風祭文庫・乙女変身の館






「乙女花」


作・風祭玲


Vol.757





ゴワァァァァ…

ヒュゴォォォ…

二百十日。

南海で生まれた熱帯性低気圧・台風が列島を襲う特異日でもあり、

今年も他聞にもれず強大な勢力を誇る大型台風が押し寄せてきていた。

しかし、列島に聳える3000m級の山岳地帯がおろし金の如く

台風を摩り下ろしてしまうと、

見る見る台風は衰え、

南海の贈り物を置いて東の海の彼方へと去っていった。



「おぉ、台風一過ってこのとこだなぁ」

翌朝、

澄み渡った青空の下。

安達敬はいつもと同じように学校へ続く坂道を自転車で登っていく、

「ふぅ、

 やっぱり青空の下っていうのは気持ちいいものだねぇ」

照りつける朝日を横目に見ながら敬は気持ちよさそうに、

いまだ濡れている道を走っていくが、

それもつかの間、

「はぁ…

 ひぃ…

 はぁ…

 ひぃ…

 まったく、なんでウチの学校は山の上なんかに建っているんだろう。

 毎日通学する立場になってもらいたいものだよ」

坂道の角度が増すにつれ、

歯を食いしばり、

全身汗に濡れながら敬は自転車を漕いでいた。

そして、その横を、

「よぉ、先に言っているぞぉ」

の声と共に電動補助付き自転車に乗る生徒達が次々と追い抜いていくと、

「まっ負けるかよぉ〜」

思いっきり歯を食いしばり敬は脚を動かす。



程なくしてゴールである校門が見えてきた。

「はぁひぃ

 はぁひぃ

 おっおーしっ

 ゴールだ、

 終着だぁ」

顔を引きつらせ、

目をむき出し、

今にも倒れそうな表情で

敬は凱旋門を思わせる校門を通過していくと、

その視界に強烈な”紅”が飛び込んできた。

「なに?」

あまりにも唐突なその色彩に、

敬は疲れも忘れて自転車を止めると

ざわっ!

そんな敬の目の前では大勢の生徒達が立ち尽くし、

そして彼らの先では真っ赤な花が

校庭を埋め尽くすかのように咲き乱れていたのであった。

「なっなんだ、

 なんだよ、

 これぇ?」

ガシャン!!

自転車を倒して敬は

見たことも無い花の群落と化してしまった校庭に目を丸くしていると、

「ようっ

 安達ぃ」

と敬のクラスメイト兼友人の馬場俊夫が声をかけてきた。

「あっ馬場ぁ、

 何だこれは!」

咲き乱れる花を指差して敬が尋ねると、

「さぁ?

 俺にも何がなんだか判らないよ、

 夕べの台風に運ばれてきたか?」

と俊夫はおどけて見せる。

「台風で運ばれてきたからって、

 一夜にして校庭が花畑になるかぁ?」

呆れ顔で真紅の絨毯が敷き詰められている校庭を眺めていると、

「おーぃ、

 1時間目の授業は中止だぁ

 お前達も手伝え!」

の声と共に教師が姿を見せるなり俊夫や敬、

さらにはその場にいた生徒達にも軍手を手渡し始める。

「え?

 これって?」

いきなり渡された軍手に敬は困惑していると、

「なにをボヤボヤしているんだ

 みんなでこれを毟るんだ」

そう教師は指示をすると、

ブチッ

ブチッ

と早速実践して見せる。

「どっどうする?」

「仕方がないだろう、

 これじゃぁ体育も出来ないからな」

敬の問いに俊夫は肩をすぼめて返事をすると、

ブチッ

ブチッ

っと咲き乱れる花を抜き始めた。



「はぁ…

 なんで、朝っぱらから園芸部のまねをしなくてはならないのかねぇ」

抜かれるごとに花粉を撒き散らす花を見ながら敬は愚痴をこぼすと、

「1時間目がこれで潰れたんだ、

 それでいいじゃないか?」

と俊夫は宥める。

「それはそうだけど…

 はぁ…

 ただ、この作業をしているのが男だけてぇのもねぇ

 せめて”一緒にがんばろうね。”

