第3章 MSの構造

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1 MSの構成

 

 MSの主要部を大別すると、動力部である核融合炉、各関節及び他の稼働部を動かすモー

ター、主推進機を収めたバックパック、機体を制御するコンピュータ、パイロットが搭乗す

るコクピットブロック(胴体)、カメラや探査機器を収めた頭部、武器を保持する腕部、地上

で歩行するための脚部などで構成されている。

 


 

2 核融合炉

() 核融合の原理

核融合には、D-D(デューリウム-デューリウム)反応、D-T(デューリウム-トリチウム)反応、D-He3(デュ

ーリウム-ヘリウム3)反応という三つがある。ここでは一般的なD−T反応の核融合を例に

採る。

 水素の同位体である重水素と三重水素という軽い元素同士を衝突させると、融合してヘリ

ウム原子核ができ、併せて中性子が発生する。この反応を核融合と言う。

 それを利用してエネルギーを取り出すのが、MSに欠かせない核融合炉である。

 D−T反応による核融合では、1回当たり約1760万電子ボルトのエネルギーが発生する。

これを重水素と三重水素の質量1s当たりに換算すると、約300ジュールとなり、石油エネ

ルギーの約750倍にも相当する。

 太陽は、その内部で核融合を起こして熱を発生させているが、今後数十臆年もの間エネル

ギーを出し続けるだろうと言われているのは、僅かな質量から大量のエネルギーを発生する

核エネルギーの特徴によるものである。

 

(2)ミノフスキー/イヨネスコ型核融合炉

 MSは、機体を稼働させるために電力を必要とする。その電力を供給するのが核融合炉で

あり、MSに搭載される核融合炉は、各社で型式など異なるが、殆どがミノフスキー/イヨ

ネスコ型と呼ばれるものである。

 ミノフスキー/イヨネスコ型核融合炉は、U.C0047年に開発が始められ、U.C0071年にMS

に搭載可能なレベルの小型核融合炉第一号が完成した。。

 この融合炉は、内部のプラズマの安定や放射線の遮蔽に、ミノフスキー粒子が生み出す立

方格子を利用しており、これによって核融合反応から直接、熱や電力を取り出せるようにな

り、更に小型化、安定稼働を実現した。

 基本燃料はヘリウム3(通常のヘリウムより中性子が1個少ない)で、D−He反応によっ

て膨大なエネルギーを生み出すことができる。D−He反応による特徴は、D−D反応や

D−T反応に比べて中性子の発生が極端に少ないことにあり、それだけクリーンで扱い易い

のである。

 しかし、ヘリウム3はヘリウム全体で1p当たり0.015%しか含まれない超希少元素で

あり、地球上には殆ど存在しない。そのため、ヘリウム3の供給は、木星エネルギー輸送船

団(ヘリウム輸送船団)に完全に依存している。

 

(3)冷却システム

 核融合反応炉は、原子反応を利用している以上、どうしても熱が発生する。

 無論、その熱もエネルギーとして転用することは可能だが、過剰な熱は機体全体の機能に

干渉するばかりか、暴走して爆発という事態もあるため、冷却して適正な温度に保つ必要が

ある。

 方式は当然、水冷式である。MSは宇宙空間での使用が前提であるため、風を当てて冷却

する空冷式が使用できるわけが無い。例え、大気があったとしても、空冷式では原子反応の

熱を放出するには不十分であろう。

 冷却は、融合炉を取り巻く様に配置されたウォータージャケット内を通る冷却水で行わ

れ、暖まった冷却水はウォーターポンプで強制的にラジエータへと送られて冷却される。

 ここで問題なのが、水冷式であってもラジエータは空冷ということである。つまり大気に

熱を放出して暖まった冷却水を冷やすわけだ。しかし、大気の無い宇宙ではそれができな

い。そのため、宇宙で行動しているときは、触媒を使用して熱を放出する。触媒には、主に

熱伝導率の高い金属系の物質が用いられている。

 暖まった空気、あるいは触媒は、通常、胸部に設けられたエアダクトから放出される。機

体によっては、設計上の都合で脇腹や腹部に設けられている場合もある。

 しかし、胸部や機体前面に大きなエアダクトを設けると、被弾し易く、装甲が薄いため耐

弾性が低くなり、弱点となる可能性もある。

 一年戦争以降のMSは、機動性を追及するために、胸部にバーニアを配したり、武装を搭

載することが増えた。そのため、腹部周辺に段差を設け、そこに細い孔を開けてダクトとし

たタイプも多くなった。一見して、エアダクトが無い様に見える機体は、そういった手法で

冷却している。

 余談だが、ガンダムタイプMSは、胸部にエアダクトを設けるのが慣例となっているらし

い。


3 駆動装置

 

