番長想い出の店(第3章):玩具店(群馬県伊勢崎市)

それは俺がプラレールを集めはじめてまだ間もない頃だった
イベントで(この場合のイベントってのは、おもちゃの即売会のことだっ!)
知り合ったヤツから、とある店のうわさを聞きつけた

そいつも鉄道のことはある程度はわかるんだが、
プラレールは専門外とかで、詳しいことは覚えていない
俺はそいつの話しぶりから古そうなプラレールの匂いを嗅ぎつけたぜ
その店はヤツの家からでも小一時間、そしてヤツの住んでるのは群馬県だ
今度行くときに見てきてくれるとは言ってくれたが、少し先になっちまうらしい

うぉぉぉぉ!
これは、俺が直接行くしかないぜ!
が…余りにも遠い…
おっと、目が遠くを見つめてしまったぜ
いかんぜよ!
すぐにでも行かないとほかのヤツに買われちまうぜっ!

当時俺は神奈川県の女の所に身を寄せていた
おっと!それ以上は聞いてくれるなよ
朝早く旅立てば、何とか帰ってこれるだろう…
俺はその週末に群馬に遠征を行うことを心に固く誓った

それから出発日までの3日間、俺はその店に電話をかけ続けた
遠征日に、ちゃんと店がやっているのかを確認するためだ
が…応答は無かった
やべえ、もしその日に休みだったら…
だが、延期するのも気にいらねえな
えぇい決行だっ!さぁ!出発だ!今、陽が登る!

俺は朝6時頃に出発した
途中の街でも何カ所かおもちゃ屋をのぞいてみたが、特に古いプラレールは無かった

利根川(板東太郎とも言うな)を渡り、小一時間走ると朝やけの光の中に伊勢崎の街が見えてきた
街に着いたのはお天道様がちょうど真上に来た頃だった…遠かったぜ
歴史はあるらしいが、まあ眠ったような街だった
もしその店がやっていなかったら、俺は力尽きて帰れなくなっちまうかもしれない
アムンゼンに負けて帰り道に遭難したスコットの心境だ

地元じゃ一番大きいらしいスーパーの通りをはさんだ向かいにその店はあった
店の中は薄暗いが、シャッターは開いてるようだ

昔は賑やかだったろうショウケースが通りに面している
その中の商品を目で追っていた俺は、一瞬息をのんだ

プラレールがあるぜっ!しかもセット物が4つも!
そこに何年いや何十年もおいてあったんだろう…誰にも買われずにひっそりと

「自動ポイントセット」「ひかり号モノレールセット」「シュッポーD51セット」「おうふくプラレールそうしゃじょうセット」
こいつらだっ!

おぉう!俺がまとめて買ってやるぜっ!

ガラスの入った木戸に手をかけてみると、それはゆっくりと開いた
店の中は薄暗く、寒々とした感じがした
頑固そうなおやじが出てきた
よく見ると、店のあちこちに「当店は古い物はございません」と張り紙がベタベタ貼ってあるじゃねえか
きっと、マニアに荒らされてイヤな思いをした事があったんだろうな
これは、うかつに「古いプラレールを探してますぅ、マニアですぅ」なんて言えねえぜ
へそを曲げられて売ってくれないか、あるいは何倍もふっかけられる可能性があるぜ

ここはひとつ、小市民のふりをしてと…
いかにもシロウトなんだけんども、昔遊んだプラレールが懐かしいですね、よかったら売ってくれませんか (^_^;)
…みたいな感じで話を切りだしたぜ

成功だった

おやじは、以前に店に来たマニアたちの悪口をさんざん並べ立てたあと
「売ってやるよ…あんたにならな あんたになら託せる」
そう言うと、ケースを開けて、プラレールを取り出した
ずっと店にあった物を手放してしまうからか、おやじは心なしか寂しそうだった
(ごめんな、実は俺もマニアなんだ…)
心の中でそうあやまると、おれは店を出た

その後、風の便りに、あの店はおやじが死んで、息子が跡を継いだって聞いたぜ
おれはその報を耳にして伊勢崎方面に向かって花を風に乗せて飛ばしてみた
「おやじ…あんた野菊のような人だ」

今じゃ、すっかり店の雰囲気も変わり、フィギュアなんかをメインにした明るい店になっちまったらしい
何でも、その手の雑誌に広告まで出してるらしいな

また、いい味の店がひとつ、消えちまった
これも時代の流れっていうもんか
俺は吸えない煙草を無理に吸ってみた
煙が目に染みる…流れる涙は煙の所為だけだったんだろうか

「スーパー仁くん」で勝負を賭けてきたのは板東 英二<あんたホントにピッチャーだったんか?
豊かに流れるは板東太郎
板東 太郎のその先の伊勢崎の街にあったB玩具店
キミは信じるかい?それとも笑うかい?

(第3章:完)
2000/7/2作成