風祭文庫・異性変身の館






「カメラ」


作・風祭玲

Vol.1002





ここに一台の摩訶不思議なカメラがある。

何時、何処で、誰によって作られたのかは一切不明の古風な二眼レフカメラ。

一説によれば”とある組織の手”によって作られたとも言い伝えられているが、

組織が意図したものとは正反対の機能を持ってしまったために破棄されたとされている。

しかし、そのことを証明する確固たる確証があるわけではない。

そして流転の後とあるところにカメラは保管されていたのだが、

いままさに脅威が迫っていたのであった。

時に西暦2009年…



『ほしぃなぁぁぁぁ』

草木も眠る丑三つ時、

突如幹線道路に怪しげな雄たけびが響き渡ると、

ごわぁぁぁぁぁぁ

巨大な目をカッと見開き、

球形状の怪物体が猛スピードで走り抜けていく。

そしてその直後、

『ヱターナルっ

 そのカメラを返しなさぁいっ!』

と響き渡る男性の声と共に、

ギャァァァッ!

タイヤの軋み音を響かせて1台のオート三輪がわき道より飛び出してくると、

パパンパパンパン

エンジンの音も高らかに逃げていく怪物体を追いかけ始めた。

深夜のカーチェイスである。

『私としたことがしくじりましたね。

 まさか仕事で出かけている最中にヱターナルがあのカメラを奪いに来るだなんて』

愛車・轟天号のハンドルを握る鍵屋は”没収”と書置きされた紙を握りつぶし、

前を走る怪物体を見据えて呟くと、

『ほしぃなぁ!!』

怪物体は雄たけびを上げ、

さらにスピードを上げていく。

『くっ、

 気の緩みが招いたとはいえ、

 私にとっての命である鍵が破られてしまうだなんて、

 認めたくないものですねぇ、

 若さゆえの過ちなどと言うものは!』

と言いつつ、

ドンッ!

鍵屋はアクセルを踏み込んだ。

がしかし、

パンパンパン…

轟天号の速度はさほど上がらないどころか逆にスピードが落ちてしまうと、

怪物体との距離がさらに開いていくではないか、

『こっこれはどうしたことでしょうか…』

焦燥感に駆られながら鍵屋は呟くと、

チラリ

とコンソールに視線を動かしてみせる。

その直後、

『Rっ

 8000回転まで回せと言ったはずです。

 回転数が落ちてますよ。

 なにをやっているんですっ』

轟天号を制御する人工知能・Rに向かって怒鳴り声を上げると、

『あのぅ…マイケル、

 ごはんをまだ頂いてないのですが』

とRはオート三輪のエネルギーが補充されていないことを告げる。

『ぬわにぃっ』

キラリ☆

その直後、鍵屋が掛けているサングラスが一瞬光ると、

『ほほぉ、よい心がけです。

 このわたしに指図をするとは』

どこから取り出したのかハリセンを片手に凄みを利かせるや、

『あっあぁ…

 判りました。

 判りました。

 とほほほほほ…』

鬼気迫る鍵屋の気配に臆したのか人工知能・Rはがっくりとうな垂れ、

ごわぁぁぁぁぁ

パンパンパンパン!

たちまち轟天号のエンジンがうなり声をあげると、

一度は大きく引き離された怪物体が見る見る近づいてくる。

『ふんっ

 やれば出来るではないかっ、

 まったくぅ』

次第に近づいてくる怪物体を見据えて鍵屋は軽く舌打ちをして見せるが、

しかし、逃げる怪物体もただ逃げるだけではない。

『ほしぃなぁぁ』

後ろから猛接近してくる轟天号に対抗するためにか、

ニュィンッ

強奪の際に使ったマジックハンドを伸ばすと、

あれやこれやと走行妨害となる物体を放り投げたり、

電柱を引き倒したり、

猛犬をけしかけたりして見せるが、

しかし、轟天号は一見古風なオート三輪ではあるものの、

時代の最先端を行く可変式自立多目的業務支援マシンと言う名前が示す通り、

この程度の障害は障害ではなかったのである。

『ちょこざいなぁ』

鍵屋の巧みなハンドルさばきによって、

パパパパパパッ

轟天号は物理の法則を完全に無視して、

上下左右に車体をスライドさせて障害物をクリアし、

一気に怪物体を追い抜いてしまうと進路を塞ぐ様に前に踊り出る。

そして、

『Rっ、

 モードチェンジっ!』

と鍵屋は声を上げると、

『あいっ!』

明瞭な人工知能・Rの返事と共に、

ガコンッ!