 駆動装置とは、MSの関節やスラスターなどを動かすためのもので、大小様々なアクチュ

エーターが用いられている。

 アクチュエーター(モーター)は、電気や流体などのエネルギーを機械力に変換する装置

で、回転運動に変換するものを回転アクチュエーター、並進運動に変換するものをリニアア

クチュエーターと呼ぶ。

 

(1)超伝導リニアモーター

 関節駆動用としては、一般的なモーターで、磁力の反発作用を利用して、駆動力を生む。

 リニアモーターとは、元々リニアモーターカーなどの直線移動する乗り物のために開発さ

れた並進運動モーターであり、MSの関節などの回転運動をする部分に用いられるものでは

なかった。

 しかし、小型化が容易であることと、ギアなどを介さずに駆動できるため、MSにも応用

された。

 旧世紀から研究されていたもので信頼性が高く、持久力も高いが、瞬間的なトルクがやや

不足している。

 

(2)フィールドモーター

 RX-78に初めて採用された次世代モーター。ミノフスキー物理学を応用したもので、Iフ

ィールドとミノフスキー粒子の相互作用を利用して駆動する。

 小型で軽量であるにも関わらず、そのスケールを遥かに越えた高トルクを発生できる。

 


 

4 推進装置

 

 推進装置は、宇宙空間での使用が大前提のMSに欠かせない移動手段である。例え、手足

が動いても、それだけで推進力を得ることは難しい。何かに推してもらうことが必要であ

る。その役割を担っているのが推進装置である。

 MSの場合、最も一般的なのが液体ロケットである。ジェットエンジンの搭載も不可能で

はないが、大気の無い宇宙では使用できないため、MSの稼働地域が限られてしまう。

 汎用性を考えれば、大気が在ろうと無かろうと使用できる液体ロケットが、運用面から考

えても一番都合が良いのである。

 

(1)液体ロケットエンジン

 化学反応を利用して推進力を得るもので、宇宙用推進機としては最も一般的で、艦艇クラ

スの大型のものから、プチMSなどの小型のものまで、その種類は多岐に渡る。

 液体ロケットは、プロペラントと呼ばれる燃料と酸化剤で構成される。そのプロペラント

を化学反応させることでできる生成物が、その反応による熱エネルギーによって膨張し、そ

の時に熱エネルギーは運動エネルギーに変換され、生成物はガスとなって放出される。

 歴史が長いだけに信頼性が高く、コスト的にも有利であるため、良く用いられる推進機で

ある。

 

(2)熱核ロケットエンジン/熱核ジェットエンジン

 MSの動力源である熱核反応炉の炉心を解放し、プロペラントを炉心を通して噴射するこ

とで推進力を得るのが熱核ロケットエンジンである。

 炉心からのエネルギーで、プロペラントを膨張させるため、エネルギー効率が高く、大き

さの割りには強い推進力を得ることができる。

 そして、プロペラントを使用せず、代わりに大気を利用したのが熱核ジェットエンジンで

ある。

 これは、熱核反応炉から水素を媒体として大気に熱エネルギーを伝達し、膨張した大気を

高速で噴射するときの反作用を推進力とするもので、大気中であればプロペラントを必要と

しない分、効率が良い。

 しかし、大気の無い宇宙空間では使用できないため、宇宙では熱核ロケット、地球上では

熱核ジェットというように、切り替えられるハイブリッドタイプ、熱核ジェット/ロケット

エンジンも開発された。

 


 

5 MSの四肢

 

