Cyber Formula Technology

E サイバーマシンインプレッション
〜アスラーダGSX〜


●アスラーダ誕生

 アスラーダGSXは、スゴウアスラーダチームが、CFグランプリの国内予選突破のために用意した切り札であった。
 設計は、風見広之氏。後にトップドライバーとなる風見ハヤトの実の父親である。
 広之氏は、菅生あすかの父、菅生幸二郎と、ハヤトの親代わりと言える車田鉄一郎の三人で、 学生時代からレース活動を行っており、その頃からマシン設計を手がけていたマシンデザイナーであった。
 詳しい経歴は不明だが、アスラーダ完成の数年前にイギリスに渡り、ミッシングリンクのマシン開発チームに在籍していた。
 そこで、アスラーダGSXのプロトタイプと言われる通称ブラックアスラーダを開発。そして、念願だったアスラーダを完成させた。
 しかし、GSXのボディは広之氏が真に望んだものではなく、後にスーパーアスラーダとなるシャシを独自に制作していた。
 広之氏は非常に優秀なマシンデザイナーであったが、謎の事故死を遂げている。 この裏にはミッシングリンクの裏事業が取り沙汰されたが、真相は明らかになっていない。


●アスラーダGSXというマシン

 GSXの最大の特徴は、サイバーシステム「アスラーダ」であるが、これは別項で述べているので、 ここではマシンそのものを見てみることにする。
 端的に言えば、特徴がないのが特徴である。ストレート、コーナーリングともにバランス良く、 オフロードもオプション無しでもそこそこ走ることができる。  ただし、エンジン性能は高かったようで、トップクラスの最高速度を誇ったアオイ・スペリオンに拮抗するスピードを記録した。
 平凡といえば平凡なのだが、これは標準状態での話。実はGSXには多彩なオプション装備が用意されていた。
 正式にレースで使用されたのは、補助ライトやガード類を装備したオフロード仕様、空力重視のエアロ仕様にノーマル状態をあわせたの3種類だけだが、 この他にマリンブースターとフロートを装備したマリン仕様、さらに用途不明だが最初にチームに輸送される際のミサイルアンカーと フラッシュロケットを装備したサバイバル仕様と言えるタイプなど、確認されているだけでも5種類のタイプがある。 非公認レースのファイヤーボール参加時のタイプも、セミエアロ仕様と言える。
 オプションパーツの換装という作業は要するものの、GSXはあらゆる環境に適応することができる汎用性の高い 非常に優れたマシンなのである。ここにも開発者である風見広之氏のマシンデザイナーとしての有能さが垣間見える。
 この後のスーパーアスラーダは、ノーマル、エアロ、オフロードの3タイプに可変するが、GSXの換装システムでデータ取りをしたことは明白である。
 残念ながら、GSXが参戦していた第10回大会以後、オンロードレースに限定されてしまったため、 このような換装システムは無用のものになってしまったが、GSXは自動車の可能性をまざまざと見せてくれた貴重なマシンとして、 歴史に名を残すであろう。


●アスラーダGSXのブーストシステム

 サイバーフォーミュラ特有のブーストシステムについては、別項で詳しく述べたが、 再度、GSXのブーストシステムについて解説しておこう。
 GSXのブーストシステムは、ポップアップ式である。 通常はルーフと同じ高さに収容されているエンジン上部にあるブーストポッドを、 ルーフより高い位置に上げて空気を取り入れる構造である。
 意外と勘違いされていることが多いが、この時、持ちあがっているのは、あくまでもブーストポッドのみであり、 エンジン本体は上がっていない。エンジンも上がってしまうと、重心が高くなって安定性に問題が出てしまうし、 動力伝達系が複雑になってしまう。
 話を戻すが、GSXがブーストシステムを使用すると、エンジンのリミッターが外れ臨界点まで回るようになり、 エンジン出力が通常の1.7倍にまで引き上げられる。
 これによって、急加速と超スピードを得られるわけだが、使用可能時間は、エンジンが臨界点に達するまでの27秒間だけである。 臨界点を突破したまま使用を続けると、エンジンブロー。つまり、エンジンが壊れてしまう。
 エンジンが壊れるというのは、いくつか形態があるが、クランクシャフトやコンロッドが折れるなどの部品そのものの 破損によるものが多い。大き過ぎる燃焼や、摩擦熱によって溶けるということもある。
 これを防ぐため、GSXの時にはアスラーダが強制的にブーストをカットすることができたが、スーパーアスラーダ以降、 その判断はドライバーに一任されるようになったようだ。理由は不明だが、安全面から考えると、サイバーシステムに任せた方がいいように思われる。