ガシャンガシャンガシャン!

瞬く間に轟天号はその形態を変え、

シャーっ!

学生服姿の少年がハンドルを握る自転車へと姿を変えたのである。

『くふふふふふっ、

 悪いですが、

 カメラは返していただきますよ』

走る自転車の荷台の上に立ち上がり、

ファイティングポーズを見せつつ鍵屋は怪物体に向かって宣言するや、

『とぉっ!』

の掛け声とともに飛び上がり、

鍵屋を振り払おうと伸びてきた腕をかいくぐって取り付くと、

『うりゃぁぁぁぁぁぁ!!!』

走行する怪物体の上を一気に走りぬけて後方に回り込み、

シャキンッ!

鍵状をした錫杖を取り出した。

そして、キラリと光る錫杖を大きく振り回した後、

ガンッ!

鍵屋は怪物体が抱えているカプセルのつなぎ目めがけて

それを思いっきり振り下ろした。



バキッ!

同時に金属が割れる音が響き渡り、

カプセルを止めていたつなぎ目が呆気なく破壊されてしまうと、

ゴンッ!

軽い音ともにカプセルは怪物体から離れ道端へと転がり落ちて行く。

『うむっ、

 わたしっ

 完っ璧っ』

ここまでの所要時間、

わずか15秒と言う早業に鍵屋は満足げに笑みを浮かべ、

『Rっ

 撤収します』

と声を上げて怪物体より少年が漕ぐ自転車へと移ろうとするが、

その直前、

『あっあぁぁぁぁぁ』

怪物体の前を走っていた自転車が突然バランスを崩してしまうと、

グワッシャァァァン

道路上で大車輪の如く大コケをしてしまい、

そのまま怪物体の下へと吸い込まれていく。

そして、

『あぁっ!』

鍵屋の次の言葉が出るのと同時に、

ちゅどぉぉぉん!!!

大地を揺るがす大爆発が起こったのであった。



夜が明けて…

「ふわぁぁぁ〜っ」

大アクビをしながら一人の男子高校生が朝の通学路を歩いていた。

彼の名前は唐渡、

この世アレルギーを患う吸血鬼のハーフでもなく、

少々変わった星の下に生まれたこと以外はどこにでもいるごく普通の高校生である。

「渡君っ

 おはよう」

そんな渡に声をかけ親しそうに寄ってくる女子高生が姿を見せた。

彼女の名前は三池忍、

先日成り行き上少々変わった力を授かった彼女ではあるが、

まぁどこにでもいる女子高生としておこう。

「ねぇ、渡君、

 夕べこの辺で大きな爆発無かった?」

二人並んで歩きながら忍は昨夜街を揺るがした大音響について尋ねると、

「ん?

 そういえば…」

と尋ねられた渡は考え込み、

「ん?」

通学路の先で何かを見つけるや、

「あれじゃないか?」

と言いながら指し示してみせる。

「うわっ、

 あっあれ?」

彼が指し示した先には大きなクレーター状の窪みがポッカリと口開き、

その周囲には立ち入り禁止を示す非常線が張られていたのであった。

「なっなにがあったの?」

朝日を浴びる非日常的な光景に忍は目を剥いていると、

「俺は知らん」

と渡は言葉短く返事をして先を進む。

「あっ待ってよっ」

そんな渡を忍が追いかけ、

二人はクレーターを脇を通り過ぎていくと、

「ん?」

渡の視界にキラリ☆と光る物体が飛び込んできた。

「これは?」

それが気になったのか近寄っていくと、

道端に長さ40cm、幅20cmほどのカプセルが傷だらけになって転がっていて、

それを二分するようにして口が開きかけていた。

「なにかしら?」

渡に続いて忍が恐々と覗き込んでみると、

躊躇わずに渡はカプセルを拾い上げ、

パカッ!

っと開いて見せる。

「ちょっとぉ」

それを見た忍は驚きの目で渡を見るものの、

「ん?」

彼女の視線には一切構わず渡はカプセルの中に手を突っ込み

やがて中から1台のカメラを取り出してみせる。

「カメラ?」

「カメラだな」

二人そろってカプセルの中から出てきたカメラを眺めて見せるが、

しかし、そのカメラは普通知られている形態とは違い、

四角い箱型であることもさることながら、

レンズは上下二枚、縦方向についていて、

ファインダーは上から覗き込むような形になっていたのである。

「面白い形をしているけど、

 まぁいいか」

渡はそのカメラの形に対して気に留めず、

カメラを首から提げると再び歩き始める。

「ちょっとぉ!

