Cyber Formula Technology

D 可変システム
〜変わるボディ〜


●必然だった可変システム

 第10回大会までのサイバーフォーミュラのコース形態は、実に多岐にわたっていた。
 サーキットコース、オフロードを走るラリー、サイバーフォーミュラならではの室内サーキットコース。 また、通常のサーキットコースでも、高速型、低速型などあり、 場所によってはサーキット内にラリーコースが混在することもあった。
 サイバーマシンの中には、そういった多種多様な環境に対応すべく、ボディ形状を変化させることができるマシンもあった。
 ボディを変化させることで、どのような長所短所があるのだろうか。ここでは、可変システムについて考察してみよう。


●高速ステージに適したボディ

 高速サーキット、つまり直線や大きなコーナーで構成され、スピードをあまり落とさなくても走行可能なコースのことである。
 そのため、「どれだけスピードを上げることができるか」がポイントになる。
 より高いスピードを得るには、単純にエンジンパワーを上げれば良いというものではない。 スピードを上げれば上げるほど、クルマというものは不安定になっていく。
 高速安定性を高めるには、直進性を高めるか、タイヤのグリップ力を高めるかの二通りある。

  1.  直進性の向上
  2.  直進性を高めるには、マシンのホイールベース(前輪と後輪の車軸の距離)を長くしたり、 飛行機のように垂直ウィングをつけるなどという方法がある。
     特に、ホイールベースの拡大は、大きな影響を与える。
     ドラッグレースというのをご存知だろうか? 直線のみを走行してタイムを競うレースだが、 これを走るマシンは、異常なまでに細長い。これも直進性を高めるためであるが、コーナーリングはできない。
     そう、ホイールベースを長くすれば、直進安定性は高まるが、コーナーリング性能が低下するのだ。
     サイバーマシンでも、走行中にホイールベースの伸縮できるマシンが存在する。 この場合、通常はコーナーリング性能を犠牲にすることの無い幅で走行し、 必要な時のみホイールベースを延長して直進安定性を高めることができるのだ。

  3.  グリップ力の向上
  4.  もう一つ、タイヤのグリップ力を高める方法だが、タイヤの性能にも限界があるし、 走行しながらタイヤを交換するわけにはいかない。
     ではどうするのかというと、マシンを下に押し付ける力、逆揚力(ダウンフォース)を高めるのである。
     これは容易である。ウィングを立てて空気が当たるようにすれば良い。
     しかし、それでは空気抵抗(ドラッグ)が増えて、スピードは抑えられてしまう。 ドラッグを増やさないでダウンフォースを稼がなければならないのだ。
     これが空気力学の難しいところであり、一長一短に理解できるものではないので、ごく単純に解決策を説明する。
     端的に言えば、ボディをくさび型にすれば良いのである。要するに、横から見て、ボディ先端を細く、後端を広くした三角形である。 こうすることで、前方から来た空気はボディに当たり、ダウンフォースを発生させながら、キレイに後ろへと流れて行く。
     だが、キレイなくさび型になどできるわけがないので、高速指向のクルマは表面を極力滑らかにし、 ウイングなどで空気をコントロールしているのだ。
     サイバーマシンではどうか。
     サイバーマシンの場合、ボディを変化させることで凹凸部分を収納し、空気抵抗を減らす方法をとっている。
     ボディを変化させなくても、はじめから凹凸を無くせば良いではないかという考えもあろうが、それが不向きな場合もあるのだ。
     低速サーキットの場合、ウィングを立ててドラッグを増やしてもダウンフォースを稼ぐときもあるし、 表面を滑らかにするとエンジン冷却が不充分になることもあるからだ。
     エアロダイナミクスとは、一方から見るだけでは決して成功しない、奥の深いものなのである。


●低速ステージに適したボディ

 低速サーキット、つまり多くの細かなコーナーで構成され、直線が短く、 あまりスピードを上げることができないコースのことである。
 そのため、「どれだけスピードを下げずに走れるか」がポイントになる。
 スピードをできるだけ下げずにコーナーリングするには、コーナ−リング性能を高めるか、 タイヤのグリップ力を高めるかの二通りある。

