風祭文庫・乙女の館






「ラサランドス・ストーリーズ」
(最終話:魔導の力)



作・風祭玲


Vol.318





「あっあのぅ…」

司令室に続く回廊で無言のまま歩くシンシアに思わず私が声掛けると、

「申し訳ありません、

 いま、何も話しかけないでください」

とシンシアは震える声で私に言った。

「え゛っ」

シンシアの背後から立ち上る殺気に私は思わず引き下がると、

「…なんで、話してくれなかったの…」

シンシアはポツリと口走った。

するとカタカタとシンシアの身体が震え出すと、

シャキッ!!

いきなり剣を抜くと私の喉元に突き立て、

「こらぁ!!

 なんであたしを放り出してあんな無茶をしたの!!」

と怒鳴り声をあげた。

「シンシア…」

「あのとき、言ったでしょう?

 無茶はしない。
 
 死ぬときは一緒だって、
 
 それなのに
 
 なんで、一人で突っ走っていったのよ!!
 
 なんで、あたしが戻ってくるまで待ってくれなかったの!!

 なんで、あたしを一緒に連れて行ってくれなかったのよぉ!!」

そう訴えるシンシアの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

「………」

もはや私には返す言葉がなかった。

グッ

私は手をきつく握り締めると、

スッ

っと突き立てられている剣をどけ、

そして、シンシアの頬に軽く手を触れながら、

「ごめん…シンシア…

 カッとなると突っ走っちゃって

 それで、

 後悔しちゃって…」

と言ったところで、

ポロポロ

目から涙があふれ出してきた。

「あっ…

 クソっ、
 
 何で泣くんだ」

私は溢れてくる涙をしきりにぬぐいながら声を上げると、

シンシアがハンカチを差し出しながら、

「…まったく、

 かわいい顔が台無しじゃない、

 でも、ホント、大馬鹿よねカインは…

 許嫁のあたしを放り出して突っ走って、

 挙句の果てに女の子になっちゃうんだから」

と言うと、

ダッ

いつの間にか私はシンシアに抱きついていた。

「なによっ

 今になってそんなことをしても

 あたしは…

 あたしはちっとも嬉しくはないんだから」

シンシアの涙声が私の耳に響くと、

「ごめん…

 シンシアごめん」

私は泣きながらそう繰り返し言っていた。



ガチャッ!!

司令部のドアが開けると、

ザワザワ

司令部の中はオペレータや軍人達でてんやわんやの大騒ぎになっていた。

そしてその中で、

「シンシアか!!

 完全に不意をつかれたな、

 くっそう、あれだけ準備をしていたのにな…

 それと、

 ご丁寧に連中が俺達から奪った浮舟を使って攻めてきたぞ」

シンシアの甲冑の音に気づいたカンダが声を上げると、

杖をつきながらジッと水晶球を眺めていた。

「どうせ、操り人形を浮舟に乗せて居るんでしょう

 大した兵力じゃないよ」

そう答えながら私は空いているコンソールに座るとそれを操作し始める。

「あっあれ?

 サファンじゃないか…なんで?」

私の姿を見てカンダが驚くと、

「あのね…」

カンダに近づいていったシンシアがそっと私の正体を耳打ちをした。

と同時に、

「んなにぃ!!」

カンダの怒鳴り声が司令部にこだました。

「おいおいっ

 んな大声を上げるほどモノのか?」

コンソールを操作しながら私は声を上げると、

ドタドタドタ

カンダは私の脇に来るなり、

「ほっ本当にお前…カインなのか?」

と念を押してきた。

「シンシア…

 カンダの奴、お前の言った言葉を信用していないぞ」

そう私が声を上げると、

「ふぅーん、

 よっく判りました。

 カンダってそう言う人だったのね」

とシンシアはカンダを軽蔑の眼で見る。

「だって、シンシア!!

