Cyber Formula Technology
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●多輪型サイバーマシン一般的に「自動車」と言えば、誰もが“タイヤは4つ”と思うだろう。もちろん、大型の車両では4輪以上の場合もあるが、常識的には4輪である。 それはレーシングマシンでも同じことであるが、サイバーマシンの中には4輪以上のマシンが多く存在する。 おそらく、サイバーフォ−ミュラ初の多輪型は、第10回大会のアオイ・スペリオンGTの6輪型であろう。同大会の後半にはスペリオンGTに代わってファイヤースペリオン、スゴウからスーパーアスラーダが参戦した。 当初は、6輪型を採用していたのはアオイとスゴウの2チーム、2車種のみであったが、第13回大会において突如増加し、4チーム5車種になった。(内一台は5輪型である) これは、確固たる有効性が確認されたことを示すものであろう。 多輪型の有効性とは何なのか?デメリットは無いのか?そもそも、多輪型が誕生したのは理由は何なのか? ここでは、それら4輪以上のタイヤを装備する多輪型マシン、中でも6輪のマシンの、考察している。 |
●6輪マシンの誕生と衰勢多輪型レーシングマシンは、古くは1948年のクランシースペシャルなどあるが、1975年のタイレルP34の方が有名であろう。フロントタイヤを、小型タイヤ4輪にして、計6輪としたマシンである。 6輪化したマシンの狙いは、空気抵抗の低減であった。タイヤは大きな空気抵抗となる。特に、タイヤが剥き出しのフォーミュラマシンでは、この抵抗は無視できるものではなかった。 そこで、もっとも空気抵抗となるフロントタイヤを小さくし、フロントノーズに隠れるようにすることで、空気抵抗を低減しようとしたのである。 しかし、タイヤが小さくなってはグリップ力が低下してしまうので、左右にタイヤを一個づつ増やし、4輪とすることでそれを補ったのである。 これが6輪型レーシングマシン誕生の大筋の経緯である。 リアタイヤを4輪化したマシンもあったが、理由は同じものである。 期待通りとは行かないまでも、狙った効果は得られ、P34においては実戦で優勝を果たすという好成績をおさめたが、6輪化によって得られるメリットよりもデメリットの方が多く、またタイヤ性能の向上や空力技術の進歩によって、現在は4輪マシンしか存在していない。 |
●6輪マシンのメリットとデメリットでは、メリットとデメリットとは何か。まず、6輪型マシンを消滅させたデメリットから。大きく二つあるが、その一つは重量問題。 いかに小型のタイヤといえども、少なくとも2つ増やすわけだから、4輪に比べて重量は増す。タイヤだけではない。車軸も一本増える。フロントを4輪化した場合は、ステアリング機構も一つ分増える。スピードを求めるフォーミュラマシンにとって、重量増は明らかに大きなマイナスである。 もう一つは、全長が長くなってしまうこと。全長が長くなれば、Z軸モーメントが悪化し、コーナーリング性能が低下する。逆に言えば、直進性は高くなるのだが、サーキットは直線だけではない。 デメリットは以上の二つに、ほぼ集約される。 次にメリット。これは前述のように、タイヤを小型化できることで空気抵抗が減少すること。そして、グリップ力を稼げることである。 結果的に、そのメリットは上記のデメリットに打ち消され、消滅の道を進んだのである。 ところで、先に少しふれたが、6輪型には二つのタイプがある。フロントを四輪化したタイプと、リアを四輪化したタイプである。 一般的に、フロント四輪型はコーナーリング重視、リア四輪型はストレートスピード重視という性格になる。この理由は、容易に理解していただけると思う。 |
●サイバーマシンに採用された多輪型デメリットの方が大きかったために消滅したはずの多輪型マシン。だが、サイバーマシンでは第13回大会以降、 上位チームがこぞって採用している。サイバーマシンにおける、多輪化の目的はなんなのか?ボディ形状に大きな制約の無いサイバーフォーミュラでは、必ずしもオープンホイールでなくても良い。 つまり、タイヤをボディで隠すことができるので、フォーミュラマシンほど大きな空気抵抗にはならないのである。 さらに、車種によっては可変ボディによって空力特性を向上させることもできる。タイヤを小型化して空気抵抗を低減させる必要は無いのだ。 空気抵抗低減以外のメリット。そう、それは前述の通り、より高いグリップ力を得られることである。 サイバーマシンは、既存のモータースポーツを超えるスーパーモータースポーツである。 最高出力は1000馬力を超え、スピードは600km/hを越える。このスーパーマシンを操るためには、 ドライバーの技術やサイバーシステムの性能なども大きな要素ではあるが、 そのパワーを路面に伝えるタイヤも重要な役割を果たす。 第13回大会以降、2000馬力を超えるマシンが出現した事も、マシンの多輪化を促進したと言えるだろう。 その強大なエンジンパワーを受け止めるには、もはや4輪では不可能であったのだ。 |