 勝手に持って行っていいの?

 落とし主が探しているわよ」

それを見た忍は呆れ半分に注意するが、

「後で交番に届けるよ」

と渡は言うだけでそのまま学校へと向かっていく。



ザワザワ

沼ノ端高校、2年4組はいつもと変わらない朝の喧騒に包まれ、

「おーすっ」

拾ったカメラを首から提げて渡は教室の中へと入っていく。

「ん?

 なんだぁ渡っ

 その奇妙なカメラは?」

渡のカメラに気づいた彼の友人は掛けているメガネをクイッと挙げながら問いただすと、

「あぁ、拾ったんだよ、これ」

と渡は説明をする。

「拾ったぁ?」

それを聞いて友人の取り巻き達が詰め掛けてくると、

「あぁ…

 通学路の途中に落ちていたから」

と渡は説明しつつ箱型カメラを弄り始める。

「ほぉ…二眼レフと言う奴だな、

 デジカメ全盛の今時には珍しい」

渡が弄るカメラを友人は感心しながら見ていると、

「あれ?

 フィルムが入っているじゃないか」

と渡はカメラにフィルムが入っていることに気づくや、

「よーしっ、

 記念に一枚写してやるよ」

の言葉と共にカメラを覗き込むようにして構えてみせる。

「うーん、

 あのカメラ…

 何処かで見たような…」

渡のカメラに心当たりがあるのか、

友人は小首を捻りつつ場を離れていくと自席に戻り

いつも持ち歩いている”世界お宝大百科事典”を徐に開いた。

「なぁ、写して貰わなくていいのか?」

「あぁ後でな」

「放っとけよ」

「おーぃっ、

 渡っ、

 さっさと写真を撮ってくれよ」

彼の取り巻き立ちが渡を急かしつつ3人並んでみせる。

そして、

「えぇっと」

ファインダーを覗き込みながら渡は3人が収まるのを確認すると、

「はいっ、チーズ!」

カシャッ!

の声と共に教室内に軽快なシャッター音が響き渡った。



と、ここまでは比較的よくある光景なのだが、

しかし…

シュルルル…

突然、真ん中に立っていた男子生徒の髪が見る見る伸びていくと、

ググググッ

体が絞られるように縮み始めた。

「え?

 あれ?

 なんか体が変…」

自分の体に起きた異変に本人が気づいて声を上げるが、

しかし、その声も徐々に甲高いものへと変わっていくと、

ムリムリっ

平らだった胸が膨らみ、

足も内股へと変わっていく。

「おっおいっ」

それを見た両脇の取り巻きが恐れおののきながら離れていくが、

「あっあれ?

 あれ?

 あれぇぇぇぇ!!!」

変身していく男子生徒は頭を抱えながら肩まで伸びた髪を揺らしてみる。

そして、

シュワァァァァ

ついに着ていた学生服がセーラー服へと変わってしまうと、

「あはっ、

 あはははははは…

 おっ俺っ

 女の子になっちゃったよ」

と股間を押さえつつ女子生徒に変身してしまった元男子生徒は乾いた笑いを挙げていたのである。

「んなにぃ!」

まさに青天の霹靂、アンビリバリボーである。

驚愕の事態にクラス中の空気が固まった時、

「これは…

 ん?

 確か…」

友人もまたメガネを光らせつつ固まってしまうが、

しかし、そのカメラに心当たりがあるのは事実であった。

と、そのとき、

ガラッ!

勢い良くドアが開くと、

「やぁ、おはよう」

と爽やかな笑みを称えつつ、

白詰襟に身を包んだ遠藤忠太郎が教室に入ってくる。

「ん?

 どうしたんだ?

 みんな固まって」

教室の雰囲気がいつもと違うことに気づいた忠太郎は教室内を見回して見せると、

「おや?

 君は?」

クラスの中に見慣れない女子生徒が居ることに気づくや、

「転校生?

 何かわからないことがあったら躊躇わずに僕に聞きに来なさい」

そう囁きながら白い歯を輝かせ、

女子生徒の手に自分の手をさり気無く手を添えてみせる。

「おっおいっ、

 遠藤っ、

 そいつわな…」

事情を知らない忠太郎にクラスメイトが説明しようとした時、

「おーぃ、

 遠藤っ、

 写真を撮ってやろう」

と渡は声を上げながら、

クラスメイトたちが忠太郎を真ん中に挟むようになる構図の位置でカメラを構えて見せる。

しかし、

シュパッ!