 普通、信じられるかよ、

 この娘がカインだなんて」

私を指さしながらカンダは声を上げると、

「しーっ」

私は慌てて口に人差し指を立てた。

そして、

「カンダ、そんなことよりも重要なことだ」

と言うと、

「え?」

「私のミスだ、

 鬼神・ザンガは完全な状態になっていない。

 故に、一度召還を解除した後に、

 スレイヴを組み替えて再召還をする。」

と言うと、

「ちょちょちょっと待て

 それって今のザンガは問題があるから一度引っ込めると言う話か?」

とカンダが聞き返した。

「あぁ、そうだ、

 連中が仕掛けた先制攻撃でこっちは大混乱に陥っているから

 逆に向こうは気が緩んでいる。

 そこを逆に利用する。」

「はぁ?」

カンダは狐に抓まれたような表情をすると。

コホン

私は小さく咳をするなり、

「連中はザンガのこと知っているんだろう?」

「恐らく」

私の質問に即座にカンダがそう返事をすると、

「けど、ザンガの欠陥は知らない」

「あぁ…私もいま初めて聞いたばかりだ」

「じゃぁもし、ザンガが消えたらどうする?」

「そりゃぁ、様子を見るな…

 迂闊に手を出してドッカーンはイヤだからな…あっ」

「そう言うことだ」

私はそう言ってカンダの身体を叩いて、

「その前に準備をしていくことがある」

と言いなが私は席を立つと、

「スレイヴの組み替えとザンガの再召還には莫大な魔導エネルギーが要るから

 まずはラサランドス内の魔導の供給を止めておいてくれ、

 それと、シンシアっ

 悪いが、ちょっとつき合って」

と私は彼女に後に付いてくるように言うと司令部を後にした。



キェェェェェ!!

バッ

ゴォォォ!!

私は翼竜に跨ると一気にラサランドスの市街地を眼下に眺めながら駆け抜けていった。

「翼竜も最近あまり使われなくなったな…

 何もかも魔導に頼って…」

そう言いながら私は翼竜を巧みに操る。

その一方で、

ビシ

バシッ

翼竜の周りに張ったシールドに妖魔達が次々と突撃してくると皆消えていった。

「それにしてもなんだ?

 この妖魔達は…」

特攻してくる妖魔達を見ながら私はそう呟いていると、

「ねぇ何処に行くの?」

私の後ろからシンシアが行き先を尋ねた。

すると、

「あぁ、私の部屋に行く」

と私は手短に答えた。

「え?、私の部屋って?」

「あぁ、カイン・アレイン

 そうだ、アレイン家にある私の部屋だよ」

と私が声を上げると、

「なっ何をしに?

 家族の人になんて説明をするの?」

驚きながらシンシアが私に尋ねてきた。

「まぁ、この娘がカインだと言っても信じてくれないだろうし、

 それにそんなこと説明をしている暇は無い。

 シンシアっ

 その辺はお前が適当にごまかしといて」

と私が言うと、

「えぇ!!」

シンシアの驚く声が響くが、

しかし、私はそれを無視して翼竜をアレイン家へと向かわせた。

ズズン!!

