放射線測定器 TERRA-P プラスを使ってみました

 ここに開示する放射線測定器や放射線源などに関する情報は、これらに関しては、初体験で全く専門外の者がまとめたものです。可能な限り勉強をしてまとめていますが、専門家の方々から見れば間違っている箇所があるかも知れません。このことを考慮してお読みいただければ幸いです。
 また、これから先の長い期間、高濃度の放射能汚染のために住み慣れた場所に戻れない多くの人々のことを考えると、技術的興味で放射線測定器を購入していじくるのは不謹慎のような気もしますが、その辺もご容赦ください。

はじめに

 筆者の居住エリアは、幸いにもごく一部の場所を除いて、福島第一原発事故由来による放射能汚染レベルが低いところです。したがって、基本的には高価な放射線測定器を購入して生活域をチェックする必要はないと認識しています。

 とは言うものの、技術者として「放射線測定器」そのものの動作に大いに興味があるうえ、住民や市役所が見つけていないホットスポットはないか、家庭菜園に使用する腐葉土を作るために集めてきた落ち葉は大丈夫なのかなどを知りたい衝動に駆られ、思い切って放射線検知器を購入しました。
このような不穏とも言える測定器が、今後全く必要がないことを願う「お守り」の意味もあります。

 実は、昨年12月中頃に5万円近く出して『日本のメーカーが中国で生産したベクレル表示が可能』というガイガーカウンター購入しました。しかし、どう考えても動作がおかしいので、返品して購入代金を返してもらいました。

 動作が変と思った理由は下記の事柄からです。

1. 汚染が低いことが判っている我が家のリビングルームでも、空間線量値が0.15〜0.25μSv/h(マイクロシーベルト/時)出るし、屋外ではかえって低い。

2. 市役所が使用しているシンチレーションタイプ(ガンマ(γ)線のみを測る装置)の放射線測定器のPA-1000では、空間線量の計測値が0.061μSv/hであるのに、0.17μSv/hと出る。「ベータ(β)線も計測しているから」との説明なので、アルミ板(板厚3mm)で計測器を簡易的にβ線から遮蔽してみたが、空間線量の計測値がほとんど変化しない。

3. 警報値を0.5μSv/hに設定して散歩道を歩いてみたが、警報が鳴っても計測値は0.2μSv/h以下。家の中でも3度警報が鳴った。

4. β線とγ線を計測する米国SEI社のINSPECTOR+で前もって測定してもらったラジウム温泉用のラジウム鉱石(平均値で0.336μSv/h 、 空間線量:0.1μSv/h近辺)をわざわざ購入して動作テスト。自宅の空間線量値よりも上がらないばかりか、ラジウム鉱石の表面に乗せるとかえって測定値が下がった。

5. 10mSv/hまで測定可能ということだが、このクラスのガイガー計数管では飽和してしまって正確に測定できないらしい。

6. 0.001μSv/h以下の放射線を分厚い鉛のケース内で測定しなければならないというベクレル表示は、核種も分からないのに実際可能なのか不思議。リビングルームの最大空間値は450ベクレルと出た。

 販売元の説明者を説得するのにずいぶん労力を要したのですが、返品・返金に合意してもらえたので、会社名や測定器の型番の公表は差し控えました。

どの販売者からどの放射線測定器を購入するか

 購入前にネット上でずいぶんリサーチして購入しても失敗してしまった筆者。二度と失敗しないで買い直す製品はどれがよいのかは思案のしどころでした。ネット上の情報はよほど繰り返して熟読しないと、サクラや商売敵が書き込んでいることが往々にしてあります。正しい情報だと判断するのはますます難しくなっています。

 結論的には、横浜の理化学機器専門商社の(株)佐藤商事からウクライナのSparing-Vist Centerと言うメーターが製造したECOTESTブランドの製品を買うことにしました。下の写真のようなMKS-05 TERRA-P+というガイガーカウンター(33,000円)です。もし、性能や技術的疑問が出た場合に、多分、正当な対応をしてもらえそうと言う期待もありました。


英文説明書、専用キャリングケースのほかに、
佐藤商事が作成した日本語説明書が付いています。
(日本語説明書下部の説明書は、独自に作成した要約版)

 1986年4月に発生したチェルノブイリ原発事故の被害が甚大で、未だに住めない広域の土地を持っているウクライナ。その国の製品なら色々と経験を積んでいるから大丈夫ではないかと思い、TERRA-P+を購入しました。軍隊での使用にお墨付きの機種をベースに開発された家庭用の廉価版だそうです。

 我が家のリビングルームでの空間線量値が現実的な0.08μSv/hと出ましたので、放射線量に対する心配はなかったのですが、カウンターの動作に対する心配は払拭されました。

