古いプラレールの写真を見るとき、レイアウトの片隅にひっそりと佇むこんな情景部品(→部分)を見た事があるだろうか
その名前もほとんど知られぬまま消えて行ったその部品の名前を「ハウスブロック」という
レイアウトの主役を夢見ながらも人知れず消えて行った
これは、そんなハウスブロックの、はかない夢の物語である
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昭和40年代、日本は高度成長期を迎えていた
昭和30年代半ばに誕生したプラレールもそれに合わせ、発展の時代を迎えつつあった
手押しであった車両の電動化、ひかり号の大ヒット、そしてレイアウトを組むための数々の部品の販売も開始されていた
車両、レールに始まり、ふみきりや駅、トンネルや鉄橋など一通りの部品を発売し終えた頃
組み上げたレイアウトを見ながらつぶやく一人のトミー社員の姿があった
「ひかり号や電車、SLなども販売、一通りのレイアウトを組めるだけのレールや情景部品も開発した」
「…だが、このレイアウトには、何かが足りない」
会社からの帰り道、電車の窓からふと外を見るその男の目に、暖かな灯を点す家々の姿が映った
「そうだ、プラレールに足りないものはこれだ!」
「実際の景色にあってプラレールに無いもの…それは建物だ!」
「住宅やビル、アパートなどを組むことができる情景部品を作ろう」
翌日、男はさっそく上司に提案した
「プラレールに足らないものがありました、それは建物です」
「小さな住宅にも、大きなビルにも自在に組むことの出来る情景部品を作らせてください!」
男は、自ら進んで、そのプロジェクトのリーダーになった
数か月後、その男の夢は形になった
数センチ四方の白いブロックと赤と青の2種類の屋根
白いブロックには窓やドアをあらわす開口部も付けた
それらを重ねることで、小さな住宅を作ることができるようになっていた
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さらにこのブロックには隠された秘密があった
白いブロックには積み重ねられる様に突起がつけられており、
それらを組み合わせることでいろいろな形に積むことが出来るようになっていた
「小さな家にも大きなビルにも自在に組むことが出来ます
これを「ハウスブロック」と名付けてはどうでしょうか」
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上司はこのブロックを気に入り、営業会議に提案してくれた
その会議の席上での反応は、おおむね良かったが、具体的な販売方法の検討になったとき
男の予想に反した意見がだされた
「1個や2個づつ売っていたのでは、採算が取れない」
「思い切って30個入りで販売したらいいだろう」
「たくさん買ってもらえるように、説明書にたくさんのブロックを使った作例を載せたらどうか」
「子供がお小遣いでひとつづつ買い揃えてゆき、たくさん集まったら大きな建物も作れる」
そんな販売形態を考えていた男だったが、会社の決定には逆らえなかった
そして、発売が決定された
かくして、「ハウスブロック:30個入り」がプラレールの生産ラインに乗せられた
ほどなくして、おもちゃ屋の店頭に真新しい箱がならんだ
「トミー・プラレール部品:ハウスブロック」の誕生であった
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「それでは今回、スタジオにプラレール博物館からお借りした現存する貴重なハウスブロックを持ってまいりました
箱入りの状態で現存しているものは、日本にも数点しかないそうです」
「今回お借りできたのは、1セット+αで54個のブロックです
これで、当時の説明書に載っていたものをいくつか再現してみましょう」
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マイハウス:ブロック3個使用 | 学校:ブロック20個使用 |
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ステーションビル:ブロック32個使用 | 団地:ブロック48個使用 |
「マイハウス、学校はセットされている30個のブロックで再現可能ですが、
ステーションビルディングや団地は、2セットめを購入しないとブロックが足らなくなります」
「さらに、下に紹介するタワーやエンパイアステートビルディングになると、54個を全て使用しても完全には再現できませんね」
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タワー:必要ブロック数約130個 | 積木:必要ブロック数約70個 | ||
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けっこう大きいですね、お兄たま でもゴロ、これを組立てるのは子供には難しいぞ |
エンパイアーステートビルディング: 必要ブロック数約200個! |
「積木③:ここまでくると、まるでオブジェのようで何を表現したかったか不明です
写真通りのものを作るには、ブロックが約90個必要です…」
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積木③:必要ブロック約90個 |
「ロボットなど、54個で頭の部分しか作れませんね」
「というよりは、この形を自立させるのはほとんど不可能ではないでしょうか」
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ロボット:必要ブロック数約150個!? |
子供が、プラレールを買い揃えるときまず始めに買うのは車両
そして次に買うのはレール
それから駅やトンネルなどの、電車で直接遊ぶことの出来る部品…
30個も一度にハウスブロックを買う子供はほとんどいなかっただろう
まして、それを数セット使わないと作れない高層ビルやタワー
そしてもはやプラレールのレイアウトには置くことなどまったく考えられていないロボットやオブジェなどに
子供達は興味を示さなかった
もし、最初の男の考えどおり、数個単位でばら売りしていれば買う子供もいただろう
レイアウトの片隅に数個、家や小さなビルとして置いてもらえたかもしれない
主役になろうとした時から、ハウスブロックの運命は決まっていたのかもしれない
ほどなく、ハウスブロックはカタログから姿を消し、子供達もその存在を思い出すことはなかった
30個入りのハウスブロックが姿を消したあとしばらくして
12個入りのハウスブロックが販売されていたのを見た人がいるという
それは近年まで単なる噂に過ぎないと思われていた
だが、私たちは、ついにそれが実在することを確認した
12個のブロックと2個づつの赤と青の屋根
裏の台紙には9種の作例が載っているが、目新しいものはなかった
この12個入りのハウスブロックも、ごく少量が生産されただけだった
(2004年7月18日追記)
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ハウスブロックその後の物語…
人知れずハウスブロックが消えてから約20年後、再び同じコンセプトの情景部品が発売された
その名を「ブロックビル」といった
ハウスブロックを開発したあの男が、再び挑んだ夢だったのか
今回はブロック4個と赤い屋根が1セットというコンパクトなパッケージで
手頃な大きさだった
積み上げるとビルになるという楽しみ方もそのままに
さらに高架駅と組み合わさることで橋上駅にもすることができた
「これで、単なる添え物ではなく、レイアウトに取り入れて遊んでもらえる」
夢よ、もう一度!
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ブロックビルとこうか駅 |
再びプラレールのレイアウト写真に登場
だが起死回生の夢はかなわず、ブロックビルもまた、数年もたたずにカタログから消えていった
いつ生産中止になったのかもわからず、ひっそりと
レイアウトの脇役が、主役になることはやはり、かなわぬ夢だったのかもしれない
…そして、もう2度と、このような情景部品が販売されることはなかった
(2002年12月22日作成)
ハウスブロックその後のその後の物語
もう2度と目にすることはあるまいと思われていたブロックビル
だが2003年に発売された「小田急箱根の旅セット」において
ブロックビルは「小田急百貨店」として奇跡の復活をとげた
このセットの主役はもちろん3100系ロマンスカーだが
それを引き立てる名脇役として、高原の湖を一部改修した「芦ノ湖」とともに
ブロックビルは今までで一番輝いていたような気がした
(2004年7月18日追記)