 と言ってくれる娘が居てくれたらねぇ」

敬はそう言いながら改めて校庭を見ると、

確かにその指摘どおり、

花を抜いているのは白シャツを着た男子生徒ばかりで、

女子生徒の姿は何所にも無かった。

「無理を言うな、

 男子校に女なんているわけないだろう」

そんな敬に俊夫はすかさず突っ込みを入れると、

「俊夫君っ

 君は夢を見たことが無いのか?」

と敬はなみだ目で訴えた。



こうして、

全校生徒総掛かりの草むしり…もとい花むしりは無事終わり、

あれだけ咲き誇っていた赤い花は

校庭の隅でごく少数が花弁を垂れているだけになってしまった。

そして、2時間目の授業が始まる。

「花むしりの次は体育か、

 一休みというものを知らないのか」

更衣室で着替えながら敬は文句を言っていると、

「恨むんなら時間割を恨むんだな」

その隣で俊夫はシャツを脱ぐ。

そして、隣で着替えている敬を見たとき、

「ん?

 何だその胸は?」

と敬の胸を指摘すると、

「あぁ…

 なんか、さっきから痒いんだよ

 被れたかなぁ」

自分の胸を爪で押しながら敬は返事をした。

「あはは…

 つーか、

 敬、運動不足だよ」

プックリと膨れる敬の胸を指差し、

俊夫はそう指摘すると、

「ちょっと待ったぁ、

 君は僕が毎朝死にかけていることを知らないのか」

敬は涙目で訴えていた。




「なんかやべーな…」

体育の授業中、

自分の胸を押さえながら敬はふと呟くと、

「やべーってどうした?」

流れる汗を袖でぬぐいながら俊夫が尋ねる。

「何だ、聞いていたのかよ」

横に立つ俊夫の姿に敬は鬱陶しそうにみると、

「ん?

 敬っ

 お前、胸が膨らんで…」

ツンと体操着が持ち上がっている敬の胸を指摘した。

「うっ」

その途端、敬は両腕で胸を隠し、

「べっ別に…関係ないだろう」

と頬を赤らめながら言い返すが、

ムリッ

ムリムリッ

敬の胸は時間の経過と共にさらに膨らみ、

それどころかお尻の周りや、

太ももまでもポッチャリと膨らんでくると、

ムチッ!

短パンから覗く脚に張りが出始めていた。

そして、

「なんだぁ、安達ぃ、

 その身体はぁ?」

「おっ、

 お前…」

体育の授業が終わり、

更衣室で着替え始めた敬の姿に、

皆が一斉に驚きながら声をかけると、

「なっなんだよっ

 じろじろ…見るなよっ」

プックリと膨らんだ胸を右腕で隠し、

内股気味に脚を寄せたトランクス姿の敬が怒鳴り声を上げるが、

その声は男というより、

少女を思わせるハスキーな声になっていた。

だが、その声と仕草は周囲を取り囲む男達の性欲を確実に刺激し、

その証拠として、

モコッ

皆の股間が一斉に持ち上がった。

「うっ、

 なんだよっ

 お前らっ、

 なに、チンポおっ勃てているんだよっ」

盛り上がる股間を指差し、

敬は震え上がるが、

「なぁ、

 ちょっと、そのオッパイ…

 いや、胸を触らせてくれないか?」

その耳もとで囁く声が響くと、

ゾワァァァ!!!

「うっうるせーっ、

 おっ男に胸を触って貰う趣味はねーぞ」

体中の毛を逆立てながら敬は怒鳴り返した。

だが、

「なぁ、ちょっとだけ」

「いいじゃないか、

 別に減るもんじゃないだろう」

の言葉と共に、

ヌゥッ!

無数の手が伸びてくると、

ムギュッ!

いきなり胸を掴まれてしまうと、

「きゃぁぁぁ!!!」

更衣室に少女の悲鳴が響き渡り、

「やめてぇぇぇ!!

 痴漢ぁん!!」

と追って響いた。

その瞬間、

ピキッ!

男達の表情が凍ってしまうと、

憑き物が落ちたかのように、

ジロッ

最後に敬の胸を鷲づかみにした男子生徒を一斉に睨みつけた。

「え?