 MSには両手両足、つまり四肢がある。言い換えれば人型をしているわけだが、無意味に

人型をしているわけではない。ましてや、研究者の趣味や技術誇示によって人型になったわ

けでもない。

 それまでの宇宙機よりも、作業効率を向上させ、圧倒的な機動性と運動性、更に汎用性を

獲得するための、必然であったのだ。

 確かに一見、宇宙空間において腕はともかく、“脚”は無駄なものと思われるだろう。し

かし、姿勢制御の上で重要な役割を果たしているのだ。

 後述のAMBACシステムである。無論、これには腕も含まれている。このAMBACシステムのお

かげで、高機動はもとより、プロペラントの大幅削減による稼働時間の延長が実現したので

ある。

 MSが人型なのは、求められる能力を満たすための必然であることを忘れてはならない。

 

(1)腕部

 腕部は、MSの持つ高い汎用性の半分以上を担っていると言っても過言では無い重要なパ

ーツである。

 多種多様な武器を容易に換装でき、かつ確実に使いこなし、更には一般作業(土木や荷物

の搬入など)までこなしてしまうという、まさに人間の腕と混色の無い性能を発揮する。

 MSの誕生以来、MSの手も人間と同じ5本指が定着しているが、実用化以前の開発段階

では、必ずしも5本指ではなかった。親指以外の4本が全てくっついていたり(そういう手

袋があるだろう)、3本指だったりと、色々な型式が試された。

 戦闘用として用途を限定してしまえば、武器は手に合うように規格化すれば良いだけで、

5本指ではなくとも不都合は殆ど無いわけだが、“高い汎用性”という条件をより高次元で

実現するには、やはり5本指でなければならなかったのだ。

 それは、より人間的に見せるという視覚的な要素もあったかも知れない。事実、RX-78の

開発陣は、執拗なまでに擬人化にこだわり、腕部を設計するに当たって、義手や義足の技術

者まで動員されたという。

 “人間的”であることも、MSには欠かせない要素なのかも知れない。

 

(2)脚部

 MSの脚部は、その機動性の多くを担う重要なパーツである。重力下では文字通り足とな

って破格の走破性を発揮し、宇宙空間では姿勢制御モジュールとしての機能を果たしてい

る。

 構造は、外見の印象とは大きくかけ離れて、非常に複雑である。歩行時の衝撃を吸収する

ショックアブソーバーなどの機械的なものは勿論、接地面の状況(凹凸や硬さなど)を感知し

て細かく制御するためのセンサー、電子装置は、それこそ神経の如く張り巡らされている。

それに加えて、最も酷使される部位であるため、強靭でなければならない。精密さと強靭さ

という相反する特性を合わせ持たなければならないため、設計が困難を極める部位でもあ

る。それは、依然として二足歩行が困難であることの証明であるとも言える。

 そもそも、二足歩行というのは安定性の面から見れば、明らかにマイナス面が強い。ただ

立っているだけでも、本来は不安定なものであり、人間の場合、それでも倒れないのは、脳

が常に細かく制御しているからなのである。

 とすれば、二足歩行は非常に不安定な移動であると理解できよう。片足を前に出すことで

身体を前傾させ、保たれていた安定を崩し、その際の前方への重力に加速されて前進してい

るのだ。

 私たち人間は、日常、当たり前のように歩いているわけだが、本来は私たちの認知できな

いレベルで、細かな制御が行われているのだ。それを機械にやらせようとすれば、並大抵の

ことでは済まないことは承知の事実だろう。

 それを考えれば、脚部の構造が複雑なものになるのも当然のことなのである。

 

(3) AMBAC(アンバック = 能動的質量移動による自動姿勢制御)

 MS以前の宇宙機は、姿勢変換をバーニア噴射によっていたため、その度に推進剤を消費

していた。その方法で戦闘中に方向転換や回避運動を行うには、膨大な推進剤が必要にな

る。そこでMS開発当初、ZIONIC社ではAMBACシステムという自然姿勢制御方法を実用化し

た。

 これは、機体の一部を動かした時に発生する、それとは逆方向に働く力、反作用の性質を

利用して、機体を制御しようというものである。つまり、足を前に蹴り上げれば、その反作

用を受けて、頭部の方は後方へと移動する、といった様な状況である。

 これによって、宇宙空間では無駄になると思われていた腕部と脚部が、デッドウェイトど

ころか推進剤の消費無しに姿勢制御を行う有効な手段となって見直されたのである。

 グリプス戦争以降のMSには、腕部や脚部の他にもバインダーと呼ばれるAMBAC専用の機

器を機体各部(主に背部、バックパック)に装備して、更なる高機動を目指している。

 