●ラリーアスラーダ

 さて、GSXが多種多様なオプション装備で高い汎用性を持っていることは、ご理解いただけたと思うが、 ここからは個々のオプションを装備した各仕様のGSXについて述べていくことにする。
 最初はラリー仕様である。
 この通称ラリーアスラーダと呼ばれるタイプは、第10回大会第2戦で使用されたものである。
 カウルは全て交換されて、色はイエローとなり、ノーマルとGSXとは違った印象を受ける。 外見上、GSXであるとわかるのは大まかなシルエットと、ヘッドライト、リアコンビランプ部くらいである。
 ラリー仕様ということもあり、走破性に重点がおかれたセッティングとなっている。
 車高を上げて、ロードクリアランスを確保。フロント部分もそれに合わせてマシン下部に巻き込むような形になっている。 これはアンダーガードも兼ねているものと思われる。(サーキットコース用のフロント部分は、マシン下部に空気が 流入しないように前に突き出ている)
 夜間走行もあったため、ライト類の増設も施されている。通常のヘッドライトに加え、フロントノーズ部分に小型円形ライトを4つ、 ルーフ部分に円形の小型ライトを2つ、大型ライトを2つ、リアウィング部分に四角形のワイド型ライトを2つ、計10個追加されている。
 リアウイングは、ダウンフォースの確保にも重要だが、ラリーアスラーダの場合、ここにワイド型ライトを配置することで、 遠方を広く照らすようにしているようだ。
 ルーフ部分にもウイングのようなものが見うけられるが、これもダウンフォースを得ることより、 前方を照らすことと通信機能の強化が目的のようだ。
 また、特殊装備として、フロントアンダーガード部分にミサイルアンカーが左右1個づつ装備されている。 これは、ぬかるみにはまったり、スタック(タイヤが浮いて動けなくなる)するなどで動けなくなった時に発射して、 その状態を脱するためのものである。実際、第2戦では崖を滑り落ちたものの、これを利用して再びコースに復帰している。
 結果、ラリーアスラーダを駆る風見ハヤトは、第3位という輝かしい成績を残した。
 この背景には、オプション換装で完全なラリー仕様にすることができるGSXの汎用性もあるが、 アスラーダの優れたナビゲーション能力も一役かっていたようである。
 エンジンはバージョン2で、トルク重視のセッティングになっている。


●エアロアスラーダ

 次は高速コース仕様、通称エアロアスラーダと呼ばれるタイプである。
 これは第10回大会第3戦で使用されたもので、ラリー仕様と同様にカウルは全て交換されて、色はシルバーとなり、 外見上、GSXであるとわかるのは、ヘッドライトとリアコンビランプ部くらいである。
 高速仕様であるこのタイプは、空気抵抗の低減を第一にセッティングされている。
 車高を下げて、ロードクリアランスを極限まで減少。フロント部分は、マシン下部に空気が流入しないように前に大きく突き出て、 全体的にクサビ形状(フロントを細く、リアを厚く)となるようにデザインされている。
 空気抵抗を徹底的に低減させるため、ボディ各部の凹凸は極力平滑化されている。そのため、ホイールにもカバーが施され、 エンジン上部のインダクションポッドも細長い形状に変更されている。  また、通常よりも高速での使用を前提とされているため、駆動輪のブレーキでは十分な減速が得られないことから、 エアブレーキが追加されている。これは、平滑化されているボディの一部を展開することで、空気抵抗を故意に生み出し、 それによって減速するものである。
 エンジンはバージョン3で、パワー重視のセッティングになっている。
 第3戦は公道サーキットで、ビルの合間の高速道路を走りぬけるというコースであった。 そのため、ビル風によってマシンが不安定になることも多々あったが、 この時もアスラーダの優れたマシン制御能力が重要な役割を果たしたようだ。


●マリンアスラーダ

 次は水上仕様、通称マリンアスラーダと呼ばれるタイプである。
 これはレースでは使用されていない。というか、いかにサイバーフォーミュラだとしても、 水上でのレースは企画されていなかった。おそらく、開発者が一つの可能性として実験的に製作したオプションであろう。
 使用されたのは、船上で負傷したチームメイトを搬送した時である。ヘリも飛べない荒波の中、見事に航行し、チームメイトの命を救った。
 構成されるパーツは、フロート、マリンブースター、サテライトユニット、ミサイルアンカーで、マシンそのものはノーマルのGSXである。
 マリンブースターは、エンジンで発電し、モーターで駆動しているものと思われる。
 陸上での性能とは比較にならないほど、走行性能は低下しているが、あくまでもサイバーマシンはクルマである。 それを考慮すれば、ほんの少しの装備変更で水上を走行したことは驚愕に値するものである。
 GSXの汎用性の高さを最も現しているオプションと言っても過言ではないだろう。