その渡の眉間に光る刃先が突きつけられるや、

「唐っ

 貴様、何を企んでいる」

渡がシャッターを切る前に忠太郎は刀を抜き問いただす。

「いっいやだなぁ

 忠太郎君っ、

 僕は写真を通じて君と親睦を深めようと思っているだけだよ」

突きつけられた剣先に脂汗を流しつつ渡は弁明をすると、

「遠藤さんっ、

 逃げてぇ

 そのカメラに撮られると女の子になってしまうんですよ」

と他の女子たちが声を上げた。

「ちっ余計なことを…」

それを聞いた渡は軽く舌打ちをして見せると、

「なるほどっ

 そうか、そういう理由かぁ!

 これほどの侮辱を受けて引き下がるわけにはいかんっ

 そこに直れ、刀のサビにしてくれるっ!」

話を聞いた忠太郎は気合十分に日本刀を振りかざしたのと同時に、

カシャッ!

シャッターの切れる音がこだましたのであった。

「うわぁぁぁぁ!!!」

同時に忠太郎の悲鳴が教室内に響き渡り、

グググググ…

彼のシルエットがゆっくりと変化して行く、

「おぉっ」

「やっちゃったな…」

「どうなるんだ、これから」

「くわばらくわばら」

不気味な静けさの中、

そんな囁き声が響き渡ると、

渡の前には肩を震わせる可憐な女子生徒の姿があり、

「唐ぃぃ!

 貴様ぁぁぁ!」

自らの姿を眺めつつ渡をにらみつけるや、

「覚悟しろぉ!

 でやぁぁぁぁ!」

スカートが捲れ上がるのも恥じることなく机を蹴飛ばして斬りかかり、

「女の子がはしたないまねをしてはいけないんだぞぉ」

「知るかぁ!

 今日と言う今日は許しませんっ!」

逃げる渡を追いかけ始める。

そして、その間にも、

カシャッ

カシャッ

渡の胸元にあるカメラが次々とシャッターを切っていくと、

「うわぁぁ!!

 俺を撮るなっ」

「こっちにくるな」

「いやぁぁんっ、

 女の子になっちゃったぁ!」

教室の中の男子たちはたちまち女子生徒へと姿を変え、

それが騒ぎに拍車をかけていく。

まさに大混乱、パニックである。



その混乱した教室の中で、

「やめなさいっ!」

忍は机を叩いて鎮めようとしたが、

「待てぇ、唐ぃ」

「手の鳴る方へ、

 お嬢さんっ」

「己っ侮辱する気かぁ」

と騒ぎは収まるどころかますます拡大していく一方であり、

「もぅ我慢が出来ないっ」

ついに忍の我慢が限界に達した時、

メリッ

彼女の制服が消し飛び、

頭から角が生えると、

彼女のもう一つの姿である虎縞ビキニ姿の鬼娘へと変身していく、

そして、

パリパリ

その周囲に放電が起き始めたとき、

「こらぁ!

 お前らっ、

 何を騒いでいるっ

 授業を始めるぞぉ」

と教室に入ってきた担任教師の怒鳴り声が響くや、

「いい加減にしなさぁぃ!!!」

バリバリバリ!!!

「うぎゃぁぁ!」

の声とともに教師にめがけて壮絶な電撃が放たれたのであった。



ズズーン!

「ん?」

校舎に響く鈍い音に保健医が顔をあげると、

「まぁ、いつものことか」

と軽く笑ってみせ、

そして、前を向くと、

「それにしても鍵屋っ、

 とんだ災難だったな。

 道端で伸びているところを発見されなかったら大事になって居たぞ」

と向き合って座る鍵屋の姿を見つめてみせる。

『いや、お恥ずかしい限りで』

巫女と向かい合うようにして、

あちこちに絆創膏が張られ包帯が巻かれた姿の鍵屋は

それが恥ずかしいのか幾度もうなづいてみせるが、

『3人並んで写真を撮ると、

 その真ん中の人の魂を奪ってしまう悪魔のカメラ…

 玉屋さんからの依頼で預かっていたそのカメラをヱターナルに奪われてしまうだなんて』

と悔しそうな表情をしてみせる。

「聞けば聞くほど物騒なカメラじゃのぉ、

 しかし、お主の蔵からカメラを奪ったヱターナルも大したものよ。

 お主の蔵の鍵は何人でも開けられないのであろう」

『はぁ…

 ちょっと油断がございまして』

「世に言う若さゆえの過ちと言うやつか?」

『うっ』

「しかし、ヱターナルから奪い返したのであろう」

頬杖をつきながら巫女は正すと、

『えぇ、

 ただ、奪い返した直後に連中のメカとRが事故を起こしまして

 まだ回収はできていません。

 ただ、カプセルを落とした場所は把握してあるので、

 一刻も早く回収に行かないと』

痛みを堪えつつ鍵屋は立ち上がろうとしたとき、

「不吉じゃぁ〜っ」

ヌッ!