 なっなに?

 いやだなぁ、

 みんなやったいたじゃないッスか、

 そんな目で見ないで下さいよぉ」

一同から寄せられる冷たい視線に

冷や汗を掻きながら男子生徒は言い訳をするが

だが、次の瞬間。

「てめーっ

 やってはならないことを!」

の怒号が上がると、

己のことは棚に上げて一斉に袋叩きにしてしまったのであった。



こうして一難は去ったものの、

しかし、敬の災難は去ったわけではなく、

ムリッ

ムリムリッ

膨らみ続ける敬の胸は止まることなく、

4時間目の授業が終わり昼食の時間のころには

制服の胸ボタンが嵌められない位に膨らんでしまっていた。

「うーっ、

 胸が重い…

 下が見えない…」

巨乳を思わせるバストを揺らしながら、

敬は昼食を取っていると、

「しっ下は大丈夫だよな」

と股間に手を入れ、

シンボルが健在なのを確認していた。

すると、

「おーぃ、

 安達ぃ、

 その胸じゃ苦しいだろう。

 これを着ろよっ」

とクラスメイトの男子数人があるものを敬に差し出すと、

「え?

 なっなんだこれはぁ!!」

それを見た途端、

敬は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「なにって、

 セーラー服だよ。

 セーラー服。

 演劇部の倉庫に保管されていたのを借りて来たんだよ、

 去年の演劇祭に使った後、

 クリーニングされたから綺麗だよ」

と男子生徒は敬に言う。

「だからと言ってもなぁ」

セーラー服を手に取りながら敬は声を上げると、

ポンッ

いきなり肩が叩かれ、

いつの間にか敬より頭一つ大きくなった俊夫が寄ってくると、

「着ちまえよっ、

 その状態じゃぁ、

 間もなくボタン弾け飛ぶぞ」

と警告をした。

「しかし…」

そんな俊夫に敬がなおも言い返そうとすると、

「理由はわからないけど、

 お前、このまま女になってしまうんだろう?

 だったら、

 女の格好に慣れていくのも良いんじゃないか?」

と囁き、

キラリッ☆

口から覗く歯を光らせる。

「いっ」

俊夫の口から出た衝撃の言葉に敬の表情が引きつると、

「おっ俺は…女なんかに…」

と言いかけたところで、

「”あ・た・し”はだろう?」

口元を緩めながら俊夫は訂正をする。

「!!っ」

それを聞いた途端、

敬の小さくなった手がギュッと握り締められ、

クルリと振り返ると、

その拳が大きく引かれた。

そして、

「俺は男だぁぁぁぁ!!!」

の声と共に俊夫の左頬に敬のストレートが放たれるが、

「おーっと」

体型が変わったために目測が狂ったのか

敬の拳は俊夫の顔面をむなしく通り過ぎてしまい、

そして、次の瞬間、

ガシッ!

俊夫の手で敬は羽交い締めにされてしまうと、

「おーぃ、

 着替えさせろー」

の声が響くのと同時に、

「うわぁぁぁ!!

 やめぇぇぇぇ」

その悲鳴の上げながら、

敬はセーラー服に着せ替えられてしまったのであった。



「んー?

 なんだぁ?」

5時間目の授業の初っ端、

授業を受け持つ古典教師は、

真ん中の列の一番前で顔を真っ赤にしているセーラー服姿の敬に気付くと、

「なんだ?

 罰ゲームか?」

と声をかけた。

そしてたわわに実る敬の胸をチラリと見るなり、

「まぁ、なんだ。

 私の友達に医者がやっている者が居てな、

 そいつが言うのは世の中にはいろいろな病気があるそうだ。

 なかでも”巨乳症”とが言う病気は

 ある日突然、胸が大きくなるのだが、

 場合によっては胸だけでなく、

 体全体が女性化してしまうという恐ろしい病気だそうだ」

と横道に反れた話をする。

すると、

「先生っ」

俊夫の手が挙がり、

「巨乳症の原因って何ですかぁ」

と質問をすると、

「まぁ、私は専門外だから詳しくは判らないが、

 乙女蘭、もしくは乙女花と呼ばれる花の花粉が引き起こす。

 とも聞いているな、

 そういえば、今朝校庭に咲いていた花。

 あれは乙女花…じゃなかったのかな」

教師はそう答えると、

「さぁ、授業を始めるぞ」

と言いながら教科書を開いた。



「おっ乙女花?」

授業を聞きながら敬は教師が言った言葉を復唱していると、

「まさか、

 俺、本当に女の子になってしまうんじゃぁ…」

とFカップはあろうかと思える自分のバストを見る。

そして、

ギュッ!