●全輪駆動のメリットさて、多輪型と共にサイバーマシンの走行を支える機構がもう一つある。全輪駆動(AWD)である。普通はAWDと言っても4WDしかないのだが、サイバーマシンは5輪や6輪の場合もあるので、AWD動と呼称する。 元々、AWDは、戦場で生まれたものである。劣悪な路面、いや路面とも言えない道無き道を進むには、 クルマを押すと同じに引っ張る状態になる4WDが有効であることは明白だ。それは舗装路でも同じである。 しかし、舗装路を走るサーキットレースにおいては、必ずしも4WDが有効であるとは限らない。 事実、F1を始めとするフォーミュラマシンに4WDは無い。これは、空力によって路面にマシンを押し付けていること、 サーキットの路面が高いグリップ力を得られる舗装であること、タイヤ自体にもかなり高いグリップ力を持たされていること、 さらに4WDは重量がかさむなどの理由で採用されていないのだ。 つまり、4WDでなくとも、やり方次第で路面に動力を十分伝えることができるのだ。 そうでありながら、サイバーマシンは、どんなボディ形状であっても、全車種AWDである。これには、 第10回大会までラリーステージが設けられていたというのもあるだろうが、やはり多輪型と同じように、 強大なエンジンパワーに関係がある。 マシンを前進させる力、駆動力を最大限に発揮させるためには、タイヤのグリップ力の限度内におさめる必要がある。 タイヤにそのグリップ力以上の駆動力を与えても、ホイルスピンして前進しないばかりか、姿勢を崩すことにもなる。 理論上、まったく同じパワーであれば、4WDのタイヤ1個当たりのパワー配分は、2WDの半分になる。 タイヤ一個当たりのパワー配分が小さくなれば、それだけ効率良く路面に駆動力を伝えることができる、 人間で言えば、二人よりも四人の方が早く仕事を終わらせることができるのと同じことである。 そもそも、1000馬力を超えるパワーを2輪だけで伝えるというのも、不可能だろうという気はするが。 6WDが増えたのも当然の成り行きだったのである。 |
●スゴウの6WDスゴウのサイバーマシンは、スーパーアスラーダ以降、ガーランドも含め、 一貫してフロント4輪、リア2輪の6WDを採用してきている。このタイプの6輪車は、ステアリングを回すとフロントの4輪がきれるので、コーナーリング性能が高い。 一般に、フロントを4輪にすると、フロントタイヤの径がリアに比べて小さくなる。これは既に述べた通り、 空気抵抗を低減する役割も果たす。 しかし、フロントとリアでタイヤ径が異なると、回転差が生じてしまう。もちろん 、トルクスプリットシステムによって制御しているのだが、このタイプの6WDでは、リアよりもフロントにより多くのパワーを供給しているものと思われる。 あるいは、直進時でタイヤのグリップに余裕がある場合には、リアに80%近くの駆動力を傾けている可能性もある。エンジンパワーを考えると、 100%リア駆動というパターンはあり得ないだろう。 ユニオンセイバーの「イシュザーク(00X以降)」も、このタイプの6WDである。 イシュザークがこのタイプの6WDを採用したのは、第13回大会時にスゴウと技術交換が行われ、 スゴウにはユニオンのV12エンジンの技術が渡され、ユニオンにはスゴウの6WDアクティブシステムの技術が渡されたためである。 |
●アオイの6WDアオイのサイバーマシンは、スペリオンGT以降、エクスペリオンまでは、フロント2輪、リア4輪の6WDを採用していた。このタイプの6輪車は、直進状態で固定されているリアタイヤが4輪なので、ストレート性能、高速安定性が高い。 また、フロントタイヤを極端に小径化しなくても良いので、エンジンパワーを6輪にほぼ均等に分配することがでる。 その結果、安定性が非常に高い。 さて、アオイは、第14回大会においてアルザードを投入したが、このマシンは8輪であった。当然、全輪駆動、8WDである。 この場合、フロントもリアも4輪づつタイヤがあるため、4WDと近い特性になる。 8WDのメリットとしては、タイヤがさらに2輪増えるため、駆動力をより効率的に路面に伝達できることだろう。 ただし、同時に全てのタイヤが小径化されてしまうため、加速性能は向上するが、高速性能が低下する可能性がある。 一般に、タイヤ径が小さくなるほどトルク重視となり、高速の伸びが悪くなるのだ。 荷物を運ぶクルマで小径のタイヤを採用していることがあるのは、そういう理由でトルクを稼ぐためである。 ちなみに、サイバーフォーミュラのレギュレーションでは、タイヤは4輪以上8輪以下とされている。 |
●シュトロゼックの5WDシュトロゼックのサイバーマシンは、発足当初のシュティールHG-161においては4WDであったが、 その後のシュティールHG-163において、その特異な形状から、フロント1輪、左右2輪、 リア2輪の5WDという特殊な駆動方式となっている。車体そのものを傾斜させてコーナーリングするというバイク的な乗り方をする「スイングボディ」を採用したためで、 左右のタイヤはバイクの様に細いボディを支える補助輪と考えて良い。
このタイプは、何しろ前例がないため、コーナーリング性能がどうこうと一般論で語れるものではない。
しかも、この車体形状で5WDというのは、電気エネルギーを使用し、さらにインホイールモーターを採用しているこのマシンでしか成立しないことである。 |