翼竜をアレイン家の庭に降ろした私はシンシアと共に飛び降りると、

「こっこんにちわ…!!」

と声を上げた。

ギィ…

「こっこれはシンシアさま…お久しぶりでございます」

周囲を気にしながら恐る恐るドアが開くと、

執事のカシムが怖々と顔出した。

「あっあのぅ、サーラ姫様の依頼で参った。

 実は…」

そうシンシアが伝えると、

「済みませんが、緊急事態なので失礼します!」

私はそう声を上げると、

シンシアを押し退けて私はアレイン家に入り込んだ。

「あっあのぅ…」

追いすがってくるカシムに

「わたくし、サーラ姫様付きの巫女・サファンと申します。

 急を要する事態なのでカイン様の部屋に向かわせて貰います」

カシムは押しの弱いのを知ってて私はそう言うと、

「何事です?」

と言う声と共に、

一人の女性が私の前に立ちはだかった。

「母さん…」

その女性を見た途端私の足は止まってしまった。

「あら…サーラ姫様の巫女が当家になにか?」

母さんは気丈に振る舞いながら私を見つめると、

グッ

私は拳を握りしめ、

「サーラ姫様の使いで参りました。

 カイン様がサーラ姫様より授けられた、

 キリーリンクのクリスタルを取ってくるようにと…」

そう私は出任せを言うと、

「そうですか、

 それは大変でしたね」

私の説明に母さんはそう返事をすると、

私とシンシアをカインの部屋へと案内していった。

「私にはそれが何処にあるかは判りませんが」

そう言いながらカインの部屋のドアを開けると、

目の前に懐かしい光景が広がった。

「私の部屋か…」

しばしの間、私は部屋の様子を見ていると、

「感傷に浸るのはいいけど、

 まずはやることをやってからにしよう」

とシンシアは私に言う、

「うん…そうだな…」

彼女の言葉に私は頷くとすぐに部屋の中に設置してあるコンソールに座り込んだ。

そして、

コンソールの円内に私は自分の手を置くと、

「アクセス、

 カシム・アレイン」

と告げると、

『バイオパターン:エラー

 ソウルパターン:一致、

 ソウルパターン優先設定につき

 マスターと認証しました』

と言う声が返ってきた。

「さてと…」

私は袖をまくると、

このコンソールに記録してあるデータを一斉にスレイヴへの転送処理を始めだした。

「本当に…カインなんだ…」

私の作業を見てシンシアがそう言うと、

「なんだ、シンシアもまだ疑っていたのか?」

操作をしながら私はそう言った。

「だって…」

困惑した口調でシンシアがそう言うと、

「まぁな、当事者の私も信じられなかったからな、

 生まれ変わったなんてこと…」

そう言いながらすべてのデータを送り終えると、

「よしっ、

 これでオッケーっ

 後はスレイヴの修正をすれば、鬼神ザンガは完璧だ」

と言いながら私は席を立った。

そして、

自分の部屋を見渡しながら、

「じゃぁな」

と一言別れを告げると、

「シンシア行くぞ」

と声を掛け、再び翼竜に飛び乗った。

「いいの?」

「ん?」

「お母様に挨拶をしなくても」

「あぁ?…サファンが挨拶をしてどうする?

 カインは既に死んだんだよ」

シンシアの台詞に私はそう答えると、

私は翼竜を司令部へと向かわせた。



シュォォォォォン…

司令部が入る塔が見る見る大きくなってくると、

ブワッ

街の中から一斉に妖魔達の黒い雲がわき起こるとこっちに向かってきた。

「うわっ

 なんだぁ!!」

私は咄嗟に剣を取ると

グッ

と構えたが、

しかし、妖魔達は私の目の前を通り過ぎていくと、

皆、外壁に張り巡らされている結界へと突っ込んでいった。

バリバリバリ!!

チラッ

チラッ

妖魔の体当たり攻撃を受けて、

結界はまるで明滅するかのように不安定な状態になっていく。

「結界を破壊する気か?」

悔しそうに私はそう言うと、

「でも…

 なんか違うみたい…」

とシンシアが呟いた。

「違う?」

彼女の声に私は振り向くと、

「うん、なんて言うかこう…

 救いを求めているような…

 そんな感じがする」

神妙な面もちでシンシアはそう言うと、

バシッ!!

私が張っているシールドに妖魔が体当たりをしてきた。

「…確かにこいつらのしている事って

 ちょっとおかしいな…」

明らかに自殺行為と思われる行動をとる妖魔を見ていた。

すると、

「ねぇ、ひょっとしてだけど、

 妖魔達…
 
 魔導に浄化されたいんじゃないのかな?」

とシンシアは私に言ってきた。

「え?