 

6 制御系統

 

 制御系統と一口に言っても、それぞれの部位で色々な形態があるわけだが、ここでは姿勢

制御から火器管制まで、機体の全てを統括するメインコンピュータを主に説明する。

 極端に言えば、MSの性能というものは、機体そのものをハードウェア、パイロットやコ

ンピュータなどをソフトウェアとすれば、その約80%がソフトウェア的な部分で決定され

る。

 では、コンピュータとパイロットではどちらが重要かと言えば、明らかにパイロットだろ

う。ジオン公国軍のMSは、コンピュータ技術において明らかに連邦軍に遅れをとっていた

が、それでもRX-78と互角に戦ったシャア=アズナブルの腕は、かなりのものだったと容易

に想像できる。(当初はRX-78のパイロット、アムロ=レイが未熟だったこともあるだろうが)

 話が逸れたが、パイロットの占める割合を差し引いても、MSの性能の30〜40%はコンピ

ュータに掛かっているのである。

 

(1)教育型コンピュータ

 連邦軍がRX-78に搭載したコンピュータで、戦闘を重ねる度にデータを蓄積し、学習する

ことで次の戦闘にフィードバックすることができる。成長型コンピュータと言っても良い。

 「一回の実戦は、数百回のシミュレーションを越える」と言われる通り、このコンピュー

タを搭載したRX-78が図らずも実戦投入されたことが、結果的にコンピュータの経験を高め

ることとなり、それをフィードバックした量産型が非常にバランスの良い優秀な機体となっ

たのだ。

 余談だが、その裏には、搭乗したパイロットがアムロ=レイだったということも無視でき

ないファクターであろう。事実、アムロ=レイの実戦データをフィードバックした機体は、

ソフトを書き換えるだけで性能が20%以上も向上したと言われている。

 

(2)ゼファー・ファントム・システム

 一年戦争当時、兵士の絶対数不足に悩まされていたジオン公国軍が開発した、自立型戦術

コンピュータを中核とする無人戦闘システムの総称である。

 100%パイロットを必要としない無人MSを実現するシステムであったが、暴走事件を引

き起こしたため、開発は凍結された。

 無人機のメリットは、当然パイロットを必要としないことだが、パイロットがいないこと

によるメリットも大きい。

 例えば、パイロットに掛かるG(重量加速)を考慮する必要が無いため、推進機の推力を限

界まで引き上げることができ、非常に高い機動力を得ることができる。さらに、突撃などで

敵の中枢を一気に落とすというような危険な任務も容易に遂行できる。

 結局、一年戦争には投入されなかったが、戦後の技術流出などでデータを入手した民間企

業が開発を続けていたようだ。

 

(3)EXAM(エグザム)システム

 公表されたシステムではないので詳細は不明だが、「ニュータイプ能力の無い者でも、ニ

ュータイプ的な戦闘を行えるシステム」とされているものだ。

 その構造や制御方法など一切が不明であるが、開発者はジオン公国軍から連邦に亡命した

ニュータイプ研究者クルスト=モーゼス博士であるらしい。

 全てが謎となっているのは、クルスト博士が戦死してしまったためと、三機あったとされ

る機体が三機とも戦闘により全壊してしまったためである。元々、極秘扱いのシステムであ

り、残されている情報も非常に少なく、システムを解明するのはもはや不可能であろう。

 数少ない資料から判っていることは、前述の事柄と、このシステムを搭載した機体は蒼く

塗られてブルーディスティニー(通称ブルー)と呼ばれていたこと、そして三機のうち二機は

地球連邦軍第11独立機械化混成部隊所属のユウ=カジマ中尉が搭乗し、一機はジオン公国軍

に奪われたことくらいである。

 戦場でブルーに遭遇した連邦兵士の話では、その戦闘力は圧倒的で、「自分が立ち入る隙

など無かった」とのことだ。

 又、噂では大きな戦闘があるところに必ず出没し、その場にいる者を敵味方問わず攻撃

し、その後には焦土しか残らなかったという。それ故に、その機体は「蒼い死神」と呼ばれ、

味方であるはずの連邦軍からも恐れられていた。

 さらに、キャリホルニアベース掃討作戦成功の裏にも、ブルーの影が見え隠れしている。

キャリホルニアベース周辺のミサイル基地を壊滅させたのは、たった一機の蒼いMSだった

という話もある。

 最後に、一説によれば、クルスト博士は表向きはニュータイプを目指すシステムを開発し

ていたが、本当はニュータイプを抹殺するシステムを開発していたと言われている。

 

