に戻れるか見てくるっちゃ」

「おっおいっ、

 じゃぁ、俺はいつまでこのままなんだ?」

”テン(ラム)”の言葉に”ラム(あたる)”はそう言いながら詰め寄ると、

「とにかく、マシンの状態を見てみないとわからないっちゃ、

 最悪の場合はずっとこのままかも…」

そう”テン(ラム)”が告げると、

ガァァァァァン!!

「そんな…永遠に俺がラムのままだったら…」

”テン(ラム)”の言葉に”ラム(あたる)”は衝撃を受ける。

すると、

「いっいやや、

 アホのあたるのままで人生を終えるなんて…

 そんなのいやや!!」

”あたる(テン)”は頭を抱えながら座り込むと泣き叫び始めた。

「えぇい、女々しいぞ!!!

 おっ俺なんて…

 ラムの姿のままガールハントをしなくてはならないんだぞ!!

 これでは、幾ら声を掛けてもガールハントが成功するわけがないだろうが!!、

 あぁ、人生唯一の楽しみがぁ!!!」

”ラム(あたる)”も同じように頭を抱えてしまった。

「はぁ…」

その光景に”テン(ラム)”はため息を付くと、

「うちはとにかくUFOに行って見るっちゃ、

 ダーリンとテンちゃんはそれまでの間、

 ウチとダーリンとして振る舞ってほしいっちゃ、

 それと、ダーリン、

 くれぐれも”うちの名誉を傷つけることだけは”するんじゃないっちゃよ!!」

と釘を差すと”テン(ラム)”は夜明けの空へと消えていった。



Seen6:通学路

キーンーコーン

ザワザワ…

登校途中の友引高校の生徒の列に混じって、

学生服を着た”あたる(テン)”とセーラー服姿の”ラム(あたる)”が歩いていく、

「しっかし、

 今日の朝飯…全然味がしなかったなぁ…

 ラムは毎日こんな食事をしていたのか?」

などと”ラム(あたる)”が考えていると、

じっ

と横からあたるを見つめる”あたる(テン)”の姿が目に入った。

その途端、

「いいかっジャリテン、

 くれぐれも俺のプライドを傷つけることだけはするなよ」

”ラム(あたる)”は”あたる(テン)”に向かってそう言うと、

「なにゆぅてんねん、

 あたるこそラムちゃんに迷惑かけることしたらいかんで」

と”あたる(テン)”はすかさずあたるに釘を刺す。

「ん?

 ラムに迷惑をかけるとはどういうことだ?」

「それはや…

 あっサクラねーちゃん…」

”ラム(あたる)”の質問に”あたる(テン)”が具体的に例を挙げようとしたとき、

二人の視界に友引高校の校医であるサクラの姿が入ってきた。

「うわぁぁぁ、

 サクラねーちゃん、今日も綺麗やなぁ」

サクラを眺めながら”あたる(テン)”はそう言っていると、

ヒュン!!

「サ・ク・ラ・さぁぁん!!」

一足先に”ラム(あたる)”が飛び出すとサクラの方へと走り出していった。

「あっ、アホッ

 こらぁっあたるぅ!!、

 ラムちゃんの姿で変なことをするなって言ったばかりやろが!!!」

”ラム(あたる)”に向かって”あたる(テン)”は怒鳴ると、

すぐに後を追いかけて行った。



ピクッ!

「むっ…この気配は…諸星…?」

登校途中のサクラは急速に接近してくる気配を察すると、

気づかれないように身構えた。

そして、

それが間近に迫ったとき、

ゲシッ!!