 浄化?」

「うん、ほらっ

 シャルクの妖魔のいる北の果てって

 ここみたいに魔導が豊富じゃないでしょう?

 だから浄化されたくても出来ないんじゃない?」

「そうか!!…」

シンシアのその言葉を聞いた途端、

ラサランドスを包み込む悪臭を放つこの黒い霧の正体は、

古代文明が崩壊したときに放出されたガスであることに気づいた。

「シャルクの妖魔達は、

 これまではシウリアスによって封じ込められていたけど、

 でも、本当はキリーリンクに浄化されたがっていたのか…」

私はそう呟くと、

「シンシア…

 作戦は変更だ」

と言うなり翼竜を司令部へと向かわせた。



「よう、早かったな」

司令部に到着するとスレイヴへの入り口でカンダは私達を待っていた。

「カンダ、

 悪い、

 作戦変更だ」

そう私が言うとコンソールへと向かうと、

クリスタルをコンソールにセットしプログラムの修正を始めだした。

「え?、

 いま、なんて言った?」

私の言葉にカンダは驚くと駆け寄ってくると、

「ザンガでは彼奴らに太刀打ちが出来ない、

 2段構えの戦法を使う、

 一つ目はザンガを引っ込めた後でラサランドスの周囲に盛大に魔導を放出させる」

「ちょちょっと待ってくれ、そんなことをしたら」

「危険だと言いたいんだろう?」

詰め寄ってくるカンダに私はそう言うと、

「でも、これを見てくれ…」

私はそう言いながら、

ピッ

っと結界に次々と突っ込んでいく妖魔の群を水晶球に浮かべるとカンダに見せた。

「なんだこれは?」

「一見すると結界を破壊しようとしているように見えるけど、

 でも、おかしいとは思わないか?

 結界を本気で破壊する気なら、

 なぜ、結界の流れに沿って体当たりするんだ?」

そう私が指摘をすると、

「確かに…

 こんなやり方ではいつまで経っても結界は破壊できない…」

カンダは頷きながらそう言う、

「だろう…

 だけど、もし妖魔達のこの行為が

 自らを魔導と一体化させ浄化する行為だとしたら?」

「え?

 まっまさか

 でも確かに、その方が自然かも知れないな…」

カンダは驚きながらも頷くと、

「そう、だからザンガを引っ込めて魔導を放出させるんだよ、

 盛大にね…

 そうするとラサランドス周辺のシャルクの軍勢は皆消えてしまう」

私の言葉にカンダは声を失った。

そして、

「わっ判った。

 じゃぁ、まずはザンガを引っ込めよう

 ところで、2番目はどうするんだ?」

そう2の手をカンダが尋ねてくると、

「鬼神ザンガは強力な魔導砲にもなる。

 あのシウリアスの”悪魔の口笛”よりもずっと上のね。

 だから、

 シャルクの軍勢が皆浄化されたあと

 今度はシャルクの地に直接魔導を注ぎ込んであげるのさ!!」

カンダの問いに私はそう答えた。

「え?、シャルクに直接って?

 出来るのか、そんなこと」

信じられないような表情でカンダは私に言うと、

「あぁ…」

私は大きく頷いた。

「で、でもどうやってシャルク本土を直接やるんだ?