(4)サイコ・コミュニケーション・システム

 これを制御系統に分類するかは意見の別れる所だと思うが、一応取り上げておこう。た

だ、後項で詳しく取り上げているので、簡単な説明のみとする。

 ジオン公国の研究機関であったフラナガン機関が開発した精神感応機構である。言い換え

れば、パイロットの思考をそのまま機器に伝えて制御するシステムで、コントロールのタイ

ムラグが大幅に削減される他、ミノフスキー粒子散布下でも無線誘導装置が使用できるとい

う特徴がある。

 しかし、基本的にこれを扱えるのは、「ニュータイプ」と呼ばれる一種の超能力を持った者

か、人工的に精神を強化した疑似ニュータイプ「強化人間」に限られる。

 さらに、彼らのような能力を持ったものでも、精神的負担が大きく、長時間の使用は精神

崩壊の危険もある。

 

(5)バイオセンサー

 サイコミュは、MSやMA等の機動兵器のマン・マシーン・インターフェイスとしては理

想的な機能を持っている反面、パイロットに対する負担が大きいという致命的な欠点があっ

た。

 U.C0080年代後半のアナハイムエレクトロニクスは、連邦内部で対立するエゥーゴとティ

ターンズの双方に兵器を供給しており、その際にニュータイプ能力を持つと思われるパイロ

ットに供与する機体には「バイオセンサー」と呼ばれる言わば準サイコミュ装置を秘密裏に組

み込んでいた。

 「バイオセンサー」はリフレクタービットやインコム等といった、武装としての簡易サイコ

ミュとは違い、あくまでも機体コントロールシステムの補助を行う機能を持つ種類のもので

ある。

 これを搭載した機体のパイロットは、いずれも高いNT能力を持っていたと言われ、こと

にティターンズやネオ・ジオンのニュータイプ兵器との対戦において、機体のスペック以上

の能力を発揮したという。

 ただし、この機能はパイロットが意図して発動させたものではない様で、制御機器として

の技術確立も結局は行われずじまいだった。

 

(6)ALICE(Advanced Logistic & Inconsequence Cognizing Equipment)

 RX-78に搭載されていた教育型コンピュータの概念をを更に発展させた、発展型論理・非論

理認識装置と呼ばれているもので、ある程度の人格さえ有していたと言われる。

 それまでのコンピュータは、プログラムされていることしか実行できなかった。つまり、

型にはまった動きしか出来ず、プログラムに与えられていない事態には、対処できなかった

のである。

 教育型コンピュータは、その不足の事態を学習させることで、ある程度の柔軟性を持たせ

てはいるが、高性能に仕上がるかは操縦するパイロットの腕次第だった。

 それを解決することを目指して開発されたのが、このALICE(アリス)である。ALICEの特徴

は、「推論・検討」ができることで、これによって微妙な事態にも柔軟に対応できるようにな

っている。

 ある程度の人格があったと言うのも、「推論・検討」機能が与えられたことを考えれば、当

然であるとも言える。何故なら、コンピュータが人間に近づくための最大の難関と言えたの

が、『考えること』だったからだ。推論・検討できるということは、まさに『考えている』

ということになる。それ故に、人格があったということも頷ける。

 これに、人の言葉を理解し、言葉を話す機能、つまり会話機能を付加すれば、限りなく人

間に近いコンピュータが実現されていたかもしれない。

 しかし、ほぼ同時期にスタートしたニュータイプの研究が急進し、その技術生まれた強化

人間の方が確実な成果を挙げ、「人間的な機械」を造るよりも「機械的な人間」を造る方が廉価

で容易であるという判断が下され、研究・開発は凍結された。

 

