白色LED (WLED)ドライバの試作
単3電池1本で点灯できる懐中電灯と、調光機能付きの6-WLED懐中電灯を試作。

製作・著作: (有)テクノアート
 (初版:2008年4月6日)


1.市販LEDライトの

市場には100円から数千円の物まで、LEDライトがあふれています。100円ショップの製品以外でも、電池の内部抵抗に頼り、LEDの最大定格を無視した製品も多数見受けられます。2008年3月現在で販売されている製品の一部を集めてみました。面白いことに、ネットサーフィンをしてみると、「LEDライトフェチ」の方々がいらっしゃるようです。
筆者が11個以上のLEDライトを集めた理由は、1.技術的興味、2.製品価格が安いため完成品のLEDを利用した方がLEDを個別に買うよりも安い、3.できれば自作の回路で改造したいと言うことからでした。


写真1. 市販LEDライトの例

上の製品の中でDC-DCコンバータを使用して電気的・メカ的に専門設計したLEDライトは7番のみでした。この製品は潟Tンジェルマンが販売しているものですが、家電量販店での販売価格は1580円でした。電池電圧が0.8Vの時、この電池が93mAの電流を流せる場合には、0.8Vでも明るく点灯します。0.8V〜1.5Vの平均効率は75%となかなか優秀で、最大効率(83%)は1.1V近辺にあります。
4番はソーラバッテリ付きの懐中電灯ですが、簡単に分解できない構造になっています。6番は手回し発電機が付いた充電式のランタンです。

2.単3電池1本で20mAクラスのWLEDを点灯

EDN Japan(2007年5月号)に『昇圧回路を利用して電池1個で白色LEDを駆動』という記事がありました。このDC-DCコンバータ回路は非常に使用部品点数が少なく、トランジスタをうまく選べば、DC-DC変換効率は70%近く得ることができることを確認しました。
デザインアイデアに掲載された基本回路図と、実際の回路を図1と図2に示します。
 

図1. EDN Japanの記事の回路 図2. 筆者が改造した回路

図1のトランジスタQ1とQ2は、基本的には同じものを使用しますが、図2のようにQ1を普通のシリコンダイオードD1に置き換えても差し支えありません。Q1(またはD1)を挿入することによって、Q2の直流ベース電圧をVbeにクランプしますので、通常のブロッキング発振回路によるDC-DCコンバータよりも効率が大きく改善され、また温度特性が安定化されます。
図2では、本来は部品点数を増やしたくないのですが、Q1とLEDの間に整流用のショットキダイオードD2と平滑コンデンサC1を挿入しています。理由は、Q1のコレクタ電圧には大きなリンギングが生じており、LEDの平均電流を20mAにすると、LEDの最大定格を超えてしまうからです。
 

図3. TDKのコイルをパルストランスに改造する

写真2. 実際に作成したパルストランス

 
トランスは、AWG30(線径:0.2546mm)又はAWG29(線径:0.2859mm)のエナメル線を20cmほど使用し、TDKの100μHのアキシャル型コイル SP0406-101Jに、図3のように巻きつけて瞬間接着剤などで巻線をコイルに固定します。写真2が完成品です。
TDKコイルのカラーマーキングのインダクタンスの許容誤差を示す金色のカラーコード側を巻き始めとして、同じく最上桁を表示する茶色のカラーコード側からエナメル線を巻き始めます。
ナイフなどで一部のエナメルをはがしておいて半田を盛ることで、エナメル線を半田付けするための端末処理を簡単に行えます。

ちなみに、WLED電流は、図2のR1(820Ω)では電池電圧が1.5Vのときに20mAになりません。これは、パナソニックのオキシライド電池のように、初期電圧が1.7Vと高い電池を使用した場合、R1が680Ωだと、WLEDの最大定格の25mAを超えてしまいます。R1を680Ωにして電池が1.5Vのときに最大輝度(20mA)になるようにした場合、次の図4の赤い点線内の回路のような電流制限回路を追加しておくほうが安全と言えます。
この回路では、PCB回路全体を単3電池のサイズに近づけるため、表面実装トランジスタを使用しています。実際に、手持ちがあっったために使用したQ2の2SD1624は廃品種指定になってしまっていますので、2SC5566と置き換えるか、最大変換効率を求めない場合には、2SC3325などを使用します。
また、WLEDを2個直列接続しても動作しますので(1個よりも変換効率が良くなります。)、R4を調整して20mAに設定します。


図4. LED電流制限と出力電圧制限を追加した回路

なお、絶対にLEDを接続しないまま電源を入れないようにする注意が必要です。そうしないと、C1にWLEDの絶対最大電圧を大きく上回る電圧が蓄積され、これを知らずにWLEDを接続すると、LEDが直ちに破壊されてしまいます。これを避けるために、WLEDを1個接続する場合には、D3のようなツェナーダイオードを、作業中だけでも入れておくとをお奨めします。C1の耐圧は、LEDを接続しないで回路電源を入れた場合に対処しています。

3.単3電池1本で20mAクラスのWLEDを3個点灯する高効率回路

上述の回路では、TDKのコイルを追加工してパルストランスにしていましたが、正式なパルストランスを使用すると、高効率で3個のWLED(20mA)を点灯させることができます。実際に試作したPCBを写真3と4に示します。
 

写真3. WLED3個用のランプ(パターン側) 写真4. 部品面

パルストランスには、スミダ電機のCLS4D28コア(4.8 x 5.0 x 3 mm3)を使用しました。図3の保護回路は使用していません。LEDは、潟Zリア(100円ショップ)で入手できるIII LEDライト(写真1の11番)のLEDを直列接続に改造して仮に接続しています。最終的にはこのLEDライトに組み込む予定です。
また、このDC-DCコンバータの入力電圧に対する効率と発振周波数の測定値を図5に示します


