風祭文庫・乙女変身の館






「バニーガール」
(第1話:成行博士の野望(前編))


作・風祭玲


Vol.141





丹沢山地の奥深い森のさらに奥、

瓢箪型の湖にほど近い場所にその古びた洋館が建っていた。



カッ!!

ゴロゴロゴロ…

ズズン…

夜空を駆けめぐる稲光が照らし出すその洋館の地下に

煌々と当たりが灯る怪しげな研究室があり、

チュイーン…

バチバチバチ…

「くっくっくっ」

ブゥゥゥゥゥゥン…

青白い光を放つ怪しげな機械に囲まれて、

ボサボサの白髪混じりの髪を振り乱し、

が口から笑い声を漏らしつつ

一心不乱に作業を続けていた。

「…くっくっくっ…

 もぅすぐだ…もぅすぐお前は完成する。

 そう…
 
 儂が己の人生の全てを擲って追い求めたお前がな…」

年齢は60代くらいだろうか、

裾がぼろぼろになった白衣と

光を受け妖しく輝く丸眼鏡がヘアスタイルと相まって

見るからに”危なそうな博士”を演出していた。

「くくく…

 愛しき我が子よ…」

キラリ☆と光り輝く砲身をさすりながら、

危なそうな博士・成行卯之助は呟き、

そして、

チュィーーーン!!!!

再び工具を手に取った。

一方、彼の傍にはその挙動を一瞬たりとも見逃のがさまいと

乗り出して様子を見つめているもぅ一人の男…

そう彼の助手である高杉秀作がジッと見つめていたのであった。



ツル…

「おっと…」

突如、卯之助の手から持っていた工具が滑り落ちてしまうが、

ハシッ!

「ふぅ、危ない危ない」

制作物にぶつかる直前、

何とか拾い上げることに成功すると、

「はっ博士…」

秀作が心配気味に声を上げる。

「声を掛けるなっ

 いま一番大事なところを作っておるのだ」
 
ジロリ…

卯之助は秀作の方を睨み付けた後、

作業を進め始めた。

やがて…

「ふぅ…

 よしっ、コレで良いだろう…」

腕で額の汗を拭いながら卯之助が言うと、

「……高杉君っ、
 
 早速、エネルギーの注入だ!!」
 
と秀作に命じる。

「はっ、はいっ只今っ」

卯之助のその声に秀作は白衣を翻しながら

配電盤の所にすっ飛んで行くと、

「博士っ、準備オッケーですっ」

と大声で叫んだ。

「うむっ、始めてくれたまえ」

彼の声に卯之助は満足そうに命令すると、

「1・2・3っ!!」

秀作が数を3つ数を数え、

ガチャン!!

思いっきり電源スイッチのレバーを押し下げた。

すると、

グォォォォォォォォォン

冷却用のモーターのうなり声が大きく響き渡ると、

やがて…

ビシッ

バチバチバチ…

火花を散らして”それ”にエネルギーが注入されていく、

ごくり…

火花を散らし”生命”が吹き込まれていく”それ”の姿を

2人は生唾を飲み込みながら眺める。

しかし、なかなか火花は収まることなく、

さらに激しさを増して行く様子に

「はっ博士…?」

秀作は不安そうに卯之助を見る。

だが、

ニヤッ

卯之助は口元に笑みを浮かべていた。



バチバチバチ…

放電の火花の色が黄色から青そして白に変わったとき…

パァァァァァァァ…

一瞬”それ”が7色に美しく光り輝いた。

と同時に、

ブシュゥゥゥゥゥン…

部屋の中のすべての機械の動作音が消え、

研究室は静寂に包まれる。

「はっ博士…?」

秀作が心配そうにのぞき込むと、

「くくくくく…」

卯之助は肩を微かに動し始め、

やがて、

「…わぁはっはっはっは!!」

嬉しさがこみ上げてくるがごとく笑い始めた。

そして、”それ”を手に取ると

「……くくくくく……

 出来たぞ…

 ついに出来たぞ…

 儂が夢にまで見た夢のマシーン!!

 ………”強制バニー化砲”だ!!」

チャキッン!!

そう言いながら叫ぶ卯之助の右手には

至る所からパルス状の光が漏れる

一見するとバズーガ砲のようなメカが握られていた。

「………」

一瞬呆気に取られていた秀作が、すかさずメガネを直すと、

パチパチパチ…

「おっおめでとうございます!!

 博士っ」
 
と拍手をしながらメカの完成を祝い始めた。

ウンウン…

卯之助は満足そうに頷なずくと、

「高杉君、君にも随分と苦労を掛けたね」

卯之助はそう言いながら秀作の労をねぎらうと、

ウックウック…

秀作はあふれる涙を腕で拭きながら、

「すっすべてこの時のために我慢してきました

 さぁ、博士、これで究極のバニーを……」

叫ぶやいなや、

「おぉ、そうじゃそうじゃ…

 バニーの魅力のとりつかれてはや25年…

 全国…いや、全世界を駆けめぐっても出会えなかった理想かつ究極のバニー

 しかぁぁしっ、手にしたるこの”強制バニー砲”があれば
 
 必ず我らの前に究極のバニーを召喚することが出来るであろう!!