(7)Reon(Robotic Environment Operating - sys - Nucleus)

 一年戦争当時に開発されていた、無人戦闘システム「ゼファーファントム」のデータを民間

企業が解析、それを発展させたのが、このReon(レオン)である。

 本来はパイロットを必要としないが、暴走した前例があるため、意図的に搭乗者を必要と

する設計にされている。しかしながら、通常戦ではベテランパイロットと互角に戦える能力

を持ち、操縦のサポートシステムとして注目された。

 戦闘に際しては、搭乗者がトリガーを引かなければ攻撃できないように火器制御システム

が別系統になっているが、その他の機動や照準などの制御はReonが行うため、戦闘に不慣れ

なパイロットでもかなり高度な戦闘が可能である。

 感情こそ無いが、ほぼ完全な人格を有し、言葉による会話も可能で、ALICEの技術も融合

しているものと思われる。

 

(8)バイオコンピュータ

 RX-78以来、通常のMSに搭載されるコンピュータが、多種多様な戦闘パターンを習得し

ていただけなのに対して、バイオコンピュータは、センサー系の情報をパイロットに直接伝

達することも可能とした。

 容量や処理速度はもちろん高性能なのだが、単なる演算装置というよりも、パイロットが

戦闘を「体験する」という表現が適切であると言える。センサーの情報がモニター上に表示さ

れるのではなく、機体が「感じた」ことをパイロットも認識することができるのだ。これら

の機能は、それまでに開発されたサイコミュと同じようにも見えるが、全く別の方向にあ

る。

 このコンピュータは、いわゆる機械的に曖昧さを捏造する処理傾向の設定ではなく、記憶

や感情を積極的に機体操作に取り込む傾向を想定した結果、ユニットを構成する素子を構造

的に人間の脳に似せただけでなく、実質的に人間が持つ記憶や感情の領域にまで踏み込んだ

判断を行えるように設定されている。

 


 

7 探知装置

 

 MSのコクピットは基本的に密閉されているため、外部の情報はモニターで得るのがほと

んどである。

 そのため、カメラは勿論、様々なセンサーなどが装備されている。

 

(1)カメラ

 言うまでもないと思うが、MSの“目”となる装置で、これによって得られた画像がコン

ピューター処理され、コクピット内のモニターに映し出される。

 目とは言っても、人間のように顔面にだけあるものではない。胸部周辺や腰部、頭部後方

やバックパックなど様々な個所に補助カメラが装備されている。

 これは死角を無くすためという目的もあるが、頭部を破壊されても外の状況を把握できる

ように配慮されたものでもある。

 また、メインカメラは俗に言う「モノアイ」と「デュアルアイ」に大別される。

 モノアイはジオン系のほとんどがこの型式で、文字通りメインカメラが一つしかないタイ

プで、要するに“一つ目”である。

 このタイプの長所は、頭部を動かさなくてもカメラだけ任意の方向に向けられることで、

機種によっては前後左右自在に動かすことができる。コスト的にも有利で合理的と言える。

 ちなみに、連邦軍のGM系MSもゴーグル状の頭部の奥はモノアイである。極端な擬人化

にこだわりがある連邦軍としては、一つ目に見えることは避けるべきことだったのだろう。

 もう一方のデュアルアイは、ガンダム系はほぼ例外無くこれで、頭部のアンテナとともに

アイデンティティ(ガンダムである証)にもなっている。

 長所は照準精度が高くなることと、視差による距離測定も可能であるということがある。

長所ではないが、目が二つあるため、より人間的に見える。しかし、コストが掛かり、モノ

アイでも十分事足りるため、連邦軍でもほとんどの量産型には採用されていない。

 

(2)センサー類

 センサーは、カメラからの画像情報に補足したり、機体を制御するために多く装備されて

いる。

 種類は様々だが、標準的には熱感知センサー、タッチセンサー、圧力センサー、Oセン

サー、ミノフスキーセンサーなどがあれば宇宙空間でも地上でも活動には支障はない。

 偵察機や電子戦を想定した機体では、以上に加えてありとあらゆるセンサーを積めるだけ

積み込んでいる。三次元センサー、音響センサー、光学センサー、重力場感知センサー、磁

気センサーなど挙げれば切りが無い。

 