  1.  コーナーリング性能の向上
  2.  コーナーリング性能を高めるには、マシンのホイールベースを短くしたり、 重量配分を改善するなどという方法がある。
     高速ステージの項でも述べた通り、ホイールベースを長くすれば、直進安定性は高まるが、 コーナーリング性能が低下する。
     逆に言えば、ホイールベースを短くすれば、コーナーリング性能は高まるのだ。
     しかし、そうは簡単に行かない。
     そうすると確かに曲がり易くはなるが、曲がり過ぎてしまうということもある。 そうなると、非常に扱いにくいマシンとなり、最悪、スピンである。
     ホイールベースを短くするということは、マシンの安定性を欠くことでもあるのだ。
     ただホイールベースを縮小すると直線でもコーナーでも不安定になってしまうが、 同時にトレッドを拡大すると少し変わってくる。
     トレッドとは、マシンを正面から見た時の、左右のタイヤの距離のことである。
     これを拡大すると、コーナーリング時に踏ん張るような形になり、コーナーリング安定性は増す。
     サイバーマシンでも、フロントのトレッドのみだが、伸縮できるマシンがあった。
     ただし、トレッドを拡大しすぎても、速く走ることはできないと断っておく。

  3.  グリップ力の向上
  4.  もう一つ、タイヤのグリップ力を高める方法。
     これは、高速ステージで解説した通り、マシンを下に押し付ける力、ダウンフォースを高めるのだ。
     低速ステージでは、最高速度はあまり重要ではないので、ドラッグが増えても、 ウィングを立てて空気が当たるようにすれば良い。
     サイバーマシンの場合、多くのマシンは走行したままウィングの角度を調整できる。
     抵抗が大き過ぎる時は、ウィングを寝かせ、抵抗を減らすことができる。 ただ、高速ステージほど抵抗を無くす必要は無いので、大きくボディを変化させることは無い。


●オフロードステージに適したボディ

 第10回大会までは、ラリーコースが設定されていた。当然、悪路、オフロードである。
 だからと言って、マシンのシャシ(車体)を変更することはできないので、各車、 大きな変更無しにオフロードを走行できる機能を、予め搭載していた。
 その一つが、車高の調整機能だ。
 オフロードで重要なのは、走破性能である。凹凸の多い路面を走行するには、 マシンと路面の間に余裕が無ければならないのだ。そこで、油圧でマシンの車高を上げ、 ロードクリアランスを高めるようになっていた。
 この車高調整機能は、オフロードステージが無くなっても、全車に搭載されている。 舗装路のコースでも、車高の調整は必要であるし、コースアウトした時のグラベルからの脱出にも便利だからだ。
 話を元に戻す。ただし、マシンの車高を上げただけでは、オフロードを走るには不充分である。 レギュレーションでも、オプション装備を追加、換装することは見とめられている。
 基本的にはタイヤをオフロード用にし、補助ライトをつけるというもの。場合によっては、マシン下面に保護版を付けることもある。
 中には、オプションの変更無しに、可変システムにオフロードモードを組み込んだマシンもあった。
 


●可変システムのデメリット

 可変システムは、マシンを状況により適した状態にすることができる。これが最大のメリットである。
 しかし、弱点も多く存在する。

 一つは、言うまでも無いかもしれないが、重量である。
 可変システムを搭載していないマシンに比べれば重いというのは当然のことである。 特に第11回大会においては、オフロードステージが無くなったにもかかわらず、 スーパーアスラーダはオフロードモードを搭載したままだった。
 現に、これを駆る風見ハヤトは成績が伸び悩んでいた。当時は、風見自身の精神的なものが要因と言われたが、 このマシンの重量ハンデも無視できるものではない。当然のごとく、その後モデルチェンジを受けたスーパーアスラーダ11は、 オフロードモードを廃していた。

   もう一つは、構造上の問題。
 可変システムを搭載していれば、当然、内部構造は複雑化する。メンテナンス性は悪化するし、故障発生率も上がるだろう。
 第10回大会第5戦において、スーパーアスラーダが変形不能に陥るというアクシデントに見舞われた。
 原因は、突然降り出した雹が、可変システムを稼動させる油圧システム部に当たったというだけのことだった。 それほど大きくはない雹だったが、高速で走るマシンと落ちてくる雹の相対速度は想像以上に高く、拳銃で打ち出した弾丸のように 油圧システムのパイプ部分に亀裂を生じさせたのだ。これにより、オイル漏れが発生し、油圧が低下、 変形できなくなってしまったというわけだ。
 まさに予期せぬアクシデント。確率的にはかなり希なことだが、複雑化したシステムの思わぬ弱点を露呈した出来事だった。

 上記の二つの弱点が影響しているかはわからないが、最近は可変システムを持たないマシンが大勢を占めている。
 元々、可変システムを持つマシンは少なかったが、オフロードステージも無くなり、衰退をはじめている。
 一部の最先端マシンには、レアメタルを使用した可変システムも出始めているが、コスト的な面を見ても、 これ以上の発展は見込めないのではないだろうか。