番長想い出の店(第2章):T玩具店(千葉県鴨川市)

1995年も暮れのことだった
俺は千葉県の鴨川にいた

はりきって始めたプラレール捜しだったが、思うように成果も上がらず
シャチさんやイルカさんをふと見たくなり、ふらりとこの街に寄ったのさ

店の前に着いたのは朝の9時頃、でも店はもう開いていた
さすが、地方の人は働きモンだ
師走の朝だ、ただでさえ底冷えがする上に、店の床はむき出しのコンクリ打ち、凍えちまうかと思ったぜ

軽くあいさつをして店の中に入り、ひととおり見回す…プラレールは多少あるが、古いものは無さそうだ
この店にも俺の捜している物は無かった…なあ飛鳥よ

シャチさんでも見に行くか…
今からなら昼の餌付けに間に合うだろう
店を出ようと思ったその時、そいつが目に留まった
俺の大好きな「恐竜戦隊ジュウレンジャー」の「獣騎神キングブラキオン」だ

こいつのことだ!良い子は知ってるよなっ


話してなかったかもしれねえが、俺は東映戦隊物も大好きだ
ロボットも母艦も全部おもちゃは持ってるんだぜ
後楽園では赤いあいつとあいつと握手した事もあるぜ!

キングブラキオンは当時でもけっこう珍しく、ちょっとしたプレミアもんだった
「おやじ、これをもらおう」
ついでにまた欲が出ちまった…つい聞いてみる
「同じ物が他にもあったら、まとめて買うぜ」

すると、あと3個あるっていうじゃねえか
「よっしゃっ!まとめてもらったぜ」

俺が全国のおもちゃ屋行脚の話を始めるとおやじも身を乗り出して聞いてきた
するってえと話が弾んできてよ、俺はプラレールの事を聞いてみた
「プラレール…倉庫の方にあるかもしれませんね」
が普通、おもちゃ屋の倉庫は一見(いちげん)さんには見せねえもの

「捜しとくからまた今度来て下さいよ」とあしらわれるかと思ったぜ
だがおやじは違った
「どうぞどうぞ、見てって下さいよ」
やったぜ!おやじ!あンた熱いぜ!漢だぜっ!


倉庫は店の2階にあった
一度、店の外に出て、裏口からあがるんだ
「どうぞ、ごゆっくり。いる物があったら、下に持ってきて下さいね」
そう言い残すと、おやじは店に戻っていった

薄暗い階段をのぼり、電気のスイッチを入れる
薄明かりの中に、棚いっぱいのおもちゃが浮かび上がる
いちばん突き当たりが、鉄道もののおもちゃがあるらしい

倉庫の中はこんな感じだった


狭い棚のすきまをぬけて、やっとそこにたどり着いたとき、俺は自分の目を疑った
そこには…薄明かりの中にぼんやりと浮かび上がるプラレールの箱たちがあったぜ!

「寝台特急高原のえきセット」「おうふくプラレールりったいつみおろしセット」「おうふくプラレールそうしゃじょうセット」
「おうふくプラレールせんしゃじょうセット」「ED70つみおろしセット」「新国際空港セット」「ふくせんひかりごうセット」…
それも1個じゃない、だいたいが複数個あった
単品では「ニューでんしゃ」が5両くらい無造作に積んであった
20年…いや30年くらいここに眠って俺のことを待っててくれたわけだ

これが、30年間俺のことを待っていてくれたお宝たちだっ!

それからのことは、恥ずかしながら俺もあんまり詳しくは覚えていねえんだが
気が付くとほこりだらけになって全部のプラレールを倉庫から運びおろしていた

支払いを済ませた頃、いつのまにかもう太陽は少し西に傾きかけていた
「箱は掃除をして、まとめて宅急便で送ってあげますよ」
帰りがけに車を出して店のまえを通ると、店のおばちゃんが、店頭にプラレールの箱を積み上げ、掃除の真っ最中だった

…よろしく頼むぜ!ありがとよ!
俺は心の中でそう叫ぶと、鴨川シーワールドへ向かった
もちろんシャチさんを見るためだぜっ

海辺の街にゃ、やっぱりいいことがあったぜ
潮風よ、縁があったらまた会おうぜ!
そういえば、明日は1995年の大晦日じゃねえか
来年もいいことがきっと待ってるぜっ!
(第2章:完)
2000/6/25作成