図5. パルストランスの試作品を使用した回路の性能

4.マキシム社のMAX8901A/Bを使用した調光機能付きLEDライト回路

マキシム社のMAX8901A/MAX8901Bステップアップコンバータは、2〜6個の直列接続されたWLEDを定電流で駆動し、携帯電話、PDAおよびその他の携帯機器のLCDバックライト用に均一なWLED輝度を提供するためのICです。電源電圧は2.6V〜5.5Vで、32ステップの直接PWM調光(MAX8901A)および1線式シリアル調光(MAX8901B)ができます。2mm x 2mmの非常に小さなパッケージ品です。
同じような機能を持ったICには、たとえばインターシル社のEL7630やリニアテクノロジ社のLT1932があります。LT1932の場合、WLEDの個数を減らせば1Vから動作します。
MAX8901A/Bの場合は、2.6Vの低電圧ロックアウト機能が付いていますので、どちらかというと、リチウム電池と一緒に使用すべきです。たとえば、1.2VのNi-MH電池3本を直列にして使用した場合、2.6Vがロックアウト電圧ですから、このときの電池単体の電圧が0.86Vになってしまい、1.0Vの放電終止電圧を超えた過放電により、電池寿命を劣化してしまう可能性があります。

もともとは、このICを使用した製作記事を用意する予定でしたが、パッケージが小さすぎて一般的ではない(1. IC端子用のパターンが微細になり、PCBのエッチングが重要になる。2. IC放熱用のエクスポーズドパッドを半田付けしなくてはならないため、クリーム半田が必要になる。)と判断したため、ここには概略紹介としました。
LEDライトに細かい調光機能が必要かどうかと言うことについては、「バッテリの節約のためにあってもよいでしょ」ということにしました。

マキシムジャパンからMAX8901A/Bの無料サンプルを入手して試作した調光機能ライト4機種は写真5/6のようなものです。
 
写真5. 試作品(部品面) 写真6. 試作品(パターン面)

  @はワンショットマルチバイブレータによる調光回路を使用したMAX8901Bのモデル、Aはアステーブルマルチバイブレータによる調光回路を使用したMAX8901Bのモデル、BはPWM回路による調光回路を使用したMAX8901Aのモデル、CはPWM回路による調光回路を使用し、WLED6個と赤LED3個を切り替えるようにしたたMAX8901Aのモデルです。@とAもCと同じ切り替え機能が付いています。
LED基板は新規に設計・制作し、@とAの反射板は、写真1のAのものを使用しました。いずれのモデルも2.6V〜5.5Vで動作します。
入力電圧2.6V〜4.5Vで測定したMAX8901A/BのDC変換効率(パルス発生回路を除く)は84%以上でした。

本来、MAX8901A/Bはマイコンと一緒に使用するものですから、MAX8901A/Bの評価キットでは、標準のデュアルマルチバイブレータと5Vのステップアップレギュレータを使用して@の機能を搭載しています。しかし、ここではマイコンを使用しませんので、ディスクリーと部品を使用して3種類のパルス信号を発生さています。MAX8901Bの回路図と部品マウント図を以下に示します。

[MAX8901Bのアプリケーション例]

まず、シリアルパルス入力で動作するMAX8901Bのアプリケーション例をご紹介します。

- ワンショットマルチバイブレータによる調光回路 -



図6. ワンショットマルチバイブレータによる調光回路

図6において、C4から右側がMAX8901Bの標準回路です。左下のタクトスイッチを1回押すごとに、LED電流が0.75mA下ります。33回押すと元の最高輝度に戻ります。(スイッチのチャタリングは一応防止しています。) LED電流は24.75mAに固定されており、変更はできません。
L1のパワーインダクタは、評価キットでは東光の1069AS-220Mを使用していますが、スミダ電機のCDRH2D18/LDNP-220NCを使用しても同じ効率を得ることができます。

- ワンショットマルチバイブレータによる調光回路のPCB(参考) -



図7. ワンショットマルチバイブレータによる調光回路のPCB

基板サイズは18 x 48 mm2です。

- アステーブルマルチバイブレータによる調光回路 -



図8. アステーブルマルチバイブレータによる調光回路

左上のプッシュボタンを押している間、4.3Hz間隔でLED電流が0.75mA下ります。スイッチを押し続けると、33個めのパルス(100μS)で元の最高輝度に戻ります。LED電流は24.75mAに固定されており、変更はできません。

- アステーブルマルチバイブレータによる調光回路のPCB(参考) -



図9. アステーブルマルチバイブレータによる調光回路のPCB

基板サイズは18 x 48 mm2で、ワンショットモデルと同じです。

[MAX8901Aのアプリケーション例]

次に、PWM入力で動作するMAX8901Aのアプリケーション例をご紹介します。

- PWM入力による調光回路 -



図10. PWM入力による調光回路

PWMパルス発生回路は、デュティ比を0〜100%変える必要があり、マイコンでは簡単にできますが、個別回路で構成すると、図10のように部品点数が多くなってしまいます。
この回路では、アステーブルマルチの出力を鋸歯状波に変換し、これをコンパレータでPWMパルスに変換しています。この処理ではアナログ動作になりますので、厳密な意味でのPWMパルス発生にはなっていませんが、MAX8901Aは正しく動作します。ボリュームを回したときの消灯〜最高輝度までの可変位置は、電源電圧によって変動します。
LED電流はR22で設定しています。

- PWM入力による調光回路のPCB -



図11. PWM入力による調光回路のPCB

基板サイズは20 x 62 mm2です。

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