 いくらザンガを利用すると言ってもでもそこまでは無理だぞ」

「ふふっ、

 それがあるんだよ」

カンダの言葉に私はそう答えると、

「ドクターダンの置きみやげが一つ」

と言いながら笑みを浮かべた。

「?」

私の笑みにシンシアとカンダは首を傾げる。



「よしっ

 ちょっと雑だけどこれで大丈夫、

 それでは、スレイヴの所に行きますか」

プログラムの修正が終わった私がそう言いながら席を立つと、

「で、今度は俺達も連れて行ってくれるんだろう」

と私の両脇をカンダとシンシアが固めた。

「来るの?」

「ばーか、

 今度ばかりは抜け駆けは許さないぞ」

私の言葉にカンダはそう言いながら私の腹を軽く殴る。

「ふふ…

 まったく…

 行きたくないと言っても今回は無理にでも連れて行くから安心して

 それに、今回はカンダとシンシアの手を借りたいんだ」

わたしはそう言うと、ドアの認証サークルに手を振れた。



『ピッ

 カイン・アレイン様と認定

 3名様どうぞ』

その声と共に私達はスレイヴへと続く回廊に入ると、

一斉に石造りの螺旋状の階段を下りはじめた。

そして姿を見せたのはラサランドスの中枢・スレイヴである。

「アクセス、

 レベル、管理

 名前、カイン・アレイン」

シンシアとカンダを従えてコンソールのサークルに

私は手を置いて手短にそう告げると、

ブンッ

サークルは青紫色に一瞬輝き、

フワッ

クリスタルの塊を背にして半裸の人工妖精・スレイヴが姿を現すと、

『管理用特権にてアクセスしました。

 カイン・アレイン様…』

と言う声が響き渡った。

「大急ぎで修正をしたから魔導砲の照準合わせは手動で行わなければならない。

 だから、発射の際にはさっき説明した手順通りに操作して、

 魔導砲のビームは全部で3本、

 それを私にカンダにシンシアがそれぞれ受け持って、
 
 目標にピタリと一致させるんだよ。

 それと、魔導砲の発射は魔導の状況から一回のみ」

私はカンダとシンシアを見ながらそう言うと、

「あぁ」

「判ったわ」

二人は大きく頷いた。

「よしっでは」

私はそう言うと、



「スレイヴに指令…

 現在展開中の鬼神・ザンガを破棄せよ」

と命じると、

ピッ

『鬼神・ザンガ…破棄します』

と言う声が響いた。

それと同時に浮城・ラサランドスを取り囲んでいたエメラルドの柱が徐々に消えていくと、

文字通りラサランドスは丸裸になってしまった。

しかし、

ラサランドスを取り囲んでいたシャルクの妖魔達は

ラサランドスに襲いかかって来ることはなく、

案の定、浮舟の乗ったまま事の成り行きを眺めていた。

一方、

先に侵入していた妖魔達は自分たちを浄化してくれる結界が消滅すると、

一斉に魔導を探し求めて飛び回り始めた。



『鬼神・ザンガ、消滅を確認…』

スレイヴのその声が響き渡ると、

「よしっ

 この間と同じようにクリスタルを取り込み、

 プログラムを転送」

そう私がスレイヴに命じると、

スッ

スレイヴは2つのクリスタルのうち、

片方を読み取り器に、

もぅ片方を集合体の中に入れた。


ゴゴゴゴゴ…

私達の目の前でスレイヴを構成するクリスタルが動きはじめると、

ぴんっ

シウリアスが攻めてきたときに私が追加したクリスタルがはじき飛ばされた。

それを見届けた私は

「指令…

 キリーリンクの魔導エネルギーを一斉放射開始!!」

落ち着いた口調でそう告げると、

『プロクラム・1

 キリーリンク、接続、

 魔導エネルギー放射します』

スレイヴがそう復唱すると、

ゴッ!!

キリーリンクがスレイヴに接続され、

キリーリンクが蓄積していた魔導が一斉に放出され始めた。

その結果、

ラサランドスの周囲に魔導の渦がわき起こってくると、

見る見る黒い霧を吸い込みながらラサランドスを包み込み、

それはゆっくりと大きく広がっていく。

すると、

スチャッ

その様子を見ていたシャルクの妖魔たちはその渦を指し示すと、

ゴワッ!!