スカートの下で沈黙を守るシンボルを握り締めると、

「いやだ、

 女の子なんかになりなくねぇ!」

と心の中で叫ぶが、

敬の女性化はさらに進み、

放課後になったころには、

顔つきから仕草まですっかり少女のそれになってしまい、

まさにクラスの中の紅一点になってしまていた。

「どうしよう…

 これじゃぁ本当に女の子になっちゃう」

膨らんだお尻を左右に振りつつ、

敬は体育教官室へと向かうと、

「安達ですっ」

とドアをノックしながら自分の名前を告げた。

「おいっ入れっ」

即座に中より体育教師の声が響くと、

「あのっ

 あっあたしに何か用ですか?」

と教官室に入った敬は恐る恐る尋ねると、

ヌッ

ジャージ姿の体育教師は敬の前に立ち、

「安達っ

 お前は世界を狙う気はあるか?」

と逆に尋ねてきた。

「は?」

あまりにも突拍子のない質問に、

敬の目は点になってしまうと、

「これを着るのだ、安達」

そう言いながら体育教師はある物を敬に手渡した。

「へ?

 これって…

 れっレオタードぉ?」

手渡されたものを広げた途端、

敬の目の前には濃紺に紫のストライプが広がり、

そして、それがレオタードであることに気付くと、

ガシッ!

いきなり肩を握り締められ、

「新体操をしよう、安達っ。

 俺はなっ新体操選手を育てたくて、

 この学校に来たんだ。

 しかし、そんな俺の夢を踏みにじるかのように

 ここは男子校であり、

 女子生徒の姿はなかった。

 この衝撃時事実に俺は幾度、涙を流したことか、

 そんな時、お前は俺の前に来てくれたのだ。

 安達っ

 夢に向かって舞うのだ。

 俺の希望の女神になってくれっ」

涙をハラハラと流しながら体育教師は敬に抱きつくが、

モコッ

その股間が硬く大きく膨らんでることに敬は気付くと、

「せんせぃっ

 何を妄想しているんですか?

 まさか、レオタード姿のあたしを…」

と敬はやんわり聞き返すと、

ゲシッ!