最小の動きをもって接近してくる相手にひじ鉄を食らわせた。

「ウゴッ…(さすがは巫女、気配で察したか)」

サクラのひじ鉄を喰らいながら”ラム(あたる)”はそう判断すると、

「なんだ、ラムではないか、

 すまんすまん、諸星かと思ったぞ。」

サクラはひじ鉄を喰らわせた相手があたるではなく、

ラムだったことに驚くとすぐに謝った。

すると、

「うっ(うるうる)痛かったっちゃぁ〜っ」

サクラ向かって”ラム(あたる)”は目に涙を貯めながらそう訴えた。

「どれ、そんなに激しくは打ち付けてない無いと思うが」

責任を感じてかサクラは”ラム(あたる)”の顔を診はじめる。

「(うわぁぁぁ…サクラさんのドアップじゃぁ)」

”ラム(あたる)”は滅多に見られない光景に悦ぶと、

「(こっこれだけチャンスをただ終わらせるには勿体ない!!)」

と思うなり、

サクラを抱きしめるべくゆっくりと両腕を彼女の身体に回し始める。

ゆっくりゆっくりと

”ラム(あたる)”の手がサクラの背中に迫ったとき、

「こらぁ!!、あたるぅ

 サクラねーちゃんになにすんねん!!」

”あたる(テン)”の怒鳴り声が響った。

「ん?」

その声にサクラは”ラム(あたる)”から顔を離すと、

「あっバカ!!」

”ラム(あたる)”は思わずそう叫んだ。

「?」

”ラム(あたる)”のその声にサクラが再び”ラム(あたる)”を見ると、

ダダダダダ…

”あたる(テン)”は”ラム(あたる)”の手を引くなりそのまま駆け抜けていった。

「なんなんだ?」

唖然としながらサクラは二人の後ろ姿を眺めていた。



「くぉら、ジャリテン、

 滅多にお目にかかれないチャンスをぶち壊しおって!!」

腕を引かれながら”ラム(あたる)”がそう叫ぶと、

「あたるこそ、ラムちゃんからきつく言われたの忘れたんか」

と”あたる(テン)”が言い返す。

その言葉に

「ったくぅ…不便だな」

不機嫌そうに”ラム(あたる)”が文句を言っていると、

「あっしのぶ…」

”ラム(あたる)”の目に登校途中の三宅しのぶの姿が入った。

「いいかっ、あたる、今日一日大人しくしている…あぁ!!」

”あたる(テン)”は”ラム(あたる)”にそう忠告しようとしたが、

しかし、その時すでに”ラム(あたる)”の姿はなく、

「ちょっとぉ、ラム、一体どういうつもりよ!!」

っと迷惑そうなしのぶの声が聞こえてきた。

「あたるめ…しのぶねーちゃんと…」

しのぶの声に”あたる(テン)”がすぐに引き返すと、

「いいじゃ、ないっちゃ…

 たまには女の子同士…」

「ちょぉっとぉ

 ラム、なに考えているのよ!!」

と、しのぶが絡みつこうとしている”ラム(あたる)”を

迷惑そうに押し戻そうとしている光景が目に入った。

「くぉら、あたるぅ!!」

その光景に”あたる(テン)”が怒鳴ると、

ガラガラガラ!!

「はははは…なかなか、ほほえましい光景ですね」

黒メガネが引く人力車に乗った面堂が声を掛けてきた。

「あれ、面堂…

 お前…自家用ヘリはどうした…ちゃ?」

人力車に乗っている面堂を不思議そうに指さしながら、

”ラム(あたる)”が尋ねると、

「あぁ、ラムさん…

 あははは…お恥ずかしながら、

 自家用ヘリはただいま検査をしていまして今日は飛べないのです」

と説明をする。

「ふぅぅぅん…」

面堂の説明にしのぶが頷くと、

「あら、あたるくん、どうしたの?」

傍に駆け寄ってきていた”あたる(テン)”に声を掛けた。

その途端、

「ふんっ」

あたるの姿を見た面堂は不快そうな顔をした。

ムッ!!

それを見ていた”ラム(あたる)”は表情を硬くすると、

ぴょんと飛び上がるなり、

スッ

っと面堂の手を握る。

「らっラムさん…なにを…」

”ラム(あたる)”の予想外の行為に面堂は狼狽え始めるが、

しかし、

「えっと、ラムの電撃は…

 確か、こうしてこうして…」

”ラム(あたる)”は電撃に手順を確認しながら、

ふんっ!!

と思いっきり力を込めた。

その途端、

ポゥ

一瞬青白い放電が起きた後、

ドババババババババババババ!!

「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

ラムより生じた電撃の津波が面堂を襲う。

「わっ若ぁ!!!」

「行くぞ、ジャリテン!!」

「あっあぁ…」

文字通り黒こげになった面堂を後にして

”ラム(あたる)”は”あたる(テン)”の手を引いて学校へと向かって行った。



つづく