一斉にその中へと向かって飛び込み始めだした。



「あっサーラ姫様…」

その様子を見たチルダが声を上げると、

「ふふ…

 カイン…

 私が言いたかったことに気づきましたね」

在所の窓から次々と魔導の渦の中に消えていくシャルクの軍勢を眺めながら

サーラ姫様はそう呟くと、神殿に向かって祈りを捧げる。

「すげぇ…

 シャルクの妖魔共が次々と魔導の渦の中に消えていくぞ」

スレイヴが映し出した外の様子にカンダは驚きの声を上げると、

「みんな、救って欲しかったんだ…」

シンシアも唖然としながらその様子を眺めていた。

「さて、

 それじゃぁそろそろ本番と行きますか」

私はそう言うと、

「指令っ

 魔導砲発射用意!!

 ミラーオープン!!」

とスレイヴに指示を出すと、

『プログラム・2

 魔導砲システム起動、

 反射衛星、ミラー開きます。』

スレイヴのその声が響くなり、

プンっ

ラサランドスの映像が大きくズームアウトしていくと、

たがて、青い星の片輪が映し出された。

「なっなんだこれは…」

その映像を見てカンダが声を上げると、

「このルルカを遙か上からから見下ろした景色だ。」

と私は説明する。

「はぁぁぁ」

シンシアはただ驚いているだけだった。

「古代文明の人たちは浮舟よりも更に優れた船で他の星へと向かっていたそうだ。

 そして、その古代文明が遺した物の中には

 こうして、この高い空に留まってじっと私達を見ていたのもあったわけ」

「じゃぁ、ドクターの置きみやげって言うのは」

「そう、この高い空でじっとルルカを見つめている巨大な鏡」

とカンダの質問に私は答えると、

青い星の上の方で暗く黒い雲に覆われた地域、そうシャルク本土を見つめた。

『魔導砲…エネルギー充填開始、

 10%…』

スレイヴの声が響くと、

「では、手筈通り頼む」

二人を見ながらそう声を上げる。

すると、

「よしきた」

「任せて」

そう返事をしながらカンダとシンシアは後から迫り上がってきたコンソールの席に着いた。

『30%…

 40%…
 
 50%…』

スレイヴが魔導エネルギーの蓄積状態を読み上げる。

すると、

浮城の周囲でシャルクの妖魔達を飲み込んでいた魔導の嵐は次第に収まっていくと、

ボァ…

浮城が光り輝き始めだした。

そして、

シュルルルルルル…

ラサランドスの中心にある神殿の上空に光の輪が徐々に形成され始めた。


「くっそう…

 なかなか合ってくれないな」

「鏡を通すからね」

「もうちょっと」

私たちは悪戦苦闘しながらそれぞれは担当のビームを目標地点に合わせていく、

その一方でエネルギーの充填が進むと、

スレイヴの本体が輝き始め、

私達の周囲にも光の粒子が立ち上り始めた。

「これは…」

「魔導の結晶…

 あたし…始めて見るわ」

カンダの言葉にシンシアは驚きながら答える。

『80%…

 90%…
 
 100%!!』

「ぴっ

 よしっ」

最初に目標を合わせた私が声を上げると、

「いったわ」

続いてシンシアが声を上げた。

「カンダ、まだか」

なかなか合わないカンダの照準に私が声を上げると、

「慌てるなって…」

舌なめずりをしながら慎重にカンダが合わせていく、

「早くして!!」

シンシアの声が上がると、

「ぴっ

 よしっ!!」

カンダの声が上がった。

すると、

「目標

 北緯85度35分、東経33度55分

 シャルク領内!!」

スレイヴのその声が矢継ぎ早に挙がると同時に、

「よしっ、

 魔導砲発射!!」

私は叫び声を上げながら、

目の前のスイッチを思いっきり押し込んだ。

刹那、

カッ!!

しっかりと魔導エネルギーをため込んだ、

浮城の中心、神殿の真上に浮かぶ円形のリングが目映い光を放つと、

リングの3カ所から大空に向かって巨大な光の柱を突き上げた。

そして光の柱は上空で数回角度を変えると、

そのまま北の果てへと突き進んで行く。

そして、

「すっごい…」

私たちはスレイヴが映し出した映像を唖然としながら眺めていた。

やがて、

3本の光の柱が1本となってシャルクの領内に着弾すると、

カッ!!