の声共に僧がいきなり姿を見せ

下から鍵屋を見上げたのであった。

『うっうわぁぁぁぁ!』

突然出てきた僧の姿に鍵屋は悲鳴を上げて飛び上がると、

すかさず錫杖を構えて見せる。

「叔父上っ、

 何をしているんですかっ」

そんな僧に向かって巫女は呆れた口調で注意すると、

『やぁ、ご飯が炊けましたよぉ』

の声と共に炊飯ジャーを抱えた学生服姿の少年が保健室に入ってくる。

「おぉっ、

 これはすまんのぅ。

 わしはまだ朝食を食べてはおらんのだ」

炊飯ジャーから漂ってくる炊立ての香りに僧は鼻を動かしながら涎を流すと、

『ご一緒にいかがです?』

と少年はちゃぶ台を出して、

僧と共にご飯を食べ始める。

『Rっ

 何をやっているんですっ

 いま私たちがやらなくてはならないのは

 ご飯ではなくカメラの回収ですっ

 さぁ行きますよ』

と鍵屋は不機嫌そうに声を荒げる。

しかし、

『まぁまぁ、

 朝食はちゃんと摂りませんと、

 体によくはありません』

急かす鍵屋をよそに少年は悠然とご飯を食べ続けていると、

「そうじゃっ鍵屋とやら、

 お主、女難の相が出ておるぞ、

 災難に遭う前にここを引き払うがよい」

と山盛りご飯を頬張りながら僧は注意をする。

『女難?

 私がですか?』

それを聞いた鍵屋は胡散臭そうに僧を見ると、

「鍵屋に女難とは…

 ありえんわ」

と巫女もまた否定をしてみせる。

しかし、

『柵良さん、

 いまの言葉、

 ちょっと棘があるのですが』

とその言葉を鍵屋がさりげなく指摘したとき、

ドドドドドドッ

保健室に向かって大勢の足音が近づいて来たのである。

「災難とはこっちのことかな、

 叔父上」

それを聞きながら巫女は笑って見せると、

グワラッ!

勢い良くドアが開けられるや、

「さっ柵良先生っ、

 治療を!」

全身に火傷を負った渡が駆け込んで来た。

と同時に、

「渡ぅぅぅ!」

「よくも写真を撮ってくれたなぁ」

「早く男に戻せ!」

彼を追って女子ばかりのクラスメイト達も雪崩れ込んできたのであった。

『なっなんですかっ

 これは…』

『わわわわ』

突然の事態に鍵屋と少年は驚くと、

「さっさと男に戻せ!」

と女子生徒たちは声をそろえてみせる。

『なんです?

 この騒ぎは…』

まさに騒ぎに巻き込まれてしまった鍵屋が唖然として見せると、

「まぁ良くあることじゃ」

と巫女はすましつつ、

「ん?、

 唐っ、

 面白いカメラを提げているではないか」

と渡が持っているカメラを指摘した。

『え?

 あぁっ、

 そのカメラは!!』

その指摘を聞いて鍵屋は渡が持つカメラに気づくと、

『そのカメラは私のですっ、

 返してくださいっ』

と叫びながら渡に迫るが、

「うわっ!」

迫る鍵屋に驚いた渡は飛び上がったとき、

女子生徒たちに両側を挟まれた格好となった鍵屋が

ファインダーの真ん中に収まったのである。

そして、

カシャッ!

同時にカメラのシャッターを切れたのであった。



『はーぃ、玉屋でぇす。

 え?鍵屋?

 どっどうしたの?

 真ん中に写した者の魂を抜く悪魔のカメラ?

 あたしそんな事言ったっけ?

 違うわよ。

 あのカメラが奪うのは魂じゃなくて玉。

 そう、あのカメラは3人で写真を撮った時に真ん中に挟まれた男の子の玉を奪って

 女の子にしてしまう迷惑なカメラなのよっ

 なんでもハンターとか言う組織が作ったものらしいんだけど、

 使い物にならない。と言う理由でこっちに回されてきたの。

 で鍵屋に預ってもらったんだけどどうかしたの?

 なんか声が違うみたいだけど…

 あっもしもし?

 もしもーし…

 って切れちゃった…』



おわり