体育教師の股間に一撃を喰らわせ、

「新体操については考えさせてくださいっ」

そう言い残して体育教官室をあとにした。

「まったく…

 あたしは男だって言うのに」

鼻息荒く敬は歩いていくが、

「ねぇねぇ、

 テニス部に入ってウィンブルドンを目指してみないかぁ」

「いやっ、

 ゴルフで藍ちゃんを目指そうよ」

「おいっ抜け駆けするなっ

 卓球部はいかがっすか?」

「女子レスリングで京子の上を狙ってみない?」

と何所から沸いてきたのか、

各部活の勧誘集団が押し寄せてきた。



「よぉっ

 人気者っ!」

必死の思いで敬が教室に戻ると 

丁度帰り支度をしていた俊夫が声をかけてきた。

「なっなによっ

 別に人気者なんかじゃないよ」

そんな俊夫に敬は強がりを言うと、

「ははっ、

 なんだかんだ言っても

 すっかり女でいることに馴染んでいるじゃないかよ」

と指摘した。

「だっ誰が馴染んでいるですってぇ」

その言葉に敬は反発すると、

「もぅチン○も無くなっちゃったか?」

茶化すように俊夫は言い返す。

「うるせーっ、

 見てくれは女になったけど、

 まだ、あるもんはあるわいっ」

思わず股間を押さえながらも敬は反論すると、

「そうか、

 それは良かった」

一瞬、安堵したような表情で俊夫はそう返事をすると、

「まぁ、明日の朝になったら、

 身も心も女になっていた。

 なぁんてことは無い様にな」

と言いながら敬の肩を叩き、

「お先にぃ」

そう言い残して先に帰っていった。



その夜、

ハンガーに掛かるセーラー服が見下ろすベッドの中で、

「じ、冗談じゃないわっ

 誰が、女なんかに…」

ジワリと忍び寄ってくる女性化の恐怖に

敬は夜もなかなか寝付くことが出来ず、

ただひたすら毛布を被っていた。

そして、大きく膨らんだままのバストを押さえると、

「頼むわぁ

 女になんてならないでよ、

 明日になったら消えてちょうだい」

そう願掛けをしながら、

いつしか寝入ってしまっていた。



翌朝、

「おぉ!!!」

敬の部屋に驚きの声が響き渡ると、

「おっおっ男に…

 男に戻っているぞ!!!」

とバストが消え平らになっている胸を撫で回しながら

喜びの声を上げていた。

だが、

ピタッ

突然その手が止まると、

「まさか、

 胸は平らになっても、あそこが…なんてこと、

 よくある話だろう…」

と青い顔をしながら恐る恐る股間に手を当て確認して見る。

すると、ちゃんと敬の股間には男の象徴は付いており、

昨日の朝と同じように元気に朝立ちをしていた。

「よかったぁ!」

健在だった何に敬はホッとすると、

スグに支度を整え、

学校に向かって自転車を出した。



「はぁ…

 一時はどうなるかと…

 しかし、みんな残念がるだろうなぁ」

といつもは苦しい心臓破りの坂も今日は何なく登り、

そして、学校の校門をくぐった途端。

「へ?」

その視界に信じられない光景が飛び込んできた。

「なに?

 なんで?」

自転車を止め、

唖然とする敬の前を、

セーラー服を風になびかせながら、

大勢の乙女達が校舎に向かって歩いていたのであった。

「え?

 え?

 どういうことなの?

 なんで、女の子が?」

学校内を埋め尽くす彼女達の姿で、

男くさい校内が一気に華やいでいることに、

敬はただ立っていると、

「あら、おはよーっ」

と一人の少女が校舎のほうから駆け寄り、

敬に挨拶をする。

「え?

 えぇっと君は?」

肩に掛かるロングのヘアを揺らす少女から声をかけられたことに、

敬は困惑していると、

「あら、

 あたしよあたしっ、

 俊夫よっ」

と少女は自分を指差して名前を告げた。

「へ?

 君が俊夫ぉ?

 って」

なかなか合点がいかない敬は頭を抱えると、

「そっかぁ、

 元に戻っちゃったのか」

口元に人差し指を当てながら、

彼女はそういうと、

「昨日の花のせいでね、

 みんな女の子になっちゃったみたいなの?

 男の子の姿でいるのは敬だけみたね」

と事情を説明した。

「うそっ」

それを聞いた敬は思わず声を上げると、

「本当よっ、

 しかもちゃんとここも女の子になているのよっ」

俊夫はそう言い、

バッ!

一気にスカートを捲り上げると、

男のシンボルが消えている股間を敬に見せ付けた。

「そんなぁ…」

思わぬ展開に敬は顔を引きつらせると、

「そうそう、

 体育の熊沢が探していたわよぉ、

 敬、新体操部に入ったんでしょう?

 早くレオタードに着替えて行ったら?

 新入部員大勢いるみたいよ」

俊夫は告げると校舎へと駆けていった。

「あはは…

 マジですかい?」

そんな彼女の後姿を見ながら敬は涙を流していた。



”乙女蘭”

 またの名前を乙女花と言い。

 日本のはるか南方、絶海に浮かぶ中ノ鳥島の固有種で、

 9月ごろに真紅の花を咲かせるランの仲間である。

 だが、見た目の可憐さとは別にその花粉を男性が大量に浴びてしまうと、

 皆、乙女の姿になってしまう恐ろしい花であるため、

 取り扱いには注意を要する。

 お取り寄せは、ディスカウントストア・業屋、各店

 もしくは最寄の黒蛇堂まで。



おわり