目映い光を放ちながら荒れ果てた土地に魔導のエネルギーを注入し、

そしてシャルク領内を覆う黒い雲を押し退けるようにして

次第に広がりながらゆっくりとシャルク全体を覆っていった。



「終わったか…」

「そうだな…」

「なんか、呆気なかったな…

 ばーか、戦はしていないよ」

傾いた日を眺めながら私達はそう言い合うと、

地上に不時着している浮舟から

妖魔達に取り憑かれていた派遣軍の兵士達の救出光景を眺めていた。

「結局なんだったんだ?

 彼奴らは…」

そうカンダが言うと、

「サーラ姫様に助けを求めに来たんだ、

 自分達を浄化してくれってね」

私は言うと腰を下ろした。

「浄化してくれか…

 だったら最初からそう言ってくればいいのに」

腕を組みながらカンダはそう呟くと、

「恐らく向こうはそう言い続けてきたんだろう、

 でも、こっちがその言葉に耳を貸さなかった。

 だから実力行使に訴えたんだな」

と言う私の言葉に、

「そうねぇ…

 あたし達とんだ思い違いをしてきたんだね」

シンシアはシミジミとそう言った。

「で、カインじゃなくてサファン

 お前、これからどーするんだ?

 巫女、クビになっちゃったんだろう?」

そうカンダが私に尋ねると、

「そうだなぁ…

 どうしようか…」

私は空を見上げると、

「別に逝っても良いけどなぁ…」

と剣を見ながら呟くと、

「行くって何処に?」

シンシアが聞き返してきた。

「そりゃぁ決まっているだろう?

 死んだ人間の行くところはあそこしかないだろう?」

と私は空を指さしてそう答えた。

「ぶっ

 なっ何を言ってんだお前は」

思いっきり吹き出しながらカンダが驚くと、

「ちょっと、それホント?」

カンダ以上に驚いてシンシアが私に迫った。

「まぁ…

 そのなんて言うか、

 お迎えが来ている以上、

 逝かないとなぁ」

頬を掻きながら私はそう言ったとたん、

「あっ」

と声を残して私はその場に崩れ落ちるように倒れてしまった。

「バカ野郎!!そう言っていきなり逝く奴があるか!!」

倒れた私を抱きかかえながらカンダが大声を上げると、

「ダメよ、逝っちゃダメ!!」

シンシアは私を抱きしめながらそう訴える。

すると、

「あん?」

シンシアの表情が変わると、

「ぷぷぷ…ぷはぁ…

 あぁもぅ限界…

 やっぱ、こういうお涙物は私の性には…」

と言いながら起きあがると、

チャキッ

私の左右の首筋に剣先が突きつけられていた。

「へ?」

思わず見上げると、

まるで鬼神のような表情をしたカンダとシンシアが私を睨み付け、

「そう言えば、シンシア…

 お前の警護隊に空きがあったなぁ」

とカンダが言うと、

「えぇ、ちょうど一名分ね…」

「そうか、それじゃぁ

 そこにこのふざけた野郎を放り込んで

 みっっっちりと
 
 この性根を叩き直してくれないか?」

「判ったわ…

 みっっっちりと

 この性根を叩き直してあげましょう」

と二人は私を睨みながらそう告げた。

「ちょちょっと待て…

 …何を…」

「やかましい!!

 こっち来いっ」

「徹底的に鍛えてあげるわ」

「うわぁぁぁぁぁ…」

私の悲鳴が空に響き渡った。

「はぁ…やはり、

 私のところでもぅ少し修行をさせて置いた方が良かったみたいですわね」

その光景を眺めながらサーラ姫は呟いていた。



おわり