TERRA-P+の使用感

 付属の専用ケースはサイズに余裕がないためにすこし使いづらいのですが、腰ベルト取り付けの金具が付いていますので、男性には便利かも知れません。ただ、平均的に日本人よりも大柄なウクライナの人たちが操作するからでしょうか、2個の押しボタンは、前斜めから奥に向けて押しても結構重いです。重いと言えば、単4電池2本を入れた重量は110グラムでした。

 『当機は振動、落下、衝撃で壊れますので、十分注意してご使用ください。』とのピンク色の注意書きシールが添付されています。ガイガー計数管を使用した放射線測定器に共通した注意事項です。

 英文の説明方法がうまくないため、日本語の説明書が無いと使いづらいかも知れません。ちなみに、英文の使用説明書には、西側諸国の製品には書いていないようなおもしろい記述方法や記述がありましたので、一部を除いて全訳しました。英文の使用説明書には「翻訳や再配布の禁止」を明記してありませんので、このページの最下部に日本語訳したpdfファイルのリンクを張ることにします。

 さらに、日本語の説明書は製品保証に必要となっていますので、紛失すると保証期間内でも保証が得られない可能性があります。そこで、別途、A5版の半分に裏表印刷する省略版を作り、計測器と一緒に持ち歩くことにしました。

 実際の測定ですが、放射線強度が低い場合には計測に約1分かかりますので「遅い」と感じますが、家庭用ですから我慢できます。

 ベータ線測定用の窓が筐体の裏に付いているのですが、ガンマ線値を差し引いたベータ線のみの測定単位はμSv/hではないため、専門的(毎分1平方センチ当たりの線数)になります。裏にベータ線カットの特殊金属が貼ってあるベータ線フィルター窓を開けて測定すると、ガイガー管本来のベータ線+ガンマ線(アルファ線も?)が測定できます。

 単4電池2本で2000時間というのは、非常に経済的です。

 線量率の警報レベルの初期値は0.30μSv/hに設定されており、この値はウクライナの放射線安全基準に基づく最大許容量に準拠したガンマ線のバックグラウンド値だそうです。この設定値だと、ラジウムボールを近づければ、警報が鳴りっぱなしになります。

 日本の家電メーカーは最近公表しなくなりましたが、平均故障時間(MTBF)は6000時間以上、平均耐用年数は6年以上となっています。子・孫の代では、もし必要なら新しい測定器を買う必要がありそうです。

 佐藤商事の保証書には、製品の保証期間が購入後1年になっていますが、英語版では18ヶ月になっています。

動作確認と実地測定

 納得できる空間線量が出ているとは言え、購入したTERRA-P+が本当に放射線を検知しているのかどうかを確かめたくなります。(汚染レベルが低いことは恵まれていますが、福島の方々には申し訳ありません。)

 そこで、再度市役所に出かけて、堀場製作所のPA-1000との測定値の差異を検証してきました。TERRA-P+はガイガー計数管を使用し、アルファ線とベータ線をほぼカットしたガンマ線計測器(ベータ線は裏側の窓を開けて計測)であるのに対し、PA-1000は半導体素子を使用したンマ線計測用のシンチレーションカウンターです。空間線量は前者が0.08μSv/hであるのに対して、後者は0.068μSv/hでした。誤差以内であろうというところです。

 つぎに、放射線を出している3種類の鉱石を、群馬県の「マイナスイオン館・(株)チエ」のご協力を得て前もって入手していましたので、ついでにこれらの放射線量も測定してみました。


左: 燐灰石(アパタイト)
下中: ラジウム温泉用のラジウム鉱石
中央: モナサイト系セラミックボール
TERRA-P+の読み値は、写真のような配置での放射線量当量率の測定結果(μSv/h)です。

 各放射線源の計測値は下記の通りで、PA-1000は市役所が使用している計測器です。空間線量は0.068μSv/hでした。ビニールの袋に入れた測定資料の上に各測定器を乗せて測定しました。上段はガンマ線のみで、下段は、TERRA-P+のベータ線フィルターを外して測定した値です。(一部追加)

放射線源 TERRA-P+ PA-1000
ラジウム鉱石 空間線量と同じ
0.13μSv/h
空間線量と同じ
セラミックボール 1.48μSv/h
4.59μSv/h
0.881μSv/h
アパタイト 0.18μSv/h
0.38μSv/h
0.148μSv/

 ここで、ラジウム鉱石の放射線が計測できなかった理由は、佐藤商事の説明によると、ラジウム鉱石は主にアルファ線を出しているからとのことでした。前の方で説明した米国SEI社のINSPECTOR+は、アルファ線、ベータ線、ガンマ線すべてに反応します。

 この結果から分かるとおり、放射線の種別、測定器のセンサーの種類などによって、計測結果に誤差以外の要因が加わることがはっきりしました。なかなか奥の深い注意事項になります。