 

8 フレーム

 

 MSの骨格となるもので、これに色々な装置が取り付けられている。このためフレーム

は、稼働中に掛かる衝撃や加速度によって生じる曲げや捩じりに十分耐え、かつ軽量である

ことが求められる。

 

(1)モノコック構造

 モノコックとは、単一構造という意味であり、外板に機体の加重に耐える強度を与え、フ

レームとしての機能を兼用させた外骨格構造のことである。

 MSの構造としては初期の頃のもので、セミ・モノコックとフル・モノコックがある。

 セミ・モノコックは、最初のMSが採用していた構造で、ジオン系のMSに多く見られ

た。基本となる骨格は内部にあるため、外骨格である外板を外しても、機体形状(人型)を保

つことができ、外板(装甲)の分割整備が容易という長所がある。しかし、内部と外部に骨格

を持つため、重量的に不利で、又、装甲内部の空間効率から見ても無駄が多い。

 フル・モノコックは、連邦軍系MSに多く見られた文字通り完全なモノコック構造で、内

部に基本となる骨格は無い。そのため、空間効率に優れ、軽量であるが、内部奥深くを整備

する際には、外板を外す、つまりフレームを分解することになるため、寝かした状態にする

か、支える機材が必要となる。

 以上のように、メンテナンス面を見ればセミ・モノコックが、性能面を見ればフル・モノ

コックが、それぞれ優れていたと言える。

 しかし、運用効率や高性能化を考えた場合、これらのモノコック構造には限界がある。

 

(2)ムーバブル・フレーム構造

 RX-178ガンダムMk−Uに初めて採用された内骨格構造。モノコック構造とは根本的に異な

るもので、MSの機体構造を一変させた。

 人間の動きをトレースできるほどの構造は、まさに人体に見立てたもので、概念的には人

間の骨格と筋肉そのものであると言っても過言ではない。

 具体的には、可動のための基本構造を装甲や武装とは独立して構成しており、各部の可動

に連動して、装甲同士が互いに干渉を極力減らすように動く様になっている。そうすること

で、駆動系の露出面積を最小限に止め、関節の自由度を高くしている。

 運動性の向上はもとより、故障発生率も極めて低く、整備性も高いことから、瞬く間に普

及し、第二世代MS以降、MSの標準的な構造となった。

 又、この構造は、可動部を増やしても、高い剛性を保つことができ、TMS誕生の土壌と

もなった。

 

(3)MCA(マルチプル・コンストラクション・アーマー)構造

 MCA(Multiple Construction Armor)とは訳すと多機能装甲となる。

 一般的に多機能装甲と言えば、チョバムアーマーやリアクティブアーマー、耐ビームコー

ティングなど、装甲としての機能を融合させたものを指す。

 それに対してMCA構造の場合は、同じ多機能装甲と言っても、装甲としての機能はもと

より、装甲以外の機能も果たすという意味がある。具体的に言えば、装甲材、構造材、電装

機器の役割を果たしている。

 それまでのムーバブル・フレームは、構造材(骨格)に稼働に要する機器を取り付け、それ

を装甲で覆うという形を採っていた。

 しかし、その構造のまま小型化をするには、構造材周辺の機器を小型化しなければならな

い。核融合炉などの小型化は進んでいたものの、それだけでは「小型で高性能なMS」は実

現できないという結論に至った。

 装甲材と構造材を兼用する技術は、モノコック構造で既に確立されていたが、電子機器を

どう小型化するかが一番の問題であった。

 そこで、最も機体含有率の高い各部を制御するコンピュータ等の電子機器を、構造材に内

装することで解決しようという案が出された。

 LSIクラスのコンピュータチップであれば、構造材に電子機器を内装できるということ

は、サイコフレームで実証済みだった。

 サイコフレームとは、詳しくはサイコミュシステムとともに別項に譲るが、脳波で機械を

操縦するサイコミュシステムを、構造材に金属粒子並みの大きさで封じ込めたものだ。この

技術を応用すれば、他の制御機器も構造材に封じ込めることができるのである。

 これにより、電子機器の占める割合は激減し、軽量かつ小型、更に高性能なMSが実現さ

れた。