 いまこそ我が夢の実現を…!!」
 
卯之助は高らかに叫び声をあげると、

スチャッ!!

強制バニー化砲の砲口を秀作に向け、

「ターゲットスコープ・オープン」

と叫んだ。

「え?」

砲口が自分に向けられたことに秀作は一瞬呆気にとられ、

「はっ博士…なんで私に?」

と、方向を指さしながら尋ねるが、

「電映クロスゲージ、明度20!」

卯之助は構わず操作を続ける。

「はっ博士、

 わっわたしがターゲットなのですか?

 博士と共に心血を注いできたわたしがなんで…」

滝のような汗を吹き出し、

ドンッ!

秀作は研究室の壁に背中を押し当てた。

「安心したまえ、高杉君

 わたしの理論は完璧だよ」

悲鳴を上げる秀作に卯之助は落ちついた声で返事をするが、

「あっ安心って、

 全然安心ではないでしょう、

 やめてください。

 まっまずは動物実験からしましょう。
 
 人間へはそれが終わってから…」

涙を流しながら秀作はそう訴えるが、

「長かった、

 本当に長かったよ、
 
 そしていま、
 
 わたしの願いが達成されようとしているのだよ、
 
 高杉君っ、
 
 君は全人類にとって貴重な一里塚となるのだよ」

ミアミアミアミア…

光の粒子が集まっていく砲口をしっかりと秀作に固定し卯之助は叫ぶと、

「あっ、あのぅ…わたくしは…」

秀作の顔の色が青色から土気色へと変化した。

…ミアミアミアミア…

「エネルギー充填、90%…95%…100%…105%…」

「博士ぇぇぇっ」

秀作が大声で叫んだとき、

「115%…120%

 強制バニー化砲っ発射!!」

博士の叫び声と共に、

カシッ

ズシャァァァァァァァァァン

強制バニー化砲から発せられた光の束が秀作の身体を直撃し、

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

その光に覆われたとたん秀作の身体が変化し始めた。

ムクムクムク!

膨らむ胸。

キュゥゥゥッ!!!

細くなる腕。

ムチムチムチ!

むっちりと膨らむ脚。

そして、

シュルシュルシュル…

長く伸びて行く栗色のサラサラの髪

「いやぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

少女を思わせる声で秀作が見事に膨らんだ胸を両手で押さえると、

彼の変化はさらに驚く方へと進み出した。

トロ…

彼の着ている薄汚れた白衣が裾の方から

まるでチョコレートが溶けるように溶け始めると、

ゆっくりと彼の身体を覆い始めた。

そして、

シュワァァァァァ…

動きが止まると別の衣装に再構成し始めた。

ジワジワジワ…

それは浮き上がるように彼の身体を包み込むと、

再構成し始めた衣服は

黒く妖しい光を放つバニースーツへと変化していったのであった。

「あぁぁぁぁん…」

キュッとウエストが締め付けられる感触に

秀作のは顔を赤くして声をあげる。

さらに移動し完成したバニースーツのお尻の部分に

プリン!!

まるでボンボンのような白い尻尾が飾ると。

内股になった脚に網タイツが覆いはじめた。

そして、

カツン!!

赤いハイヒールが足元を飾り、

首に蝶タイと手首にカフスが現れると

最後に

ピン!!

と彼の頭の上に2本の耳が大きく立った。




シュパァァァァッ!!!

秀作を覆っていた光が消え去っていくと、

カツンッ!

「お待たせしました。

 博士」

そう言いながら銀色に輝く盆を持つ秀作の姿は

さっきまでむさ苦しい姿とは裏腹に

お色気満点のバニーガールに変身していたのあった。

「ふっふっふっ、どうだね気分は…」

卯之助は”強制バニー化砲”の出来映えに満足しながら

秀作に質問すると、

「うふっ、

 最高ですわ、博士…」

秀作はウインクしながら返事をする。

「そうか、そうか…

 しかし、失敗だな」

バニーガールに変身をした秀作の周りを一回りして

卯之助はそう告げると、

「えぇなんでぇ…」

秀作が不満の声を漏らす。

「うむ、どうやら元の素材が悪かったらしい…

 高杉君、残念だが君は私が求めていた究極のバニーではない」

と断言した。

「そんなっ」

卯之助の思いがけない評価にシュンとする秀作を後目に、

「旅に出るぞっ!!

 究極のバニーを探し求める旅になっ

 はーはっはっはっ」

卯之助は再び高笑いを始めた。

クスン…

高笑いをしている博士とは対照的に、

究極のバニーになれなかった秀作はそっと涙を流していた。

「…はっはっはっ…」

一通り笑った後、博士の目が天井を見つめると

「いや、待て…

 その前にコレまで散々儂をバカにしてきた
 
 あの悪ガキどもを血祭りに…いや
 
 美しいバニーガールにしてやろう…」

と言うと

キラリ…

卯之助の目が怪しく光った。



つづく