 政府や地方自治体が使用している放射線測定器や、放射線のモニタリングポストを動かしている放射線測定器は、ガンマ線のみを計測する機種が多いようです。これは、ガンマ線が人体組織の奥まで浸透して、発がんなどの悪影響を人体に及ぼすからだそうです。

 肝心の生活圏での放射能汚染の様子ですが、昨年末に近くの公園横から掃き集め、シュレッダーにかけた落ち葉をチェックしましたが、空間線量を上回るような値は出ませんでした。県が腐葉土の製造・販売を当分自粛するように通達を出していますので、多分、ベクレル測定をすれば一定の値が出るのでしょう。しかし、自宅で使用しますので、これを無視することにしました。

 ただ、タウン内の公園の突き当たりの舗道上に生えている苔に疑いを持ち、表面の放射線量を測定してみたら、0.19μSv/hあることがわかりました。全く心配いらない値なのですが、吹きだまりの苔が放射性のちりを集めてしまっていることを確認できました。

墓石からも放射線が

 人造ではない大理石の一部や、墓石に主に使用される御影石のなかに放射線を出しているものがあると聞きましたので、「石のサンポウ」の展示場を訪問し、放射線量を測定させてもらいました。

 すると、たとえば中国産の立華という御影石が0.26μSv/hで、ウルグアイ産のバイオレットブルーが0.15μSv/hでした(空間線量:0.08μSv/h)。一番安い御影石は、空間線量以上の値を示しませんでした。

ホームセンターで売っている物からも放射線が】 (2012年1月17日追加)

 キャンプなどで使用するガスランタンのガスマントル(芯)の中には強い放射線を発生している物があると言うことなので、近くのホームセンターで実地検証してみました。

 放射線測定器を近づけて数秒すると警報が鳴った商品は、写真のようなパール金属(株)・キャプテンスタッグが販売するマントル<M>3枚組のM-7910でした。

写真は、ベータ線窓を開けて測定器をマントルの横に置いた実測値。

3枚のマントル上に測定器を置いたときのガンマ線の値は0.51μSv/h。

同様にして、ベータ線フィルターを外した値は2.87μSv/h。

 これは、使用前に燃やしてしまうガスランタンの芯の繊維に放射性の硝酸トリウム232を含浸させてあるからで、トリウムは、空気中で加熱すると白光を発して激しく燃焼し、ランタンの炎を安定させる目的で古くから使われているとのことです(ウィキペディアから)。最近ではこの手の商品が減っているそうですが、700円で購入できます。

 金属トリウム232は地殻中にもかなり豊富に存在するらしいのですが、この程度の放射線レベルの製品は、注意を喚起しないで販売することは禁止されていません。

人間の五感に感じない放射線

 京都や横浜などで、被災地から出た松を燃やすことや、地方自治体が被災地の瓦礫の処理を引き受けることに反対する人たちのことがマスコミで報道されました。福島製の花火云々もあったように記憶しています。人間の五感に感じないばかりか、長期間の放射線被爆による発癌性などの検証がもう一つはっきりしないのと、国や地方自治体の説明などが信用されていないから、不安が増幅された結果ではないでしょうか。

 乳幼児を持つ親などの心配は理解できるとしても、本当に放射線量が厳しく管理されているとしたら、過度の心配と言えるかも知れません。

 これらの人たちは、病気になってもCTスキャンやレントゲン撮影はお断り、航空機に乗って海外旅行もできない、石の種類によってはネックレスも付けられない、温泉浴もできない、干し昆布も食べられない、お墓参りもできない、ということになってしまいます。

行動や摂取・近接物質 放射線量
胸部CTスキャン 6.9mSv/h (1mSv = 1000μSv/h)
日本〜ニューヨーク間往復の航空機旅行 0.2mSv/h
ラジウム温泉や鉱石 100μSv/h以上の物も
干し昆布(セシウム137換算) 0.26μSv/10グラム
墓石 大きい物で0.26μSv/h

 人類が地球上に生息を始めた頃、動植物は、宇宙や大地の岩石からの今よりも遙かに強烈な放射線に晒されていたそうです。また、ドイツなどのチェルノブイリ近隣諸国で、放射能汚染によるがんの発生率や死亡率が増えたというはっきりとしたデータは、現時点では無いようです。

TERRA-P+に添付の英文取扱説明書の日本語訳
(誤訳やミスタイプがある可能性があります。ご容赦ください。)

ご注意: この資料は、TERRA-P+の購入前の検討や、購入後の補足説明、および技術的知識の取得用に使用することとし、再配布は厳重に禁止します。メーカーから正当な掲載削除要請を受けた場合には、削除する可能性があります。

有限会社テクノアート
初版: 2012年1月15日・更新2012年1月17日

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