〜とある劇の話〜 観客の世界

ここは緑の街 キュアシス。その街に、2人の小さな旅人が来た。
「平和な街だねー」
丸っこい奇妙な帽子を被った5歳ぐらいの少年が、嬉しげに言った。
「そうだねー。何事も平和が一番だもんねー」
四角い奇天烈な帽子を被った5歳ぐらいの少女が、楽しげに言った。
「でも・・・」
少年が、口篭もる。
「平和過ぎたら、つまんないよね」
言い終わった後に、少年は意地悪な笑みを浮かべた。
「そうだねー。何か刺激がないとねー」
少女も、意地悪な笑みを浮かべた。

其の時は誰も、こんな事になるとは思いもしなかっただろう。
其の時は誰も、そんな事になるとは想像出来なかっただろう。
其の時は誰も、あんな事になるとは考えもしなかっただろう。
其の時は誰も、どんな事になるとは予測出来なかっただろう。

2人の小さな旅人が来てから、早10年。1人の騎士がこの街にやって来た。
「なんという事だ!」
騎士は声を張り上げた。
「あの美しい緑の街が!私の故郷が!」
騎士は喉が千切れんばかりに叫んだ。
そして、泣いた。
その涙は、昔の面影すら無くなってしまったこの場所のためか、故郷を失った自身のためか、それとも・・・

其の後の事は、誰も知らない。
其の後の事は、誰も知れない。
其の後の事は、誰も聞かない。
其の後の事は、誰も聞けない。

1人の騎士がここに来る前、3人の傭兵がここに来た。
「すっげーなココ」
肩当てのベルトを正しながら、いかにも剣士な男が驚嘆の声を上げた。
「本当ね」
魔術師のような黒いローブを着た女が、眉間に皺を寄せて言った。
「死臭と燃えた後の匂いが凄いわ」
「一体何が、何があったのでしょう」
神父の格好をした男が、右手で首からぶら下げている十字架を握りながら言った。
三人の目の前には、灰を被ったベタベタな地面と、風で飛びあがっているスス。
ローブの女が言った様に、死臭といろんな物が燃えた後の匂いで充満していた。
「ココには、誰も来ないだろうな」
「余程の事情がある者と、私達の様に迷い込んできたような人しか来ないでしょうね」
「もう行きましょう。吐きそうです・・・」
神父の男が、口に手を当てる。その様子を見て、剣士の男とローブの女は慌ててこの場所から離れた。

あの時は誰も、緑の街が灰色の廃墟と化すとは知らなかっただろう。
あの後の事は、誰も伝えようとはしないから忘れ去られてしまった。

そこで幕が引かれていった。

「この劇についてどう思いましたか?」
金髪で今流行の服を着た青年が、会場から出た途端に、アンケートにあった。
「・・・俺、用事立て込んでるんですけど」
「簡単で良いから!」
アンケートの人は、逃がすまい!と青年の服を掴んでいる。
「・・・えっと、何が伝えたいのか良くわかりませんでした。」
観念した様子で、青年は感想を言う。アンケートの人は、必死にメモに書きこんでいる。
「でも、何か意味深・・な感じがしたような気がします。」
「・・・そうか。他に有る?」
「いえ、ないです」
青年は即答した。
「そんじゃ、ありがとね」
アンケートの人はそう御礼を言った後、直ぐに他の出てきた観客へと向かって行った。
「ホント簡単で良かったんだな」
青年は少し呆然としながら言った。そして、呟いた。
「意味深・・か」
青年は、コンクリートの地面を蹴って、歩き出す。
その時、風が吹いた。ススの混じった風が。
〜END〜


後書き
HPに載せるか載せまいか悩んだ作品です。
ちなみに、〜とある劇の話〜は読み切りタイプでまだ書く予定です。

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